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夢と願いの学園恋歌  作者: surteinn
日常編
15/44

      (2)

 「文先輩。いつまでそうしてるんですか?」

 惨劇にひとまず終止符が打たれ、場の雰囲気が若干和らいだところで宙が文に問うた。突然名前を呼ばれたからか、文はびくりとする。

 「そ、そうしてるって?」

 「いえ、一緒に泳ぎに行かないのかと思いまして」

 確かに、登場してから文はバスタオルを身にまとったままであった。単に寒いだけならパーカーを着ればいいし、もしかしたら先日の買い物で、奏に余程派手な水着を買わされたのかもしれない。奏は……既に復活して楓と仲良く戯れていた。ビーチボールをぶつけ、投げ返し、避けて、蹴って、追い掛け回して、と凄まじい攻防戦を繰り広げている。

 「体調悪いんですか? だったら休んでおかないと」

 「ううん。違うの。心配してくれてありがとう、宙ちゃん」

 文は微笑み宙にそう返した。

 「ねぇ、あ、あのね、見ても、笑わないでね」

 文が恥ずかしそうに、顔を伏せ消え入るような声で伝えた。恐らく、というか絶対に自分自身の水着姿の事を言っているのだと分かった。

 「何言ってる。んな失礼な事しないって」

 その言葉で決心がついたのか、勢いよく文は立ち上がり、「それじゃあ、いくよ」とバスタオルを持つ手を離した。

 バサリと音を立てレジャーシートの上に落ちるタオル。

 さらけだされた文の全身。

 文が着ていたのは、

 「どう? 似合う、かな」

 紫色のパレオだった。

 無地の淡い紫色、しかし文の魅力を引き立てるのには十分だった。

 つるりとした脚、心配になるくらい細いすっきりした腰、綺麗に整った双丘、さらさらとした長い茶髪。全ての均衡の取れた身体は、幼馴染の俺でも目を奪われてしまうくらい美しかった。

 心臓が高鳴る。

 何も言えず立ち尽くしていると、文の目は潤み始め、「やっぱり似合わないよね」とまたタオルを羽織って隠そうとした。

 「い、いや。すごく似合ってるよ!」

 「ほんと?」

 「本当だって」

 「でも無言になった」

 「あれは、その、見惚れたというか、何と言うか。すごく、かわいかったからさ」

 顔全体が真っ赤になっていくのを感じつつも率直な感想を口にした。途中で気恥ずかしくなってしどろもどろになった上に、徐々に声が小さくなってしまった。

 「……」

 「……」

 けれども文の耳にはきちんと届いたようで、俺に負けないくらい赤面している。

 気まずい沈黙が流れる。それを破ったのは宙だった。

 「先輩!」

 いきなり大声を出され驚いた俺は大きく飛び跳ね、情けなく地面に尻餅をついてしまった。見上げるようにして宙へ顔を向けると、面白くなさそうに眉を寄せ、頬をぷくっと膨らませ、不機嫌オーラが宙の全身から迸っていた。

 「早く行きましょう。遊び時間がなくなります」

 「お、おう」

 有無を言わせないその威圧感に、俺は黙ってコクコクと頷くしかなかった。

 

 

 「さて、これから海に突入するわけですが」

 「うん」

 文が相槌を打つ。やけに真剣に話を聞いている。

 「海に入る前にやらなくてはいけない事が二つあります。一つは準備体操です」

 「俺は既に済ませてある」

 「わたしはまだかな」

 「もう一つはコレです」

 そう言い、予め用意しておいたのか、宙は小さなプラスチックケースを二つ取り出した。どちらも手のひらに収まるサイズで「SUNOIL」と書かれていた。

 ……ん? サンオイル?

 「というわけで先輩。わたしの背中にサンオイルを塗ってください」

 「文。塗ってやれ」

 「文先輩ではなくて宗一先輩に塗って貰いたいんですが」

 先ほどとは全く違う類の沈黙が流れた。

 サンオイルを俺が宙の背中に塗る。つまり、俺のちょいとゴツゴツした手が、宙の真珠のように白い素肌に触れるという事になるのか。思春期真っ盛りの俺が? 女の子と付き合った経験の無い俺が? 無理だ。

 「断る」

 「そ、そうだよ! 宙ちゃん。わたしがやるから」

 「文先輩」

 異様に慌てふためいて止めようとする文に、宙はいたって真面目な顔で、真っ直ぐ文の目を見る。

 「文先輩も日焼け止めを塗って貰えばいいじゃないですか」

 そして爆弾を落とした。

 「待て待て待て。おかしいだろそれ! 文、何でその手があったかみたいな顔をしてるんだ。いいか、絶対にやらないからな。意地でもやらないからな。ってそんな悲しい顔をするな。宙! ふざけた事を言うな!」

 「わたしは本気で言ってます!」

 「尚更たちが悪い!

 最大の力を振り絞っての反論は俺の体力を大幅に削った。

 「本当にお願いします」

 「無理だ」

 「背中だけでいいので」

 「背中以外の場所を塗らせようとしたのか」

 「宗くん」

 「却下」

 「まだ何も言ってないよ!?」

 「埒が明かないです。こうなったらあの方をお呼びするしかないようですね」

 このままでは千日手になると悟ったらしい宙が切り札を切ると宣言した。あの方? 嫌な予感しかしない。

 「奏せんぱーい!」

 「やっぱり!」

 「呼ばれて飛び出て地球滅亡! 笹野奏、ただいま参上! 唯我独尊、自分勝手、問答無用とはわたしのことだあ!」

 宙の声を聞いて、楓と交戦中であった奏は、楓を海に放り投げこちらへ走り寄って来た。

 「さぁ、話は全て聞いてるよ」

 「聞こえてたのか」

 「世の中の面白い出来事全てがわたしの耳がキャッチしなくともないのだ」

 「意味が分からない」

 宙が期待に目を輝かせ、文は目を瞑り妄想の世界へと羽ばたいていた。

 まずい。冷や汗が頬を伝って落ちた。このままでは誰かしらの背中に直に触れることになる。女の子の、肌に、触れる。もしそうなったら、正直言って理性を保てるかどうか分からない。何か間違いを起こす気は無いが、出来る限り要因から遠ざかる必要は十二分にあるはずだ。そこでふと思い浮かぶ顔。唯一の救いの女神、楓は何処にいる? この状況を打破するのは彼女しかいない。

 「かえ、で」

 視線を向けた先には、海辺でうつ伏せのまま倒れている楓がいた。完全に力尽きていた。

 「決め方は簡単! じゃんけんで勝利した人が宗くんに日焼け止めを塗ってもらう。これでオーケー?」

 「オーケーじゃねぇよ」

 「賛成です」

 「ぜったいに勝つからね」

 「待て。俺は大反対……」

 「最初はグー! じゃんけんポン!」

 もうどうとでもなれ。


最近悟ったこと。

この小説、卒業までに書き終えられなさそうだ。


誤字脱字、意見などがあれば、感想の方までご一報お願いします。

では(・ω・)ノシ


奏「久々のこのコーナー!」

文「ちょっと緊張するね」

宙「さぁ、じゃんけんに勝ったスーパーウルトラデラックスハッピーな人は誰か」

奏「次回『宗やん、理性が崩壊する、の巻』」

宗「しないから」

宙「先輩、激しかったです」

宗「誤解を招くようなことを言うな!」


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