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【完結済】ンディアナガル殲記  作者: 馬頭鬼
肆・第二章 ~後宮を抱えた農奴~
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肆・第二章 第七話



「じゃあ、最初は俺からいかせてもらうぜ」


 出番の打ち合わせを終えた俺たち五人の兵士崩れの中から、真っ先に(チェン)が立ち上がり、そう告げる。

 矛を肩に担ぎながら、全く気負いを見せないその態度は、まだ若いくせにまさに熟練兵という風格を漂わせていて……この五対五の一騎討ちの先鋒を務める者として、相応しい態度だと言えた。


「……堅のヤツ、だい、じょうぶ、なんだろうな?」


「言ってることは、間違いじゃないからな」


 先ほど……この戦いの順番を決める時、我らがリーダーの告げた内容はそう難しいことじゃない。

 向こう側としては、俺たちの「腕を見る」という建前を掲げつつも、「生意気にも楯突いた俺たちが無惨に死ぬのを楽しむ」のが目的なのだから、勝敗が全てという訳ではなく……だからこそ、敵の戦力配置は至極読み易い、のだとか。


 ──まず、先鋒に二番目に強い兵を配置してこちらの威勢を削ぐ、か。


 それでこちらの先鋒を嬲り殺しにすることで、俺たちが怯え後悔し……そのまま絶望的な戦いを挑んで無惨に殺されるのを見て楽しもうとしていると、堅のヤツはあっさりと推測して見せた。

 悪趣味極まりない話だが、あの商人(シャンレン)とやらの口ぶりを見る限り、我らがリーダーの語ったその推測が間違っているとは思えない。


 ──そこを、堅が叩き潰し、勢いを掴む。


 だからこそ我々五人の中で、俺に次いで戦闘力を持つ堅が先鋒に出ることで、敵の思惑を叩き潰そうとしている、という訳である。

 尤も、堅のヤツはただ保身に走っているだけで……敵側の最強と戦うよりも、二番手と戦う理由を尤もらしく語ることで、「自分の安全だけでも確保している」という可能性も残っている訳だが。

 まぁ、この戦いに『別の目的』を見出した俺としては……リーダーの意図なんざ、どっちでも構いやしない。


「っと、始まったか」


 そうして俺が堅の立てた作戦に意識を飛ばしている間にも、先鋒戦は開始されたらしい。

 敵側の先鋒は(ジュン)とかいう槍使いで……期せずして長物同士の対決となっていた。

 違いと言えば、堅が身に着けているのは布の服程度だが、敵側の均とやらが身に着けているのは鱗のような金属片を革に縫い合わせたラメラーアーマー……こっちでは何という名前かは分からないが、そういうしっかりとした鎧であり……

 しかもそれを着ているにも関わらず、敵側の男は全くその重さを感じさせない動きを見せている。

 だけど……二人の戦いは、その『防御力差』という大きな的な差を、全く感じさせない展開を見せていた。


「すげぇっ!

 流石は堅っ!」


「格が違うぜっ!」


 その戦いぶりを見て隣の兵たちが叫ぶのも無理はないだろう。

 (チェン)のヤツの戦いぶりは、その名の通り「堅実」の一言だった。

 均とかいう敵の振るう槍を、危なげなく躱し、受け、逸らし……身にまとっている服にさえ、傷一つ負うことなく防ぎ切る。

 そうして出来た相手の隙を見つけ、鎧の隙間を縫う正確な一撃によって、太ももを突き刺して機動力を奪う。

 敵側の男は怪我に激昂し、必死に槍を振り回すものの……足を奪われた以上、踏み込みが甘くなるのは必然だった。

 堅は冷静に足を使って射程へと入らず、空振りで姿勢を崩した相手の隙を逃さず、冷静に矛を振るい、鎧に覆われていない部位……右手の指先をあっさりと断ち切る。

 後は、簡単だった。

 指を奪われて槍を満足に振るえず、足さえも使えない相手の、鎧すらない咽喉元へと、堅の矛先が吸い込まれ……

 咽喉を掻っ切られた(ジュン)とかいう相手は、血を噴き出しながら地に伏せ、しばらくは四肢を痙攣させていたものの……あっさりと動かなくなる。


 ──一方的、だな。


 多少えげつなく見えるものの、まさに敵の威勢を挫く……先鋒として確実なその仕事っぷりに、俺は驚愕を隠せない。

 実際……相手側もそうだったのだろう。

 恐らくは二番目に強いだろう、均という名の敵の先鋒が嬲り殺されたのを目の当たりにして、二番手の男は既に顔面蒼白だった。

 思惑を潰された商人(シャンレン)の顔は、いつ憤死してもおかしくないほど真っ赤に茹っていたのだが……もしかしたら、二番手の男が怯えているのは、自分の雇い主が激昂している所為かもしれない。


 ──まぁ、生憎と……こっちも残りは平凡な奴らしかいないんだが……


 とは言え、それは相手の知る由もないことで……

 そうして俺が敵側の様子を伺っている間にも、我らがリーダーが息一つ乱すことなく帰還し、二番手の肩を叩く。


「交代だ、(ラン)っ!

 目にもの、見せてやれっ!」


「ああ、やってやるっ!

 やってやるさっ!」


 リーダーの一喝で前へと歩み寄ったのは、俺たちの中でも最も腕の太い……朗とかって名前の男だった。

 手に大刀を持ったソイツは、まさに力自慢という雰囲気だったが……


「いけぇっ!

 (リャン)っ!」


「おうっ!」


 残念ながら良という名の大男は、朗よりも遥かに太い腕を誇り……倍ほどもある大きな大斧を手にした巨漢だったのだ。


「……あ」


 その立ち合いは、ほんの一瞬だった。

 良という男の大斧は、たったの一撃で朗の大刀をへし折り……勢い余ったついでに朗の頭まで叩き割っていたのだ。

 二番手の朗はそのまま地に倒れ、動かなくなる。

 どう見ても助かりようのない……完全な即死だった。


「……次だ。

 (タン)、いけっ!」


「……お、おう」


 堅が引き寄せた流れは、良とかいう巨漢の一振りで吹き飛んでしまったらしい。

 三番手の当という男も、それを感じ取っているのだろう。

 それでも、退くに退けないのか、怯えながらも震える手に剣を握り……牛並の歩みで戦いの場へと踏み出した。

 だが、二人の技量差は明白で……結局、(タン)はたったの一合も刃を交えることなく、敵の(ユェン)という長身の男が操る長剣によってあっさりと咽喉を貫かれてしまい、周囲に鮮血を巻き散らしながら崩れ落ち……

 こちらの三番手だった当は、そのまましばらくの間、痙攣をしていたものの……やはりすぐに動かなくなってしまう。


「次だ、いけっ!」


「い、いやだ。

 死にたくないっ!

 いやだぁああああああああっ!」


 四番手はもっと酷かった。

 敵である(トゥン)と戦おうともせず、背を向けて逃げ出し……俺たちを囲っている兵に射られ、あっさりと地に躯を晒したのだから。

 しかも、身体中を射られ、矢が肉を突き破る激痛に転げ落ち……地に伏してじたばたともがく間、四方八方から矢で延々と射られ続けたのだ。

 ……激痛の悲鳴も、断末魔の叫びも上がらなくなり、その身体が痙攣すらしなくなるまでの間、休む間もなく、だ。

 残された死体は、矢が突き刺さっていない場所すらない……まるでハリネズミのような有様だった。


 ──阿呆が。


 せめて戦っていれば、助かる道もあったかもしれないのに……と、俺は思わず嘆息する。

 尤も……こちらを伺っている商人(シャンレン)とやらはこの様相こそ見たかったらしく、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべているのだが。


「次は、お前だが……皇帝(ファングィ)

 ……いけるか?」


「ま、やってみるさ」


 ともあれ、次は俺の出番である。

 リーダーの問いかけに俺は軽く肩を竦めると、出来損ないの矛を掴み、立ち上がる。


(ファン)っ!

 しなないでっ!」


「がんばってっ!」


 背後から投げかけられる子供たちの声援に、俺は振り返ることもなく軽く手を振ると……真正面に立つ男を見据える。


(タァ)

 これが最後だ。

 目にモノ見せてやれ」


「へぇへぇ。

 分かってますよ、旦那」


 商人の声に進み出てきたのは五人目……恐らくは相手側の駒でも最強だろう男だった。


 ──デカい。


 ソイツを一言で言えば、それに尽き……そして、それ以外の説明など不要だろう。

 二メートルを超す筋骨隆々の巨漢が、数十キロにもなりそうな大錘……巨大なマラカス状のハンマーを持っているのだ。

 小手先だけの技など、その力任せの一撃で吹き飛んでしまう……それが確信できるほどの巨体。

 その巨体を、金属片をまとわりつかせた板金鎧で、矢一つ通らないほど厳重に覆っている。

 それが、俺の前に立つ「哀れな生贄」の全貌だった。


「皇っ!

 にげてぇええええっ!」


「かてないってっ!

 むりだってっ!」

 

 背後で餓鬼共が騒いでいるが……生憎と知ったことではない。

 俺は巨漢の前に立つと、こちらを見下ろしてくる男から視線を逸らし……商人の方へと向ける。


「どうした?

 命乞いはもう間に合わんぞ?」


「いや、流石に、このまま戦うんじゃ相手『に』悪い。

 ちょっと援軍を貰っても構わないか?」


 そう告げた俺の言葉を何か勘違いしたのだろうか?

 敵の親玉は大笑いをした後……愉快そうに手を叩き、口を開く。


「ああ、いいだろう。

 幾らでも追加するが良い。

 こちらは、何人追加しても構わないぞ?」


 筋骨隆々としたその商人は、俺の背後……さっき一戦したばかりの堅と、そして並ぶ子供たちの方へと視線を向けな、酷く楽しそうな顔をしてそう告げる。

 何となく大きな勘違いをされている気がするが……まぁ、俺は自分の目的を達成できるのなら、そんな些事など知ったことじゃない。


「すまないな。

 こっちにも事情があってな」


 そう「言質」を貰った俺は背後を振り向き……敵側と同じく何かを勘違いして矛を手にしている堅を手で制した後、目的の死体を見つけると、そちらへとゆっくり歩み寄り……

 手にしていた矛を地面に突き刺すと、空いた量の腕でその「二つの小さな死体」を掴んで掲げ上げ……声高に叫ぶ。


「てめぇらの中で、この餓鬼共を射殺したヤツ。

 前へと出てこいっ!」


 挑発を交えた俺の叫びは、効果抜群だった。


「てめぇっ!

 ふざけてんのかぁっ!」


「ああっ!

 俺が射殺したんだよ、その餓鬼どもはっ!」


「ははっ!

 弱い餓鬼なんざ、殺されて当然だろうがっ!」


「この世はなぁっ!

 強いヤツが正しいんだよっ!

 餓鬼如き、殺したからってどうだってんだっ!」


 自分たちが圧倒的優位に立っていると勘違いしているのだろう。

 そんな俺の叫びに反応して、周囲を囲んでいた男たちの中から五人が、手にしていた弓を投げ出すと、剣や刀、槍を手にしてこちらへと駆け寄ってくる。

 そいつらの顔には、生意気な声を張り上げた「俺」という獲物を数の暴力によって嬲ろうという、優越者の愉悦らしき厭らしい笑みが浮かんでいた。

 ついでに、さっきまで戦っていた向こう側の代表者だった……三番手の(ユェン)と四番手の(トゥン)までもがそれぞれ武器を手に、こちらへと歩み寄ってくる。


 ──計算通りっ!


 その様子に、俺は笑みを隠しきれない。

 ……そう。

 リーダーの言いなりに見せかけつつも……俺はこの瞬間を待っていたのだ。

 とは言え、流石に見かねたのだろう。

 

「おい。皇帝っ!

 ……幾らなんでも、無茶苦茶だぞっ!」


「気にするな。

 餓鬼共全員の食い扶持を稼げるってところを見せつけなきゃならねぇんだ。

 これくらいで十分だろう?」


 俺の身を案じてか、それとも自分の策が潰れるのを恐れてか。

 声を荒げる堅のヤツに、俺は軽く笑い返すと、そのまま彼に背を向け……その声には軽く矛を振ることで答える。


 ──加勢は無用。


 そんな俺の無言の意思表示に気付いたのだろう。


「雑魚がっ!

 調子に乗りやがってっ!」


「嬲り殺してやるっ!

 死ぬまで、精々泣きわめけよっ!」


 ……俺の前へと集って来た雑魚共が吠える。


「……興冷めだ。

 適当に遊んでやれ、お前ら」


 逆に本来の俺の対戦相手……(タァ)という巨漢は数歩後ろに下がると、その大錘を床へと下ろす。

 どうやらコイツは、少しくらいは騎士道精神というか……小数を多人数で嬲り殺すのを厭うような、まっとうな精神を持っているらしい。

 とは言え、巨漢が参加しようがしまいが、俺を囲う連中にはもう関係ないようだった。

 そして、その大錘が大地を叩く音が、俺の戦いの……いや、俺が行う『餓鬼共の弔い』の開始となる。


「馬鹿がっ!」


「喰らいやがれっ!」


 まず、こちらが何かをする前に機先を制する形で攻撃を仕掛けてきたのは、俺と同じ村で生活をしていた二人を殺した(ユェン)(トゥン)という男たちだった。

 手加減……と言うよりも、スポンサーである商人を満足させるために、嬲り殺そうと考えたのだろう。

 俺の太ももに淵の放った長剣が突き刺さり、矛を持つ右腕に惇の放った戟……槍の先に斧がついたような武器が叩き込まれる。


皇帝(ファングィ)っ!

 馬鹿かっ!

 油断しや……がっ……て?」


 背後から(チェン)の叫びが聞こえるが……当然のことながら、俺の身体から血は一滴も流れやしない。

 むしろ、俺は喜んでいた。

 ……馬鹿が、射程内に入って来てくれたことに。


「て、てめぇ、はっぐぁあああああああああああああっ!」


 まず一匹目の標的……淵とかいう俺の脚に長剣を突き刺そうとした獲物の、その長剣を素手で握りしめると、俺は思いっきり引き寄せる。

 そのまま、長剣を握り砕くと同時に、ソイツの右腕を掴み……その腕をも長剣と同じように、渾身の握力を込めてやる。

 右腕の肉と皮と骨とが外圧によって粉砕されて混じり合うという、人間が生きている上ではまず味わうことのないだろう感触に、淵という獲物はこの世の終わりのような悲鳴をあげながら砕けた腕を抱えるように蹲り、悶え苦しみ始めた。


「おおおおおっ!

 いきてるっ!

 皇っ! いきてるっ!」


「え?

 皇、ぶじっ?」


 雑魚を一匹戦闘不能に叩き込んだ所為だろう。

 背後から子供たちのそんな叫びが聞こえてくる。


「き、聞いたことがある。

 戦場においても無手を貫く修行者に、皮膚で刃を弾く術を持つ者がいると。

 確か……硬気功(イン・シィコン)とか、言ったか」


 堅のヤツは何やら知ったかぶりで妙なことを口走っているが……いや、まぁ、本当にそんな術があるかも知れないが……それが実在するかどうか何て、どうでも構わない。

 正直に、この無敵の力が破壊と殺戮の神ンディアナガルの権能だと答えても……どうせ誰も信じやしないのだから。

 それならばいっそ「その怪しげな拳法の技を使える」で通した方が早いだろう。

 実際……化け物と思われるよりも、化け物みたいに強い人間と思われる方が、気が楽なのだから。


 ──ちと、初志からは外れてしまうけど、な。


 確かに俺は、この世界に来てすぐ「一般人のように生きよう」と考えていたのだが……生憎と俺は、無惨にも遊び半分で嬲り殺された餓鬼共の仇を取らずにのうのうと暮らせるほど、腐っているつもりはない。

 だから、「普通の一般人」として生きるという目標はちょっとだけ下方修正して……「強い一般人」を目指すことにしたのだ。

 ……ちょっとした方向転換、というヤツである。


「……さて、と。

 逃げられると、厄介だからな」


「あぅ、ぎゃぁあああああっ?」


 逃げられないように蹲ったままのソイツの足を踏み砕くと、俺は次の獲物へと手を伸ばす。

 ……俺の右腕に当たって砕けた戟を呆けた顔で見つめている馬鹿……確か、(トゥン)とか呼ばれていた獲物へと。

 コイツの処置は、その戟を見て思いついた。


「ひぎぃゃああああああああああああっあっ、あっ、あっあっぁああああっ!」


 まず、両肩に手を置き、そのまま握り潰す。

 と同時に、直下へと力を籠め……その脊椎を腹筋背筋ごと押し潰す。

 即死はせず、だけど二度と歩くことも叶わないだろうその肉体損傷に、惇とかいう馬鹿は血反吐を巻き散らしながら、ぐにゃりと陸に打ち上げられたクラゲみたいに潰れ、ぴくぴくと痙攣してもはや人間とは思えない形状と成り果てていたのだが……口や指先が動いている以上、まだ生きている。

 取りあえずこれで……逃げられない生贄が二匹出来た訳だ。


「……さて。

 次はてめぇらだな」


「ひ、ひぃっ?」


「怯むなっ!

 アイツだって人間だっ!」


「そうだっ!

 どんな原理か知らないが、人の技だっ!

 王のような人外じゃねぇっ!」


「ああっ!

 五人で、一斉にかかればっ!」


 ゆっくりと振り向いた俺に、餓鬼共を射殺した五人ほどの男は悲鳴を上げるものの……五対一なら何とかなると考えたらしい。

 その手に槍や剣、刀を構え……一斉に飛びかかってくる。


 ──阿呆がっ!


 獲物が一斉に飛びかかってくれることに、俺は笑みを浮かべると……その突っ込んでくる武器を前に、一切の構えを取らずにただ立ち尽くす。

 下手に構えて警戒をさせることで……逃げ出した虫けら共を追いかける羽目に陥るのを嫌ったのだ。


「ははっ!

 ど、どんな、もんだっ!」


「や、やったぞっ!」


 当然のことながら、構えようとも避けようともしなかった俺の身体には……見事二本の剣と刀、矛、槍がそれぞれ突き刺さっていた。

 とは言え、俺の持つ破壊と殺戮の神ンディアナガルの権能は、その程度の攻撃など痛みすら感じることなく、容易に弾き返してしまう。

 それどころか、俺の身体に渾身の力で叩きつけられた剣は歪み、俺の肌をなぞった刀は毀れ、俺の腹とぶつかった矛は欠け、衝突した槍の穂先は曲がってしまい……俺自身よりも、武器の方の損害が大きい有様である。


「……ばっ!」


「馬鹿なっ?」


 そして、ソイツらが砕け折れ捻じ曲がった武器に気付いて硬直した瞬間こそ……俺が待ち望んだ一瞬だった。

 

「……いらっしゃ、いっ!」


 渾身の力をもって、手にしていた矛を左から右へと振り回す。

 ……連中の、足元辺りを狙って。


「ひぎぃぁああああああっ?」


「足、足がぁああああああああっ!」


「あぎゃああああああっ?

 折れ、折れ、折れっ?」


 効果は絶大……とは、行かなかった。

 間合いの中に入ったからと言って、武器の心得すらろくにない、素人の俺が放った矛の一撃だけで、全員を薙ぎ払える訳もない。

 と言うか、適当に直しただけだった矛は、二人目の足を断ち切ったところであっさりと壊れ、残り三人の足はただ棒切れで殴っただけ……いや、四人目と五人目は三人目の身体を叩きつけた形になったのだった。

 恐らくは、振るった矛先にある刃の部分を、上手く相手の身体に当てられず……三人目の時点で、もっと根本にある刃の付け根の部分で相手の身体をぶっ叩いてしまったのが、矛が壊れた原因だと思われる。

 尤も、例え武器が壊れようが……俺の膂力をもって棒切れを叩きつけただけで、普通の人間が起き上がれる訳もない。


「……ま、結果オーライか」


 俺は足元で苦痛の声を上げながら蠢く雑魚共を見下ろすと、小さくそう呟いた。

 ……そう。

 これからが俺がこの戦いに見出した『別の目的』……あの餓鬼共を射殺したクズ共への、報復の始まりなのだから。


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