崩れ始めた王都の偽り
王都・アルバート家の屋敷。
「……は?」
レオンは、目の前の帳簿を見て固まった。
「資金が……ない?」
「はい。投資に回した分が、ほぼ戻ってきておりません」
執事の声は震えていた。
「そんなはずはない!
あの商人は“必ず儲かる”と言ったんだぞ!」
「……その商人ですが、すでに夜逃げしたそうです」
「なっ……!?」
レオンは書類を投げつけた。
「ふざけるな!!
全部、あいつのせいだ!!」
だが、彼の頭に浮かんだのは――
“商人”ではなく、“元婚約者”の顔だった。
「……くそ……エリスのくせに……」
まるで、彼女が不幸でいなければならない存在であるかのように。
そこへ、セシリアが入ってくる。
「レオン様、顔色が悪いですわね」
「……お前が紹介した商人だろう」
「まあ、失礼ですわ。
私はただ“話を繋いだだけ”ですもの」
そう言いながら、心の中では冷笑していた。
(どうせ、こいつの金なんだから。
失っても困るのはレオンだけですわ)
彼女は最初から、
“地位と金のある男を捕まえる”ことしか考えていなかった。
エリスを追い落とすのも、
レオンに近づくのも、
すべて計算だった。
「それより……」
セシリアは、わざとらしくため息をつく。
「最近、噂を聞きましたの」
「……何のだ」
「リュシア領の女領主。
作物が王都で大評判ですって」
レオンのこめかみが跳ねる。
「……エリス、か」
「ええ。
あなたが“無能”だと言って捨てた、あの女」
セシリアは、愉しそうに笑った。
「ずいぶん、運がいいですわね」
だがその目は、嫉妬で濁っていた。
(あの女が、評価される?
ありえない。
私より下でいるはずでしょう)
「……許せない」
レオンは歯を食いしばる。
「俺の方が、上だ。
あいつより、価値があるはずだ」
だが現実は違った。
・エリスの作物は王都で高評価
・レオンの事業は赤字
・社交界での評価は逆転
「……全部、あいつのせいだ」
「そうですわね」
セシリアは頷く。
「“たまたま成功した”だけの女が、
調子に乗るからですわ」
二人は、何一つ反省しなかった。
失敗の理由を、
すべて“他人のせい”にした。
⸻
数日後。
王都では、新たな話題が広まっていた。
「リュシア領の作物、王国事業に組み込まれるらしいぞ」
「疫病地域への支援物資だそうだ」
その話を聞いたレオンは、酒杯を握りつぶした。
「……王国事業?」
「ええ。
王家から、正式な感謝状が出るとか」
「……あの女が?」
胸の奥に、黒い感情が渦巻く。
(俺を捨てて成功した?
違う。
俺が捨てた女が、俺より上?)
「……会いに行く」
「え?」
「王都に呼ばれるなら、必ず会える」
セシリアが目を細める。
「……まさか、復縁する気じゃありませんわよね?」
「するわけないだろ」
レオンは吐き捨てた。
「ただ、思い知らせてやるだけだ。
“お前は俺のおかげでここにいる”ってな」
セシリアも、口元を歪める。
「ええ……
ついでに、恥をかかせてあげましょう」
⸻
その頃、リュシア領。
「……王都に?」
エリスは、手紙を見つめていた。
「はい。
正式な領主会議への招待状です」
アレクが答える。
「あなたの作物が、
王国の支援物資に採用されました」
「……そんな……」
信じられない、という顔だった。
「私なんて……」
「違います」
アレクは、はっきり言った。
「あなたが作った結果です」
エリスは、手紙を胸に抱く。
(……王都に、行くんだ)
かつて、
笑われ、捨てられ、
居場所を失った場所へ。
「……怖いです」
「私が、ついています」
アレクは迷いなく言った。
「誰にも、あなたを侮辱させません」
その言葉に、エリスの胸が温かくなる。
(……あの頃とは、違う)
⸻
一方その頃、王都。
レオンとセシリアは、完全に“悪い計画”を立てていた。
「会議の場で、恥をかかせる」
「“辺境の成り上がり”だと笑う」
「自分たちの方が上だと示す」
そんな浅ましい考えしかなかった。
「……あの女が、幸せになるなんて」
セシリアは、爪を噛んだ。
「絶対に、許しませんわ」
レオンも、歪んだ笑みを浮かべる。
「俺を捨てて成功したように見せるのが、
気に入らないだけだ」
「思い出させてやる。
あいつが、どれだけ惨めだったかをな」




