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【完結済】ンディアナガル殲記  作者: 馬頭鬼
肆・第二章 ~後宮を抱えた農奴~
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肆・第二章 第八話

「ひ、ひぃっ!

 足、足がぁああっ!」


「痛ぇ、痛ぇよぉおおお」


 周囲には、激痛に耐えかねた悲鳴と、悲鳴すら上げられない怪我人のうめき声と……そして、血と臓物の臭いが漂っていた。

 そんな中、俺はゆっくりと歩く。


「……よ、っと」


 手に持っていた折れた矛……既にただの棒切れと化したソレを放り捨てると、近くに落ちてあった、先端が歪んだ槍を掴む。

 そのまま俺は、自らに突き立てられた所為で既に使い物にならなくなったその槍を静かに振りあげると……


「ひ、ひぎぃゃああああああああああああっ?」


 近くで蠢いていた、俺に背を向けて逃げ出そうとしていた雑魚目がけて、その槍を全力で突き下ろす。


「あぁっ、あっ、あっ、あぐぁっあ、ぁぁぁぁ……」


 渾身の力を込めた俺の突き下ろしは、その男の鎧も、皮膚も背筋も骨もあっさりと突き破ると、ソイツの下にあった地面に半ば突き刺さったところで止まる。

 突き刺された男は哀れなものだった。

 背から突き刺さった槍を必死に抜こうと手をばたつかせ、折れた足を必死に動かしながら、槍から逃れようとし……しかし、幾らもがいたところで、採取された昆虫のように胴を貫いた槍から逃れられる訳もない。

 そのまま声にならない悲鳴を上げながら、必死に生きようともがきながら……だけどゆっくりとその動きは緩慢になっていく。


「……き、貴様、な、何を?」


「別に。

 ……ただの教育さ」


 一歩後ろに退いていた、本来は俺と戦う相手だった(タァ)とかいう巨漢が、俺に問いかけるものの……俺は歩みを止めることなく、そう返事を返す。

 そして、そのまま近くに落ちてあった長剣……やはり先端部が欠けて、使いづらくなったヤツを掴むと、軽く振り上げ……


「ひぃやぁだぁあああああぐぎゃぁああああああああっ?」


 近くで必死に逃げようと這いずっていた、右足と右腕がへし折れた男の足へと振り下ろす。

 恐らくは、矛を左から右へと振るった時、一番右端にいた……最も運の良かったヤツ、だろう。

 とは言え……殺戮と破壊の神ンディアナガルの化身である俺の前に立った時点で、運が良いなんて言葉すら、無意味と化しているのだが。


「みぎゃぁあああああああっ!

 足、足っ!

 足がぁあああああああああっ?」


 まだ骨折程度で済んでいたから動くことが出来たソイツは、俺の振るった長剣によって両足を絶たれ、悲鳴を上げる。

 じたばたと暴れるソイツの両足の切り口から、周囲に真っ赤な鮮血が舞い散り……


「……やかましい、雑魚」


 俺は、もがき暴れるソイツの背中の左脇腹部へと、長剣をもう一度突き落とす。

 男の悲鳴はそれで終わり……後は、もがいた時に長剣で自分の腹の肉を裂いてしまったのだろう。

 傷口から噴き出た臓物を必死にかき集めようとする、もう声すらも出なくなった虫けらが一匹、足元で蠢くだけになっていた。

 まぁ、この様子なら放っておいても死にそうだ。

 俺は静かに次の獲物を探すべく顔を上げ……巨漢にさっきの回答の続きを返してやる。


「コイツらは弱いヤツを背後から狙うのが好きな、どうしようもないクズ共らしいからな。

 自分たちのやったことがどういうことなのか。

 ……その身を持って教えてやろうと、ねっ!」


 そう答えながらも、近くで這いずっていた……もう声すらも上げず、動かなくなった背骨がへし折れていた一匹の雑魚を踏み潰す。


「げぼぶぉっ?」


 ただ、どうやらそのゴミ……確か(トゥン)とか呼ばれていた男は、もう悲鳴を上げる体力すらも残っていなかったらしい。

 苦しみが長引くようにと、死に辛い『腹』を狙って踏み潰したものの……口から臓物を噴き出す気持ち悪い音を上げるばかりで、もう悲鳴を上げようともしなかったのだから。


「……ま、いいか。

 さて、次はっと」


 そうして、計三匹を潰し終えた俺が、次の「死んでも直らないレベル」の馬鹿に、「せめて来世では真人間になれるように精一杯の『教育』をしよう」と、顔を上げた……その時だった。


「ま、待ていっ!

 貴様の非道、これ以上、見過ごす訳にはっ!」


 達とかいう巨漢が、俺の眼前に立ちはだかり、その手に持っていた大錘を俺へと突出しながら、そう叫んできたのだ。

 だが……今さら、もう遅い。

 幾らこの眼前の偽善者が正義を口にしようが、この馬鹿共に殺されたあの餓鬼共は……背中から矢で遊び半分に射殺された餓鬼共が生き返ることは、もうないのだから。

 遊び半分で殺された餓鬼共を助けなかった時点で、この眼前の肉の塊がどれだけ正義を叫ぼうと、ソレはただの偽善……いや、それ以下の耳障りな騒音でしかない。


「なら、戦う力がない餓鬼を、背中から射殺すのは良いのか?」


 だからこそ……俺は静かにそう問いかける。

 ……眼前にいるゴミが口から吐き出す、反吐以下の価値しかない『正義』とやらの、明らかな矛盾点を抉りながら。


「ぬっ、そ、それは……」


「強さは正義なんだろう?

 だったら、下らないことを言ってないで……

 そのまま、弱い奴らが潰れるのを黙って見てろ」


 大体……怪我人を嬲り殺すのがダメで、餓鬼を遊び半分に射殺すのが良い世界なんざ、ある訳がない。

 そもそも……どちらも抵抗する力がないのは同じなのだ。

 むしろ、さっきまで武器を手に人を傷つけ粋がっていた分……怪我人を嬲り殺すことの方が罪が軽いだろう。

 それを追及しながら、俺は眼前に突き出された金属で出来た大錘という武器を、怒りに任せて右手の握力だけで、静かに握り潰す。


「き、貴様っ?」


 俺の握力を眼前にした所為だろう。

 達という名の巨漢は、『俺』という恐怖から逃れようと二歩三歩と後ろへ下がり……足元で呻いている怪我人よりもまだ後ろへと下がっていった。

 それは即ち……足元のゴミ共を見捨てたと同義である。


「そ、そんなっ!」


「た、助けて、助けてくれっ!

 (タァ)の旦那っ!」


「お、俺は、まだっ、死にたくないっ!」


 見捨てられた事実を理解したのだろう。

 ゴミ共は餌を求める雛のように、必死に救いを求めようと口々に悲鳴を上げるのだが……それはただ、俺の怒りを逆撫でするだけの行為だった。


「てめぇらに殺された連中も、死にたくなかった、だろうよっ!」


 俺はそう叫ぶと、怒りに任せ「たまたま手に持っていた」大錘の破片……さっき砕いたばかりの金属片を、足元で悲鳴を上げもがいていた、両足を失ったばかりの雑魚の臓腑へと突き立てる。


「ふぎぃぅゃぁああああああああああっ?

 ぎぃっ、ぎぃっ!」


 手の先に生暖かい……血と臓物の気持ち悪い感触が残るものの、今はそんな感傷など、怒りによって焼き払われる。

 そのまま俺は、腕を腹の中で二度三度とこねくり回すと、金属片を男の腹の中へ捨て……ゆっくりと腕を引き抜く。


 ──ちっ。

 ──しくじった。


 だけど……素手で「報復」をした所為だろう。

 雑魚の腹から噴き出した返り血によって服が真っ赤に染まり……ものすごく気持ち悪いことになってしまったのだ。

 何しろ俺は、先ほどの一撃を傷つければすぐに死んでしまうような心臓や肺、肝臓ではなく……死に辛い小腸の辺りへと金属片を突っ込んだのだ。

 そして小腸とは、早い話が「糞尿が混じり合った消化途中の物体が詰め込まれた」肉の管である。

 そんな場所を素手で貫いた所為で、俺の右手からは……嗅ぎ慣れた鉄錆びの臭いに加え、糞便と尿、そして臓物の臭いがまじりあった悪臭が漂ってくるのだ。

 正直、血の匂いには多少慣れたとは言え、この手の悪臭を……糞便と尿を混ぜた臭いを好んで嗅ぎたいとは思えない。

 加えて、血と臓物の生暖かさ……人の手足よりもちょっとばかり高い温度の生温い感触が腕から漂ってくる。

 はっきり言うと……気持ち悪いこと、この上ない。


「畜生っ。

 やってられるか、気持ち悪いっ!」


 そこで……ようやく俺の怒りが「萎えた」。

 数日一緒に暮らしただけの餓鬼共の仇を討つのに……これ以上の気持ち悪さを味わうなんて、許容出来なかったのだ。

 要は、俺はあの餓鬼共にそこまでの思い入れがなかったということらしい。


 ──まぁ、仕方ないか。


 あれは小学校の修学旅行の頃だったか。

 ちょっと可愛いなと思っていた女の子が、バスに酔っていきなり嘔吐したことがあった。

 そして俺は……その吐しゃ物の臭いにやられ、近づくことも出来なかった。

 いや、俺だけじゃなく、クラスメイトの殆どの人間が、だ。

 多少の感情では、嘔吐などの「嫌悪感」に勝てないのが、人間という生き物らしい。

 尤も、先生は頑張ってそれを片付けていたので、大人って凄いなぁと子供心に感じたものだが……

 兎に角、今の俺の心境はそういう……怒りという人としての感情が、嫌悪感という「生物」としての感覚に負けた状態なのだろう。


「さぁ、残りはちゃっちゃと片付けるか」


 突如脳裏に走った「要らぬ思い出」をそう呟くことで振り払った俺は、右手から漂ってくる臭いに顔をしかめながらも、近くに落ちていた誰かの矛を手に取る。

 ……そう。

 血と臓物の臭いが気持ち悪いなら、離れて殺せば良いだけだ。

 怒りに任せて素手で潰したり、無理に苦しめてやろうとするような……「教育してやる」という意思が挫けただけであって……

 このゴミ共を除去する意思が挫けた訳じゃない。

 と言うより、この世に不要なゴミなんぞは処分しなければならないだろう。


「よ、っと」


「……や、やめっ!

 死にた……っ!」


 これで、五匹目。

 近くに転がっていた雑魚の首を、背後からあっさりと薙ぎ払う。

 それだけでソイツの首はあっさりと吹き飛び、首から周囲にかけて心臓の鼓動に合わせる形で血が噴き出す。

 次の瞬間には、周囲に鉄錆のような血の匂いが充満するが……まぁ、血の匂いだけなら慣れたものだ。

 何の感情も湧きやしない。


 ──あと、一匹。

 

 そうして俺はゆっくりと歩き出す。

 残された一匹……今、返り血を浴びて真っ赤に染まっている、右手を右足を砕かれ、逃げることも叶わない哀れな男。

 確か、名前を(ユェン)とか言っていたか。

 恐怖の所為で俺に背を向けることも出来ないのだろうソイツは必死に身体を揺すり……動かない身体を無理やり動かし、激痛に顔を顰めながらも、それでも俺から後ずさろうとしていた。

 だが、幾ら惨めな姿を晒そうと、俺は慈悲の欠片をくれてやるつもりはない。

 そうして、あと二歩ほどの距離へと俺が近づいた時のことだった。


「お、俺が、俺たちが、悪かったっ!」


 淵とかいう名の男は、いきなりそんな、訳の分からない悲鳴を上げ始めたのだ。

 首を傾げる俺に向けて、男は更に言葉を続ける。


「餓鬼共をっ、殺して、悪かったっ!

 俺が、調子に乗っていたっ!

 だから、許して、許してくれぇええええええっ!」


 いつの間にか、男が吐き出す言葉は悲鳴に、悲鳴は懇願に変わっていた。

 だけど……その言葉が俺の胸を打つことはない。

 今までに何度も何度も、こうして他者を好き勝手に踏みつけてきた癖に、自分の身に危険が迫ると命乞いを始める馬鹿を見てきたのだから。

 だから、俺は静かに告げてやる。


「何を謝っているんだ?

 別にお前は、悪いことなんてしていないだろう?」


「な、何を言って……」


 俺の笑みを理解出来なかったのだろう。

 ただその怯えた顔に、僅かに怪訝そうな色が混じる。

 そんな男に向かって、俺は静かに言葉を続ける。


「だって、お前は弱いヤツを殺しただけ、なんだろう?

 ここじゃ、強いヤツが弱いヤツを蹂躙するのは当然だ。

 だから、お前は別に悪くない」


「あ、ああっ!

 ああ、そうだっ!」


 優しく問いかける俺に、救いを見出したのだろうか?

 男は救われたような、砂漠の中でオアシスを見つけたような、歓喜の表情を浮かべながらそう声を荒げる。

 だからこそ……俺は、ゆっくりと言葉を続ける。


「だから、お前より強い俺は、お前を嬲り殺しても構わないってことだろう?

 お前が弱いのが、悪いんだからな」


 天国から地獄。

 男の表情を表現するのに、これ以上相応しい言葉はないだろう。

 その余りにも愉快な顔に、俺の脳裏には運動会で聞いた曲……天国と地獄というBGMが流れ始めるが、まぁ、それはどうでも構わない。

 そのBGMはあっさりと男の吐き出す悲鳴によって、かき消されたのだから。


「いやだぁあああああああああっ!

 嫌だっ! 嫌だっ! 嫌だぁああっ!

 死にたくないっ!

 死にたくないっ!

 死にたくないぃやあああああああああああっ!」


「……とっとと諦めろよ、雑魚」


「ふぅぐぁっ、ぎぃっ、あぁあああっ、みぎぅっ、あぁあああああああっ!

 あぐぁっ! はぐゃああああああああぁぁぁぁ……!」


 俺はそう無慈悲に宣告すると、嬲り殺すという宣告通り、使い慣れない矛をその馬鹿の身体へと叩き込み続ける。

 腹へ、腕へ、足へ、肩へ……耳を削ぎ落し、目を潰し、股間へと突き立て、腹を二度三度と抉り……



 ……結局。

 男の悲鳴は、俺が振り払った矛がそのやかましい咽喉を掻っ切るまで続いたのだった。





「……さて、と」


 血に染まり、脂に塗れ、矛先が歪み、柄が捻じ曲がった……力任せに武器を突き刺し続けて役に立たなくなったその矛を無造作に放り捨てながら、俺は視線を上げる。

 あの商人から「腕試し」に戦えと言われた、(タァ)とかいう巨漢の方へと。


「ぅっ、くっ」


 とは言え、周囲に血と臓物の臭いが満ち、俺の耳からもまだ悲鳴が木霊し続けているほどの惨状を作り出したのだ。

 数多の修羅場をくぐっている筈のその巨漢も、これほどの血臭と臓物臭を前にすれば流石に腰が引けているらしかった。


「さぁ……どうする?」


「……ひ、ぅっ」


 両手から血の雫を振り払いつつ、巨漢へと歩み寄りながら、俺はそう尋ねる。

 実際、眼前の巨漢は、偽善がましく口五月蠅いウドの大木で、何の利用価値もないゴミはあるが……餓鬼共を殺していないコイツを殺す理由なんて、俺自身は持ち合わせていない。

 ……とは言え、俺も成り行き以上、餓鬼共を養っていかなければならない身の上となっているのだ。

 餓鬼共を養っていけるだけの戦力を見せつける必要が……ここで商人に腕を見せつける必要があった。


 ──言わば、コレからが俺の採用試験ってところか。


 採用試験なんて、生まれて初めて……いや、砂の世界で捨て駒扱いだったとは言え、試験を受けて機師をやっていたか。

 つまり、人生二度目の採用試験である。


 ──無様なところは、見せられない、な。

 

 俺は僅かに緊張しつつ、それでも「自分の戦闘力」をどう売りつけようかと、眼前の巨漢を真正面から観察する。

 そんな俺の戦意を感じ取ったのだろう。

 達という巨漢は、その手に持っていた砕けた大錘を手から離し……二歩三歩と後ずさっていた。


「……ほぉ」


 どうやら、俺を相手にする以上、『力』では叶わないことを悟ったらしい。

 咄嗟の戦場で、自分が今まで頼りにしていた膂力という武器を捨てる。

 なかなかの判断力である。


 ──ちょっとは、梃子摺りそう、だな。


 我らがリーダーである堅と同等か、下手したらそれ以上。

 ……技量は兎も角、身体能力を加味した戦闘力という意味では、間違いなく。

 そういう巨漢を前に、俺はひそかに気合を入れると、前へと一歩を踏み出す。

 その時だった。


「待てっ!」


 突然、俺に向け、横合いから叫び声がかかる。

 振り向いてみると……この戦場を取り仕切っていた商人からだった。

 こちらに手のひらを向けており……どうやら、この戦いを止めようとしているらしい。


「……良いのか?」


「ああ。

 ……貴様の腕は、良く分かった。

 ソヤツは稼ぎ頭だ。

 下手に潰されると、大損だからな」


 筋骨隆々の大男で、全く商人に見えない男が初めて見せた、如何にも商人らしい判断に俺は軽く肩を竦めてみせる。

 どうやらさっきまでの雑魚掃討で俺の戦力を見抜いたらしく、採用試験はここで終わりのようだった。

 盛り上がった戦意に水を差された形になった俺は、大きく息を吐き出すことで、向かう先を失った高揚を抑えようとする。

 ……そうして冷静さを取り戻したお蔭で、俺は一つだけ、聞かなければならないことを思い出した。


「ああ、そうだ。

 餓鬼共と俺の衣食住。

 ……ちゃんと確保してくれるだろうな?」


「ああ、当然だろう?

 それを含めても、貴様を使う方が得が大きいと判断した」


 どうやらこの商人は、これだけの惨状の中でも冷静さを欠片も失わず、しっかりと損得勘定が出来ているらしい。

 ……と言うよりも、そもそも俺に怯える様子を見せていない。

 どうやらコイツも、随分と肝が据わった……なかなかの人物らしい。


「なら、これからよろしく頼む。

 ……ええと?」


「……(サォ)(ムン)

 しっかりと働いてくれるなら、それ以上は問わない」


 そうして俺は戦奴として、この曹孟とかいう商人に雇われることとなった、らしい。

 実は戦奴とやらが何をするのか、まださっぱり分かっていないのだが……まぁ、戦うのであれば、破壊と殺戮の神ンディアナガルの権能が俺の手にある以上、なるようになるだろう。


「馬鹿が、無茶し過ぎだ。

 肝が冷えたぞ」


「悪いな、(チェン)

 以後気を付ける」


 餓鬼二匹の仇を討った代償として、我らがリーダーからのそんな小言と……


「悪いが、そういうことになった。

 これから、引っ越しするぞ。

 手伝え」


「ぅ、ひぃっ」


「は、は、はぃっ!」


 餓鬼共からの心の底から怯えた視線を受ける羽目になってしまったが。


 ──また……やり過ぎちまった、か。

 ──ったく、学習能力のない……


 内心で俺はそう後悔するものの、もう遅い。

 一度植えつけられてしまった恐怖を拭い去るには、凄まじい時間がかかることくらい……俺は今まで何度も経験しているのだから。


 ──ま、その内、何とかなるだろ。


 結局、俺はそれから餓鬼共に近寄られることなく、商人の差し出してきた馬車……曳いていたのは馬ではなく変な鳥みたいな四足の生き物だったが、まぁ、似たようなものだろう。

 兎も角、堅のヤツと、生きていたらしい名前も知らないヤツの情婦と、そして餓鬼共と一緒にその馬車らしきモノに乗って、新天地へと運ばれていくこととなったのである。


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