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【完結済】ンディアナガル殲記  作者: 馬頭鬼
第四章 ~惨劇の戦場~
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第四章 第一話


 襲撃から三日が経過していた。

 怪我をする危険があると分かってからの俺は積極的に戦争に絡もうとは思わなかったし、バベルたちも食糧が手に入った以上、もう戦う必要もないと判断していたのだろう。


(……だけど)


 食糧を奪われた側……つまりべリア族にとってはそうは問屋が卸さないらしい。

 偵察の情報によると、彼らは周辺各地から兵力を総結集し、全面戦争をしかけてくるつもりだとか。

 どうやら一方的に奪われる側だったサーズ族が彼らの村を襲ったことで、べリア族にとってはサーズ族という存在が絶対に叩き潰さなければならない『大きな脅威』となったのだろう。


「……身勝手なことだ」


 俺はそろそろ慣れてきた塩辛いだけの干し肉を齧りながら、呟く。


「何か、申しましたか?」


「いや」


 俺の呟きにロトのヤツが尋ねてきたが、俺は首を横に振って誤魔化す。

 何故俺の呟きをロトが聞きつけたかと言うと、今現在、俺たちは我が神殿内で作戦会議中だったのだ。

 バベルやロト、ゲオルグ他十名ほどが、地図を片手にしきりに討論を繰り返しているのを、俺は肉を齧りながら聞き流していたのである。


 ──とは言え、ろくに決まったことがある訳でもないんだが。


 こちらの総兵力はかき集めても一五〇が限界、べリア族が総力戦を挑んで来れば七〇〇から八〇〇にはなるだろうという話で。

 さっきから延々と続けられる作戦会議をぶっちゃけると……これほどの戦力差があれば、「如何なる策を講じても無駄」とのことだった。


「……さて、何か質問は?」


「やはり、討って出るしかないのか?」


「ああ。この集落は籠城には向いてない。

 女子供をただ巻き添えにするだけだろう」


 髭を生やした男の話に、バベルはそう頷く。


「そもそも籠城とは援軍が来るのが前提だろうが。

 無駄に追い詰められて何になるってんだよ」


 そう言うのはゲオルグ。

 未だに片手は添え木をして吊ったままだが、その威勢の良さは相変わらずだった。


「それに……」


 バベルが俺の方をチラッと見る。


「籠城では、破壊神どのの御力を発揮しきれないだろう」


(そう言えば、そんなことも言っていたっけな)


 男たちの視線を感じながら、俺は肩を一つ竦める。

 俺の脅威は野戦、しかも見通しの良い中でこそ役立つ。

 無敵の兵士が殺戮を繰り返す光景はそれだけで自軍を鼓舞し敵軍には恐怖を伝染させるから……というのが彼らの弁である。


(だけど、正直やってられないんだよな)


 俺は袈裟懸けに斬られた痕をなぞりながら内心で呟く。

 ……そう。

 あの一撃以来、俺は正直に言ってもう戦いたいとは思ってなかった。


 ──何しろ、殺されるかもしれないのだ。


 一方的に無敵モードで殺戮出来るからこそ、物資・兵力のどちらも圧倒的不利なサーズ族側に加担していたのだ。


 ──殺されると分かれば、こんな無理ゲーやる気にもならない。


 黒マントの連中が持ってきたいつもの臓物のスープをすすりながら、俺は軍議の行方を横目で眺める。

 とは言え、作戦会議という名の、ただの絶望的状況の確認はそう長くは続かなかった。

 ……早い話が、話しても絶望するだけと気付いたのだろう。

 兵士たちの表情は、絶望のどん底か、俺への期待か……何故か俺を睨みつけているヤツまでいる。


(一体どういう心理なんだか)


 ……が、まぁ、彼らサーズ族がどう考えていようと俺の知ったことではない。

 俺は相変わらず塩辛いだけの臓物のスープを飲み干すと、口元を裾で乱暴に拭う。


「まぁ、まだべリア族の準備は整っていない。

 それまでに各自準備を整えておくこと。

 恐らく決戦まで……あと、二日あるからな」


 軍議をそう締め切ったバベルの言葉に、俺は大きなため息を吐く。


 神殿の外からはこの状況でも呑気に遊んでいるらしき子供の声が、幽かに聞こえて来ていた。


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