表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられ令嬢は、静かに幸せを取り返す  作者: ぷく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/15

近づく心、残る影

王城を出た翌朝。


宿舎の窓から差し込む光で、エリスは目を覚ました。


(……王都で目覚めるの、久しぶり)


昨日の光景が、まだ夢のように思える。


表彰式。

告発。

そして、レオンが前に出た瞬間。


胸の奥が、じんわり熱くなる。



廊下を歩くと、すぐにレオンと鉢合わせた。


「おはようございます」


「……おはようございます」


一瞬、視線が合って、どちらともなく逸らす。


「……昨夜は、眠れましたか」


「……少しだけ」


「緊張が解けた反動ですね」


沈黙。


気まずい、というより――


(……意識してる)


昨日のキスが、はっきり記憶に残っている。


「……今日の予定は?」


エリスが話題を変える。


「王都の監査官が、改めて辺境領の報告を確認したいと」


「……まだ疑われているんですね」


「いえ」


レオンは首を振った。


「“正式な記録として残すため”だそうです」


「……そう、ですか」


少し、肩の力が抜けた。



監査室。


役人たちは、書類をめくりながら頷いている。


「農地回復率、想定の二倍……」


「魔力使用履歴も問題なし」


「住民の証言も一致しています」


エリスは、背筋を伸ばしたまま、じっと待った。


「――結論として」


監査官が言った。


「功績に虚偽は認められません」


「……!」


「むしろ、当初の報告より高く評価されるべきでしょう」


胸の奥が、きゅっとなる。


「……ありがとうございます」


「今後、王都から正式な支援が入るでしょう」


(……やっと)


やっと、

“運が良かっただけの女”

じゃなくなる。



その帰り道。


「……本当に、終わったんですね」


「一つは」


レオンは言葉を選ぶ。


「ただ、完全ではありません」


「……元婚約者の恋人は?」


「牢にいます」


「……彼は?」


「王都で、事実確認中です」


エリスは、足を止めた。


「……私を捨てた人」


「……」


「……会うことになるんでしょうか」


レオンは、少しだけ眉を寄せる。


「望みますか」


「……いいえ」


即答だった。


「でも……逃げたいとも、思いません」


「それが、あなたの強さです」


「……強くなんて」


「いいえ」


レオンは、静かに言った。


「あなたは、壊れたまま立ち上がった」


その言葉に、胸が詰まる。


「……レオン」


「はい」


「……あなたがいなかったら」


「仮定は不要です」


「……どうして、そこまでしてくれるんですか」


風が吹く。


髪が揺れる。


レオンは、少し間を置いて言った。


「……騎士だから」


「それだけ?」


「……それだけでは、ありません」


視線が、絡む。


「あなたが、誰にも踏みにじられない姿を」


「……見たい」


エリスの喉が鳴る。


(……恋、してる)


はっきりと、わかってしまった。



その頃。


王都の一角。


「……くそ……!」


牢の中で、元婚約者は壁を殴っていた。


「全部……全部、あいつのせいだ……!」


「違うわよ」


隣の牢から、女の声。


「あなたが、捨てたのよ」


「……うるさい!」


「私を選んだのも、あなた」


「……!」


「なのに、うまくいかなくなったら責任転嫁?」


女は、歪んで笑った。


「本当に……最低」


「黙れ……!」


「あなたがエリスを捨てたから、今の私がいるのよ」


「……!」


「ざまぁ、って言われても仕方ないわね」


彼は、何も言い返せなかった。



夜。


宿舎の中庭。


エリスは、ベンチに座っていた。


「……星、きれいですね」


「王都では、珍しいですね」


レオンが隣に座る。


「……辺境の夜空の方が、好きです」


「……私もです」


沈黙。


でも、嫌じゃない。


「……これから、どうなるんでしょう」


「辺境に戻ります」


「……また、二人で」


「はい」


「……怖くないですか」


「何が」


「王都が、私を認めたこと」


「……」


「また、妬まれる」


「また、狙われる」


「……」


「それでも」


エリスは、握った手を見つめる。


「……進みたいです」


「……あなたは、もう一人ではありません」


レオンの指が、そっと彼女の手に触れた。


絡めない。

握らない。

ただ、触れるだけ。


それだけで、心臓がうるさい。


「……護衛距離、ですね」


「……はい」


「……嘘ですね」


「……半分は」


二人は、小さく笑った。



だが。


王都の別の屋敷で。


「……失敗したか」


暗い部屋で、男が書類を燃やしていた。


「だが、終わりではない」


「辺境の女が、王の寵愛を得た……」


「潰す価値は、ある」


彼は、冷たく笑った。


「次は、“事故”にしろ」


炎が、紙を飲み込む。


――まだ、敵は残っている。


しかし。


もう、エリスは逃げない。


そして、レオンは離れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ