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初恋の僕  作者: 八神真祇


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【第弐話】今も続く初恋に

移動は昨日よりも随分楽だった。電車に乗る人が少なく、人目もなければうるさくもない。僕にとっては天国だ。ああ、ずっとこんな日が続けば良いのに。夏休みなんて明けなければ良いのに。




言っておくが、僕は決していじめられてるわけではない。嫌われてるわけでもない。友達だって多くはないがいる。だけど僕はいつも独りだ。友達がいると言っても親友ではない。ただのうわべだけの友達。僕は彼らに本音を明かしたことが殆どない。本音を言った事で良いことなんてないからだ。それより表面上彼らに合わせていたほうが、学校という社会集団の中では有利だろう。




そんな虚飾(きょしょく)に満ちた人生を歩んでくると、本当の自分がどこにいるか、ふと考えた時にわからなくなる。だけど、良く考えてしまうと自分の醜い心に気づくのも、また嫌なものだ。もしかしたら僕の居場所なんてとっくの昔からないのかもしれない。そう…あの凪と別れたあの日から…。





暫く電車に揺られていると、あの場所の最寄り駅に着いた。時刻は19:39。いくら夏といっても日が暮れた頃だった。最寄りからあの場所まで、幼い頃の記憶ではかなり距離があった気がする。駅前は住宅地が並んでいるが、目的地に向かうに連れ、だんだん少なく、まただんだん古くなっていった。あの頃と変わらない景色が僕を迎えている。




僕の住んでいた家に辿り着いた。未だ空き家なのか、僕が去った時そのままで放置されている。この家に限らず、ここら一帯、時間が止まっていたかのように…。もしかしたら秘密基地もこのままかもしれない。自然と秘密基地へ向かう足が速くなった。




どうか凪も、このままいなくなっていませんように…。





僕のこの願いが叶うように、凪はそこにいた。もっと具体的に言うと、()()()()()()()()()()()()()姿()()()()でそこにいた。





あの癖毛に赤いワンピース。少し不思議な雰囲気を纏ったオーラ。あれはどこからどう見ても凪に違いなかった。




凪どころか、秘密基地も時間の進みを感じさせなかった。少しでも強い風が吹いたら簡単に吹き飛ばされそうなほどのつくりなのに。




凪は、入口で驚き固まっている僕に近づいてこう言った。




「たっちゃん、背、伸びたね。」




僕はまだ舌が回らず言葉が出ない。




「でも何も変わってないね。」





凪の言いたいことがすぐにわかった。僕はただ背が伸びただけで、心はあの時から全く変わっていない…そういう意味だろう。僕はなんとか言葉を発する。




「うん…でも、凪はどうして…どうしてあの時から背も、何もかも変わっていないの…?」




「まさか、まだ気づいていなかったの?たっちゃんが変わらないから、私はこのままなんだよ。」




「僕が変わらないから…?」




僕が変わる事と凪の肉体的な成長。それが何の相互関係があるのだろうか。




凪が僕に近づいてくる。咄嗟に凪の頭を触ろうとするが、手がそれに触れることはなかった。自分の手を状況を理解しようと必死に考える。




なぜ凪は昔、僕以外に友達がいなかったのだろうか。


なぜ凪は今も肉体が成長していないのだろうか。


なぜ凪に触れないのだろうか。





やっと真実に辿り着く。




凪は、僕が創り出した幻だ。






「やっと気づいたんだ…。」




凪がぽつりと言葉を発した後、重苦しい沈黙が続く。凪と見つめ合いながら…。僕はその沈黙を破るように口を開く。




「あの。」


「どうしたの。」




「こういうのって普通…気づいたら消えるもんじゃ…?」




僕は困惑してそう凪に聞いた。凪は鳩に豆鉄砲食らったかのように驚いた顔をし、その後腹を抱えながら大声で笑った。




「そんな訳ないじゃん!やっぱなんにも変わってない!」




凪は腹をよじりながらそう答えた。そしてひとしきり笑って呼吸をし、冷静になった後こう言った。




「だから言ったでしょ。私が変わっていないのはたっちゃんが何も変わっていないから。もしかして、気づいたから変われたとか言うタイプ?でも残念、何事も、行動・言動に移さなければそれは変わっていないのと同じ…。」




僕の目を一心に見つめ、僕の心と裏腹に、言葉が淀みなく紡がれる…。




「まあ、言い換えれば、たっちゃんが変われば私は変われる。たっちゃんの好きな姿にね。私を思うが儘に出来る。誰にも遠慮は要らない…たっちゃん以外には誰にも見えないんだもの…。」




「凪を僕の思うが儘に…。」




「そう。それに、今までは、この場所でしか、私はたっちゃんと会えなかった。でもたっちゃんが変われば私はいつだってたっちゃんの側にいれる。」




「…。」




「変わろうよ、たっちゃん…。いや、私達…。」




長い沈黙が続く。それを切り裂くのは僕だった。




「うん…。」




とても小さな声だった。でも、芯のあるような、そんな不思議な声だった。




「凪、僕と一緒に変わろう。」




「うん!」




凪は子供特有のあどけない笑顔を浮かべ、返答した。

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