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【完結済】ンディアナガル殲記  作者: 馬頭鬼
参・第二章 ~『聖樹の都』~
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参・第二章 第七話



「っととっ、危ねっ!」


「だ、大丈夫、ですか?

 で、ですが、急がないと……」


「分かってるっ!」


 気を使ってくれているのだろう。

 デルズ=デリアム少年の言葉に、俺は少しだけ苛立った声を返して恥ずかしさを誤魔化していた。

 とは言え、この貧弱な少年にさえも気を使われてしまうのも……まぁ、当然なのかもしれない。

 何しろ俺は……彼らが普通に暮らしているこの何もない枝の上で躓いて、直下へと落ちそうになったのだから。


 ──畜生っ!

 ──歩き辛いっ!


 尤もそれは、別に俺がこのデルズ少年……と言うか、『聖樹の民』たちと比べてどん臭い訳ではない。

 ただ単に……この『靴』に慣れていないだけである。


 ──履き辛いんだよ、くそっ!


 靴と言うかブーツと言うか、材質が何で出来ているのか全く理解できないそのブーツは、底は薄いし、滑るし、あちこち擦るし、サイズが合ってないし……履き心地は最悪と言っても過言ではないという代物だった。


 ──借り物だから、仕方ないんだがなぁ。


 ……そう。

 腐泥の所為で、吐き気を催す感じに仕上がっている俺の安物のスニーカーは、洗わないととても履ける代物じゃないと判断した結果……ミル=ミリアに預けてきたのだ。

 結果として靴を無くした俺は、ミゲルの奴に予備の靴を借りて、こうして履いているのである。

 そんな慣れない靴を履いている挙句、この重くて長い狼牙棒を「用心のため」として手にしているのだから……走りにくいしバランスが取り辛いこと、この上ない。

 真っ当に走れなくて当然だった。


「しかし、ミゲル隊長が来てくれないとは予想外でした。

 ……こういう時、いつも率先して指揮をされる方でしたのに」


「しゃーない。

 タイミングが悪かったんだろ」


 俺は背後へと視線を向けながら、この場にいない……部屋に籠ったままのミゲルの言葉を思い出す。


 ──弓の弦を張り替えているから、今出ても役には立たない、か。


 ……言い分としてはそう間違っていないだろう。

 そもそもアイツの弓をへし折ってしまったのはこの俺で……その所為でアイツは使い勝手の悪い弓での戦闘を余儀なくされているのだ。

 素人目では絶対に分からないような、道具の些細な違いに気付くのが職人という存在だとか何とか、テレビでやっているのを見た記憶がある。

 ミゲル=ミリアムという弓の達人にとっては、道具の違いというのは神経質になるほど大きな問題なのだろう。


 ──でも、十分に巧かったんだがなぁ。


 今日の戦闘で見せたミゲルの達人芸を思い出した俺は、そう内心で呟くことしか出来ず……義兄弟の道具への拘りなんざ、理解すら出来そうになかったが。

 尤も、ここの連中は誰も彼もがとてつもなく弓が上手く、俺には違いが分からないほど遥か雲の上のレベルで……まぁ、彼らにしてみれば、それなりに違いがあるのかもしれない。


「あの、ミゲル隊長……何か、変じゃなかったですか?

 その、様子が、おかしい、とか」


「……そうか?

 特に何も気付かなかったが……」


 デルズ少年の声に俺はミゲルの様子を思い出しながら、首を傾げてみるものの……まだ出会って二日程度の間柄である。

 何かに気付けるほど、アイツのことを知っている訳もない。


「……そうです、か」


 俺の言葉を聞いても、まだ納得がいかないらしく、デルズ=デリアムは首を傾げていた。

 そうしている間にも、俺たちは聖樹の枝を下り、丸太で造られた桟道を下り、根を下って……気付けば、聖樹の根元の、綺麗な水が湧き出すところまでたどり着いていた。

 そうして周囲を見渡してみると……弓を構えた連中が右へ左へと歩き回っているのが見える。


「っと、あの辺り、か?」


 俺は狼牙棒を握り直しつつ、その人混みの方へと歩を進める。

 俺の背後では、デルズ少年が弓を番え、ついてくる気配がある。

 人様を盾にするその態度は何となく気に入らなかったが……まぁ、武器の特性上、仕方ないことだろう。


「おお、堕修羅か。

 おい、デルズ……ミゲル隊長は?」


 俺たちに気付いたのだろう。

 『聖樹の民』の中でも最もガタイの良い……カル=カラナムという名の一番隊隊長がそう尋ねてくる。


「弓の弦を、その、張り替えていると言ってました」


「……信じて、貰えなかったか。

 まぁ、仕方ない。

 俺だって、この目で見ても信じられないんだからな」


 デルズ少年のオドオドした回答に、カル=カラナム隊長は肩を軽く竦めると……弓を構えたまま、周囲を必死に睨みつけている。

 ……いや。

 その大男だけではない。

 周囲にいる連中全員が、弓を番え、隙なく左右上下を伺い続けている。


「……と言うか、一体何があったんだ?」


 デルズ=デリアムのオドオドした説明ではさっぱり理解出来なかった俺は、周囲の男に尋ねてみる。

 そこにいたのは……前に顔を合わせたベル=ベンザムとかいう小柄な男だった。

 確か二番隊の副長だったその男は、俺の問いに面倒そうな舌打ちを一つすると……それでも口を開いてくれた。


「ああ、最初はその小僧が訳の分からないことを言い出したの発端だった。

 さっきの戦いで出た『泥人』共の、死体の数が合わないってな」


 ベル=ベンザムは一番隊隊長と何やら話し合っているデルズ=デリアムへと顎を向けながら、忌々しげにそう告げる。

 実際……『泥人』共を殺した俺自身が、敵を殺した数なんざ覚えてもいないのだ。


 ──横合いから見ていただけのヤツに、そんなのが分かるもんか?


 このベル=ベンザム副長も俺と同じ、そんな疑問を抱いているらしく……デルズ少年のことを、細かくてウザいヤツだと思っているのだろう。


「だが、珍しくアイツの言葉が正しかったらしい。

 死体を処分していた一番隊の、テル=テリムってヤツが……その腹が、消えたんだよ、文字通りな」


 そういうベル=ベンザムの視線を追ってみると……そこには聖樹の根に横たわった死体があった。

 斃れた時に水に濡れたのだろうその死体は……腹が、なかった。

 まるで巨大な何かに一口で食い千切られたかのように。

 そこには飛び散る内臓は欠片も見えず、腹側の肉も残っておらず……ただ血で真っ赤に染まった背中側の肉が見える、それだけだったのだ。

 ……即死、だったのだろう。

 一度紹介されただけの、テル=テリムという青年の顔は、驚愕の一文字を張り付けたような表情で固まっているのが印象的だった。


「それでさえ冗談としか思えないってのに……

 その化け物は、目の前で消えたんだぜ?

 まるで、木の幹に溶けるように、な。

 ……冗談だと言ってくれよ、畜生っ!」


 ベル=ベンザムという小柄な男は、怯えた様子で周囲を見回しながらそう嘆くものの……


 ──見えない敵、ねぇ?


 そんな小男の真似をして周囲を見渡してみても……俺の目には周囲に何かがいるようには思えなかった。

 周囲には何の気配も感じないし……そもそも消える敵なんざ、いる訳もない。

 速い話が……その『化け物』とやらは、餌をあっさりと喰らい、とっくに何処かへ去って行ったんじゃないだろうか?


 ──ったく。

 ──腹も減ってきたし、さっさと帰れないかなぁ。


 俺は周囲を警戒しているフリをしつつ、そう嘆く。

 そもそも……今朝は適当な木の実を食べた程度で戦場に駆り出され、身体を洗ってこれから飯を食おうってところで、またこうして駆り出されたのだ。

 異世界というヤツは、現代日本と違って時間の感覚が適当になる節があるし、そもそもこの世界は霧に覆われていて太陽の位置さえまともに分からないような、厄介な場所である。

 それでも……腹時計だけは正確に動くらしい。

 その俺の腹時計は、もう既に昼をぶっちぎり、そろそろ日も傾き始める時間帯だと訴えていた。

 ……いい加減、腹も減る訳である。

 

 ──畜生。

 ──早く帰りてぇ。

 ──帰って飯、喰いてぇ。


 俺は内心でぼやく。

 ぼやきながらも、呆然と適当に周囲を見渡すフリをする。

 相変わらず薄霧に覆われて遠くまで見通せない、この『聖樹の都』という場所は、どうも俺に合わない気がしてならない。

 腹が減っている所為もあるだろうが……そもそも木の実ばかりの食事というのがダメである。

 俺も破壊と殺戮の神ンディアナガルの権能なんて持っているが、本体は生身の男子でしかなく……あんな精進料理以下の食い物で足る訳もない。


「だ、だけど。

 堕修羅……お前がいれば、あの力があればっ!

 化け物が出て来たところで、防げるっ!

 勝てるっ!」


 この世界の食事への不満を内心でぼやき始めた俺の隣で、ベル=ベンザムは俺の手の中の狼牙棒を見つめながら、恐怖を振り払うかのようにそんな叫びを上げていた。

 どうやら未知の化け物と戦う恐怖に耐えかね……かなり情緒不安定になっているのだろう。

 そんな二番隊副長の姿から視線を逸らして索敵のフリをしつつも俺は、必死に「飯を食いたい」「帰って眠りたい」という衝動と戦い続けていた。

 特にさっき意識してしまった所為か、空腹はもう腹が痛みを感じるほど大きくなっていて……


 ──ああ。

 ──飯、喰いてぇ。

 ──肉が、喰いてぇ。


 とは言え、周囲の連中は必死に索敵を頑張っている最中で……放り出して帰る訳にもいかない。


「ああ、そうだ。

 もう化け物なんて、何も怖くねぇっ!

 どんと、来やがれってんだっ!」


 隣で怯えて叫び続けているベル=ベンザムに向けて「腹が減ったから帰る」なんて言えるほどには、俺は面の皮が厚くないつもりである。

 だからこそ俺は欠伸を噛み殺しながら……どうやれば角を立てず、このアホな苦行から解放されるかを考え始めていた。

 答えは、簡単に出た。

 敵を見つけて殺すか……連中に「敵はもうこんなところにはいない」ってことを理解させてやれば良いのだ。

 面倒極まりないが……このまま飢えに耐え続けるよりはマシだろう。

 周囲では、目を血走らせた連中が飽きもせず、あちこちに視線を走らせ……必死に敵を探そうと右往左往しているのが見える。

 誰もが必死に周囲を探っているが故に、誰かがソレを言い出すまで……この苦行は終わる気配すら見えそうもない。


「なぁ、大体、この辺りに……」


 だからこそ俺は、まず近くのヤツを説得しようと、さっきまで話をしていたベル=ベンザムへと視線を戻し……


「……あ?」


 思わず、そんな呟きを零してしまう。

 本当にそれは……俺が目の目を疑うほどに、ほんの一瞬の出来事だったのだ。

 突如、左手の方にあった木の根から巨大な牙が生えたかと思うと……ベル=ベンザム二番隊副長の顔面へと大きく開き……


「え?」


 当のベル=ベンザムも、一体何が起こったのか分かっていなかったのだろう。

 目を驚愕に見開くこともなく……ただ、今何が起こっているのかすら理解出来ない表情を浮かべたまま。

 俺が気付いた時には、ベル=ベンザムは何一つ反応も出来ないまま、その顔面から頭部の半分以上を、突如現れた牙に……いや、顎に噛み砕かれていた。


「……ぇぺっ?」


 二番隊副長の最期に残した言葉はそんな……声というよりはただ肺から呼気が零れただけの音に過ぎず。

 脳を半分以上失い、絶命した肉体は、反射的に肉体をビクンと痙攣させたかと思うと、そのまま重力に引かれて前のめりに倒れ……

 そして、大地に叩きつけられた衝撃で、頭蓋から残りの脳みそが零れ落ちるのと、その根から生えた顎……いや、根に擬態していた保護色の『蟲』が、倒れたそのベル=ベンザムの背へと食らいつくのはほぼ同時だった。

 その凄惨な蟲の食事を呆然と眺めていた俺は、頬に飛び散ってきた生暖かい血の感触に、ようやく眼前の光景を、理解する。


「ぉ、おおおおっ?」


 とは言え、現状を理解しさえすれば……あとの対処は簡単だった。

 餌に喰らいついた瞬間こそ、肉食動物が最も隙を見せる時だという言葉通り、俺の横薙ぎに振るった狼牙棒は見事にその『蟲』の横腹を殴りつけ……

 あっさりとその一撃は、俺の足ほどの大きさのソレを、真横へと吹っ飛ばしていた。

 慌てて渾身の力を込めた所為か、勢い余った狼牙棒は近くの根にぶつかり……半ばからへし折れてしまう。

 

「うぎゃああああああああああっ!」


「で、で、出やがったぁあああああっ!」


 その渾身の一撃で『蟲』を吹っ飛ばした先には、どうやらデルズ=デリアム少年がいたらしい。

 突如、眼前に飛び出してきた異形の生物に、少年はこの世の終わりのような悲鳴を上げていたが……

 まぁ、知ったことではないだろう。

 そうして姿を見せた蟲は、俺の一撃が効いている所為か動きが鈍く、それ故に『聖樹の民』からの矢を避けることも出来ず、次々にその身に受け続け……

 ……あのままなら放っておいてもすぐに絶命するに違いない。


 ──しかし、アレは……


 俺は未だに早まったままの鼓動に手を震わせながら、首を左右に振る。

 確かに今のは……『蟲』だった。

 昨日……俺が放り投げた、手のひら大だった筈の蟲が、いつの間にやら俺の足一本分ほどの大きさになって現れたのだ。

 しかも、この聖樹で生きるために学習したのか……それとも『緋鉱石』や『紅石』ではなく俺自身が権能によって生み出した所為か、あんな擬態能力を得て。


 ──多分、後者、だろうなぁ。


 何となく俺の中の確信は、自問自答の答えをそう導き出していた。

 ……いや、元々『蟲』には体表の色なんてなかったのだろう。

 だからこそ、あの砂の世界の連中が、自分勝手に赤にしたり、世界を滅ぼすための黒い色にしたりと……要は「自分の色をつけて」管理していたに違いない。

 俺はその辺りを特に考えずに権能を発動させたから、さっきの『蟲』は保護色を上手く活用する生態を手に知れたのだろう。


 ──つーか、この騒ぎは俺の所為、ってことか。


 俺は近くに倒れたままの頭部の半分と背中を失ったベル=ベンザムの死体と、腹を食い荒らされているテル=テリムの死体を眺め、そう内心で呟く。

 二つの凄惨な遺体を眺めながらも俺は、彼らを殺したのは……間接的にであれ、『俺の所為』かもしれないと……


 ──まぁ、んなのは、どうでも良いか。


 が、まぁ……悔んだところで死んだ奴が生き返る訳もない。

 ……特に気にしないことにする。

 どうせ俺がアレを放ったなんて、誰も知る由なんてないのだし……それ以前に俺としても特に殺意があった訳ではなく、所詮は過失に過ぎない。

 そもそもアレは俺のペットでも何でもなく、俺が落とした鞄に躓いた誰かが事故に遭って死んだところで……そんなの、俺の所為とは言えないだろう。


 ──それより、また壊れちまったな。


 蟲との戦いが圧倒的優位に進んでいるのを確認した俺は、手の中の狼牙棒へと視線を移す。

 さっき驚いた所為で、また渾身の力を使ってしまったのと、その渾身の力でこの巨大な聖樹の根へと叩きつけたのが原因だったのだろう。

 狼牙棒は半ばからへし折れていて、幾ら適当な造りをしている武器とは言え……流石にもう使えそうにない。


 ──元々、腐りかけていたからなぁ。

 ──他の武器をまた貰うか。


 そうして俺が狼牙棒の残りを地面へと放り捨てた……その時だった。


「うぉお、コイツっ!」


「まだ、生きてっ?」


 その叫びに視線を上げると……身体中に矢を受けて絶命寸前だった筈の蟲が、突如動き出し、その身体の一部から、新たなる顎を五つも現れたのだ。

 ……まるで、もう助からなくなった身体を放棄するかのように。


 ──こんなことも、出来る、のか?


 分身・分裂……その行動を何と名づけるべきかは分からないものの、俺の渾身の一撃を喰らい、その上、あれだけの矢を受けてもまだ動きを止めないその生命力に、周囲の『聖樹の民』たちも、俺自身も驚きを隠せない。

 その中の顎の一つが、隙だらけと見たのか、俺の方へと飛び込んで来て……


「お、おい、堕修羅っ!

 そっちへ、行っ……」


「しぃっ!」


 誰かの叫びが聞こえたものの……生憎と俺の手の中にはもう武器はない。

 ない以上……この拳しか、使える武器なんて、ない。

 俺はただ反射的に、その飛んできた蟲を右拳で振り払う。

 ……いつもの癖で、何も考えず、蟲の顎へと。


「……つっ」


 拳に痛みが走ったと思った次の瞬間には、蟲の牙は俺の拳によって全て砕かれ、真横に吹っ飛んで近くの幹にべちゃりとへばり付いていた。

 その死骸はあっさりと塩へと変わって行き……流石にさっきの一撃を喰らった以上は即死だったらしい。

 

「……な、何なんだ、ありゃ」


「……堕修羅の野郎。

 相変わらず、化け物じみてやがる」


 塩と化した死骸よりも、俺の拳の一撃の方が『聖樹の民』たちには驚きだったらしい。

 遠くからは、そんな声が聞こえてくる。

 とは言え……今の俺はそれどころじゃなかったが。


 ──ってぇ。

 ──血が、出てやがる、くそっ。


 権能が弱っているというのに、渾身の力をもって蟲の牙へと、素の拳を叩きつけたのが良くなかったのだろう。

 俺の拳は数か所が裂け……僅かに血がにじみ出てしまっていた。

 まぁ、人の頭蓋を軽々と噛み砕くあの牙に正面から拳を叩きつけて、この程度で済んでいるのだから、権能が弱っているとは言え、桁外れの身体に違いはないんだけれど。


「くそ、射れ、射れっ!」


「そっちへ逃げるぞっ!

 逃がすなよっ!」


 そして、俺が手について蟲の体液を足元の水で洗い、滲んできた血を舐め取っていた頃、戦闘は既に決着の色を見せていた。

 と言うよりも、幾ら『蟲』が分裂しようとも……そんなのはただの悪あがきに過ぎなかったのだ。

 周囲には数十人を超す『聖樹の民』がいるのだから、どんなに『蟲』が小細工を弄そうが……助かる訳もない。

 分裂した残りの四つの『蟲』は、矢で射抜かれ、聖樹の根に標本のようになって動きを止めていた。

 アレではもう、分裂すらも出来ないだろう。


 ──終わった、か。


 その様子を見届けた俺は、ようやく飯が食える安堵に、大きくため息を吐き出す。

 そんな俺の安堵のため息とほぼ時を同じくして、周囲の連中が勝利を喜ぶ雄叫びを周囲へと響き渡らせ……

 二日目の戦いは……ようやく幕を下ろしたのだった。


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