~ 肆 ~ プロローグ5
「お~、すげぇっ」
ゆっくりとこちらへ近づいてくる『戦車』という名の巨大な鉄の塊に、俺は思わずそんな声を呟いていた。
実際……戦車というものは、男の浪漫とも言うべき兵器の一つである。
俺も一応、まだ少年の域を出ていない年齢でしかなく……この戦車という存在にちょっと憧れてしまう心を持ち合わせていたのだ。
だからこそ俺は少しだけ興奮している自分を自覚しつつも、此処が戦場ということも忘れてその鉄の塊をゆっくりと眺めていた。
尤も、そうして俺が戦車を見上げている間にも、銃弾が次々と俺の身体へと叩きこまれて続けているが……まぁ、服の上から輪ゴムを当てられる程度の痛みもないのだ。
「ったく。
……鬱陶しいな、畜生」
それでも……ダメージがないとは言え、身体にポツポツと銃弾が当たる感覚はそう気持ちの良いものでもない。
さっきから群れている連中は自動小銃を装備している所為か、周囲に並んでいる装甲車の上には重機関銃が積んである所為か、飛んでくる銃弾の数も半端なく……身体中に蠅が集られるような、そんな鬱陶しさがあった。
とは言え、俺が感じている苛立たしさと同種のものを、銃弾を放っている連中も感じていたらしい。
『いい加減、死にやがれっ!
この化け物がぁああああああああああああっ!』
「……おぉおぉっ?」
直撃している筈の銃撃が全く功を奏さないことにいい加減ぶち切れたのか、こっちに重機関銃を放っていた筈の装甲車が突如、俺を轢き殺そうと急加速して突っ込んで来やがったのだ。
装甲車と言えど、結構な速度が出せるらしく……普通乗用車が高速道路を走るくらいの速度を出したその突貫に、俺の身体が一瞬、ブレる。
……だが、所詮は装甲車。
そんなモノなど……俺の前では、人間が造ったただの『小道具』に過ぎない。
俺がちょっと両脚に力を入れるだけで……俺を轢き殺そうと突っ込んできた装甲車の動きは、あっさりと止まってしまう。
銃弾を弾くために設計されたのだろう鋼鉄の装甲版ですら、俺との衝突に耐えられず歪み始める始末である。
「ああ、うざってぇえっ!」
そうしてぐいぐいと圧してくる装甲車に苛立った俺は、その鉄の塊を押しのけるように、前蹴りを一発放つ。
そのただの前蹴り一発で、装甲車だったモノはあっさりと十メートルほど宙を舞い……警察車両を巻き添えにして凄まじい衝突音を奏でながら、原型を留めない状態で転がって行く。
──思ったより、軽いなぁ。
蹴り一発で簡単に吹っ飛んで行った装甲車に、俺は思わず肩を竦める。
とは言え、仮にも『装甲』って名前がついている車だ。
炎上もしていないし、中の人も……死んではいない、だろう。
……多分。
『悪魔、だ。
……神、よ』
『いてぇ。
腕が、腕がぁあああ』
『畜生っ!
アイザックが息をしていねぇっ!』
『衛生兵~~~っ!
早く来てくれぇえええええええええっ!』
ちなみに、玉突き事故の現場では、恐らく警察に勤めていただろう人たちがこの世の終わりを見たかのような悲鳴を上げていた。
どうやら破片にぶつかったか、それとも衝突に巻き込まれたか……どちらにしても飛んで行った装甲車に巻き込まれた挙句の事故なので、俺に責任はないだろう。
勝手に堕ちて行ったヤツや、勝手に炎上して死んだヤツなど……多少の犠牲者は出ているものの、俺の自責点としてはまだゼロである。
……などと内心で言い訳をしていたのが悪かったのだろうか?
ふと気を緩めた瞬間に、軽い金属音と共に足元に転がってくる三つほどの鉄の塊。
ソレらが、パイナップル型の手投げ爆弾だと気付くのと、それが爆発するのはほぼ同時だった。
「うぉっちゃっちゃっちゃ」
手榴弾を喰らった感想は……正直、『熱い』だった。
あと、爆音の所為で耳が痛い、というのも追加されるだろうか?
幸いにして、ンディアナガルの権能に守られている俺は、手榴弾が持つ最大の殺傷能力……つまりが破片によるダメージはない。
とは言え、熱に関しては『俺の身体が傷つかない限度』までは感じる仕組みになっている所為で、熱いとは感じてしまう。
音に関しても同じで……要は、吹きつけて来た熱風が熱く、爆発音がものすごくやかましい程度のダメージでしかない訳だが。
ついでに言うと、俺の着ていた服は破片にも爆炎にも耐性がなく……あちこち破け、黒焦げて、ボロボロになってしまっていた。
……コレが終わったら、適当にどっかで調達しなければならないだろう。
『……化け物、め』
尤も、周囲の警察か兵隊か……周囲の連中は俺の服装よりも、俺の頑丈さの方が大事らしく、そんな呻き声が上がり始める。
自分たちが何をしても無駄だと……自分たちがどんな武器を使っても、規格外の存在であるこの俺には通じないのだと、そう思い始めているようだった。
周囲の空気に諦観が漂い始めたのを察した俺は、ようやく自分の夢が実現しそうな空気に少しだけ満足し、軽くガッツポーズをしてみせる。
──まぁ、やり方はちょっと予定と狂ったが……結果オーライ、か。
……そう。
破壊と殺戮の神ンディアナガルの権能を見せつけ、国家を従わせることでハーレムを作る。
何が間違っていたのかは未だに分からないものの、何故かこうして予定外の戦闘に突入してしまっていたが……それでも、ここに来てようやく躓いていた予定が何とか既定路線へと復帰し始めたのだ。
俺が喜びのあまり、ついガッツポーズを取ってしまったのも、まぁ、仕方ないことだろう。
……だけど。
だけど、まだ、終わりじゃない。
──さて、後は……
俺は軽く首を鳴らすと、最後の仕上げとばかりに慌てて逃げ始めた連中の、縋るような視線を辿る。
そこには、立ち並ぶ三台の巨大な鋼鉄の塊が見えた。
──怪我人を巻き込まないように待っているのか。
戦車に乗っている連中の意図を読んだ俺は、肩を軽く竦めると……戦車が動き始めるのを待つことにした。
今ならば、塩の権能を使い、戦車を潰すことも、戦車を無力化することも簡単に出来るという『確信』がある。
だけど……俺の目的は敵を殲滅することではなく、権能を見せつけて相手の心を捻じ伏せることなのだ。
それに……怪我人を巻き込まないようにすることは、「命を大事に」という俺の信念にも合致する。
『運べっ!
そっとだっ!
頭を揺らすなよっ!』
『止血だぁっ?
そんな暇、あるかっ!
傷口くらい、手で押さえてろっ!』
『あの化け物が、戦車と見合っている内に、急げっ!』
「……酷い言い草だ」
だと言うのに、俺と敵対していた連中は、人様を言葉も分からない化け物みたいに認識しているという、この事実。
俺は少しだけため息を吐くものの……まぁ、連中の心情がどうあれ、命を大事にしてくれるならば、一々潰す必要もないだろう。
ついでに言うと、彼らの手際はかなり良く、ほんの二分ちょっとで周囲に転がっていた怪我人は欠片も見えなくなっていた。
「……さて。
始めるとするか?」
俺のその呟きと、戦車が動き出したのは果たしてどっちが早かったのだろう?
三台の戦車たちはゆっくりとこちらへと近づいて……来なかった。
ただ、その巨大な砲塔をこちらへと向け……
「……あ」
考えてみれば、戦車ってのは砲台のついた車両のことだ。
先ほど装甲車と力比べなんて真似を仕出かした所為か、あの戦車がこっちへ突っ込んでくるだろうと、勝手に想像していたのだが……
どうやら、連中は俺と真正面からぶつかり合ってはくれないらしい。
「それは……卑怯だろう?」
俺の口からそんな言葉が飛び出るのと……三つの砲塔が火を噴いたのは、ほぼ同時だった。
直後、俺の頭蓋と右肩と左脚を衝撃が襲い……そのダメージに俺は思わず吹っ飛ばされてしまう。
何しろ、その戦車から放たれた砲弾は俺にぶつかったと思った瞬間、爆発炎上しやがったのだから。
「……っちゃっちゃっちゃ」
突然、全身に熱風を吹きつけられた俺は、吹っ飛ばされた衝撃も忘れてその場でのたうち回る。
実際、その砲弾……恐らくは榴弾とやらは、いきなり燃え上がる不穏当な代物で、破壊と殺戮の神ンディアナガルの権能を持ってさえも、かなりのダメージを被った。
……熱湯をいきなり浴びせられる感じと言えば、分かるだろうか?
服ももう黒焦げで酷い有様になり……下手に動けば何もかもが見えてしまいそうな有様である。
──くそったれ、がぁっ!
しかも、砲弾の周囲を覆っていたらしき金属片は、熱せられて溶け、俺の身体にべったりと張り付いている始末である。
右肩と左脚は引き剥がすのにもそう問題はなかったのだが……問題は、頭部に張り付いたヤツである。
言うならば、頭に蝋を垂らされたようなもので、その金属片を剥がすには、多大な犠牲を払うことになった。
……主に、髪の毛という、犠牲を。
「やりやがったな、畜生がっ!」
髪の毛が抜ける痛みに涙目になった俺はそう吠えると……その金属片を戦車の方へと放り投げる。
そして、その破片に権能のラインを繋げながら、思いっきり叫ぶ。
「出て来やがれぇえええええええっ!
蟲共ぉおおおおおおっ!」
俺の叫びと共に、権能によって生み出された、さっき抜けた髪の毛と同じ数の蟲が金属片から生えたかと思うと……
「コイツらをっ!
このゴミ共を、喰らい尽くせぇええええええっ」
俺のその命令に従い、一斉に戦車へと喰らいつき始める。
『こ、コイツらはっ!
一体、どうなってやがるっ!』
『な、何なんだよ、アイツはぁあああああああっ?
この化け物どもはぁああああああああっ?』
『良いからっ!
早くっ!
早く、撃てぇええええええええっ!』
俺にとっては蟲の数以外は予定調和でしかないその出来事も……戦車に乗っている兵隊さんたちにとってはこの世の終わりのような出来事だったらしい。
まぁ、乗っている戦車の装甲を易々と食い破る数十の蟲に喰らいつかれる訳だから、あまり楽しくない出来事なのは違いない。
一瞬後には戦車の中からは阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡り……肝心の戦車たちは右往左往して食らいついた蟲共を振り払おうと必死に暴れ回り、もう無茶苦茶になっていた。
しかも、戦車の一台は砲手が錯乱してしまったのか、適当な方角に榴弾を撃ちまくり……確か、市街地があるだろう方角に、火の手が上がるのが見え始める。
──あちゃぁ~~~。
その惨事が引き起こされているだろう事態に、俺は思わず内心でため息を吐いていた。
街中にあんなのが爆発してしまった以上、かなりの犠牲者が出ているに違いない。
……俺自身はこうして「命を大事に」を信念に行動しているのに、何故こうなってしまうのか。
尤も、その責を負うべき存在は、装甲版を食い破った蟲によって、今、まさにその責とばかりに肉塊に変えられている最中なのだが……
──ま、良いか。
別に、あの榴弾は俺が撃った訳じゃない。
つまり、俺の所為じゃない。
俺は燃え広がり始めたのだろう、黒煙が上がり始めた市街地の方へ向けた視線をそう結論付けて断ち切ると、さっさと先へと進むことにする。
何しろ、俺は別に此処へ戦いに来た訳じゃない。
ただ、ハーレムを作りに来ただけなのだ。
である以上……戦車と遊んでいる暇なんて、ないだろう。
「……後続は、任せた」
俺は戦車から頭を出して遊んでいる蟲たちにそう言葉を投げかけると……本来の目的を果たすべく、その煉瓦造りっぽい外装をした、大きな建物へと足を踏み入れた。
ふと振り向くと、背後では蟲たちが新たな餌……つまりは援軍に向けて一斉に牙を剥くのが見えたが、まぁ、そんなことはどうでも良いだろう。
歩く。
国家の行政を担うのに相応しい豪華でしっかりと手入れされた廊下を、ただ歩く。
『くそっ!
死ねっ死ねゃあああぉぁああああああ?』
「……五月蝿いんだよ」
たまに黒服の人間が銃やナイフを手に襲いかかって来たが、所詮は人間。
多少、軍隊経験があろうと武術の心得があろうと……俺の歩みを止めるには至らない。
『いぎゃぁああああああああっ?
腕、腕、俺の、腕がぁあああああ?』
『ひぃぃぃぃ、死に、死にたく、ないぃぃぃぃぃいいいいいいっ!』
と言うか、ただ人を殺そうと武器を振るって来たその腕を軽く捻るだけで、大の男たちは悲鳴を上げて戦意を喪失して蹲るのだ。
他にも命乞いを始める雑魚や、痛みに白目を剥いて泡を吹き始める虫けら、更には小便をまき散らす汚らしいゴミ共など……連中の見せた反応のバリエーションだけは豊富だった。
そうして俺が阿鼻叫喚の響き渡る廊下を歩いている間にも、建物の外で大きな爆発音が聞こえて来る。
──暴れてるなぁ。
その音を聞いた俺は、軽くそう首を竦めて見せる。
恐らく、と言うか間違いなく……外では蟲と戦車やヘリ、戦闘機なんかが怪獣大決戦の真っ最中なのだろう。
蟲は目にも留まらぬ間に喰らい尽く攻撃速度と、鉄をも易々と噛み砕く歯が武器なのだが……生憎と防御力には難がある。
尤も、多少燃やされたり吹っ飛ばされたところで、分裂と再生を繰り返す生命力があるのも事実だが……
──そっちを見物しても面白そうではあるが……
恐らくはB級映画のクライマックスシーン並の戦闘が繰り広げられている屋外に、俺の意識は向きかかるものの……
すぐに俺は意識を正面に向ける。
──今は、B級映画より、現物のハーレムの方が遥かに大事だな、うん。
何故ならば俺の眼前には、恐らくは目的地であろう、正面中央の議長席へと向いた赤茶けたテーブルがたくさん並ぶ奇妙な部屋があるのだから。
その部屋は日本の国会議事堂に良く似ていて……機能的には同じなのだから、似通うのは当然なのだろう。
尤も、ニュースもあまり目を通さない俺としては、日本の国会議事堂がどんな場所だったかすら、あまり記憶にないのだが。
その議事堂っぽい椅子に、ずらりと年輩の男女が並んでいるのが見える。
彼らが、このイスラム国とやらの責任者……政治家たちなのだろう。
ならば、俺が次に口にするべき言葉も決まっていた。
両腕を左右に開き、天の大きさを示唆するようなポーズを取りつつ、腹の底から声を響き渡らせる。
『アッラー・アクバル』
正直……完璧に決まったと思った。
神の権能を見せつけながら圧倒的な存在感で政治の中枢部にたどり着き、アッラーの僕であるのを装う。
なればこそ、彼らは神の素晴らしさに平伏し、俺にハーレムを提供することに異を唱えることはない。
……筈、だったのだが。
『残念だが、テロリストよ。
貴様の望みは叶わない』
『我々選ばれし民は、暴力には屈しない』
『例え我々が此処で滅びようとも……世界各地の同胞たちが、貴様の親類縁者、関係する組織全てを暴きだし、滅ぼすことになるだろう』
……何故か、イスラム国の政治家たちの口からは、そんな……服従を断固拒否して徹底抗戦を示唆するような、そんな言葉が放たれたのだ。
しかも、何名かは銃を手にして、俺に銃弾を放ってくる始末である。
更に性質の悪いことに、全員が全員、恐怖を何処かに置き去ったような表情をしていて……言うならば、覚悟が完全に決まった表情を見せていたのだ。
──何故、だ?
予想と全く異なった展開に、俺は思わず怯みを見せる。
尤も、今リアルタイムで喰らっている銃弾なんざダメージすらなく、ただ何かが触れて鬱陶しい程度でしかないのだが。
それでも、此処へ来れば叶うと思った品が手に入らない……長々と無駄足を踏まされた精神的ダメージは、思ったよりも大きかった。
『未知の生物兵器をばら撒き、理解の出来ぬ力によって此処まで攻め込んだ貴様の技量、確かに賞賛に値する』
『だが、何度でも言おう。
……我々はテロには屈しない。
我々がようやく手にした、この『約束された地』を……薄汚いムスリム共に渡してたまるものか』
『残念だったな、愚かなテロリストよ。
貴様が此処から脱することなど、もう絶対に叶わぬだろう』
『……何を、考えてやがる?』
その全員の堂々とした態度が、勿体ぶった言葉が理解出来なかった俺は首を傾げるものの……答えはすぐに眼前の連中からもたらされた。
『ここには、もうすぐ戦術核を投下されるのだ。
あと一分で、な』
『我が民族は、何があろうともテロには屈しない。
我々の『約束された地』をクソのようなムスリムに奪われるくらいなら……我らの手で焦土に化した方がマシ、なのだよ』
『貴様とあの忌々しい化け物は、此処で終わるんだよ。
くそったれのムスリムがっ!』
「馬鹿かっ!
何を、考えて……っ?」
まさに狂気としか思えないその選択、その覚悟に激昂した俺が、思わず権能を使うことも忘れ、素で口を開きかけた……その瞬間だった。
突如、足元から凄まじい光が放たれ始めのだ。
──まさか、こんな、タイミングでっ?
その光に目が慣れた頃、足元に視線を向けてみれば……そこに描かれていたのは、空色の文字で描かれた魔法陣。
もう何度も目にしている……異世界へと召喚されるための魔法陣が、この僅かな間に、足元へと描かれていたのだった。
──どう、する?
今の俺ならば……破壊と殺戮の神ンディアナガルの権能を用いれば、この召喚に抵抗するのは容易いと、俺の中の『確信』が告げてくる。
だけど……俺は一瞬だけ悩んだだけで、すぐに結論を下す。
「あ~、もう、どうでもいいや。」
……そう。
何が原因かは分からないが、俺は失敗してしまったらしいのだ。
である以上、俺がここで頑張る必然性など、欠片もないだろう。
何しろ……俺の欲しかったモノは、ここでは手に入りそうにないんだし。
『な、何をっ?』
「……悪いが、呼び出しだ。
ああ、お前らは勝手に死んでくれ。
正直、自殺しようとする馬鹿までは、面倒を見切れないんでね」
その上、相手は俺を道連れに自爆しようと息巻いている。
破壊と殺戮の神ンディアナガルの権能がどこまで有効かは分からないが……戦術核を喰らって『痛くない』訳もないだろう。
何と言うか、『死ぬことはない』という絶対の確信はあるものの……全身に熱湯をかけられるくらいは痛い予感があるのだ。
その挙句、この連中は自爆して散ってしまうのだから、俺の要求である「ハーレムを用意しろ」という要求が通る筈もない。
……だからこそ、俺は選んだのだ。
失敗して手に入らなくなってしまった現世のハーレムより、異世界でハーレムを手に入れた方が建設的じゃないか、と。
そして、結論を下した以上、後は簡単だった。
俺は抵抗を諦めると……そのまま魔法陣の引力に身を任せることにする。
「じゃあな。
後は任せた」
『お、おぃぃいいいいいいいいいっ?』
『ま、待てぇえええええっ!』
『何だ、それはぁあああああああああっ!』
俺の身体が魔法陣へと吸い込まれて消える寸前、周囲からはそんな悲鳴が上がっていた気がしたものの……すぐに俺の意識はいつものように、闇の中へと落ちていくのだった。




