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猫神  作者: 角野のろ
7/21

序ノ七

六ヶ月ぶりくらいでしょうか(苦笑)

「えぇ〜、何それ、本当の話?」

 受話器から伝わってくるのは、どこか間の抜けた声だった。

 俺はこういう奇妙な現象に関してはプロと言ってもいい、栄ちゃんに電話をした。

 オカルトハンターたる栄ちゃんなら何かいい提案を返してくれるに違いない。

 もちろん、話題は異能を持った化け猫、猫神についてである。

 俺は別れ際に起きた事件の始終を伝えた。帰りの際、トラックに挽かれかけたこと、そこで猫神に出会ったこと。榊紅葉のことを考えていたこと……いや、そこは黙っておこう。言うのは必要最低限でいいはずだ。

「猫神か〜、やっぱりいたんだね!」

 それらのことを話すと栄ちゃんは心なしか、楽しげな響きを汲んだトーンで言った。

「そのウキウキな態度、当人からしてみれば腹が立つこと然りだがな」

 そもそも何の疑いも持たずに信じるのが、栄ちゃんの良い所というか。

「え!? 何、もしかして今までの話、全部嘘なの?」

 俺の言葉に今度はひどくガッカリした様子の声をあげる。

 声色だけでもこうも表情がコロコロ変わるから、まったくいじり甲斐がある。

「いや、もしかしても何も、俺は冗談ではこんな話しないぞ」

「良かった〜」

「良くない。……それで、単刀直入に行く。俺は高校生活をあくまでノーマルで周囲の健全な男子高校生と同様にしたい訳だが。つまり、簡単に言うとこうだ。猫神を追い出すにはどうしたらいい?」

「……それって、成仏させたいってこと?」

「うむ、まあ、そんな所だ」

 俺が答えると、栄ちゃんは少しの間考え込むように唸った。そして、

「じゃあ、簡単じゃない。その猫神さんの要求を飲めば良いんだよ」

 そう言ってきた。

「はぁ?」

「だって、死者はこの世に未練があるからそこに自縛霊みたく留まるって言うでしょ。猫神さんもきっとそのはず……だから、その未練の原因を取り除いてあげれば勝手に成仏してくれるんじゃないかな」

「な、なるほど……ふむ。それは一理あるかも知れ――」

 ん、ちょっと待て……猫神のそもそもの目的は成仏して天国に行くことじゃなかったか? しかも、俺が手助けをすることは未練などではなく必要に迫られた副産物のはずだ。

 うーん、何か栄ちゃんの考えには色々矛盾点がある気はする。だが、正しいような気もする。

 あー、くそ。考えれば考えるほど深みにはまる。泥沼だぞ、こりゃ。

「……もっと簡単に奴を消す方法はないか?」

「うーん、そうだねぇ。あるにはあるかも知れないよ。けどさ、今分かり得る範囲で出来ることとなると限られてくるでしょ? とりあえずは猫神さんの存在が消えるかも知れないっていう、その可能性に掛けてみるのが一番良いって! 頑張ろうよ」

俺は栄ちゃんの励ましで多少、平常心を取り戻した。そこで、

「……それもそうか」

 居直ることにした。まあ、なるようになるさ。問題があればそれから決めれば良い。

「僕も何かあったら、相談に乗るからさ。正直な所、その猫神さんにも会ってみたいし。それじゃ、また明日ね〜!」

最後に本音をボソリと言って、栄ちゃんは電話を切った。

「おぅ、じゃあな」



「誰かと話をしていたようじゃが、独り言か?」

 電話が終わった頃、権左衛門が風呂から上がって戻ってきた。まったく、お前の対処法について話し合っていたというのにいたって本人はのんきなものである。

 しかも、服は母さんのものが置いてあったはずだが、何故か着ているのは俺のトレーナーだった。

 元猫というだけあって、小柄な体形のためにトレーナーがダボダボに見える。

 ふむ、男物の服を来た少女というのもなかなか……と、おっとあぶないあぶない。コイツは人間じゃなくて、猫神とかいう訳のわからん代物だった。

「この廊下、一人で戻ってこれたのか。初めて来た奴は大抵迷うんだが」

「フン、そんなのは造作もないことじゃ。ワシが力を使えば、先の道など容易く知ることができる……して、お主が持っているのは何じゃ?」

 俺には権左衛門が何を言っているのか解らず、一瞬聞き返した。そして、手中に握られたものを指していることに気が付いた。

「これか? これは電話」

「電話?」

「簡単に言えば、遠くの人と話が出来る機械だ」

「キカイ……」

「ああ、機械じゃ解らないか? そうだな。昔で言うと……そう、カラクリのことだな」

「む? ふむ、カラクリか。なかなか面白いな」

 そういうと、猫神は不敵な笑みを浮かべる。

「面白いのか?」

「ああ、面白い。ここ最近は文明に携わることが無かったからのう。人間と関わらなかった時期が長いからのう。その間にそんなカラクリが作られておったのか。確か、前の主は気持ちを伝えるため、ふみとやらに詩をしたためて、互いに送り合っておったぞ」

 猫神はそう言って頷く。

「前の主がねぇ……って、詩を書いた文!?」

「ん、どうした?」

「どうしたも何もその文化知識は平安時代だぞ。知識がおじゃる止まりじゃねえか!」

「おじゃる……悪いのか?」

「いや、悪くはないが……」

 時代ギャップのある会話で苦労しそうだな。電話の説明で確信する。

「……そういや、名前も権左衛門とか言ったよな。もしかして、自分で付けたのか?」

「いや、ほんの昔、まげを結った侍の友人に付けられた物じゃが。過去に付けられた名の中では一番気に入っておる」

 今度は江戸時代か。

「どうでもいいが、それ、男に付ける名前だぞ?」

「ふむ……男とな。な、何ッ!? それは誠か?」

 途端に狼狽える猫少女、権左衛門。

「本当だが……知らなかったのか?」

「あ奴め……」

 俺に返事を返すことなく猫神は顔を赤くし、わなわなと震えだす。その様子は妙に愛らしい……などと俺は思わんぞ。

 そんな顔色から権左衛門はすぐ冷静になり、最初の調子を取り戻した。

「まあよいか。それはそうと修治、ワシは小腹が空いた、何か捧げ物を用意するのじゃ」

「小腹って……お前、死んでる癖に喰うのか?」

「背に腹は変えられぬと言うであろう。死んでも腹は空くのじゃ」

 論理説明に使う日本語が間違っている気がする。

「詳しい話は食事の後にしよう」

 すると、猫神はクンクンと鼻を利かせた。犬ではあるまいが、嗅覚は人より上なのであろう。理には適っている。

 そうやって、すぐにキッチンへの道を見付けると、そこに向かって歩き始めた。

「あ、おい。ちょっと待て! そっちには――」

「聞く耳持たぬ。腹が不快な音色を奏でる刻限じゃ」

 それは小腹じゃないだろ……って、聞けよ。そこには今、母さんがいるんだ!

 ガチャリ。

 あ、アイツ開けやがった。

「修治? ちょっとお皿並べるの手伝ってくれない……あら」


 包丁で小気味のいい音を立てていた俺の母さん、理沙が音に気付いて振り向く。

 ちなみにその場にいるのは俺でなく、猫耳尻尾付きの黒髪美少女な訳である。シチュエーション的に、変な風に思われないか?

「あらあら、もしかして修治のお友達?」

 権左衛門に余所行き用の笑みを浮かべ、次に予想が的中、俺の方を黄色い目で見つめる。

 母さん、違うんだ。信じてくれ、嫌がるコイツに無理矢理コスプレさせたとかそんなじゃないから。

 そもそも俺の趣味は猫耳じゃなくてウェイトレス……。

「貴様、もしや修治の母君か?」

俺の思考を知ってか、否、知らないであろう。黒髪猫耳女は尊大な態度で問う。

 初対面の相手に平気で貴様呼ばわりする所を見ると、コイツの利己的な気質は誰に対しても同じらしい。

「え、えぇ……」

 ほら、母さんもたじろいでいるじゃないか。

「ワシは猫神、権左衛門じゃ。代々、ネコガミ筋を受け継いできた血筋の者よ、名はなんと言う」

 しばらく、部屋を包み込む沈黙。

「ま、まさか……あなた様があの猫神様なのですか?」

 その瞬間、母さんは権左衛門の前にいきなりひれ伏した。

 ちょっと待て、話の内容が掴めないぞ?

「いかにも、ワシこそは猫神じゃ」

「か、感激の至り、私は猫飼理沙と申します」

「そうか、理沙よ。ワシは先刻、ここにおる修治と契約を果たした、例によって再びお主たち一族との腐れ縁が始まる訳じゃ。必要になれば主とも契約することになろう。心の準備をするのじゃ」

「はいっ!」

 我が母は心ここにあらずといった恍惚とした表情で返事をする。

「さて、ワシは腹が減った、何か用意してくれ。理沙」

「はい〜」

 それ自体がさも、当然のことのように母は食卓の準備に取り掛かる。

 まてまて、話の流れが読めない。いや、分かってないのは俺だけなのか?

 そのように考えている間にもが皿が並び、料理が盛られていった。着々と準備は行なわれ、

「なんじゃ、修治喰わんのか? 喰わぬならワシが代わりに喰ってやるぞ」

 そう言って、俺の返答も聞かずに前方の皿から肉だけを綺麗に奪い去るところまで僅か、十数分。

「俺の飯が……」

「む? 何をぼやいておる、返事を返さなかった修治が悪いのではないか」

返事を返す暇も無かっただろうが、とツッコミを返そうとする。

 が、嬉しそうにハンバーグを頬張る権左衛門の、長い年月を生きてきたとは思えない子供じみた顔を見ると鋭気が萎えていった。

「うむ、実に美味であった」

 気が付けば、全て平らげてしまっている。

「有り難きお言葉です」

 感激した様子で胡麻を磨る母さん。

「さて、湯で汚れを落とし腹も膨れた所で本題じゃ。話してやるとするかの。猫神とネコガミ筋について」

 そう言って、権左衛門はニヤリと笑った。

 息子の俺としては二人の様子を見るうちに色々な意味で悲しくなってくるのだった。


 大学に入学し一人暮らしの生活が始まってからサイトに来ること自体が少なくなってしまい、更新が遅くなってしまいました(−−;

 まさにペンネーム通りの状態ですね(苦笑

 ここまでは元々書き終えていたのでUP自体は出来たのですが、次話からはほぼ全く書き進めていない状況なので、果たして完結するのはいつになることやら。こんな中途半端なところで止まっていることに申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 プロットを書き上げた後に続きは書き始める予定なので、再び長期UPが出来ないと思われますが、堪忍して下さい……。

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