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今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#3-5 町を押さえたその先へ

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94.ハンターギルド

 まだ真新しいハンターギルドの建物の入り口をくぐると、俺はなぜか「ギルドマスター」と声をかけられた。代官をマスターにしたはずなのに、なぜ俺がマスターになっているんだろうか。ちょっと解せない。


「代官閣下はギルド長で、ギルドマスターはタカシ様、そういうことになってますよ。」


 意味が分からん。ギルド長とギルドマスターって、どっちがギルド代表なんだろう……。


 あと、他にも意味が分からないことがある。


「なんでミハルさんがここに? 探索者協会の受付はどうしたんですかっ!」

「え~~! 貴方がそれ聞いちゃうの? おかげさまで無事にクビになったわよ。将来安定、結婚相手も選び放題の仕事だと思ってたのに、もうほんと……。」


 探索者協会は、俺が貯金を全額引き出したことがきっかけで始まった取り付け騒ぎで、代官から業務停止命令を受けたらしい。


 いや、俺はきっかけにはなったけど、その業務停止命令には一切関わってないよ?


 ちゃんと全額返金するまで業務停止が解けないらしいんだけど、こっちの支部には現金が不足していて、本部からの送金を受ける必要がある。しかし現在は橋が、失われた影響で物流が大きく混乱しているし、送金してもらえる目途がまったく立たないそうだ。


 取引先が足元を見て支払いを延期してきたり、借金を踏み倒そうとしてきたりするし、現金がなければ職員の給金も払えない。それは運転資金が完全に足りない、典型的な黒字倒産への道だ。


 今では探索者協会支部の建物も鍵がかけられていて、誰も出入りできない状態になっているらしい。


「それで支部長はどうなったの?」

「逃げましたよ?」


「へ?」

「ほんと、あのクズ野郎、真っ先に逃げ出しましたよ。今は行方不明みたいですね。」


 逃げた支部長の代わりに、一階で受付をしていたオーバさんが身柄を押さえられている。


 あの人も結構偉い人だったみたいなので、まったくのとばっちりというわけでもないみたいだけど、ご愁傷さまとしか言いようがない。


 俺の方も、まだ報告してない盗賊落ちした奴の札が残ってるんだけど……残念なことに、もうお金にはならないだろう。


「本部に行けば討伐報告できなくはないですけど、報奨金が支払われるのは相手が盗賊と確定した後になりますから、まず間違いなくお金になりません。」


 報告したからといって、その相手が本当に盗賊だったかどうか、本部が調査してくれるわけではないそうだ。


「ここの支部って、よくあれだけ盗賊征伐の報酬を出してくれたもんだ。どうやって調査してたんだか。」

「この町では、探索者のほぼ全員が盗賊みたいなものでしたから。調査なんて一切不要だったから簡単でした。」


 なんていうか、それってあまり聞きたくなかった内情だ。



「それでギルドマスター、今日はどうされますか?」

「えっと、お肉を納品したいんだけど。」

「それならまず、ギルドに登録するところからですね。」


 ギルドマスターなのに、ギルド登録からなのか……。


 ギルドへの登録や獲物の納品などは、探索者協会と大きくは変わらない。探索者協会との違いは、ハンターギルドの身分証はこの町でしか通用しないことぐらいしかない。


 探索者協会を封鎖に追いやった『貯金システム』もそのままハンターギルドに持ってきている。ただし、一度に現金で払い出しすることは出来ない取り決めだ。


 なんと言ってもこの町、そもそも現金がぜんぜん足りてないんだよね。信用取引を増やしていかないことには、どうにもならなくなってしまいそうなのだ。


 小さい町の経済は混乱したままだし、食料不足も続いている。このまま一時的に肉本位制を導入して、ハンターギルドとその口座に決済を担ってもらうしかないんじゃなかろうか。


 面倒なので、細かいところは代官たちに丸投げすることにしよう。



 大量に在庫していた浅層の妖獣肉の納品が終わったので、俺はハンターギルドを後にして、町の拡張現場へと向かった。


今の町に別の領域をくっつけて、一気に町の面積を三倍にするという野心的な計画だ。くっつけるのはほとんどが芋畑になる予定だけどね。


 もちろんくっつける領域にもしっかりと城壁と堀を用意して、妖獣などの侵入に備えることになる。


「ぬし~、遅い~!」

「あ~、ごめんね~。」


 ウテナの手を離れれて飛びついてきたシロを抱き上げ、そのままいつものように肩車する。


「とんでもなく広いなぁ。」

「これがあともう一つという話ですね。」


 拡張の予定地を見ると、何もないだだっ広い草原だからだろうか、とんでもなく広いように見える。


「こんなに広げて大丈夫なのかなぁ……。」


《上から見ないとわかりにくいですけど~、これで元の町と同じくらいの広さですよ~。》

〈反対側にも同じくらいの領域を広げることになるわ。〉


 そのままシルビアとグロリアの二人にお願いして、広くて深い堀をうがち、そして掘った土を盛り上げて魔法で固め、切り立った城壁を生み出していく。


 かなりの負荷がかかりそうなものだけど、見た目ほどには大した作業ではないらしく、その日のうちに一ヶ所、翌日には反対側の一ヶ所も終わって、形の上では町は三倍の大きさになっていた。


 城門やら橋やら、いろいろと用意は必要だろうし、それ以上に新しい城内の整地や区画整理、道路の整備なんかもあるだろうけどね。


 俺たちはそれには手を出さない。それはそれこそ代官や元ヤクザ、そして町の人たちの仕事だ。



 おおよその作業を終え、俺は仲間たちと一緒にまた森へと狩りに行く。なにか偉い役職になったように見えるけど、俺は結局はただの狩人に一人にすぎないのだ。


 それからまた町を離れて二ヶ月ほど、中層の入り口辺りで狩りをしていると、魔法の連絡が入った。


「遺跡が見つかったんだけど、妖獣が強すぎて進めない所があるの。ちょっと手伝ってもらえないかしら?」


 一つはヤマブキからの応援要請。


「領主さまが軍勢を率いてやって参りました……どうすればよろしいでしょうか?」


 もう一つは代官からの緊急連絡。



 まったくもう。二ついっぺんには無理だってば。



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