別れを告げる
喫茶店のテラス席で瑠璃はカフェラテをゆっくり口に飲みながら、遠くに小さく見える観覧車を眺めていた。店の外は昼過ぎなのに薄い雲に覆われ、薄暗く観覧車がどこか不気味に見えてしまう。
あの観覧車で、剛志に「瑠璃のこと、幸せにしたい」と告白されて、付き合うことになった。その乗り物が、今日から別れの思い出に変わるとは思わなかった。
剛志と付き合って2年経つ。今日、別れを告げるために、剛志を呼び出したが、30分経っても来る様子はない。スマホを見ても、何の連絡もこない。
これまでもそうだが、待つのはいつも瑠璃だ。遅れてきても悪びれた様子もない剛志の態度に嫌気がさしていた。
最近はデートもファーストフード店などで軽食の食事を終わらせて、瑠璃の家でマンガなどを読んでダラダラと過ごすことが多かった。だからもう、終わりにしたい。こんな店で会って別れを告げるのではなく、メッセージなどで告げてもいいのだが、一度会って、はっきり別れを告げたかった。
ブルル ブル ブルルとスマホが揺れて、画面を見ると、剛志の番号からだった。
「何?いつ着くの?」
瑠璃は待たされて、もう好きでもない剛志に対して怒りが込みあがってくる。
「あの…」と女の声がした。知らない女性が出て瑠璃は息を呑んだ。
「誰ですか?」
恐る恐る聞いた。
「すみません。石川瑠璃さんのスマートフォンでお間違えないですか?」
「そうですけど」
なんで私の名前を知っているのだろう。
「警察のものなんですが、今お話できますか?」
「えっ??」
「辰巳剛志さんをご存じでしょうか?」
「知ってますけど…何かあったんですか?」
「辰巳さんが、車に撥ねれて亡くなりました」
「どういうことですか?」
状況を掴むこととかできない。
「そのことで、お聞きしたいことがありまして、ナホリ警察所に来てもらえませんか?」
瑠璃は全く状況が掴めていない。それに、別れを告げた相手のために、警察所に行く必要性はあるのだろうか。
「なぜ、私が行かないといけないんですか?」
「一応お話を聞きたくて、無理にとは言いませんが、来てください」
なぜか圧をかけてくる。何か分からないが、瑠璃は何か疑われるのだろうか。
「分りました」と電話を切って、瑠璃はここからタクシーで、ナホリ警察所に20分ほど離れた向かくことにした。
ナポリ警察所に着くと、入口付近に瑠璃と同じぐらいのスーツを着た女性が立っていた。
女性に「さっき、私に電話したのはあなたですか?」と聞くと「いえ、違います。こちらにどうぞ」とあっさり言われた。
部屋に案内され、他に誰もいず、警官の女性と2人きりだった。
「どうぞ、そちらにおかけください」
促されるままに、椅子に座る。
「この女性を知っていますか?」と写真を見せられて、見覚えのない人だった。
「知りません」
「この女性は、新崎ほのかといいます。辰巳剛志はを階段から突き落として、殺害しました。」
まったく状況が読めない。突き落とし、殺害…。電話では車に跳ねられてと言っていた気がする。
「電話をしたのは、新崎です。」
「はい??」
目の前の女性を凝視して、何も考えられない。新崎という女はなんで、私に電話は何がしたかったのだろうか。
「困惑しているようですが、この新崎も、先ほど、自ら命を絶ちました。」
瑠璃は絶句した。情報が多くて混乱してくる。
「何で、その新崎という女は私に警察に行くように言ったですか?」
「これは私の憶測に過ぎませんが、辰巳剛志さんの殺害を石川さんに押し付けるために自首という形で警察所に行くように言ったのではないのかと思われます」
「でも、私ではないと、分かったですよね」
「はい、新崎が辰巳剛志を階段から突き落としたことを目撃した人から通報があったので」
「それで、私はどうすればいいのですか」
「何もしなくいいです。今日はお帰りください」
女性は何かあれば、また連絡しますと言われ、警察所を後した。もう、辰巳剛志には会うことはない。別れを告げることもないし、会うこともなくなった。辰巳の家族からお葬式に出てほしいと連絡は来たが、断った。もう関わりたくない。




