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猫神  作者: 角野のろ
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次ノ九

遅筆なりに週一更新を目標にしています。

「ふぁあ〜〜ぅ」

 大あくびをして、目を覚ます。腹減ったな……。飽きもせずに同じ感情を浮かべてむくりと起き上がる。

 押入れの中で目を覚ますというのも、初めは違和感があったのだが今は当然のように受け入れている自分に気がつく。少しだけ悲しくなった。

 この現状を作り出した当人、権左衛門はというと涎を垂らしつつ、だらしなく足を広げて寝ている。蒲団が乱れて下に転がっていた。

 健全な青少年には僅かながら、目の毒になる部分もあったので、慌てて視線を逸らし、なんだか腹が立ったので近くに落っこちていた枕を投げつけた。

「ゲフッ」

 悶絶する権左衛門、俺は勝利の愉悦に酔いしれながら、部屋を後にする。

「ぐおっ」

 背後からの反撃に俺は対処出来ず、前につんのめった。

 ……畜生、まだ敵わないか。

「まだまだじゃな」

 ニヤリと不敵に微笑む権左衛門。後頭部を押さえながら、俺は同じように底意地悪く笑い、無言のまま再戦の誓いをする。

 俺たちの戦いはまだこれからも続くぜ! 悪いが打ち切りENDは望んじゃいない。

「あー、無駄な運動したら腹が……」

 早く一階に降りよう。空腹感が鈍痛のように押し寄せてくる。

「おはよう、修治。魚あるわよー」

 ……そうだった。昨日の夕飯から海産づくしになることは既に約束されていたではないか。新鮮な食材は良い、何と言っても活きの良さが違う。

 一たび口にすれば、その味の虜となり決して忘れることなく、美味しく生まれた魚への想いを馳せることにした。

 魚よ、俺たちに食されるために生まれた訳ではないことは分かっている。だが、人も食べなければ生きていけないんだ。捕まるために生まれた訳ではないことも分かる。

 よくぞ生まれてきてくれた。俺は決して感謝の気持ちを忘れない。

 世界には満足に物を食べられない人もたくさんいる、そのことを考えれば、今の俺の境遇はとても有り難いこと、実に尊いことなのだ。

 そうやって心に言い聞かせて、食事の新鮮さと海産物の鮮度とを置換し、幸せの表情を浮かべる。

「お腹空いてたから、嬉しいよ。母さん」

「あら、じゃあいっぱい食べてね。お弁当も美味しいお魚よ~~」

「あ、そう……」

 うん、確かに海産物は美味しかった。きちんと味付けもされて、日本人の口に合うべく食べやすく、更に健康面まで考えられた完全調和の旋律ハーモニー

 素晴らしい。ただ、調理法が昨日までとまるっきり同じという点を除けば、それは完璧な朝食だと言えた。

 母さんの欠点と言えるもののひとつが調理の際、衝動買いとまとめ買いの弊害によるレパートリーの極端さである。

 料理が下手な訳でも、苦手な訳でもない。ただ、どういうことか母さんは安く商品が売っていると、まとめ買いをし、しばし、メニューが○○ずくし、といった様子になるのだ。

 手を抜いているのではなく、作る料理は文句なしに美味しい。贅沢な悩みに思われるだろうが、現実に経験してみるとそれはよく分かる。

 安かったからと言って、大量のじゃが芋と白菜を買ってきた時なんかはエンドレスでポテトサラダと白菜の味噌汁だった。しかも、月間特売で更に買い足すものだから、そのエンドレス現象は一か月近く続いたのだ。

 カレーなどなら、具材を変更したりして、何とかなるのかもしれないが同じ味がずっと続くのは、ある意味で拷問に等しいものがある。ただ、この同じ料理が続くのにも周期があり、今回の海産物群の周期が終われば、しばらくの間は平均的でバランスの良い食事が続くだろうという、そんな淡い期待だけが救いを与えてくれる。

 しかし、まあ、今はまだ飽きが来ている訳ではなく、これから先の未来を示唆して勝手に落ち込んでいるだけのことなのだが。

 今度、頑張って早起きでもして、母さんの代わりに朝食だけでも作ろうか。

 俺もレシピが多い訳ではないから品数は少なくなるだろうが、それでも、ループする料理を止めることは出来るだろう。

 よし、と俺はグッと拳を固め、決意を胸に心を新たにした。


「美味であったのう」

 満足げな表情を浮かべて、お腹をポンポンとさすりながら権左衛門は学園への登校路を進んでいる。爪楊枝を加えていない分、おっさん臭さがないのが救いである。

「……ええ、そうですね」

「フンフフフーン♪」

 栄ちゃんは鼻歌まじりに恍惚とした幸せそうな表情を浮かべて、道筋を共に歩く。何かいいことでもあったのだろうか。

「どうしたんだよ、栄ちゃん。鼻歌なんか歌って」

「えー? だって、あの猫神様と一緒に学園に通ってるんだよー? それに、修治くんもオカルト研究部に入ってくれたし」

「ああ、そう」

 割とどうでもいいことで、栄ちゃんは幸せになれるらしい。実に羨ましいことだ。



「それはそうと、今日の教室の雰囲気、なんか暗くないか……?」

 教室に辿り着くと、どうも1-Aクラス内の様子に形容しがたい違和感を覚えた。

「なんか知ってるか?」

 栄ちゃんは首を横に振ったので、射手矢に野次馬根性を出して聞いてみる。

「ああ、修治もなんとなく感じたんだね。どうやら、この1-Aの女子生徒が一人行方不明になったみたいなんだよ」

 すると、訳知り顔ですぐに答えてくれる。

「そういえば夜に電話が掛かってきた気がしたが、親が出たな」

「多分、それだね」

 更に詳しく聞いてみるとどうやら、クラスの女子の一人が昨日から家に帰っていないのだそうだ。

 女子の名前は日向(ひなた)(あおい)。屈託のない明るい笑顔をする可愛らしい女の子だったという。

 話したことはなかったが、俺もどんな印象の女の子だったかはなんとなく思い出せる。少しだけ、榊さんと雰囲気が似ているように思った彼女だ。急に家出をするような雰囲気の女の子ではなかったように思う。

 どんなタイプの人間が家出をするかは知識にないため、その印象は間違っているのかも知れなかったが。

 そういえば、今日は榊さんの姿を見ていない。この一件とは関係がないとは思うが、学校に来ていないのだろうか。

 赤松教諭のHRも出だしからそんな物騒な話になった。新任早々事件に巻き込まれて不憫なことだ。

 当たり前とは当たり前だが、消えた日向さんのことを心配しているようだった。


「その、クラスメイトの葵さんがどうして帰っていないのかを調べてみようってことか?」

 休み時間に入って、射手矢や栄ちゃんと話をしていると携帯にメールが届く。グループリストとして登録されたメンバーに一括送信したということらしく栄ちゃんと顔を見合わせた。つまりはオカルト研究部の常盤先輩からのメールだ。

 権左衛門は携帯電話を持っていないため、その場で説明をした。ちなみに榊さんに声を掛けようと思ったところ、姿がなかった。

 どうやって、情報を聞きつけたか知らないが常盤先輩が日向葵さんが昨日の夜から帰宅していないことと学園に来ていないことを知っていた。

 最後にはどうにかして情報を得ろよ、と半ば強制的な言伝ことづてで締めくくられていた。

 面倒ではあるが、仕方ないか。どうにも役得とは正反対の損な役回りだ。

 何はともあれ、突如人が消える原因に興味がない、と言えば嘘になる。

 既に何人も消えているはずで警察沙汰になってもおかしくはないのに、ちらほらと噂が上がる程度で学校内ではおおやけにはされないこと。何らかの圧力があるのだろうか。その事実(おそらく混乱を避けるためだろう)に少なからず危険な雰囲気を感じた訳だが、好奇心には勝てなかった。



次回更新は少し遅くなるかも知れません。

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