参・第三章 第三話
「ぅ、ううぉぉおおおおおおっ!」
……緊張に、耐え切れなくなったのだろう。
猿のような仮面を被った最前列にいた『泥人』は、手に持っていた石斧を振り上げると、半ば悲鳴のような声を上げると俺に向かって跳びかかって来た。
「……阿呆が」
それは、戦慣れしていない常人ならば怯え慄くかもしれない、気迫の込められた決死の特攻だったのだが……長柄の武器を持ち、静かに待ち構えている俺にとっては、そんな自暴自棄の突撃など怖くも何ともない。
射程に入って来たところで、右手に握っていた大刀……長柄の、先端部の刃が馬鹿デカい矛を横薙ぎに振るう。
「……べっ?」
それだけで『泥人』の上半身と下半身は泣き別れ、上半身は血と臓物をばら撒きながら聖樹から落ちて行き……下半身は幹に血と臓物をぶちまけて崩れ落ちる。
その惨劇を目の当たりにした『泥人』たちの間に、またしても動揺が走る。
誰しもが、「ああなりたくない」と思ってくれたお蔭だろう。
最前線で勇ましく木の盾と石斧を構えた『泥人』たちは、俺がただ視線を向けるだけで、武器を僅かに下げ……慌てて俺の視線から逃れようと後ずさる。
そうして最前列の男たちが後ずさることで……背後までずらっと規則正しく、何が起こっても対応できるよう、狭い通路であっても前後左右に一定の距離を保っていた『泥人』たちの隊列は大きく乱れてしまう。
「今だ、射れっ!」
そして、遠くの幹で弓を番えているミゲル率いる二番隊が、その隙を見逃す訳もない。
「目が、目がぁあああああっ!」
「痛ぇええええええええっ!
足が、足がぁああああぁぁぁぁぁぁぁ……」
「おいっ!
ゼス=ゼノムっ?」
動揺を狙い打たれた『泥人』たちは矢の餌食となり……哀れな生贄たちは矢の痛みに悲鳴を上げ、自由落下という名の凶器によりトドメを刺され、その短い生涯を終えることとなっていた。
先ほどの一斉射でも、矢に射抜かれた二人が悲鳴を上げながら周囲の三人ほどを巻き添えにして幹から転げ落ち……その全員が遥か下の方で血混じりの肉塊と化したことだろう。
とは言え……
「ちぃっ!
いい加減、諦めやがれってんだっ」
俺の口から思わずそんな罵声が零れたように……今まで俺やミゲルたちが何度も攻撃しているにも関わらず、『泥人』たちの群れは数が減った様子すら見えなかった。
俺の武器は既に、青竜刀、蛇矛、方天戟、槍とぶち壊し、既にこの大刀も刃がボロボロで……いつ壊れてもおかしくないほど使い込んでいるというのに、だ。
──何なんだよ、コイツらは……
俺という存在に怯え、矢に怯え、高さに怯えているというのに、それでも退こうとはしない。
狭い幹の上で密集陣形を敷いている所為で、逃げ場がないだけかもしれないが……それでも俺の膂力を目の当たりにしても総崩れにならず、こうして俺に対峙し続けている。
その結果……俺はこうして肉塊を量産し続けている訳だが……
「くそ。
いい加減、飽きてきた」
……そう。
俺は別に人間を殺して愉悦に浸る異常者という訳じゃない。
ちょっとばかり力に酔って殺したり、怒りに任せて殺し過ぎたこともあるし、ゲスを殺すのを楽しんだことはあるものの……それでも、殺しそのものを楽しいと思ったことはない。
だから、こうして延々と屠殺を繰り返す羽目に陥ると……急激にやる気が落ちていってしまうのは、まぁ、人間として仕方のないことだろう。
「……ふぅうううう」
酷い徒労感を覚えた俺は、大刀を足元の幹に突き立てると……そこに体重を預けて大きなため息を吐いていた。
体力が残っていない訳ではないが……もう武器を振るうのが面倒で仕方なかったのだ。
「奴は・疲れて・いるぞっ!」
「今なら・殺せるっ!」
そして……そんな俺の休憩は、敵に弱みを見せてしまっただけ、だったらしい。
俺の疲労を好機と見た仮面の『泥人』たちは、一斉に俺へと駆け出し始めたのだ。
──ったく、面倒な。
それを見た俺は、大刀に預けていた体重を両脚へと戻すと、首を左右に振って新たな惨殺死体を量産しようと顔を上げる。
っと、その時だった。
「アル=ガルディアさんっ!
貴方は、休んでいて、下さいっ!
少しくらいなら、僕だってっ!」
どうやら俺の休憩を見て奮起したのは、敵だけではなかったらしい。
細い槍を手に、デルズ=デリアムが俺の前へと飛び出してきやがったのだ。
とは言え……小柄なデルズ少年に俺の真似なんて出来る訳もない。
「あ、あ、ぁ……」
敵の眼前に立ち、敵の迫力を目の当たりにしただけで、デルズ少年はあっさりと震え始め……戦うどころではなくなっていた。
もしかすると、俺が次々に『泥人』たちを薙ぎ払っていた所為で、自分でも似たことが出来るような気に陥っていたのかもしれない。
尤も、そんなのは所詮気のせいでしかなく……敵の殺気を浴びた程度で剥がれ落ちる程度の鍍金でしかなかったが。
そんな、腰の抜けた少年の頭蓋に向けて、『泥人』の放った渾身の石斧が振り下ろされ……
「~~~っ、この、馬鹿、野郎っ!」
顔見知りが死ぬその光景を前に、俺はただ必死に大刀を横薙ぎに振るっていた。
渾身の力を込めたソレは凄まじい唸り声を上げながら空を斬り、デルズ少年の頭頂部を掠め、『泥人』の石斧を砕き……
ついでにデルズ少年の槍の穂先を砕き、『泥人』の腹を掠めると……そのまますっぽ抜けて飛んで行き……
「うぉおおおおおっ?」
「殺す気か、堕修羅ぁああっ!」
遠くの枝に立つ、ミゲルたち二番隊の方へと吹っ飛んで行った。
……幸いにして、死人は出なかったようだが……
「う、うぁ、うぁあああっ?
髪が、僕の、髪がっ!」
「あ、ぁ、ぁぁぁああああああ………」
「ひぃ・ひぃいいいいいいいいっ?」
そして残されたのは阿鼻叫喚の惨状だった。
頭頂部をえぐられて、頭髪がきれいさっぱり消滅し……恐らくは塩となったのだろう、まるでフランシスコ=ザビエルみたいな髪型になったデルズ=デリアム少年と。
掠めたときにすっぱり切り裂いてしまったらしく、零れる臓物を必死にかき集める仮面を被った『泥人』と。
眼前で仲間の臓物を目の当たりにして怯え、後ずさる豚面っぽい仮面をつけた『泥人』と、それを離れたところから見つめる『聖樹の民』と『泥人』たちという状況だったのだから。
「今なら・殺れるっ!」
そんな混乱の中、武器を失った俺を見て、勝機だと勘違いしたのだろう。
豚っぽい仮面をつけた『泥人』は俺に向けて……いや、一匹でも敵を減らそうとしたのか、尻もちをついたままのデルズ少年目がけ、石槍を突き刺そうと跳びかかって来たのだ。
「っ……くそだらぁっ!」
俺は慌てて足元で頭頂部を気にするデルズ少年の首根っこを右手で掴むと、後ろへと引っこ抜き……
身体へと迫っていた石槍を諦め、歯を食いしばると腹筋で受け止める。
「……ぐっ」
直後に腹に感じる鈍痛……寝ころんだまま読んでいた分厚い漫画雑誌の角を、寝ぼけて腹へと落としてしまったような、そんな痛みが俺を襲う。
──つつっ。
まぁ、幾ら俺の権能が弱っていると言っても……その辺りの雑魚の、石で出来た槍で突かれた程度では、そう大きな怪我をする訳もなく。
腹筋を意識して締めたことも効果を発揮したのか……どうやら豚面が放った石槍の穂先が砕けてしまったらしい。
「ば、馬鹿な……」
「……てぇだろうが、この阿呆がっ!」
俺はその微かな痛みを怒りに転化すると、眼前で目を見開いている豚面の『泥人』の顔面目がけて、渾身の力を込めた左の裏拳を叩きこむ。
その豚面にとって幸か不幸か……俺の裏拳は上手く顔面を捉えることなく、ソイツの肩を掠めただけに過ぎなかった。
とは言え、それでもこの俺が渾身の力を……破壊と殺戮の神ンディアナガルの権能が生み出す膂力を、余すことなく裏拳へと込めたのだ。
「ぁぃいいいいいいいぃぃぃぃっ?」
俺の拳が直撃した瞬間、男の肩は粉々に砕け、直後にその拳から伝わった運動エネルギーによって、その仮面の男は身体ごと吹っ飛び……
「ぃぃぃんべぅっ!」
……遠くの枝にぶつかって大きく回転し、そのまま百舌鳥の早贄の如く、突き出ていた枝に突き刺さってしまう。
運の悪いことに、その豚面の『泥人』は臓腑を枝に抉られてもまだ生きていたらしく、傷口から血を噴き出しながらじたばたともがき続けていたが……すぐに限界に達したのか、手足の動きはすぐに収まって、そのまま聖樹のオブジェの一つへと化してしまう。
「……う・ぁ?」
「化け・物かっ?」
武器を持たぬ俺の膂力を目の当たりにして、突撃を敢行しようとしていた『泥人』の軍勢は、完全に足を止めていた。
……まぁ、それも無理ないだろう。
俺という眼前に立ち塞がる『強敵』が、武器を持たずとも人を殺せ……しかも、石槍程度では傷一つ負わない「規格外の存在」であるのを、その目に見せつけられたのだから。
俺は『泥人』たちが完全に意気消沈し、こちらへ向かって来る気力を失ったのを見届けると……胸の奥に燻ったままの怒りに身を任せ、後ろを振り返った。
背後でへたり込んだままの……頭頂部の髪を失った、頭ばかりが良くて、身の程知らずの馬鹿な餓鬼へと、この腹の奥で燃え盛る苛立ちをぶつけるために。
「この、馬鹿野郎がっ!」
その俺の罵声は……辺り一帯に響きわたっていた。
ただでさえ腰が引けるほど怯えていたデルズ少年は、俺の殺気混じりの怒声に首を竦め、小賢しい言い訳をする余力すら感じられない。
その勢いに乗じて、俺は言葉を更に続ける。
「その小賢しいてめぇの立派な脳みそじゃ、出来ることと出来ないことの判断すらも出来ねぇってのかっ!
んな、クソみてぇな脳みそなんざ、とっととぶちまけて死にやがれっ!」
……怒りに任せた所為だろう。
俺の叫びはデルズ=デリアムを説得しようとか成長させようとか、そういう意図が一切伝わらない……ただの罵声に成り下がっていた。
もうちょっと上手い怒鳴り方があったような気がするが……残念ながら俺はそう口達者な方ではない。
と言うか、口が達者で上手く世の中を切り抜けていけるようなタイプだったら、現代日本でももうちょっと友達くらいいただろう。
……だけど。
「分かってますっ!
分かってますよ、そんなことくらいっ!」
デルズ=デリアムという名の小柄な少年は、こんな状況でもその明晰な頭脳を失ってはいなかったらしい。
俺の言いたいことを読み取り……その上で、涙目になりつつも反論の声を上げたのだから。
「だけど、どうしろってんですかっ!
みんなは、弓しか使おうとせずっ!
そのことに気付きもしないっ!
誇りなんかのために、みんながっ、無駄に命を落としてるっ!」
蔑視され続けて来た少年は、それが故に言いたいことがたくさんあったに違いない。
今までは誰に向けて声を上げても、誰も聞いてくれなかった。
その溜まりに溜まった鬱憤が……命を失いかけ、俺に罵声を浴びたことで、吹っ切れてしまったのだろう。
少年は悲鳴に近い叫びを、誰に向けるでもなく叫び始めた。
「勝てる戦いを落としてっ! 戦えない人たちも、犠牲になってっ!
だから、僕が、やるんですっ!
出来るのは、この、非力で戦えない、こんな僕しかっ!
僕だけしか、いないんだからっ!」
叫びたいことを全て口にしたのだろう。
少年は息を荒げて我に返ったかと思うと……肩を震わせながら蹲り、しずかに唸り声を上げ始めた。
──まぁ、言いたいことを言い切った後って……大体、あんな感じだよな。
小学生の頃、親に向かってブチ切れて、その後で思いっきり後悔したのを思い出し、俺は軽く肩を竦めて見せる。
尤も……そんな少年の叫びを、彼を蔑視してきた『聖樹の民』がどう受け取ったかまでは分からない。
分からないが……まぁ、俺はもうこの命知らずの餓鬼を怒鳴りつけようとは思わなくなった。
俺には、デルズ少年の、餓鬼なりの叫びが届いたということだろう。
「くっ、このままでは……」
「しかし、あの化け物をどうやって……」
と、そうして俺が、蹲ったままの……俺の一撃が霞めた所為で頭頂部が寂しいことになっている少年に向けて、生暖かい視線を向けている間にも、『泥人』たちは徐々に動揺から立ち直って来たらしい。
ジワジワと俺との距離を詰めようと近づいてくる。
──ったく。
今に始まったことではないが……戦場では少年の慟哭を聞いてやる暇も、少年の成長を見届ける暇もないらしい。
俺は新たな武器を手にしようと、まだ五本くらいの武器が刺さったままの、傘立てみたいなのへと視線を向け……
──そうだ、な。
そこで、思い出す。
この戦いに出向く前に、俺が練っていた策があることを。
そして……今のこの状況は、世間知らずで頭でっかちのこの餓鬼にソレを教え込む丁度良い状況だった。
「おい、餓鬼っ!
泣く暇があるなら、顔を上げやがれっ!」
だから俺はそんな叫びを上げていた。
徐々に迫りくる『泥人』たちの方を睨みつけつつ、武器を刺してある傘立てっぽい棚の、隅っこに括りつけてあった流星錘を手に取る。
「……何、を?」
俺の叫びにデルズ少年が顔を上げた気配を感じ取ると、俺は手にしている流星錘を両手で構えていた。
──くそ、忌々しい武器だ!
──だけどっ!!
俺は戦巫女セレスを真っ二つに引き千切ってしまった、あの時を思い出しながら……その流星錘という名の武器を、見様見真似で使い始める。
尤も、あの戦巫女の妹とやらが俺を足止めした武器は、流星錘ではなくボーラとかいう似て異なる武器だったのだが。
「確か、こうして……」
……何故だろう?
この流星錘とかいう武器を俺が使うのは初めてで、しかも結構扱いが難しそうな武器だというにも関わらず……
何故か、俺はこの武器の使い方を理解していた。
コレは……いつもの権能を使う時の、何となく「出来る」という確信に近い。
俺はその感覚に身を任せたまま、左手に紐を軽く巻きつけつつ、右手で錘を円を描くように振り回す。
右手の円の半径を、徐々に大きく大きくしていき……
「敵の足止めなんざ、てめぇが命懸けで前に出なくても、出来るんだよっ!」
俺は背後で蹲ったままのデルズ少年に向けてそう叫ぶと……ただ身体の奥から湧き上がる確信が命じるままに、その錘を真正面目がけて放り投げる。
「う、うぉお・おおおおっ?」
「馬鹿・野郎っ!
こんな・子供・だましにっ?」
俺の放った流星錘は狙い違わず、最前列で俺に向かって来ていた蛇に似た仮面を被った『泥人』の足を捉え……見事に転ばせることに成功していた。
恐らく俺の膂力を目の当たりにしていた『泥人』たちが、顔面にその流星錘の直撃を受けて即死することを恐れ……顔面を防ごうと盾を上げていた所為でだろう。
連中は足元を狙った俺の攻撃に対して、完全に無警戒だった。
そして、転がった蛇仮面の身体に躓くことで、その背後を歩いていた別の『泥人』たちもまた見事にひっくり返って転がってしまう。
密集陣形だった所為か、その転倒の連鎖は次から次へと広がって行き……
「うわぁ・な・何だ、一体っ?」
「馬鹿・野郎っ!
早く起き上がり・やがれっ!」
「重い・ぞ、畜生っ!
早く・どけっ、おいっ!」
そして……遠くから隙を伺っているミゲル=ミリアムたち二番隊の面々が、その乱れ崩れた陣形を見逃す訳もない。
「今だっ!
射れぇえええええええええっ!」
ミゲルたちの放った矢は、倒れたままの『泥人』たちへと無慈悲に降り注ぎ……
「み・ぎゃあああああああああっ?」
「腕が・足がぁああああああっ!」
「痛い・痛い・痛い・痛い~~~~~っ?」
一瞬でその場は阿鼻叫喚の地獄へと化していた。
傷口から血を噴き出し、悲鳴を上げる『泥人』たちの群れは……もう悲惨の一言だろう。
倒れたままだったからこそ、無防備な背中から射られ……突如転がって混乱していたからこそ、痛みに対する覚悟すらもなく矢の直撃を受けたのだ。
大の大人でも矢の激痛を不意に喰らうのには耐えられないらしく、『泥人』は悲鳴を上げながら暴れ……そのまま聖樹から身を投げて、何も感じないところへと旅立っていった。
まぁ、痛みに錯乱した挙句、俺の前から逃げようとして……聖樹から足を踏み外しただけかもしれないが。
そんな敵の惨状から目を話すと、俺はじっと自分の手を見つめていた。
──何故、だ?
その手を……先ほど流星錘という名の初めて使う武器を、まるで手馴れたように使ってみせたその手を睨みながら、俺は自問自答をしていた。
そもそも、破壊と殺戮の神ンディアナガルの権能は超絶な膂力と無敵の防御力であって、武器を巧みに操る権能などは存在しない。
そんなことが出来たのなら……あの塩の世界で戦巫女セレス相手にあんなにも痛い思いをしなくて済んだだろうし、彼女を真っ二つに引き裂くような羽目にも陥っていないだろう。
──後は空間を切り裂く『爪』と、死体を塩に変えるという権能くらいだが……
ついでに紆余曲折あって、『蟲』を呼び出せるようにはなっているが……こんなのは武器を操るのとは何の関係も……
──ん?
──ちょっと待てよ?
自分の権能について俺が考え込んだ、その時だった……
「お、おい、ミゲルっ?」
「どうした、おいっ!」
突如、横合いからそんな上がり始めたのだ。
──ったく、少しくらい、ゆっくり考えさせてくれても……
思考を中断させられた俺は、舌打ちをしながら叫びの方へと……ミゲル=ミリアム率いる二番隊の方へと視線を向ける。
「お、おいっ?」
そんな俺の苛立ちは、その光景を見た瞬間に消え失せ……俺の口からは自然とそんな、驚きの声が零れ出ていた。
何しろ、俺の視線の先では……さっきまで精密無比の矢を放っていた筈の、ミゲル=ミリアムが口から血を吐き、そのまま横へと身体を傾げていったのだから。