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【完結済】ンディアナガル殲記  作者: 馬頭鬼
参・第八章 ~疫殺の朽腐林~
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参・第八章 第二話


 翌日も、その翌日もまた似たようなもの、だった。

 下らない諍いに下らない争い。

 食料の配分がどうだの、侮蔑の一言がどうだの……そういう争いに足を運ばされ、力任せの適当な仲裁で何とかその場をしのぐ。

 流石に以前のように死者が出るような諍いはなく、俺が据えてやったお灸が効いていると実感したものだが……それでも暴動寸前の殴り合いは日常茶飯事。

 そんなこんなで、今日もこうして呼び出されている最中、という訳だ。


「で、今日は何をやらかした?」


 半分に割れた『泥』の仮面の位置を整えながら、そんな呆れた声を吐き出した俺は、ゆっくりと周囲を見渡す。

 周囲には五人の『聖樹の民』と、四人の『泥人』……恐らくは『槍』の一族だろう。

 顔中を青痣だらけにした彼らは、唇や鼻から血を流し……中の一人は腕が変な方向へとへし折れている。

 九人の男たちは口を噤んで何も言わないものの、何があったかくらい、一目瞭然、という奴だ。


 ──喧嘩、か。


 先日、俺が『喧嘩両成敗』という方針を示したお蔭か、刃傷沙汰にはなってない。

 なっていないが……もうこれはギリギリのラインだろう。


「……で、何が原因、なんだ?」


 口を噤んでいるらしき男たちに、俺はゆっくりと問い質す。

 下らぬ言い訳や誤魔化しをすれば「その身を持って知って貰う」という言外の意味を込めながら。


「こ、コイツらがいきなり殴りかかってやがったんだっ!」


「て・てめぇっ!

 泥臭い・だの、蛆虫・だの・好き勝手・言いやがったのは・貴様の方・だろうがっ!」


「事実だろうが、この蛆虫どもがっ!」


「ん・だとっ!

 この・弓しか・使えぬ・臆病者・がっ!」


 意味もなく始まったその言い争いで、理解は出来た。

 どうやら些細な口喧嘩がヒートアップした挙句、殴り合いに発展したのが真相だろう。

 ……下らないこと、この上ない。


「……少し、黙れ」


 再び殴り合いを始めそうな九人の男たちを軽く黙らせると、俺は少しだけ考える。

 ……コイツらに下す、罰というものを。


 ──殺すのは、やり過ぎだよなぁ?


 幸いにも今回の喧嘩で死者は出ていない。

 ならば、殺すこともない、だろう。

 目には目を、歯には歯を……とかって授業で聞いたことがあるし、あまり行き過ぎた恐怖政治をやらかすと、両民族が手を取り合って俺を排除しようと動きかねない。

 とは言え、何も罰則を下さずに放置してしまえば「喧嘩くらいならしても大丈夫」と受け取られかねない。

 既に……周囲には野次馬が群がり、俺の一挙一動を注視しているのだから。

 そこまで考えると、あとは自然にコイツらをどうすれば良いかを決断出来た。


「よし、全員、立て」


 そんな一言で俺は喧嘩に関わった九人をその場に立たせる。

 そうして直立不動になった『聖樹の民』と『泥人』の青痣だらけになった顔を眺めながら、俺はゆっくりと彼らの前を歩く。

 何をされるのか分からない彼らは、俺が一歩踏み出す度に唾を飲んだり身体中を震わせたりと……まぁ、見事に怯えているのが分かる。


 ──だったら、下らん喧嘩なんざするなよな。


 そうは思うが……それでも頭に血が上るとやらかしてしまうもの、なのだろう。

 俺は静かに左端に立つ『聖樹の民』の真正面に立つと……静かに口を開く。


「……喧嘩は両成敗だ、分かるな?」


「はっ、ふごぉおおおおおおぉぉぉぉっ!」


 ソイツが頷くのと同時に、右の拳を軽く、ソイツの腹へと叩きこむ。

 『聖樹の民』であるその男は、口から泡を吹いて悶絶し始めるが……まぁ、死なないように手加減はしている。

 ……命に別状はない、だろう。


「次は、お前だな」


「ひ、ひぃっ、うごげぉおおおおおおおおぉぉ」


 隣に立っていた男は、俺の拳を受けた途端、直下に座り込み……不気味な唸り声を上げ始めた。

 腹の中の内容物を吐き出しているのは唸り声と一緒に周囲に響いている水音で分かるが……まぁ、見て確認をしようとは思わない。

 その吐瀉音だけでこっちも貰いゲロしそうになっているのだ。

 ……そろそろ人を殺すことも痛めつけることにも何も感じなくなってきたってのに、こういう人間らしい感性は未だに残っているのはどうかと思う。

 あらゆる武器からこの身を守る破壊と殺戮の神ンディアナガルの権能をもっててしても、その手の不快感や嫌悪感は防げないらしい。

 どうなっているか、責任者に問い質したいところではあるが……製造元である創造神ラーウェアは俺がこの手で殺してしまっていて、もうどうすることも出来ないのが現実だった。

 っと、今はそんなことを考えている場合ではなかった。

 俺は思考をさっさと打ち切ると、次の制裁対象へと視線を移す。


「次」


「ま、待って下さぃぎぃぃぃぃぃぃ……」


 次のアホは変に動こうとした所為で、俺の拳は狙ってもないあばら骨に直撃してしまう。

 何やら砕ける感触がしたかと思うと、ソイツは口から血が混じった泡を吐き出しながらじたばたと暴れているが……自業自得だろう。


「……次」


「は、はいっ……っ?」


「次だ」


 前のヤツの惨状を見て取ったお蔭だろう。

 次の『聖樹の民』は俺の拳を静かに受け入れ、静かに蹲り、静かに動かなくなった。

 いや、僅かに動いているのを見ると……まだ生きているのは間違いないだろう。

 そうしてもう一人の男へと拳を叩きこむと……俺は『槍』の一族へと向かう。


「ほら、次だ」


「……わ・我々も・です・か?」


「当たり前だ。

 喧嘩両成敗だと言っただろう」


 その俺の言葉で、『聖樹の民』が悶絶する様子をにやにやと眺めていた『泥人』の顔が恐怖に歪む。

 ……相変わらず「自分たちは裁かれることのない優位者である」という、自分勝手な思考回路をしているらしい。

 面倒になったので、俺は『槍』の連中にも同じように拳を腹に突きこんで、さっさと裁定を終わらせた。

 死んだ奴は、取りあえずいない、だろう。

 まだ血反吐を吐き散らし、のたうち回っているヤツもいるが……まぁ、俺も人間だ。

 ちょっと手加減を間違えることもくらい、ある。


「これに懲りたら、喧嘩なんざするな、アホ共」


 俺はそう呟くと……未だに悶絶したままの九人の男たちに背を向ける。


 ──いい加減に、しやがれってんだ。


 俺はそう吐き捨てると、苛立ちに任せ、俺の向かう先に群がっていた野次馬共を睨みつける。

 恐怖の薬はまだ効いているらしく……ただそれだけで、野次馬連中は蜘蛛の子を散らしたように眼前から去って行った。


「……ったく。

 いい加減、理性というものを持ちやがれ」


 俺はそうぼやくと……自分の寝床へ向けて歩き始める。

 そうして歩いていながらも……「どうせまたすぐに呼び出されることになるだろうな」という確信が湧き上がるのを、他人事のように感じていたのだった。

 ……そして。

 俺が次に呼び出されたのは、その翌日のことだった。




「……で、何がどうして、こうなったんだ?」


 翌日。

 俺は昨日脳裏を過ぎった『確信』がものの見事に実現したことに欠片の喜びも抱けないまま、そう尋ねていた。

 眼前には……死体が九つ転がっている。

 一番大きく破損した『泥人』の死体には二十近い矢が突き刺さっていて、他にも二つの泥まみれの死体が、眼球ごと脳を射抜かれたり、咽喉を貫かれたり……そういう死体が六つも並んでいる。

 残り三つは『聖樹の民』の死体で、槍が突き刺さっていたり、斧によるものか頭蓋が砕けたもの……そして、側頭部を強打されて絶命したのか、目玉が眼窩から零れ落ちているものもあった。

 その死体を挟んで睨み合うように、百余りの武器を手にした『泥人』と、五十を超えるだろう『聖樹の民』がやはり手に弓を持って睨み合っている。

 彼らの中には、矢が突き刺さった『泥人』や、腕を切り落とされた『聖樹の民』など、どっちもどっちというレベルの負傷者も見受けられた。

 ……どうやらかなり激しくやりあったらしい。

 恐怖の権化みたいな扱いを受けているこの俺が、こうして争いの場に現れたというのに、今も殺意を剥き出しに睨み合っている最中というのが、その証拠だろう。


「コイツらがっ!

 コイツらが、畜生ぉおおおおっ!」


「うる・せぇっ!

 てめぇらが・俺たちに・やったことに・比べればっ!」


 俺の問いかけに返ってきたのは『泥人』と『聖樹の民』双方の口から吐き出された、そんな罵倒だった。

 どうやら両者とも……俺への恐怖を忘れるほど激高しているらしい。

 言葉の通じそうにないほど頭に血が上っているらしき双方の民族を前に、俺は大きくため息を吐くと……


「っ、な、何をっ?」


「ひ・ひぃっ?」


 適当に二匹……『泥人』と『聖樹の民』の肩を両手で掴み、静かに引き寄せる。


「俺は、何があったと、聞いているんだが?」


「い・言い・ますっ!

 言います・からっ!」


「みぎゃぁああああ・あぐぁあああっ!

 痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃ」


 左手で掴んだ『泥人』はそれだけで大人しくなったものの……右手で掴んだ『聖樹の民』の方はそう上手くは加減が出来なかったらしい。

 ちょっと力を入れ過ぎたのか、右手の親指が見事に皮膚を突き破って肩の関節に突き刺さり……傷口から血が噴き出しているのが見える。

 まぁ、弓を使うコイツらは近接戦用に身体を鍛えていないから、ちょっと物理攻撃に対しての抵抗力が弱いのかもしれないが。

 どっちにしろ……今はそんな些事に構っている暇はない。


 ──こっちは、しばらく喋れない、な。


 俺は、激痛で血の気が引いている『聖樹の民』から右手を離すと、静かに左手で掴んだままだった『泥人』の方へと視線を向ける。


「……で、何があったんだ?」


「こ・コイツら・が、アゼルと・ガルグに・サムザを・射殺し・やがったんだっ!

 良い奴ら・だった・のにっ!」


「だから、これは・復讐・だっ!

 この手で・殺させて・くれっ!」


「頼み・ますっ!

 堕修羅・さまっ!」

 

 男の返答に追従する形で、『泥人』たちからも次々と殺意の叫びが放たれる。

 俺はその答えに頷くと……青褪めた顔でへたり込んでいる『聖樹の民』へと視線を向ける。


「……で、何があったんだ?」


 俺の問いかけは……周囲の連中からすれば、かなり不思議なもの、だったらしい。

 少なくとも問いかけられた『聖樹の民』は痛みを忘れるほどに目を丸くしていたし、『泥人』たちの口からも、理解出来ない光景を目の当たりにしたような、息を呑む音が聞こえてきたほどだ。

 ……どうやら、最初に『泥人』の意見を聞いた時点で、俺は『泥人』の側に立ってこの争いを裁定することになっていた、らしい。


 ──どっちもの意見を聞くのは、仲裁の基本だと思うんだがなぁ。


 俺のその姿勢に、青褪めていた『聖樹の民』の男は、小さく咳払いをすると……その顔を憎しみに歪ませながら叫んだ。


「この、泥に住む蛆蟲共がっ!

 ベンザムの女房だった、人をっ!

 三人がかりで、輪姦しやがったんだっ!」


「蛆共に穢された夫人は、聖樹から飛び降りたっ!

 だから、あれは……制裁だっ!」


「こんなクズ共っ!

 皆殺しにしてやるっ!」


 俺の問いに返ってきた『聖樹の民』たちの回答はそんな分かり易いもので……


 ──つまり、何だ?


 アホ共が調子に乗ってベンザムの夫人……確か聖樹の根元で蟲に喰われて死んだ二番隊副長だったヤツの、奥さんだった人を三人がかりでヤっちゃったと。

 未亡人は『泥人』に犯された所為で自殺。

 それにブチ切れた『聖樹の民』が、その三人を射殺した。

 友人を射殺された『泥人』たちは激高して応戦。

 結果……九人が死ぬ騒ぎとなる、と。


 ──どうやって落とし前をつけろってんだ、こんなのっ!


 正直な話、俺は為政者なんざ出来る柄じゃない。

 ただ行きがかり上、コイツらを支配することになっただけで……俺がこうして裁定しているのだって、ただ「一番強いから」程度の理由でしかないのだ。

 一応は肩書として、『仮面』の一族の族長代理の義弟で、『槍』の一族による信仰の対象でもあり、『盾』の一族の矜持を叩き壊した悪魔で、『弓』の一族を降伏させた侵略者の長……なんて各々との関係もあるが、それはあくまでも「戦闘力」による副産物でしかない。

 大体が、俺自身には女性経験なんてないってのに……どうやってこんな事案を裁けというのだろう。


 ──大体、どうしてこうも問題が多発する?


 苛立ちに頭を掻き毟りながら、俺は考える。

 ……そう。

 ここで戦闘に参加した連中全員を殺しても、意味はないだろう。

 かと言って放置すれば、また同じ問題が発生するに決まっている。

 そんな「何をやっても同じ」という、言わば八方塞がりなのが、現在の状況なのだ。

 つまり……原因を解消しないことには、また同じようにぶつかり合い、また同じように殺し合いになるに決まっている。


 ──結局は、元凶を断ち切るしかない、か。


 そう考えてみると……この問題の元凶とはなんだろう?

 俺は僅かに思考を巡らせるが、答えなんて考えるまでもなかった。


 ──『泥人』と『聖樹の民』という区分けがあるから、いけないのだ。


 下らない差別、下らない諍い、下らない憎悪の連鎖。


 ──それら全てを断ち切るためには……


 ……目を閉じること五秒ほど。

 答えは、簡単に出た。

 幸いにして……今の俺には間違いなくソレが出来る。


 ──ソレは問題ないとして……

 ──後始末も、よし、出来る。


 食料問題、水問題……何もかもを上手く調整できる。

 ……その確信が、俺の中にある。

 だったら、後はもう実行するだけ、だろう。


「……全員、下に降りろ」


 だからこそ俺は、そう告げる。


「は?

 何で、ございましょう?」


「あ・あの?

 堕修羅・さま?」


 ……意図が分からなかったのだろう。

 俺の言葉に、『聖樹の民』も『泥人』も、双方が首を傾げるばかりで動こうとしない。

 そんな両者を振り返って見た俺は、一度足を止めると……


「別に死にたいならこの場にいても構わないぞ?

 俺は、別にどっちでも良いんだからな」


 静かにそう告げる。

 声を荒げるでもなく、ただ面倒で仕方ないという響きを持ったその声は……彼らの耳にはどう聞こえたのだろうか。

 少なくとも俺の言葉を無視する奴はおらず……全員が全員、俺に付き従って『聖樹の都』から下へと続く階段を降り始める。

 背後から聞こえてくる雑音は……そう多くない。

 俺は何も告げることなく、先導して階段を下り……そんな俺の態度を不安に思っているのだろう『聖樹の民』も『泥人』たちも、言葉を交わすこともなくただ俺の後ろを追い続けていた。

 時折、沈黙に耐えられなくなったのか、誰かの口から囁き声が放たれるものの……周囲の異様な雰囲気に呑まれたらしく、すぐに口を噤む。

 各部族の族長たちもただ静かに付き従うのみで、唐突な俺の行動に対して何かを訪ねてくることはなかった。

 そうして歩くこと、十数分。

 俺は聖樹の根元……外周ギリギリのところまで歩くと、背後の連中が俺の眼前に並ぶのを静かに待つ。

 待つ間にふと見上げた聖樹は、薄霧に覆われて全貌は見えないものの、相変わらず絶望的なまでに大きく……凄まじい威圧感を放っていた。

 樹から発せられる異様な空気……聖剣の放つのと同種の「神気」とも言うべき鬱陶しいソレを、俺は静かに肌で受ける。


 ──問題ない、な。


 多少は権能が制限される感じがあるものの……「俺が今からしようとすること」に、何らかの支障を来すほどではないだろう。

 俺はそう確信を得ると、やっと眼前に並んだ『聖樹の民』と『泥人』たち……『仮面』の一族と『槍』の一族、『盾』の一族を静かに眺める。

 外見からは表情の伺えない『仮面』の一族以外は、どいつもこいつも不安そうな顔を浮かべているものの……それでも未だに『聖樹の民』と『泥人』たちの憎悪は根深いのか、殺意と憎悪を向け合っているのが分かる。


 ──やっぱり、やるしかない、な。


 その様子にを見て、不要な筈の面倒な作業を実行しなければならない鬱陶しさに、俺はため息を一つ吐くと……

 正面に並ぶ連中を見つめ、口を開く。


「てめぇら、もういい加減にしやがれっ!」


 俺の口から出て来たのは……何故か、罵声だった。

 両者を静かに諭そうと考えていたのだが……どうやら俺は、この願いが実現しない現状に、自分で思っているよりも遥かにストレスを感じていたらしい。

 仕方ないので、身体の奥底から湧き上がる激情のままに、言葉を続ける。


「泥だの、樹だの、下らないことで、いちいちいちいち一々一々争いやがってっ!」


「そんな・我々はっ!」


「自分たちは、この『聖樹』に誇りをっ!」

 

 俺の言葉を遮る形で有象無象の誰かが叫ぶが……知ったことか。

 正直な話、この俺にとっては……コイツらの矜持なんざ、どうだって構わないのだから。

 俺が望むのは……ただ一つ。

 あの少女の願いだった……「誰も争わない世界」のみ。


「黙れっ!

 だからこそ、俺はっ!

 俺が望む「誰も争わない世界」のためにっ!

 てめぇらの争いの元凶を、断ち切ることにしたっ!」


 連中の言い訳を遮って、俺は叫ぶ。

 叫びながらも、両腕に権能を込める。

 片方は『爪』。

 何もかも全てを……空間そのものを切り裂く破壊と殺戮の神ンディアナガルが持つ権能の一つ。

 もう片方は『塩』。

 殺した全てを砂へと変える……今まで俺が無意識の内に垂れ流してきた、ンディアナガルの持つ権能の一つ。

 その両方を……意識して両腕へと込める。

 ……今までの戦いの日々を生きて来た中でも、紛れもなく「最大」と断言出来るほどに。

 そして、怒りに任せて、大声で吠える。


「知能の足りねぇ、てめぇらがっ!

 やれ『聖樹の民』だ、やれ『泥人』だって下らん肩書を争いの種にしてやがるんだっ!

 だからっ! これ以上、争わないようにしてやるっ!

 てめぇら、全員っ!

 ……何もかも、同じになってしまえっ!」


 そんな俺の激怒の叫びは、静まり返った薄霧の覆う周囲へと……『聖樹の民』『泥人』全員の間へと、響き渡ったのだった。


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