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捨てられ令嬢は、静かに幸せを取り返す  作者: ぷく


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9/20

焦る過去、芽生える現在

王都の屋敷で、アドリアンは机を叩いた。


「なぜ、そんな報告になる!」


差し出された書類には、はっきりと書かれている。

――辺境領地、収益安定。領主エリス、管理能力良好。


「……無能令嬢、だったはずだろう」


側にいた恋人は顔をしかめた。


「視察団にいた騎士が、かなり高く評価したみたいよ」


「騎士?」


「第三隊のレオン・グレイ」


その名前を聞いた瞬間、アドリアンの眉が動いた。


(王都でも、真面目で有名な男じゃないか……)


さらに追い打ちのように続く報告。


「……そして、税務調査の予告も来ています」


「なに?」


「辺境との取引と比較して、こちらの帳簿に不自然な点があると」


アドリアンは唇を噛んだ。


(あの女のせいで……)


彼の胸に浮かぶのは、かつて切り捨てた婚約者の姿だった。



その頃、辺境の村では。


エリスは畑の前で、土を見つめていた。


「ここ、少し水はけが悪いですね」


「溝を深くしますか」


隣に立つレオンが、鍬を持って言った。


「騎士なのに、農作業まで……」


「剣と同じです。使い方を覚えれば、役に立つ」


そう言って、黙々と掘り始める。


その背中を見て、エリスは思った。


(王都の人たちは、結果しか見なかった。

でも、この人は……過程を見てくれる)


「レオンさん」


「はい」


「どうして、ここまでしてくれるんですか」


彼は少し考えてから答えた。


「……あなたが、誰も切り捨てないからです」


エリスは驚いた。


「土地も、人も、無理をさせない。

そういうやり方をする領主は、王都には少ない」


彼は土で汚れた手袋を外した。


「私は、強い人に仕えるより、

正しい人に仕えたい」


その言葉が、胸に染みる。


「……ありがとうございます」


「礼を言われることでは」


だが、彼の耳は少し赤かった。



昼休み。


村人たちが二人を見て、ひそひそ話す。


「領主様と騎士様、仲がいいね」


「お似合いだ」


エリスは顔が熱くなる。


「ち、違います」


「仕事です」


同時に言って、目が合った。


「……」


「……」


どちらからともなく、視線をそらす。



夕方、王都から手紙が届いた。


封を開いたエリスは、静かに息を吐いた。


「元婚約者の家が、正式に調査されるそうです」


「……そうですか」


レオンは、短く答えた。


「あなたは、どうしたいですか」


「……もう、関わりたくありません」


エリスは、はっきり言った。


「私は、ここで生きます」


レオンは頷いた。


「では、私はここを守ります」


「……守る?」


「あなたの領地と、あなた自身を」


その言葉に、胸が強く打たれる。


「騎士として、ですか?」


「……個人的にも」


一瞬、風が吹いた。


沈黙の中で、エリスは小さく笑った。


「それは……心強いですね」



同じ頃、王都。


アドリアンは、調査官に囲まれていた。


「不正な契約について、説明していただきます」


「違う、これは――」


言い訳は、誰にも聞かれない。


彼の脳裏に浮かんだのは、

辺境で穏やかに笑う、かつての婚約者だった。


(……なぜ、あの時)


後悔は、もう遅い。

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