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夢と願いの学園恋歌  作者: surteinn
学園祭編
36/44

      (2)

遅れてすみませんでした。

まず本編をどうぞ。

 今の気持ちを考える。

 文と宙、二人のことが、俺は好きなのだろう。でも、果たしてそれは友達としてなのか、一人の女の子として好きなのかが分からない。自分の気持ちが分からない、はっきりしない。俺自身が自分のことを分からず、二人に対してあやふやな態度を示してしまっている。

 そろそろ覚悟を決めるべきだ。

 俺は誰が好きなんだ。


 まずは校門から校舎まで続く大通りに建ち並ぶ屋台からまわることにした。たこ焼きや焼きそば、ヨーヨー釣り、金魚すくいなど、学園祭というよりは縁日に近い代物が大半を占めていた。文芸部や美術部、PC部などは部室内での発表が中心で、外で展示する部活は少ない。また、運動部によるパフォーマンスはステージかグラウンドでやるので、食べ物を扱う店がここに並ぶ。必然的に、食べ物は外に出て買うしかなくなるわけだ。若干日中に蒸し暑くなる時があるので、中で休みながら食べたい、との要求がある人は校舎内の喫茶店を利用する。学園祭期間中は気温が普段よりも上がるらしいので、2ーBの売り上げは好調となるだろう。

 「あ! ねぇ宗くん。あそこの店のホットドッグ食べようよ」

 「えっと、わさび醤油ドッグにタバスコドッグか。凄まじいものを作りよって」

 文と一緒に歩き始めて一分も経たない内に、何やら目新しい屋台を見つけたようだ。メニューにはホットドッグ系統のみが書かれており、定番のケチャップやチーズを始め、様々な種類のホットドッグが売られていた。ケチャップはありきたり過ぎるし、タバスコは味的に論外、わさび醤油は外したらと思うと手が出せない。ここは無難にチリソースで召し上がるとしよう。

 「俺はチリソースにする。文は?」

 「タバスコとわさび醤油、あとデザートにチーズを……」

 やはり文はここ周辺の屋台を潰すつもりらしい。普段からカロリーとか気にするのに、どうしてイベント事になると勘定しなくなるのだろう。毎年恒例の「学園祭終わったらダイエットだよねプロジェクト」に、俺は二度と参加したくない。

 しかし、ここで「太るぞ」という呪文を唱えれば、一瞬の内に周辺の空気が禍々しい何かによって満たされるので、俺は唱えないように心掛けている。状態としては海水浴でのレース後の文が一番近い。

 「他のが食べれなくなるぞ」

 「タバスコにする」

 あえてゲテモノ候補を選ぶ文のセンスに、俺は驚愕した。

 「いいのか? 本当にいいのか?」

 「わたし、これを乗り越えたら大きく成長できる気がするの」

 「もう自分でも無理そうなのが明らかに分かってんじゃねぇか!」

 結局文はご所望の品を手にする事となり、二種類のゲテモノを心行くまで堪能したようだった。

 「美味しかったか?」

 「わたし、何やってるんだろうって、悲しくなった」

 そういう味だったか。


 次に立ち止まった店は射的屋であった。縁日の王道中の王道たる出し物に何故寄ったかというと。

 「宗くん、射的やろうよ」と文が誘ったからだ。昨晩の会話の途中で、昔俺と射的とか輪投げとか色んなことをしてみたかったことを思い出し、急にやりたくなったのだそうだ。射的は今まで数える程しかやったことがない。しかもほぼ全て収穫物なしという歴史を持ち合わせている所為か、あまり気乗りしなかった。けれども、約束を反故にしてしまったし、今日くらいは、とやってみることにした。

 標準を定め、狙いを付ける。縁日の銃の標準は基本的に当てにならない。一発はほぼ必ず外す。五発中二発を試しに使い、残りの三発で決める。理論上では間違いではない筈だが、理論通りに世の中働くことは滅多にない。

 「全部外したね」

 獲物を縁取るように飛んでいった。

 「ちなみに文は?」

 「すべて同じところにあたって……」

 「おぉ凄いな」

 「でも全く見当外れなところ」

 「駄目じゃん」

 俺たちは射的のセンスに乏しいのだろう。


 そうして時間は過ぎていき、学園祭一日目は無事終了した。


 空が群青色に染まる。夜が全てを飲み込もうと口を開き始めた時、俺と文は潮の香り漂う通学路を一緒に隣り合って歩いていた。

 「風が気持ちいいね」

 文は全身で受け止めるかのように大きく両腕を広げていた。その動作が何とも可愛らしく感じ、俺は心の中で小さく笑った。

 夜が少し口を閉じる。海岸沿いに延びる煉瓦の道を、街灯の光が優しく照らし出す。潮騒が遠くから聞こえ、耳を静かに撫でていく。

 灰色と白色が入り混じった雲が形を変えながら空に模様を描いていく様をぼんやりと見る。海の小波、母なる海の囁きに耳を傾けた。

 「ねぇ、宗くん」

 疲れたのか、文は両腕を下ろし、そのまま手を腰に回す。

 「付き合てくれてありがとう。楽しかったよ」

 「俺も楽しかったぞ? お化け屋敷のことは一生忘れないかもな」

 「そ、それは忘れて!」

 顔を羞恥の色に染め、文はあたふたし始めた。その姿は可愛らしくて、暖かな気持ちが胸を満たす。この気持ちは、きっと……。

 夜の口が閉め切られ、演出家は星月の空を天上に映し出した。月は半分になりかけの微妙な形をしており、歪であった。

 二人で静かに一緒に歩く。さらさらと流れる波の音と、遠くから来る雑多な音。二つの足音と、二人の言葉。四つの要素が絡み合い不思議な交響曲を奏でている。あまりに甘美で心地よい調べで、いつまでも聴いていたくなる、そんな音色。今でしか聴けない、愛おしき音色。

 あと十数分で俺の家に着く辺りで、ふと文が立ち止まった。何事かと思った矢先。

 「ねぇ、宗くんには気になる人はいる?」

 何でもないような振りをして、けれど真剣そのものの目をまっすぐ向け、文が訊いてきた。あまりに突然の問いに俺は動揺し、足がピタリと止まった。潮風が流れる。俺は複雑に絡まった思考を一旦落ち着けるべく、咄嗟に海の方へ視線を遣った。

 海を眺める。

 月を見上げる。

 気になる人。恋心を抱いている相手。

 お互いに立ち止ってから何秒経過しただろうか。もしかしたら何分も経ってしまったのかもしれない。俺はしっかりとした声音で返答した。

 「いるよ」

 たったその一言を返すのが精一杯だった。文は「そっか」と呟き、再び歩き出した。

 家に着くまで、二人の間に会話はなかった。なくて、良かったのだ。

最近は私生活が忙しくなり、投稿スピードが落ち始めました。

申し訳ないです。

文中に出てくるお化け屋敷の話は、後回しにしました。


次は宙との学園祭です。そして学園祭編最後の日となります、

こちらはほんわかな話と少しダークな話、次の章へと繋がる話が入ります。


意見、感想などがあれば感想フォームまでご一報を。

では(・ω・)ノシ

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