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猫神  作者: 角野のろ
17/21

間章

遅筆なりに週一更新を目標にしています。

 その日、日向葵は帰りが遅くなってしまった。

 図書館で調べ物をしていて気がつけば夕暮れ、窓から光は刺さなくなっていた。慌てて帰り支度をし校門まで来たのだが、不幸にも自分が教室に忘れ物をしたことに気づいてしまった。

 教室までの道筋にある廊下の明かりをつけようかとも思ったが、見回りの教師にばったり出くわしたら、こっぴどくしかられてしまうかも知れない。一度きりだが、以前、帰りが遅くなった時に凄まじい勢いで怒られたことがあったため、出来ればそんなことはごめんこうむりたかった。

 しかし、彼女は暗所自体があまり得意ではなかった。

 暗闇には何故だか、何かが潜んでいるような気がして、どうしても怖かった。

 忘れたのはそこまで必要なものでもなかったから、一度、別の紙にでも書いておいて、明日改めて忘れ物を回収して書き直す、でも良かったのではないか。そうしなかった自分の選択に後悔する。

 だが、ここまで来たら、最後までやるしかない。

 視界が狭くなれば、どういう訳か他の五感が鋭敏になる。自分の足音だけが耳に印象的に残り、ビクリとするが、それ以外に音がないことに安堵する。

 足音が余計に聞こえるという訳でもない。大丈夫、大丈夫。

 今、ここにいるのは自分一人だけだ。良くも悪くも孤独に勇気づけられるというのはおかしな話だが、彼女は少なくとも勇気づけられていた。

 教室の扉は閉まっていたので、大きな音が出ないようにそうっと開ける。

 それでもガラガラと嫌な音を立てる。聞き耳を立てるように、彼女は周囲を窺った。

 よし、問題なし。見回りの先生もいないようだし、ここまでくれば、後は机の中を探って忘れ物を取り出すだけだ。整理は普段からある程度行っていたので、探し物はすぐに見つかった。

 見つけるものは見つけたし、長居は無用だった。

一刻も早く、この場から立ち去りたい。

 タタタタタ……

 駆け足で、脇目も振らずに薄闇の中へ踏み出していく。

「痛ッ」

 明かりも点けず、足元が良く見えない中を走ったため、自分の足に躓いて転んでしまった。

「はは……ドジだな、あたし」

 誰が見てる訳でないが、スカートの裾の乱れを気にしてポンポンと埃を払って直す。

「……あれ?」

 何故だろう、誰もいないはず……。なのに誰かに見られていたような、そんな気配を感じる。

 おかしい。

 こんな時間に学校にいるのは職員室で残業をしている先生か、あるいは見回りの先生、懐中電灯の明かりもないから、おそらくは誰もいないはずだ。

 気味の悪さがつま先から全身に広がって背筋がうすら寒くなった。

「ひっ」

 すぐ隣に誰かの視線を感じた気がして、身がすくめて恐る恐る見やる。


「――なんだ……鏡か」

 ホッと安心した反動で息を吐く。こんなことで一喜一憂して馬鹿みたいだ。

 しかし、ふと、先ほどまでとは別の恐怖が唐突に湧き上がってきた。

 あれ、さっきまでこんな所に鏡なんてあっただろうか。

 自身の虚像が浮かぶ鏡を前にして、悪夢に取り込まれてしまったような妙な気分になる。目を逸らしたくても逸らせなかった。

 もし、少しでも目を離したらその間に鏡の向こうの私が、私の首を掴んで絞め殺そうとするのではないか、そんなあるはずもない妄想が恐怖を煽り立てる。

 馬鹿だな、そんなこと考えたら、余計に怖くなっちゃうじゃない……。

 自分の下らない妄想を乾いた笑いで無理やり誤魔化して、目を離そうとした時。

”鏡の中にいる私が不気味に微笑んだ気がした……”

 次の瞬間、日向葵の姿はそこになかった。

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