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捨てられ令嬢は、静かに幸せを取り返す  作者: ぷく


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13/20

揺れる王都、試される距離

王都の城門をくぐった瞬間、エリスは胸の奥がひりつくのを感じた。


「……懐かしい、ですね」


「無理をしないでください」


隣を歩くレオンが、さりげなく彼女の背中に手を添える。


「表彰式までは、私が付き添います」


「はい」


王都の通りには、人々の視線が集まっていた。


「辺境の領主だって」

「無能令嬢って噂だったのに」

「本当は有能だったらしいぞ」


ざわめきは好意と疑念が混じっている。



その頃、裏通りの屋敷では。


「……本当に、あの女が来るの?」


元婚約者の恋人だった女は、歯を食いしばっていた。


「ええ。表彰式に出るそうです」


向かいに座るのは、かつてエリスを見下していた貴族たち。


「王の前で称えられるなど、許せない」


「こちらの不正が露見したら、終わりだ」


「なら――」


女は、歪んだ笑みを浮かべた。


「失敗させればいいのよ。

“辺境の奇跡”なんて、まやかしだって証明すれば」


彼女は、役人に金貨を滑らせた。


「証言を用意して。

『成果は村人のおかげで、本人は何もしていない』って」


その目には、嫉妬と悪意しかなかった。



表彰式前日。


エリスは宿舎の部屋で、書類を整理していた。


「……緊張します」


「当然です」


レオンは窓際に立っていた。


「王都は、あなたに優しくありません」


「ええ。でも……」


エリスは、指先を握る。


「逃げたくありません」


「それでこそです」


レオンは、静かに彼女の前に立った。


「あなたは、もう捨てられる側ではない」


「……レオン」


名前を呼ばれて、胸が跳ねる。


「……近いです」


「護衛距離です」


「……嘘ですね」


「……半分は」


沈黙。


「明日、何があっても」


レオンは低く言った。


「あなたの味方は、私です」


「……それは、騎士として?」


「……一人の男として」


エリスの心臓が、強く鳴った。


「……なら」


彼女は、勇気を出して一歩近づいた。


「明日、無事終わったら」


「はい」


「……また、昨日みたいに」


レオンの喉が動く。


「……約束します」



翌日、王城。


大広間には貴族と役人が集まっていた。


「辺境領主エリス・フェルディナ、前へ」


名を呼ばれ、エリスは進み出る。


王が口を開いた。


「荒廃した土地を蘇らせた功績、見事である」


そのとき――


「異議があります!」


高い声が響いた。


元婚約者の恋人だった女が、進み出た。


「その成果、本当に彼女一人のものですか?」


ざわつく会場。


「村人の努力を、横取りしているだけでは?」


「魔法を使ったのは、他人だと聞いています!」


エリスは、一瞬、息を詰めた。


(……来た)


王が眉をひそめる。


「証拠は?」


女は、用意していた書類を差し出した。


「証言があります。

彼女は現場にいなかった、と」


ざわめきが広がる。


その瞬間、前に出たのは――


レオンだった。


「その証言、提出者を確認しました」


「な……」


「全員、あなたが金で雇った人物です」


女の顔が引きつる。


「な、何を――」


「さらに」


レオンは続ける。


「辺境領の作業記録と、魔法使用記録。

すべて、エリス様本人の署名と魔力痕があります」


役人が書類を検める。


「……事実です」


空気が変わった。


女は後ずさる。


「そ、そんな……」


「嘘を重ねた罪も、加算されます」


王の声は冷たかった。


「ここで虚偽の告発をするとは、愚かだ」


女は崩れ落ちた。


「……あの女が、悪いのよ……!」


誰も同情しなかった。



式は続いた。


「辺境領主エリス・フェルディナに、褒賞を授ける」


拍手が起こる。


エリスは、震えながら礼をした。


(……終わった)



夜。


王城の庭。


「……助かりました」


「当然です」


レオンは、少しだけ笑った。


「あなたが、嘘をつかないから」


「……怖かったです」


「それでも、立った」


「……レオンがいたからです」


風が吹く。


距離が、また近づく。


「……約束、覚えていますか」


「はい」


エリスは、目を閉じた。


今度は、レオンから。


額ではなく、唇に――


短く、けれど確かなキス。


「……お疲れさまでした」


「……ずるいです」


「……褒美です」


二人は、そっと笑った。



その頃。


牢にいる元婚約者のもとに、知らせが届いた。


「……彼女は、表彰された」


「……そうか」


「お前が捨てた女だ」


沈黙。


(……全部、俺が)


後悔は、今さらだった。

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