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観測者は夢を見る  作者: 東雲


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繚乱編 第四話『後始末』

村民総出で祭りが開かれていた。


収穫祭でもなければ豊穣祭でもない。

今日は――この村が生き残れた祝いだ。


「では、子供達は……」


アイが一行の代表として村長に問いかける。


「全員無事でございました……この御恩をどう返せば……」


「いえいえ、これが我らのお役目でございます」


凛とした横顔には巫の気配が宿り、

村の誰もがアイを“天女様”と感じていた。


「いやいや、報酬は頂いたほうが良い。その方が後腐れがない」


着流しに草履、大小二本差しの無頼漢――

ハルがアイの背後からぬっと現れる。


「ハルどの! 報酬なら大岡越前守さまから頂くではありませんか!」


「何、金子を寄越せと言ってるわけじゃあねぇよ」


そんなモン無いだろうしな、とボソリと呟く。


「では……何を?」


恐る恐る聞き返す村長。


「んー、そうだなぁ……この村に神社を建てろ。祀るのは狸だ。

 あとはそうだな、あの三下共に食い扶持をくれてやれ」


銀次郎と源蔵を指差す。


「そ、そんな事でよろしいので?」


「構わん」


報酬と言えるのかどうか、村長は頭を悩ませる。


「旦那! 俺等は博徒ですぜ!? 食い扶持だなんて……!」


「うるせぇ、真面目に働けこのスカタン」


源蔵が思わず口を挟むが、

ハルに一蹴されて黙り込んだ。

「ですが鬼神様……」

「あぁん?」

「ひっ」

ハルが凄むと、村長は情けない声を上げて身を縮める。

「脅かすんじゃありません」

ピシャリと言うアイに、ハルは「お、おう……すまんな」と気まずそうに返した。

「天女と鬼じゃ……」

「天女様が鬼を使役しているんじゃな……」

そんな囁きがあちらこちらで聞こえる。

ハルは頭をガシガシと掻きむしり、

「そんなわけで頼むぜ」とだけ言い残し、居心地悪そうにその場を離れた。

「鬼神様……」

「あれはただの照れ隠しですので、お気になさらず」

アイはどこか嬉しそうに微笑んでいた。


「邪魔するぜ」

祭り会場から少し離れた荒屋。

ユウイチは布団に横たわっていた。

右肩に貫手をまともに受けたため、そこそこの重傷である。

「おや、もう酒はよろしいので?」

「充分呑んだよ……ほれ」

ハルは盃をユウイチに差し出す。

「あの、一応私はけが人なのですが……」

「莫迦かお前。怪我してようとなんだろうと、戦った後は酒を呑め」

「どういう理屈ですかそれ……」

そう言いつつも、ユウイチは盃を受け取った。

「酒は悪いもんを流してくれるんだ。俺はそう教わった」

ほれ、と盃に酒を満たす。

「なるほど。では、ご相伴させて頂きましょう」

「おう、乾杯」

「乾杯」

遠くで祭り囃子が聞こえる。

銀次郎や源蔵、一郎や山爺が騒いでいる声も混じっていた。

「いい夜ですね」

「あぁ……賑やかなくらいが丁度いい」

そうして夜は更けていったのであった。

一夜明け、まだ朝露の残る早朝。

アイ、ハル、ユウイチは村の入口に立っていた。


「そんな逃げるように立ち去ろうとするんじゃあないよ」


背後から声をかけてきたのは、化け狸が化けた老女だった。


「おう、タヌ吉か。あんまり得意じゃねぇんだよ、感謝されての旅立ちってのは」


「タヌ吉じゃ……もういいわい。タヌ吉でええわい……」


化け狸は深い溜息をつく。


「鬼神殿には一応礼をしておかねばと思ってな。お前様たちを待ってたわい」


「礼……ですか?」


アイが小首を傾げる。


「狸を祀る寺を建てろって、無茶苦茶な要求をしただろう」


「あぁ!」

アイの顔がぱっと輝く。


「あ? 別にお前さんのためじゃねぇよ。何でも良かったんだよ、鼬でも鼠でもな」


「まぁそういう事にしておこうかね……なにはともあれ、これで儂もここに住みやすくなったわい」


化け狸はひひひと笑った。


「銀次郎と源蔵は悪童ぶってるけど、割といいやつだ。面倒見てやってくれ」


ハルはふいと顔を背け、そのまま歩き出す。


「照れなくてもいいのに」


アイが隣に並び、茶化す。


「ハルどのもいい奴ですからな」


反対側にユウイチが並ぶ。


「三人並んだら迷惑だろうが!」


照れ隠しなのだろう。

ハルは怒鳴り、早々に厩へ向かっていった。


「でもね、ハルどの……」


急に、アイの声がはっきりと響く。


「もう、起きなきゃ」


*******


「っだぁ!」


波琉はスマホのアラーム音で飛び起きた。


時間を見ると、土曜日の6時45分。


昨日、学校から帰って夕飯もそこそこに酷く眠くなり、

そのまま寝落ちしたのだと気づく。


普段なら金曜の夜は夜更かしして、

朝までゲームをしていることも珍しくないのに。


「しかし……あの夢、展開が変わってたな……」


学習机の一番下の段には、ノートが乱雑に積まれている。

その中から一冊を取り出し、ページを開く。


---


◯月✕日

今日の夢は妖怪退治の夢だった。


俺なのか、ハルと呼ばれている剣客は

木こりの爺さんと大喧嘩してしまい、

異変? の話はまるで聞けなかった。


その後、仕方なく村に向かうと、人っ子一人いない。


ユウイチ? という剣士も、途中で仲間にしたヤンキーみたいな奴らも。


アイが走り出して村の広場に向かうと、黒い水たまりがあって、

半身黒くなったユウイチが広場の奥からやってきて、

なんか叫んだと思ったら水たまりが人型になった。


なんとかそいつをアイと二人で封印?して事なきを得たんだけど、

ユウイチの様子がどんどんおかしくなっていく―――


そこで目がさめた。


妙に悲しそうな目をしたアイが印象に残った……



(確かこれは小6の頃に見た夢だ。

 この後の夢もあったはず……影に呑まれたユウイチが、

 なんかすげぇ妖怪の封印を解いちゃうとか、そんな感じの夢だったはずだ)


学習机の一番下の段には、二十冊近くのノートが押し込まれている。


同じ夢を見た時に日記として書き残していたのが功を奏したのか、

年齢によって文体に差はあれど、どのノートにも“結末”は同じだった。


無野村は救えず、

あの鬼は封印するのが精一杯で、

銀次郎と源蔵は死亡。

ユウイチは昨夜の夢とは比べものにならないほどの重傷。


小6の秋も、冬も。

中学二年の夏も。

全部、同じ結末だった。


(じゃあ……なんで展開が変わった?

 転校生が来たから?)


いや、と波琉は首を振る。


(中学の時も転校生は居たはずだ……

 夢と同じ顔の子が……夢と同じ名前の子が……

 現れたから?)


自分で考えて、自分で否定する。


(いやいや……馬鹿馬鹿しい)


胸の奥がざわつく。

否定すればするほど、そのざわつきは強くなる。


(えぇい、考えてても仕方ない。夢は夢だ)


体を伸ばし、パジャマ代わりのスウェットを脱ぐ。

二階の自室から階段を降りると、土曜の朝の定番である旅番組が流れていた。


「この地域には一風変わった神社があるんですよ!

 それがこの狸吉神社りよしじんじゃです!」


画面に映し出されたのは――

無野村の、あの倉庫があった場所。


()()()()()場所だ。

見間違えるはずがない。


波琉は、ごくりと唾を飲み込んだ。


(いったい……何が起きてるんだ)


波琉の胸の奥でざわつきが止まらなかった。


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