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夢と願いの学園恋歌  作者: surteinn
学園祭編
37/44

10月5日(1)

だいぶ遅くなりました。

すみません。

あろ、文章が台詞だらけになってしまいました。

しばらく台詞のオンパレードになりますが、ご了承お願い致します。

 たとえ今だけの夢だったとしても、たとえ今だけ叶えられる願いだったとしても、わたしはかまわない。


 学園祭二日目。最終日を迎えた俺たちは、昨日より多く来場するであろうお客さんを迎え入れるように気を引き締めていた。今日は日曜日、付近の大半の大学や会社、工場が休みであり、より沢山の人々がやってくることが安易に予想出来た。結果、シフトの十時から十二時まで、客足は途絶えることなく、厨房、接客、共に慌ただしくも効率良く店を回していた。罵声は飛び交うことはなかったが、注文と確認の声は海上を舞うトビウオの如く飛び交った。

 シフトが終わり、しばらく持参の麦茶で座って休んでいると、三十分近く時間が過ぎてしまった。宙との待ち合わせ時間までは余裕はあるが、そう長く休んでばかりではダメだと思った。折角の文化祭だし、色々見て回っておきたい。恐らく宙と回らないであろう、研究展示コーナーに足を運び、しばらく暇を潰していた。

 一時まであと十分、俺は待ち合わせ場所である1―C教室前へ向かっていた。空のクラスの出し物「うらない」は道すがら聞いた限り、評判は上々のようだ。もしかしたら空のシフトが十分くらい延長するかもしれない。

 温くならないか不安だなぁ、と思いながら、手に持ったカップ二つを見る。一、二時間は連続で働いているであろう空に労いの気持ちを込めてミックスジュースを買った。砕かれた氷が入っているので、溶けて味が薄くならないか少々気がかりである。

 階段を上がり1―C教室が充分に見える位置まで来た。

 あ、いた。

 既に宙は廊下で壁に寄りかかって待っていた。腕時計や周りを忙しく確認している宙。面白いというか、微笑ましいというか。

 「よ、宙。待たせてごめん」

 急いで駆け寄ると、宙はこちらに気付いて、ぱぁっとひまわりみたいな笑顔を咲かせた。

 「先輩! いえ、全然待ってないですよ。さっき出たところです」

 「そうか、良かった」

 俺は手に持ったカップを宙に渡した。

 「これは?」

 「ジュース。疲れてると思って」

 「なんと。ありがとうございます。早速いただきますね」

 ストローに口をつけ、宙はチューチューとジュースを吸い、ぷはっ、といい感じの音を出して口を離した。

 「おいしいです! 一体これはどこで」

 「すぐ下にある飲み物屋。他にも色々あったし見ていく?」

 「はい。一緒に行きましょう、先輩」

 今にも空に舞い上がりそうな足取りで、空が若干いつもより速めに歩く。なるべく宙の歩調に合わせ廊下を渡った。


 「先輩。これってデートですか?」

 歩き始めて数秒も経たない内に、宙が期待に満ち溢れたいい目をして訊いてきた。すると何処からともなく悪戯心が俺の胸へと去来した。

 「単なる学校案内だ」

 「通い始めて一ヶ月経つのに、何で学校案内が必要なんですか。もう、先輩ったら。恥ずかしがらずに言って下さいよ」

 「デートじゃありません」

 「そんなはっきり言わなくてもいいじゃないですか。いえ、大丈夫です。先輩は普段から心の中でわたしへの愛の言葉を囁き続けていることを知ってますから」

 「気持ち悪くないか? それ」

 「では、叫んでいるとでも?」

 「もっと気持ち悪いだろ」

 平生から宙へ愛を叫んでいるとか、心の中であっても駄目だろう。変態だろう。俺は変な人と言われるのは許容できるが、変態と呼ばれるのだけは聞き捨てならない。

 しばらく宙は、むむむ、と絵に描いたような悩み顔で唸っていた。ふと何か思いついたのか、宙はまたもや期待を目に宿し質問をぶつけてきた。

 「ねぇ、先輩」

 「どうした?」

 「周りから見たら、わたしたちって、どんな風に見えると思います?」

 「兄妹」

 「確かにわたしたちは兄妹のように仲がいいですが、わたしの期待した答えと違うので却下です。もっと他の視点で見て下さい」

 宙の納得のゆく答えを言うまで終わらないらしい。罰ゲームの一種に違いない。

 「先輩と後輩」

 「わざとはぐらかしてません?」

 はぐらかしは、わざとするものだろう。

 「……よもや恋人同士には見えないだろう」

 「やだ先輩。こんな人前で恋人同士だなんて恥ずかしいじゃないですか! もっとくっついてもいいですよって痛いですよその手をはーなーしーてーくーだーさーいー!」

 宙の後頭部を鷲づかみにした。力の限り、思い切りやった。

 「先輩、激しいです」

 「次は握り潰すからな」

 「先輩、たくましいです」

 たくましいのは宙の方だろう。無論、精神面での話だが。

 「さっさと行くぞ。学園祭が終わっちまうぞ」

 宙の手を握り、人通りの多い廊下を突き進む。ジュースだし売り切れることはないだろうが、もしものことを考えて急いだ方がいい。周りを気にし始めたのか、宙は急に大人しくなってるし、先程の話はここで切れたと考えよう。これ以上話していたら墓穴を掘りそうだ。


 先輩と手を繋いでいる。私の頭の中は、ただそのことだけで埋まってる。憧れの人、あたしの初恋の人と一緒に、手を繋いで歩いてる。側にいるだけでも幸せなのに、こうして触れ合えるなんて。普段はわたしからアプローチしてるから、心の準備ができてるからいいけれど、先輩の方からなんて滅多にない。手を繋いでから少し経ったけれどわたしの胸が心地よく疼いている。顔は多分真っ赤。普段はもっと上のことをしてるのに、何故だろう。

 先輩は前を向いてるから気付かないはず。先輩がわたしを見る前に心を落ち着かせなきゃ。いつも通りの、あるがままのわたしを見てほしいから。あるがままのわたしを、受け入れてほしいから。


 「ここがさっき言った店」

 「おぉ。いろんな種類のジュースが揃ってますね。リンゴ、オレンジ、パイナップル、マンゴー。赤系が多いですね」

 「予算の都合だろう。一応ブドウとか梨もあるぞ」

 「どれにするか迷っちゃいますね」

 「もうすぐ俺らの番だから、早いところ決めないと」

 「先輩は何にするんですか?」

 「俺はぶどうにする」

 「じゃあわたしも同じやつで」

 「違うやつじゃなくていいのか?」

 「はい。先輩と同じものが……いえ、やっぱりパイナップルにします」

 宙は何かにはっと気がつき、急遽注文を変えた。良からぬことでも企んでいるのだろうか。


 「いいんですか、奢って頂いて」

 先輩としての意地みたいなものを発揮し、宙にジュースを奢ることにした。

 「変なところで遠慮するな。厚意はありがたく受け取るものだぞ?」

 「好意ですか。えぇ、ちゃんと受け取らなければならないですよね」

 こうい、という言葉の捉え方が双方違っている気がする。

 「では、ありがたく。いただきます」

 宙はパイナップルジュースをストローで吸い上げ、チューチュー吸い始めた。

 「おいしいです。先輩も一口どうですか?」

 そう言って、自分のジュースを差し出す宙。ストローが真っ直ぐ俺の口を指し示し、徐々にそれが近づいてきている。俺は両手で宙の手首をしっかり掴み、ジュースの進行、いや侵攻を阻止した。

 「……宙。一つ尋ねてもいいか」

 「間接キスなんて気にせずいっちゃって下さい」

 なるほど。これが間接キスだという認識が宙の中にあったらしい。

 さて、この状況を打破するにはどうしたらよいものか。もし対応を間違えて間接キスをし、その現場を万が一奏辺りにおさえられたら、恐らく冬休み明けまで散々な目に合い続けるだろう。ならば。

 「間接キスでいいのか?」

 「え?」

 「ファーストキスが間接キスでいいのか?」

 あえて暴走発言をするしかあるまい。

 「俺はもっとロマンチックな方がいいなぁ」

 「な、な、なにを……」

 「夕日を見ながら、とか、星空を眺めながら、とか、朝日が昇るのを見ながら、とか、遙か先まで広がる高原を歩きながら、とか、ロマンチックな方がいいよな」

 俺は廊下のど真ん中で何を口走っているのか。もう恥も外聞もない。周辺の人々は俺らの会話に気にも留めていない、あるいは聴覚に届かないのだと思い込もう。

 「先輩がまさかこんなにも積極的になるなんて。これが祭り効果というものですか。い、いいですとも。わたしの望んだ状況です、よね」

 そして、いい感じに宙が狂い始めた。

 「分かりました。先輩がその気でしたら大人しく引きましょう。来たる本番に備えて、わたしはファーストキスを死守します。ふふふっ。先輩は初心な人だと思ってましたが、結構積極的な人なんですね。いろんな意味でリードしてくれそうです」

 「よし、じゃあ次は何処に行こう」

 「その切り替えはあまりにも強引じゃないですか?」

 俺もそう思う。


7月がやってきました。

大学の前期試験があるので、多分これが今月初にして最後の投稿です。

次回は8月での更新です。


意見・感想などは感想フォームまで。

では(・ω・)ノシ

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