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【完結済】ンディアナガル殲記  作者: 馬頭鬼
参 ~疫殺の朽腐林~ プロローグ
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~ 参 ~ プロローグ

「た、助け、助けてくれぇえええええぇぺっ?」


 今さら許しを乞おうとしたクズの顔面を、俺は容易く握り潰していた。

 握り潰した眼球や鼻骨どころか、頭蓋骨が半分と、周囲の誰かを威圧するために剃り上げていた頭皮までも引き千切れたその男は、前のめりに崩れ落ち……

 頭蓋から脳みそが零れ落ちた時点で塩へと変わる。


「……て、てめっ、てめぇっ!

 おい、海老名っ? おいぃぃぃっ?」


 近くにいた黒いスーツ姿の男は叫びながら、俺に拳銃……この現代日本において絶対に一般人が所有しないだろう兵器を向けてくるものの……

 引き金を引いても、既に弾は出ず……ただ撃鉄が乾いた音を立てるだけだった。

 既にコイツらの持つ弾は全弾撃ち尽くされ……俺の権能の前にただの塩の塊と化して砕けたのだから、もう弾なんか出る筈がない。


「……もう、弾もないだろう?

 無駄な足掻きは止めて、死ねよ、クズ共」


「て、てめぇっ!

 俺らに、何の恨みがあって」


 せめて苦痛を味あわせないようにと慈悲深く告げた俺の降伏勧告は、どうやらソイツのお気に召さなかったらしい。

 そのスーツ姿の男は、懐から仕込み刀……ドスとか言う武器を取り出し、俺に突き出してくるが。

 まぁ……所詮、そんなもの、今さら俺に通じる訳もない。


「……はぁ。

 面倒だから、動くなよ……」


「みぎゃあああああああああああああああああああああっ?」


 俺の握力がスーツを突き破り、腹の肉と肋骨を引き千切ったことで、ソイツはこの世の終わりのような悲鳴を上げる。


「た、たす、たすけたすけたすけたすけて……」


「そう言った連中を、貴様らは食い物にしてきたんだろう?

 ……大人しく死ねよ、クズ」


 腸を必死に抱えながら、情けなくも許しを乞い始めたスーツ姿の男は、俺の蹴り一発で脳漿を部屋中にまき散らしながら、崩れ落ち……物言わぬ塩へと変わる。

 これで、この部屋には、あと、二匹。


「て、てめぇ、何の恨みがあって、俺たち是弐(ゼノ)組をっ?」


「……だから、何だ?

 てめぇらは、弱者を食い物にする(ヤクザ)だろう?

 死んで、当然だ、クソが」


 仲間の脳漿と血を浴びて、ただ震えるだけになった中年のデブ男がそう叫ぶものの……俺の答えは、簡単だった。


 ──悪を、滅ぼす。


 それこそが、俺が貫くべき……俺が行うべき『正義』、なのだから。


「お、俺たちが、こんな悪いことをしてたってのかよぉっ!

 何処に、証拠があるってんだっ!」


「……馬鹿か。

 てめぇらを見て、俺が悪と決めた。

 だから、死ね」


 必死に助命を乞おうとしたのだろうか?

 それとも腕力で叶わない分、言葉を続けて処刑の時を伸ばそうとしていたのかもしれない。

 ……だが、それも、俺には通じない。

 あの砂の世界で、危うく言葉で殺されかけた、この俺には。


「いい加減、黙れ、豚」


「だから、証拠を……ぷっ?」


 俺がソイツに向けて放ったのは、ただの平手だった。

 ただのそれだけで、ソイツは首から上がもげてしまい……千切れた首の後からは、噴水のように血が噴き出し始め、床を真紅に染める。

 ……飛んで行った首と脊椎は、近くの壁にぶつかってトマトのように潰れてしまっている。

 残されたゴミは……あと一つ。


「……あと、一匹、か」


 残されたのは組長(親父)とか呼ばれていた、初老の厳つい男一人きりである。


「貴様か……月影組と成巻組が失踪した元凶は……

 聞くところによると、現場には、塩しか残されていなかったようだが……」


「ああ、そんなゴミも掃除したっけな。

 んなこと、いちいち覚えてないが……」


 未だにソファーにふんぞり返っているその男に、俺は適当な返事を放つと、そのまま容赦なく近づく。

 そもそも……殺した連中なんざ、いちいち覚えている筈もない。

 ……今まで潰した蠅や蚊の数なんざ、いちいち数えてすらいないように。

 

「貴様。

 人の命を、一体、何だと……」


「はいはい。

 そういう戯言は、てめぇの所為で人生が狂って死んだ奴らに、あの世で詫びてろ」


 俺は男の戯言をあっさりと遮ると、その肩を掴み……軽く捻る。

 

「ぅぉおおおおおおおおおおおおおおおっ?」


 この組長と呼ばれていたクズは、他のゴミと違い……少しは胆が据わっていたらしい。

 俺の膂力に、コンマ数秒だけは耐えやがった。

 尤も……どんな生き物だろうと、肩の関節ごと鎖骨と肩甲骨を握り潰す膂力に耐えられる訳もなく、僅かコンマ数秒で哀れな悲鳴を上げていたが。


「きっ、きさっ、きさまっ?

 何故、一思いに、殺さないっ!」


「……いや。

 悪の親玉には、生まれてきたことを後悔させてから殺すことにしているんでな」


 涙と鼻水と涎を垂れ流しながら、喚くゴミに俺は静かにそう告げる。

 ……そう。

 俺は、悪を、許す訳には、いかないのだから。


「何の、権利があって、こんな、ことをっ!

 てめぇは、一体、何者、だ……」


「我が名は、破壊と殺戮の神ンディアナガル。

 権利は……まぁ、正義の鉄槌、と言うヤツだ。

 大体……悪を滅ぼすのに、理由なんざ要らないだろう?」


 正義を確信した俺の笑みに、己の罪悪を悟ったのだろう。

 組長とかいうこの男は、もう諦めたのか言葉をなくして項垂れる。

 ……その時、だった。


「おじいちゃんを、いじめるなぁっ!」


「はなせ~~っ!」


 騒ぎを聞きつけて隠れていたのだろう。

 近くの箪笥から十歳くらいの……顔がそっくりの二人の子供が、突然飛び出して来た。

 その姿を視界の端で確認した俺は……迷うことなく拳をソイツらに向けて振るう。

 思ったよりも餓鬼共は軽かったらしく、俺の拳で二人ともが赤い液体を振りまきながら吹き飛び……ソファの向こう側に崩れ落ちていた。

 まぁ……アレでは、もう、助からないだろう。


「おぉおおおおっ! 美世っ、理子っ!

 貴様ぁああああああああっ!

 何の罪もない、子供をっ?」


「……悪は殺す。

 悪の糧で生きるゴミも、また悪だ。

 恨むなら、てめぇが薄汚い稼ぎでソイツらを養っていたのを恨むんだな、ゴミ」


 何故か叫び出した初老のクズに蹴りを入れ、二度と動かぬ塩の塊へと変貌させた俺は、ゴミをあらかた片づけたことを確認し、パンパンと身体中を軽く叩く。

 それだけで……散々身体に飛び散っていた返り血は、塩へと化して服から零れ落ちていた。

 あの砂漠で色々と権能の使い方があることを知ったお蔭で、今や俺は返り血に悩まされることもない。


 ──さて、今日も良いことをしたな。


 遠くからはパトカーの音が聞こえ……どうやらまだこの街には悪が蔓延っているらしい。


「明日は、どんな良いこと……」


 周囲の塩溜まりを眺めつつ、俺がそう呟いた、その瞬間だった。

 ……眼前に、新緑色の魔法陣が現れたのは。


「ああ……やっとか。

 待ちかねた、ぞ、畜生っ」


 その魔法陣を見た俺は、待ちわびていたその瞬間に歓喜の叫びを上げると……何の躊躇もなくその魔法陣に手を伸ばしていた。

 何しろ、その先にはきっと新しい世界が……俺の『正義』によって救われる人が待っているに違いないのだから。


 ──待ってろよ、見知らぬ異世界っ!


 俺は胸に正義の火を灯したまま、その魔法陣の向こう側へと足を踏み出したのだった。


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― 新着の感想 ―
主人公が正義厨になっちゃった…
[良い点] 世界を二つも滅ぼしておいて何一つ成長していない主人公に涙が出てきた
[一言] ありがとうございました!!
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