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だいたい、そんなもの。

バス酔いカプリチオ

作者: ひろ

現状、一人暮らし。

本州の某端っこにある故郷へ高速バスで帰省するたびに思うのだが、公共交通機関を利用して帰る、というのはまさに一期一会の機会でもある。

相席になる人とは、次も同じバスで出会うとは限らない。

どんな印象を受けたとしても、もしかしたら隕石が頭に落ちる確率と同じくらいの運ですれ違っていくのだ。

もちろん一期一会は、対人間のものだけとは限らない。

その日の状況や、天候、目的地につくまでの時間もすべて込み。

そう考えても、高速バスの運賃はかなり破格のようにも思える。

兎角、旅は楽しいもの。

ただ一つ、(私にとっての)難点が。


とある日は、バスの中に入った途端、車内をほのかに漂う香りが鼻をついた。

食品系の芳香で、北国出身の私にとってもとても懐かしく嗅ぎなれたものだった。

嗚呼、すじこ。

昔、祖母や母が握ってくれたおにぎりの中にあった紅い宝石の様な照り。

それだけでなんだかワクワクとうれしくなった記憶もある。

が、残念ながらバスの中で魚卵系の香りは正直遠慮したい。

―――乗り物酔いをする方には、理解いただけるだろうか。

車内の匂いひとつで、文字通り胸がつまる思いをすることもあるのである。

その時の匂いは、バスが動き出してから高速にのる頃、綺麗に消え去ってくれたので私は酔わずに済んだのだけれど。

ただ、車に酔う、あるいは酔い易いということは、食うか寝る以外何もできないということ。

それは目的地までの距離が大きいほど、長期戦を強いられる戦いとも言える。

周囲の人間は、本やらゲーム機やらを持ち込み思い思いの方法で退屈しのぎをしているというのに、私はというと、窓の外の景色を見てただただ空想にふけるのである。

ちなみに故郷まで、四時間強。

子供なら余裕で飽きて騒ぎ出すか、ぐっすりと寝付いてしまう時間だ。

だが私はただひたすら空想する。

その空想が盛り上がってきて次第に口角があがりそうになり、周囲に不審がられていないか時折気にしながら。

待機時間の暇つぶしは大の得意であると自負するくらい、空想だけしていても飽きる事がない。

家で何もすることがなくても、ぼう~っと考え事をしているだけで自然と時間が流れていくのである。

だから、もし待ち合わせで人が遅れてやってきても、怒ることもさほどない。……いや、これはその人の態度や理由にもよるけれど。

イヤホンで音楽を聴きながら、あんな風に展開すればどうなっていくか、なんて考えるのはとても楽しい時間であるのだ。

ただ、バスの旅での空想には欠点があって、たとえいい展開が考え付いたとしても私はそれをネタ帳に書き記すことができない。

数秒でも下を向いて作業すれば、後にどんな悪夢が待っていることか。

子供の頃は乗り物に乗っただけで、問答無用で嘔吐感に苦しめられたが、大人になった今ではどうすれば酔うかをしっかり理解できるようになった。

酔う原因の一つとして、乗車前、乗車中のイチゴミルクやコーラの摂取はお勧めしない。当然ながら、胸焼けするほどの甘い飲食物なんてもってのほかだ。……経験者はかく語りき。

兎にも角にも無理やり結論。

イヤホンで音楽を聴きながら、おとなしく頭の中で話の一つや二つを考えているしかないのである。

……いやいや、せめてポータブルDVDプレーヤーで映画を一本見れるくらいには乗り物に強くなって欲しいんだけどなあ。

もしくは、絶対酔わないような乗り物が開発されてくれればいいのだけど。

はてさて、そんな日は来るのやら。


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