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舞姫の眷属  作者: 拓里
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序 章

序 章



俺の名は、神崎拓也。水流園つるぞの流舞踏宗家の分家である神崎流の三男坊

水流園つるぞの流は戦国時代に虐げられ、犯され、なすすべもなく殺されていく女達の為に編み出された舞踏と聞く。その動きは華麗にて優雅、見るものを引き込まずにはいられない妖艶な『舞』されどその本質は『武』にある。わが身を守り愛するものを守護する『武』。その『武』極めれば一騎当千とまでいわれ恐れられたが、戦国時代、乱れた国を愛し守護する訳もなく、戦場にて全く役に立たない『武』であったために、時代の表舞台には出る事はなかった。



◆ ◆ ◆



ヒュ~ド~~ン 今日は、俺の街の花火大会。いつもは静かなこの街も、この日ばかりは近隣から多くの人が集まり賑やかになる。


「兄様 今年の花火も綺麗ね~」


などと、ほざきながらその両腕を俺の左腕に纏わりつけている。気のせいか?俺の左腕に胸を押し付けていると感じるのは勘違い?確認の為にと聞いてみると


「うう~ん 態とだよ。いいじぁない一緒にお風呂にはいる仲だし~♪」

「いつの話してる? それ昔、昔大昔、お前が赤子のころだろが~~」


この天然娘、名を水流園つるぞの 舞。俺より3歳年下の17歳、水流園舞踏宗家長女であり、次期当主(予定?)でもある。黙っていれば美人なんだろうと思う、凛とした美顔に細く切れ長い眉が、切れ長の瞳に似合い、髪は漆黒で長い後ろ髪をリボンにて螺旋巻きに固定して、長く垂らしている。白い肌は肌理が細やかで透き通っているかの様だ。黙ってさえいれば何処かの姫と言われても納得するが そう黙ってさえいれば・・・



「どうしたの?兄様? そんなに見詰めて、惚れ直した?」

「舞、『惚れ直した』の意味は、好きだった人を、もっと好きになった時に使う言葉だと思うが、幸か不幸か俺は舞の事を、惚れたと思ったことはないぞ」



「・・・チェ」



ん?舌打ち?いやいや幻聴だろ、最近俺疲れてるし・・・

舞は理解しているのだろうか俺達の関係を・・・幼馴染であり同じ流れを汲む一派ではあるのだが、それ以上に俺と舞には・・・・・・





◆ ◆ ◆



「舞、そろそろ始めるぞ」

「うん、わかった」


俺達は今、花火大会中は立ち入り禁止区域になる、街が一望できる霊山の中腹にあるお堂にいる。花火大会中は街の人口が数倍になり、賑やかになるのはいいのだが、厄介なのは人の思いである。人は善意と同じ量の悪意を持つ生き物であり、陰陽道で言う殺生 偸盗 邪淫 妄語 飲酒 の五悪の悪意もこの街に

入ってくる。人一人の小さな悪意も多く集まれば五悪に為りかねない。そして人は悪意に目覚めると、より大きな悪意に引き寄せられ集団を作り、やがて街を侵食していく。表向き煌びやかで華やかに見える世界、裏に廻れば魑魅魍魎のすむ世界。必要悪だと言う人もいるが少なくとも霊山の麓、街の守護者、水流園つるぞの流舞踏宗家がいる地では必要ない。、ならば花火大会なんかしなければいいと思うのだが、街の人が楽しみにしてるし、経済効果とやらで街が潤うので中止はできないらしい。

そこで街の守護者である水流園つるぞの流舞踏宗家が、毎年『浄化の舞』を奉納している。ここ数年、俺と舞がその任にあたっている。



「ピィヒュ~ピィヒャラ~ピィ~」


俺は篠笛(竹の横笛)を吹く。その音色は甲高く鋭くもあり、また暖かく柔らかくもあった。神崎拓也の吹く篠笛はお堂の周りの音を打ち消していく

虫の鳴き声、鳥の囁き、そう今まで鳴り響いていた花火の音さえも打ち消していく。今、霊山は篠笛の調べ一色に染まっている。その調べは街の人々の

耳に届く事はないが、その魂に静かに、そして深く浸透していく。


一方、舞は巫女衣装に身を包み、お堂の中央で眼を閉じて、その調べに身を任せている。そして音色が人々の魂に浸透していくのを感じると一対の扇を開き

両手を天に掲げる。『浄化の舞』の始まりである。『浄化の舞』は水流園つるぞの流舞踏の基礎であり又奥義でもある。その動きは水の流れにあり

優しく静かに舞う姿は、せせらぎを現し人々の苦しみや悲しみをそっと包み込む。激しく舞う姿は滝壺に落ちる水を現し、人々の嫉妬、妬み、憎悪を

洗い流す。その想いを『霊波』に変え、神崎拓也の吹く篠笛の調べに乗せて人々の魂に送り込む。約一時間程、華麗に『浄化の舞』を舞う。

そして・・・



「ハァハァハァ・・・ごめんなさい」

「謝ることはない去年より数段上達している。がんばったな」


そう舞は、去年より格段の進歩をとげている。しかし『浄化の舞』は奥義でもある。次期当主(予定?)でも完全に習得するには後数年はかかるだろう

それに今年は例年に比べ大幅に見物客が増えている。この街の花火大会に来ると、気持ちが落ち着くとか、体の調子が良くなる、心が洗われるなど

近郊の街々では囁かれ、一部都市伝説化されているみたいだ。



「後は俺がやる。舞、篠笛を頼む」

「はい・・・お願いします・・・」


俺は舞う予定ではなかったので、黒のシャツ、黒のズボンと一振りの小太刀。その出で立ちでお堂の中央に立つ。我が神崎家には『浄化の舞』はない

神崎家が得意と磨るところは『剣舞』


「神崎流師範、神崎拓也、小太刀の舞壱式『阿修羅』参る」


神崎家、家宝刀雷丸いかずちまるを一閃、同時に篠笛から、雷鳴のごとく激しく、鋭い音色が辺りに響き渡る。『阿修羅』に浄化の作用はない

悪霊 悪鬼 魑魅魍魎を滅する剣技。対極図の『陽』を司る水流園つるぞの流、『陰』の神埼流。神気と邪気、又は正義と悪と言い換えても

いいだろう。悪しき心に染まりし者は、どんなに大きな正義にも(れ伏す事はない、己が滅するその日まで、平れ伏すのは、より巨大な悪(恐怖)のみである。ならば悪しき心に染まりし者に悪(恐怖)を、それが神埼流の教えであり使命でもある。



雷丸に邪気を籠め舞う。そして一気に街に放つ



「 オンキリキリバザラウンハッタ 万魔拱服!」



身震い磨る物、我が身の両肩を握り締め蹲る者、失神磨る物。舞の浄化を受け入れなかった者の心に恐怖を植付ける、それが『阿修羅』

ま、俺も舞も、それほど強い『念』を送り込んではないので街を離れ暫くすれば、元に戻るのだが・・・人の心とは摩訶不思議である。

後日談ではあるが、新たな都市伝説が囁かれたのを、二人は知る良しもない・・・



◆ ◆ ◆



「・・・おつかれ・・・兄様」

「舞も、ごくろうでした。来年は俺の手を煩わさないようにね」

「・・・はい・・・精進します・・・」


悔しかったのだろう、舞は俯いたまま、右手に拳を作り握り絞め、小さく肩を震わせている。

舞の年齢なら、ここまで出来る事事態すごい事ではあるのだが・・・


「じぁ、帰えろうか。まだ祭りもやってるし、お土産でも買いにいく?」

おごり?」

「いいよ。でも屋敷の皆のおみや・・・・・」

「兄様~ 舞は、たこ焼き いか焼き クレープ りんご飴 それから~ 焼きそば 東京ケーキそれと・・・etc・・・」

「・・・」


俺は、屋敷の皆にお土産を、買って帰ろうね。と言いたかった。が瞳をキラキラさせながら、満面の笑みを俺に向けてくる。


(え?? 今まで悔しかったんじぁないの?肩震わせてなかった? あれ演技?・・・でも・・・ちくしょう~可愛いじぁね~か)



だが問題がある。女性は奢りに弱いの?、舞だけ? たぶん舞だけだと思いたい・・・ 兎に角、舞は『奢り』の単語が大好きだ其れを聞くと

舞の胃袋は、ドラエモンの異次元ポケット状態になる。怖いよ~


「舞 すまぬ。そこまで持合せがない・・・」

「いいよ~貸しといてあげる~♪」

「え??」


普通そこは、じぁ、自分の分は出すね。 とか言わないの?俺が変なの? その辺りをやんわりと聞いてみると


「う~ん 私の座右の銘は『おごれる者にはわらをもすがれ』だから、いいの」


舞、微妙に違うと・・・いや明らかに間違ってるぞ。俺はツッコミをいれたい・・・だがぬかに釘、豆腐にかすがい

馬の耳に念仏、暖簾のれんに腕押し、柳に風・・・そう、言っても無駄なのだ。過去の経験で嫌と言うほど味わっている・・・

俺は肩を落とし頭を垂れお堂を出ようとした・・・


「舞!!」

「はい!」


舞も気づいている、異質な気配。俺は舞を俺の背後に下がらせ、雷丸に手を添えて構える。

獣でもない、人とも微妙に違う、悪霊、悪鬼、魑魅魍魎の類でもない。


「何者!」


「・・・・・・ミ・ツ・ケ・タ・  ヤ・ッ・ト・ミ・ツ・ケ・タ・」


「誰だ! 何用だ!」


俺は異質な気配に向かって雷丸を抜刀しようとする手を、舞が押さえて


「待って兄様、邪悪な気配ではないわ」


それは俺にも解かるが、しかし危険がない分ではない、守護する者として、多少でも危険があれば排除する、それが俺の使命でもある。

俺は前に出ようとしたが


「下がりなさい兄様、これは『めい』です。」


主の『命』は絶対である。俺は、ある事件で舞と眷属の契りを交わしている。俺と舞は幼馴染でもあり、主と守護者でもある。


「・・・御意」


「で、あなたは誰なのですか?私達に何か御用ですか?」

「助・け・て・・・お願い助けて・・・私を、私達を私達の世界を・・・」


それはお願いと言うよりは、悲痛な、心からの懇願に聞こえた。が眷属である俺には響かない。舞以外の事で叶える気どころか聞く耳すら持合せてない。

それどころか俺は、『溺れる者は藁をも掴む』これが正しい言葉で今みたいな時に使うんだよ、舞。などど考えていると


「いいよ! 助けてあげる」

「・・・ア・リ・ガ・・トウ」


「待て~ 舞、はやま・・・」




俺が言い終える前に、俺達を眩しい光が包みこんでいた。やがて光が消えたお堂には二人の姿はなかった・・・・




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