93.人任せ
町の支配をもくろむのなら、ここで色々勝負をつけておいたほうがいいんだろう。
だけど俺は、どっちかというとそういうのはあまり好きじゃない。
というか、誰かが頑張っているところを、横から茶々入れるポジション。俺にはその程度が似合っている。
「そろそろ狩り、行っとく?」
「いいね。どうせなら、もうちょっと奥に行ってみないか?」
「個人の戦闘力は目に見えて上がってるからな。」
本来なら奥に進むのは、精霊魔法でつくった障壁を取り払って、それでもうまく回せるぐらいになってからでも遅くないように思う。
でも今のやり方の方が、何だか効率よく強くなれている気がするんだよね。
「行ってみようか? 他のみんなはどう?」
狩り自体がそれほど好きじゃないマヤを除いて、特に反対意見はない。これなら行ってみても良さそうだ。
どうしてもいやなら、留守番って手もある。ちょっと前とは違って、今なら町のなかにも大事な仕事はあるしね。
いつものように町から西へ数日向かい、そこから森に方向を変えて草原を突っ切っていく。
草原は日ごとに以前の緑を取り戻していて、元からこうだったと言われれば、そうなのかと思ってしまうぐらいには回復してきている。
盗賊も大きく数を減らしていて、森に入るまでに出会ったのは一件だけだ。
「あれだけ狩ったのに、まだ残っている方がおかしいのよ。」
千人ほどいるテキトー一族を狩りに送り出したこともあるし、生き残っている盗賊たちだってそうそう自由には動けない。
町の中にも多数の目が光っているから、今までのようにはいかないだろう。
森に入るとこれまで通り、まずは妖獣シバーの群れ、たまに妖獣クマーやヘビーを狩りまくりながら、奥へ奥へと進んで行くことになる。
この辺りの妖獣の処理はもう慣れたもので、精霊魔法で加減はされているものの、特に問題なく狩り進んで行ける。
「妖獣ってたくさん狩れば狩るほど強くなれる、みたいなのってあるの?」
「そりゃあるだろ」
ハヤトだけじゃない。サキやダイキ、ホムラまで、「お前いまごろ何言ってんだ?」みたいな顔でこちらを見てくる。
「ああ、やっぱりあるのか。なんかそんな気はしてた。」
「原理とかはよくわからないけどね~。妖獣の妖気をあびたら成長するとか、いろいろ言われてるわね。」
「でも、どっちかっていうと、誤差みたいなものだよね~。」
実際にしっかりと戦うことで動きが最適化されたり、急所をうまく狙えるようになる。つまり経験による差の方が、なぞの妖気による成長と比べて、効果ははるかに大きいらしい。
魔法でガリっと全滅させると、こうして剣で狩っていくのと比べると、あまり成長にはつながらないみたいな気がしてたけど、それもそういうものなんだとか。
こっちも原理はよくわからないみたいだけど、ゲームみたいにトドメを刺した奴が育ちやすい、とかもあるのかもしれない。
森も浅層から中層に入っていくと、出てくる妖獣が一回り以上大きくなる。
四つ足の妖獣シバーが出てこなくなり、代わりに妖獣キシューや妖獣アキータが出てくるようになり、妖獣クマーの代わりに妖獣ヒグマーが、そして妖獣ヘビーの代わりに妖獣ウワバミーと、それぞれ大きくなっていくのだ。
もちろんただ大きくなるだけじゃなく、その分だけ力も強くなるし、素早くもなる。
「うわっ……っと、こう素早いと……きついな。」
「うぐ、ちょっと押し負けそうになるぜ。」
ハヤトとダイキは結構苦戦しているみたいだ。
戦い方自体が大きく変わるわけではない。しかし敵のリーチが長くなる分だけ間合いが変わり、素早さが上がった分だけ雑な動きが通用しなくなる。
「しっかり慣れれば、行けそうね。」
「敵が硬いし、私はちょっと時間がかかるかな。」
チヅルはパワー負けかな。
ホムラはまだまだ余裕があるし、シロだって軽くさばいているのを見ると、しっかり確実に急所を押えれば、なんてことは無いのかもしれない。
俺? パワーも正確性も足りないし、マヤと並んでしばらく戦力外かもね。
そんなことを考えていたのも最初だけ。十日もすれば慣れてきて、それなりに戦えるようになってきたし、二十日もすれば浅層の時と同じように、とまでは言わないけれど、それなりに狩れるぐらいにはなっていた。
「慣れって恐ろしい……。」
「まあ、この辺りは中層と言ったって、たぶん浅層に毛が生えたくらいだよな。」
「たしか、奥に行ったら、もっと大型の妖獣も出るって話よね?」
「妖獣ヒグマーだって、これかなりの大きさだよ? これより大きいって、ちょっと冗談じゃないって……」
さすがに、ちょっと行ってみよう、なんて話はそうそう出てこないが、もちろんまったく興味がないなんてことはない。
「妖獣のお肉って、中層の入り口でこれだけ美味しいんだから、もっと奥に行ったらどれだけ美味しいのかなぁ。」
妖獣アキータや妖獣ヒグマーの肉を食べてみた結果、そのあまりの味の違いに、在庫していた浅層の妖獣、シバーやクマーの肉は全部売り払うことが決まった。
それぐらいはっきりと、味に違いがあるのだ。
さらに奥地の妖獣なら、どれだけ美味しい肉が手に入るというのか。
「もうちょい、力をつけたいぜ。」
「そうね、今のままだと、逆に美味しく食べられちゃうかも。」
中層肉の在庫を大量に積み増すため、俺たちはさらに二ヶ月ほど妖獣キシューや妖獣アキータを狩りに狩りまくってから町に戻ることになった。
俺たちが町を離れていた三か月余りの間で、代官を頂点とした町の方針や方向性もあらかた決まって、しっかりと動き出したようだ。
流された橋の再建は完全にあきらめ、渡し舟も必要最小限だけ用意することになった。その代わりに町の拡張工事に本腰を入れることになっている。
領主は自分では橋を再建したくなくて町にすべて押し付ける、町は町でやっぱり自分では再建したくない。どちらも自分で作るぐらいなら橋なんて要らない。そういう考えのようだ。
乱暴な話に聞こえるかもしれないが、それなら最初から橋なんて必要ないってことだよなぁ。たぶん商人の往来が少なくなって町は寂れていくと思うんだけど、必要だと感じてないんだから、俺がとやかく言ってもねぇ。
橋を含めた街道整備、町の拡張、盗賊の征伐、たぶんこの三つがこの町に必要な重点政策だったんだろう。
盗賊対策は今も俺が勝手にゴリゴリと進めているから、代官は街の拡張に舵を切ることにしたってことだね。
町については俺が魔法で手伝うって話にしていたから、壁も堀も魔法でそれほど人手をかけずに簡単にできてしまうし、やるなら今のうち、みたいな感覚もあったんだろう。
ただしそれで領主がどう出るのかはわからない。橋を作れっていう命令は無視する形になるわけだから、多分揉めることになるだろう。まあお互い好きなようにがんばってね!って感じだね。
そんなわけで俺は、新しく動き出そうとする町に戻り、その新しい中心になりそうな場所に立てられた新しい建物にやってきた。
「おかえりなさいませ、ギルドマスター!」
そう、ここが新しい狩人たちの組織、ハンターギルドだ。




