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夢と願いの学園恋歌  作者: surteinn
学園祭編
30/44

9月29日

 臨時の全校集会にて本格的な学園祭の準備が宣言された後、余った時間を利用して学園祭の話し合いが行われた。現在、喫茶店の名前と、各人の役割が決定している。店名は「ポップスター」、橘さんの立案だ。シンプルながらも活発な印象を持たせるそれは、大半のクラスメートの心を掴み、幾つもの候補の中から見事に選出された。今日を含めて、学園祭までの六日間。放課後の時間も使い、より質の高いものを目指そうと、クラス全員がやる気に満ち溢れていた。こういった催し物に対しては、俺らのクラスのみならず、学園全体が燃え上がる、盛り上がるのだ。イベントへの熱意は全国的に見てもこの学園が一番なのではないだろうか。改めてここに入って良かったと心の底から思う。

 さて、俺、神崎宗一に割り当てられた役割は力仕事と本番の裏方仕事だ。不満、不安共に無い。自分に出来る事、長所を遺憾なく発揮出来るのは、こういう立ち回りしかないと考えているからだ。俺は表立って動くのではなく、下から支える、他のサポートに徹する方が合っている。合い過ぎて奏からは「もっと自分を出すんだ宗やん。表に出ろ」と的を射ているようで、若干外れたコメントを残される程なのが、今の俺の改善点だ。奏の荒療治によって大分自分を出すようになったが、副産物として三バカの称号を手にしてしまったのは、正直頂けなかった。

 もう一方の力仕事に関して言えば、他の仕事よりも脳を使う割合が少なく、選ばれて心の内でガッツポーズを取ったぐらい、ある意味一番楽な役割であると思う。職としての力仕事は過激かつ辛いのだろうが、学園祭の準備だ、道端で倒れる程動き回らない筈だ。

 以上の二つが今回の仕事に対しての俺の見解だ。正確には二時間前までの俺の見解だ。何故詳細に記したのか、こんな少しばかり取り留めのない事を考えているかと言うと、そうでもしない限り精神が保ちそうにないからだ。

 何が道端で倒れる程ではないんだ。今にも倒れそうになっているではないか。

 「宗一。とろとろ歩いてないで、次行くわよ」

 「なぁ、楓」

 「何よ」

 「手加減をして頂けませんか?」

 買い物袋が右腕に五つ、左腕も同様、いずれも大きめの袋に目一杯材料や品が詰め込まれ、腕にめり込む程重い。そのまま腕を突き抜け、手首を切断されるのではないかと冷や冷やする。起こらないだろうけど。

 喫茶店で使用する物品の買い出しに駆り出され、近場のショッピングモールへと出向いていた。使用するといっても色々あり、食器類や装飾品、接着剤など、一か所では買い切れない。その上多くの店を見て選んだ方が良いと楓に連れ回される次第だ。生徒会や実行委員会に任せればいいじゃないか、と文句を言うと、「他人に任せたら、あたし達のイメージと掛け離れたものを選んで来そうじゃない。安くて質が良くて、イメージにぴったりな物を選ぶ為にも、自分の目で判断しておかなきゃいけないでしょ? お金は有限なわけだし、有効活用しないと」と至極真っ当な反論に、俺は口を噤む他無かった。

 「手加減? あたしは荷物を持って貰う為にあんた達を連れて来たのよ? それなのに持たせないなんておかしいじゃない」

 「だからもう少し減らせって。後ろで息絶え絶えでついて来る和志が不憫で堪らない」

 「……」

 ほら、普段騒々しい和志が、蹴り飛ばされても罵倒されても大概すぐ立ち直る強い根性を持ち合わせる和志が、一言も発せられないくらい疲労困憊していた。汗を滝の如く噴き出して、でも意地と根性で決して袋を手から放そうとせず、倒れようともせず、必死に足を踏ん張っていた。これ程まで力を振り絞る和志は初めて見た。

 「雑用だし問題ないわ」

 「鬼畜め」

 「和志は普段の行動に対する罰、宗一はあたしのスカートの中を見ようとした罰よ」

 「だから違うと言ってるだろ」

 根に持ちすぎだろ。しかも冤罪だし。

 「大丈夫だ、宗一」

 「和志、もう喋るな。死ぬぞ」

 「俺は決めたんだよ。今回の学園祭に俺の人生の全てを注ぎ込むってな」

 「和志……」

 いや、ほどほどに注ぎ込め。

 「ここで命が果てようとも、学園祭は、必ずや成功して、みせ、る……!」

 「お前って奴は!」

 何処まで阿呆なんだ。

 「下手な芝居を打ってないでさっさ運びなさい、変態」

 「楓、お前は鬼だ」

 自分の心の呟きを全て棚に上げて、俺は楓の言葉に異議を唱える。我が事ながら呆れるばかりである。

 「誰が鬼よ。早く持って行かせて、早く休ませようっていう慈悲の心に気付かないわけ? だから鈍感って言われるのよ」

 「そんなの知らない」

 「そう。なら無駄話はここら辺にしてさっさと戻るわよ。あまり皆を待たせると悪いし」

 すたすたと清々しい足取りで楓は先に行ってしまい、俺達は置いてけぼりを食わないよう懸命に追う。力仕事は楽だ、なんてこれから一生思う事はないだろう。絶対に。

 

 「疲れた」

 「あぁ、全くだ」

 教室へ全ての買い物袋を運び終え、二人共々床へ崩れるように座り込んだ。予想以上に体力と精神を消耗した体は、異常なまでに水分と休息を欲していた。幾ら涼しくなってきても長時間外で重い荷物を持って歩き回れば必然的にこうなる。これが残り六日間の内数回はあるのでは、と想像するだけでも、背筋が凍りつく程。全くもって空恐ろしい。

 「宗くん、木原くん。二人ともお疲れ様。楓ちゃんもいつもありがとう」

 「宗やんもミジンコフも大変だったねぇ。三人が居ない間、メニューとか飾り付けの位置とか決めたから今日はもうやる事なし! ゆっくり休んでいいよ~」

 グロッキーな俺らに文はタオルを渡してくれて、奏は団扇で風を送ってくれた。とても嬉しい心遣いに思わず涙が流れそうになった。奏が珍しく気の利いた行動を起こしたのも一因だろう。

 しかしながら、何故奏がうちのクラスの手伝いをしているのか甚だ疑問である。決して奏の所属する2-Cも学園祭準備で大忙しな筈だ。これについて訊くと、「わたしのやる仕事は全部済ませてきたよ。宗やん、このわたしが祭と名の付く行事に手を抜くと思ってたの? 甘い、甘いぜ宗やん。キャラメルソースのたっぷり掛かった特大アイスパフェが甘く感じなくなるくらい甘いぜ」と、したり顔で奏が堂々と告げた。トラブルメイキングする分の力を他に費やせば凄い奴になるのだと、常々思っているが、学生生活を送っている間は一時たりとも費やされずにいそうだ。

 「あと、はい。これは楓ちゃんからだよ」

 文は俺と和志に、それぞれ一本ずつペットボトルを手渡した。中に入っている飲み物は透き通るようで、黒色と焦げ茶色の濃淡が美しい。小さな幾多もの泡が容器の中で踊っており、パーティー等で振る舞われる理由も自ずと分かる。そう、中身はコーラだった。乾燥し切った喉に炭酸飲料というのは少々酷なものだが、乾きが癒されるのであれば、どうこう言うつもりはない。

 「楓様から?」

 「ミジンコフ、いつの間にメープルを崇拝するようになったの?」

 楓様という突然の発言に、奏は驚きと疑問が入り混じった声音になっていた。今回の場合、崇拝よりは従順の方が正確に表現されているのではないだろうか。和志の声色からは、まるで女帝にかしずくような色合いが漏れ出ていた。

 「ま、いっか。コーラは今日手伝ってくれたお礼だって。よーく味わって飲むべし、だね」

 「楓様。この御恩は一生忘れません」

 「大袈裟だな。でもありがたい」

 「やっぱり楓ちゃんは優しいね」

 軽口を叩きつつ、キャップを開ける。プシュッと空気が外へ飛び出す音がして、それが飲みたいという欲を掻き立てる。そして口に運び、一気に飲んでいく。案の定、突き刺すような強い刺激が喉に到来するが、水分を欲する体はお構いなしに、食道にコーラを流すように促してくる。渇いた喉の上で、炭酸の泡が弾ける、弾ける、何度も弾ける。口内から胃まで、まんべんなく特有の感触を味わう。爽快感が突き抜ける。

 「うめぇ」

 隣を見ると、和志も俺と同様、いや俺以上の速さでコーラを飲み干していった。あいつ、炭酸をよくあれ程速く飲めるな、と感心してから気付く。何を下らない事に感心しているのか。そんな純粋に目を輝かせてしまった自分自身に苦笑する。まだまだ幼い部分が残っているものだ。

 それにしても炭酸飲料は久方振りに飲んだ。近頃は麦茶、緑茶、紅茶とお茶くらいしか飲んでいなかったからか、改めてコーラを口に含むと、懐かしさが胸から沸き起こる。毎日飲むのは体にはあまりよくないとは思うが、たまにこうして飲む分にはいいかもしれない。

 「ぷはっ! 仕事の疲れが吹き飛ぶぜ。一仕事した後のコーラは堪んないなぁ」

 「和志、お前、おっさんくさくなったな」

 「頭の中身がミジンコなのに、発言がおっさん。ミジンコフの生態系は謎に包まれてるのであった」

 すかさず和志を弄る俺と奏。

 「最近思うんだ。皆俺が嫌いなのか!?」

 そして日を追う毎に不憫さが増していく和志。

 「奏ちゃん。真実を言っちゃダメだよ?」

 「さりげなく真実とか言わないで、桜木さん」

 「真実はいつも残酷」

 「おい、宗一。さりげなく惨い事言うなよ、ってか誰か俺を助けてくれよおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」

 尾を引くように声が小さくなるにつれて、和志が床に崩れていく。ついには床にうつぶせで寝ている状態となり、ぴたりと動かなくなった。和志だからという理由で、ついついやり過ぎてしまった。次からは優しくするよう注意するか。

 「宗一なんて右足の小指を箪笥の角にぶつけて倒れてしまえ」

 「地味な呪いを掛けるな」

 じわじわと凄まじい痛みがやってくる感覚は味わいたくない。

 「話変わるけど、楓は何処に行ったんだ?」

 「今日使用した金額と近況を報告しに生徒会室に行ったよ。まだ居るんじゃないかな。あと、用事が済んだら直ぐに帰るから、各々帰っていいわよって言ってたよ」

 和志は放置しておき、俺が楓の居場所を訊ねると、文がすぐに答えてくれた。

 「つー事は、今日はこれで解散なわけか。ハードな一日だったぜ。にしても宗一。お前、運動部でもないのによく体力保つよな。俺、現在進行中少しも体を動かせないんだけど」

 和志は体を起こし先程の態勢に戻すと、未だ流れの止まらない汗をハンカチで忙しく拭いた。

 「一応体はちょいちょい鍛えてるからな。一時期毎朝走ってたし」

 これに対し、奏が深く感心した。

 「へー。って事は、文っちが怪我した時も運べるね。お姫様抱っこで」

 「お、お姫様抱っこ! ちょっと奏ちゃん、何を言って……」

 文の顔が見る見る内に、リンゴのように真っ赤に染め上がっていく。顔を俯かせ、必死に赤面を隠そうとしている所が妙に可愛らしい。奏も同感のようで、

 「文っちのラブリーな姿を拝んだし、メープルのお言葉に甘えてわたしは帰るね。あ、そうだ。パフェ食べに行く人挙手!」

 と文の初々しい反応に満足げに頷き、奏は急遽パフェを食べる案を持ち掛ける。例に漏れず気分的に思い付いたのだろう。きっと疲れたから糖類を補給しようとか思ったに違いない。

 体が疲れた際に甘いものを欲する事がままある。これは体内の血糖値が下がったが為らしい。実際はあまり効果はなく、むしろ逆効果だと言われている。詳しい事は専門家ではないし、特に興味もない上に、疲れたから甘いものを食べるという考えが俺の中にないので、全くの無駄知識である。これをわざわざ口には出さない。空気を壊すのは避けたい、というか言っても良い方向には流れないから。

 「パフェねぇ。悪い、俺はこのまま帰るわ。さっさとベッドに飛び込みたいし」

 「ごめんね。わたしも晩御飯の支度があるから」

 「むぅ。愛する夫への料理の為ならば仕方ないね。よし、ミジンコフ。一緒にパフェ食べに行くよ」

 「いや、俺は疲れてるんだって。マジで」

 「んー、了解。風呂に入ったら湯冷めしない内に早く寝るんだよ」

 げんなりした顔の和志に、さすがに強引に連れ回す訳にはいかないと、奏は一歩身を引いた。

 「そっかぁ。じゃあ宗やんでいいや」

 「何で俺は投げ遣りなんだよ」

 そう答えると、途端に奏は目に溢れんばかりの期待を満たし、きらきらと輝かせた。

 「ってことは来てくれるの?」

 「いや、ちょっと調べ物があるから、しばらくここに残る」

 「ちぇー、ざーんねん」

 全員と予定が合わないからだろう。声の明るさとは反対に、奏は大変つまらなさそうな、寂しいような表情を見せる。遊園地で楽しんでいた子供が帰る時に見せる表情に似ている。

 「やっぱり真っ直ぐおうちに帰ろっかなぁ……いやいや、落ち着くんだ笹野奏。このわたしが何もせずに真っ直ぐ帰宅する? 違うよね。ノン、だよね。退屈と思ったままじゃなくて面白い事を実践していかないと! うん、残り少ない学園ライフを満喫し尽してこそ学生! そうだ、学生の本分は遊びじゃあ!」

 珍しく大人しくなった、と次の瞬間には普段の、違う、それ以上の暴走を奏がし始めた。狂い過ぎて熱血さも滲み出ているようだ。キャラが壊れ始める前触れだろうか。

 「いきなり何を言い出すんだよ、奏。落ち着け」

 キャラを修正するのも兼ねて、俺は奏の、著しく上がったテンションを抑えるべく、奏の両肩を掴んで落ち着くように促す。

 「奏ちゃん、学生の本分は勉強だよ」

 文も俺の発言に乗っかる。

 「今を楽しまないとダメでしょ? 後悔は先に立たずっていうし、ぶっちゃけ将来何とかやっていけそうな気がするし。さてと、ここはゲーセンで駄菓子大量争奪に向かうべきだよね。みんな、わたしも用事が出来たから先に帰るね。宗やん、調べ物頑張ってね。ほんじゃらば~」

 またもや突発的なイベントを自己開催し、意味不明な言語を残し、台風少女は夕方の街へと繰り出した。

 「早めに家に帰るんだぞー」

 和志の声は恐らくあいつには届いていないだろうな。

 

 文達が帰った後も胡坐を組んで座り、一人もくもくと作業を続けていると、楓が教室に現れた。抱えていた幾らか丸め筒状になったB紙と腕からぶら下げているビニール袋を教卓に置くと、楓がこちらに歩み寄って来た。俺の机と教卓の位置関係は約三席分の距離で、さほど離れていない。教師側から目に留まりやすい、または当てられ易い代わりに、黒板がよく見える比較的良好な場所でもある。前から三段目かつやや中央寄り。素晴らしい。余談ではあるが、隣の席であり、最良の、中央の列かつ三段目の席に座るのは我が幼馴染、文だ。

 「宗一、どうしたの。別にそれは明日にまわしてもいいのよ? 今日は疲れてるんだし、というか疲れさせちゃったし、家に帰って早めに休みなさいよ」

 楓は近くの机に飛び乗り、少し開いた足と床の空間を持て余すように、ぶらぶらと足を揺らし始めた。心なしか楓の気分が良さそうだ。

 「はぁ、疲れさせた自覚はあるんだな」

 恨みがましそうな目をし、ちょっと嫌味を含めた発言をしてみる。当然楓は気付いている筈だが、あえてここには触れず、彼女自身の感想を恐らく直截述べた。

 「あるわよ。もう、変な所で真面目だなって感じただけよ」

 「普通に真面目と言って欲しかった」

 「三バカの中では真面目ね」

 「本当にやめてくれ。心が、折れる」

 「あらあら。三バカ唯一の良心は案外心が脆いのね。良心だからこそ、かしら」

 楓は俺が落ち込む様子を見て、あはは、と満面の笑みを浮かべやがった。真正のサディストとは楓のような人物を言うのだろう。

 「で、もしかして、あたしを待ってくれてた?」

 「どうしてだ?」

 「別に、何となくよ、何となく。まあ反応を見る限り外れってわけでもなさそうね」

 「分かり易いって言いたいのか」

 「行動が単純なのは事実ね」

 きっぱりと告げるのが楓の良い所でもあるが悪い所でもある。もう少しオブラートに包んだ物言いが出来れば、文句無しの完璧少女なのに。いや、まだ暴力という不要な物も付いていたな。

 「でも嬉しいわ。ありがとう。やっぱり一人きりの教室って結構寂しいのよね。皆楽しく、友達と一緒に帰ってるのに、何であたしは仕事しなくちゃいけないんだろう、って時々愚痴を溢したくなる」

 楓がふと漏らした台詞は意外なもので、その顔はつまらなさそうな、寂しいような、帰り際に見せた奏の表情に似ていた。

 「今溢したな」

 「そんな気分なのよ」

 足の動きを止め、さっきとは反対に、飛んで床に着地すると、楓は教卓に乗せたビニール袋から箱を取り出し開封した。縦十二センチ、横四センチくらいの箱を上下にスライドさせると中から球状のチョコレートが幾つも転がり出てきた。

 「ほら、食べなさい」

 前屈みになり、優しい笑みを浮かべ箱を差し出す楓。左側から夕刻の光が降り注ぎ、儚さと神々しさ、優艶さが合わさり、我とは無しに心が奪われる。

 「あ、ありがとう」

 多少どもりながらも感謝を伝え、手を皿にしてしっかりとチョコレートを三つ受け取る。一つ口に放り込むと、カカオ独特の苦みと、仄かに感じる甘みが口いっぱいに広がる。

 「旨い」

 「そう。あげた甲斐があったわ。」

 しばらく二人で歓談していると、楓が珍しくある提案をしてきた。それは。

 「文化祭終わって、一通り落ち着いたらお疲れ様会でも開かない? 各自サンドウィッチとかお菓子とか持ち寄って。奏や三条さんがやってるって聞いて、結構羨ましかったの」

 「二人で? 皆で?」

 極自然に疑問に思ったので訊ねると、楓は顔を赤らめて「皆に決まってるでしょ、このバカ!」と、音が鳴る程勢いよく頭を叩いてきた。痛い。微妙に痺れるような痛みが左側頭部を襲う。数少ない脳細胞が死んだらどうする、と反撃に出ようとしたが、そもそも日々脳細胞は死に、新しい脳細胞が生まれるので、あまりよい口実にはならない。仕方ない。この件は諦め、話を進めるとしよう。

 「皆って事は、奏、文、和志、宙も呼ぶのか」

 確認するように言うと、楓は近くから椅子を引っ張り出して、ふぅと息を吐きながら座る。丁度スカートの中が見えそうになり、目を逸らす。気付かれたら終わりだ。仕方がなしに、疲労が抜け切らない足を奮い立たせて、俺も着席した。

 「三条さんも忘れずにね。彼女には裏方で色々やって貰ってるし。でも集まれるかしら。全員に一度訊いておかないといけないわ」

 「俺も含めて、ほぼ全員暇人だから大丈夫だと思うけどな。何かするにしても、大体俺らと一緒にやるし、奏に至ってはほぼ百パーセント巻き込むからな。誘えば乗るんじゃないか」

 楓はしばし熟考すると、「何はともあれ、一応断りは入れないとね」と半ば賛同した意思を示す。

 「場所は憩いの森でいいかしら。勿論、仮決定だから後で変わるかもしれないけど」

 「この辺で考えるなら、そこで妥当だな。大所帯であそこに行くのは初めてだし。新鮮な気持ちで過ごせるかもな。広いし、芝生もあるから、のんびりと寝てられる」

 「そよ風でも浴びながら、うん、いいかもしれないわ。場所に関しても訊いておかなくちゃ。あ、宗一は文と宙をお願いね。奏と和志、三条さんにはあたしから伝えておくから」

 「了解。本当、決まってすらいないのに、今から楽しみ」

 「えぇ、本当に、ね。お楽しみ会を楽しむ為にも、張り切って学園祭を成功させないと。さてと、覚悟はいいかしら、宗一。今日以上にこき使うわよ」

 そうして自身に満ち溢れ、遥か先の未来を見据えているような強い瞳が俺を射抜く。楓のあり方はとても眩しくて、輝いていて。羨ましいという気持ちと共に、一つの言葉が心の中から浮かび上がった。友達で良かった、と。

 「お手柔らかに」

 笑い合う。ゆるりと流れる時間。橙色の陽光を浴びながら、いつまでもこうして笑い合えたらいいな、いつまでもこんな関係が続けばいいな、とらしくもなく感慨に耽った。


ここで宗一は楓を完全に友達として見ているのを書いてみました。

楓は宗一の事をどう思っているのか分かりませんが、恐らく好意的には見ているんでしょうね。


感想、意見、要望があれば、感想フォームまで。

あと出来れば文章とストーリーの評価をして頂けたらと思います。

では(・ω・)ノシ

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