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夢と願いの学園恋歌  作者: surteinn
学園祭編
31/44

9月30日(1)

 昼休みが終わり、五、六限目、学園祭準備の時間がやって来た。四日後まで当日が迫っているのだが、他のクラスと比較すると、俺らのクラスは今さほど忙しくない。出し物が喫茶店という事もあり、準備期間に行う事と言ったら、室内の飾りつけか、セッティング、試作品作りくらいだろう。だが、内装や小物類は今日で全て完成するだろうし、テーブルのセッティングなどは前日に準備、試作品作りは明日決行するので今日はほぼやる事がない。楓の優秀な指揮も手伝って、順調に事が進んでいるのも要因だろう。ただ間違いなく、前日と本番は多忙を極める事となるから、気を緩めるわけにはいかない。

 しかしながら、力仕事及び裏方の俺は特にやる事がなく、正直暇を持て余している状態だ。周りを見る。

 文は飾り付けを、奏は自分のクラスで仕事をしている。たまに奏が同じクラスだと勘違いするようになってきた。いつも入り浸っているし、もうこのまま2-Bに在籍してしまうのではないか。和志と楓は、一緒に学園祭実行委員会の手伝いへ駆り出されている。イベントで使用するステージ作りの最終段階を仕上げるのだそうだ。

 一般的にこうしたステージは業者に頼んで設置する。しかし、本学園では生徒の手による学園祭をモットーとしている為、生徒達自身が集い、設ける。普段を鑑みると、教師が生徒に介入するのは少ないように思える。やはり、少なくとも現在の理事会は生徒の主体性を重要視しているのだろう。

 それにしても、和志がやる気に満ちた顔で赴いていった様子は、まさに楓の僕。あいつのキャラの方向性が狂い始めており、馬鹿ではなく、変態路線まっしぐらではないか、と友人の行末が不安になり始めた今日この頃である。

 さて、こうして思慮に耽っているわけにはいかない。せっかくだし、ぼーっと歩いてみるのもいいかもしれない。周りから見たら単なる暇人だが、仕事が無いのだから仕方がない。適当に下の階でもうろつこうと考えたのは、それから数秒後であった。

 

 「あれ? 先輩、こんな所でどうしたんですか」

 下の階に行くとすぐに宙と出くわした。白い浴衣を身に纏い、ふわふわとした裾を翻し宙が近くに駆け寄って来た。着る物に合わせたのか、髪を下ろした姿は新鮮だった。この前俺の家に泊まった時にも見たが、校内で見ると、また違った風に感じる。

 「よ、宙。久しぶりだな」

 「本当に久しぶりですよ。もう寂しくて寂しくて、夜眠れなかったぐらいです。もしかしてわたしの事、嫌いになったのかなぁとか色々考えちゃいましたよ」

 「考え過ぎだって」

 「えぇ、こうしてわたしに会いに来てくれたのですから、杞憂だった事ぐらい分かってますよ」

 「別に会いに来たわけじゃないけど」

 「嘘でも会いに来たって言って下さいよ」

 そう言われても。

 「でも顔を見れて安心しました。昨日は一日中見かけませんでしたし、何かあったのかと不安だったんですよ?」

 「昨日は買い出しに行ってたから、四時半まで学校に居なかったんだ。でも昼休みは教室に居たぞ」

 「昼は少し用事があったので行けなかったんです。うん、なるほど合点です。わたし、四時には下校してたので、丁度入れ違いだったんですね。あーあ、もうちょっと学校に残ってたら先輩に会えたのに。そしてラブラブな一時を過ごせたのに。残念です」

 宙はやってしまった、と後悔の色を濃く顔に出した。そこまで悔しがる事なのか甚だ疑問ではあるが、毎度の如く、なので気にしない方向性で行く。些末な事に一々気を取られていてはこの先生きて行けない。

 「あ、訊くのを忘れてました。先輩、どうですか? この衣装」

 思い出した、と宙はその場で滑らかにターンを決める。浴衣の袖が大きく羽のように広がり、襟下は膝上程の長さで、制服のスカートと然程長さは変わらない。純白の浴衣とさらさら流れる黒い髪が宙を舞い、辺りを涼しげでさわやかな雰囲気に変えた。太陽のような少女の普段とはまた違った印象。胸の鼓動が速められる。

 「これでお化け屋敷の看板娘はわたしで決定です」

 「占いやるんじゃなかったっけ」

 先週の水曜日の昼休み、学園祭の出し物の話題が出た際、宙のクラスではお化け屋敷をやる事で意見が一致したと聞いた。しかし、後日、他のクラスと被っていたのが発覚し、結果、宙のクラスは別の出し物、占い屋をする事になったのだ。

 「試着で着させて貰ってるだけです。こういう格好、一回してみたかったんですよ。で、どうです? 似合ってます?」

 「よく似合ってるよ」

 「やだ、今すぐ抱きしめたいだなんて。先輩は大胆です」

 「言ってないから」

 「それにしても、もしお化け屋敷をやれたら、先輩を、うらめしや~、とか言って脅かせたのに。残念です」

 「可愛らしい幽霊だな」

 「可愛いだなんて。わたし、今、凄く胸がきゅんってなりました。わたしのハートに火をつけないで下さい。これ以上燃え上がったら抑えられません!」

 「水を掛けてやるから安心していいぞ」

 「クールな先輩も大好きです」

 宙の心が鋼並の強度に進化している。このままだと超合金レベルに到達しそうだ。

 「和泉さん。彼氏さんとイチャついてないで仕事しなさい」

 いつものノリで談話していると宙のクラスメートらしき少女が、宙に注意を投げ掛ける。

 「あ、もうこんな時間に。ではこれで」

 「頑張れよ」

 「先輩もファイト、です」

 パタパタと宙は駆け、教室に吸い込まれていった。どうやらクラスでも馴染んでいるようだ。確か宙のクラスには仲良しカップルがいたし、毒舌な子とか、色々キャラの濃い人物が集まっていた記憶がある。多分宙のキャラも受け入れられているのだろう。あと、宙の明るさから来る親しみ易さも恐らくある。

 再び暇となった俺は、このまま時間を潰していいのかと思い始めた。クラスの準備はまだ終わっていない筈。十数分前までの色々な言い訳を思い返す。

 「……行くか」

 友人達が頑張っているのに、自分一人だけ怠けていてはならない。早い所、2-Bへ戻ろう。来た道を引き返し、文の下へ足を速めた。


今回は短め。

多分9月30日は全体通して短いかもしれません。

小話集みたいになります。


今のところ宙ルートか文ルートに絞られています。

好感度としては若干文の方が高い気がしますね。

メインヒロインとも言える宙か、

幼馴染、良妻的存在の文か、

はたまた他の人か、

それとも誰とも付き合わないのか。

楽しみにしていて下さい。


予想付くかもしれませんが。


意見、感想、「こんな話を読みたい」などの要望がありましたら感想フォームまでお願いします。

また、出来ればこの拙作の評価をして頂ければ嬉しいです。

では(・ω・)ノシ

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