92.代官
この町のトップである代官の来訪である。
青がえる亭の食堂には、俺たちのグループ全員が集まっていた。
いったい何事かと、宿屋の主人や他の宿泊客たちも、遠巻きにこちらを眺めている。
何事かもなにも、ぶっちゃけ俺が呼び出したんだけどね、「今すぐ来い!」って……。
「あの……このたびは、どのようなご用件でございますか。」
目の前で汗をふきふき話す、小太りの男。こいつがこの町の代官だ。
「そうたいした要件じゃないよ。この町ってかなり住みにくいから、住みやすくなるように投資しなさいね、ってことだけ。」
俺のお願い、というか命令は単純だ。
何をどうするか決めるのは、全部こいつらの仕事。
俺ならどうするか、というアイデアはあるけど、それを直接命令したりはしない。調整とか、いろいろ面倒くさいし。
「そうおっしゃられても、先立つものが……ご領主さまにも、いろいろとお願いはしておるのですが、なかなか首を縦に振ってもらえず……。」
「ん~、足りない資金には私財を当ててね。あとヤクザを奴隷化してあるから、そいつらの資金も全部使っていいよ。必要なら労働力としてこき使って?」
代官は目を白黒させていたが、命令には逆らうことが出来ない。
「しかし、ご領主様からまず橋を直せとのご命令が出ておりまして……。」
「その資金も全部町? いままでの通行料はどうなってるの?」
「町の資金だけです。通行量は全部、ご領主様のもので……。」
そりゃ、再建なんかできるはずないじゃないの。
「それ、どうにもならないでしょ。渡し舟を通して、その運賃収入を積み立てすれば?」
「渡し舟もご領主様に全額を納めることになっておりまして……。」
もうむちゃくちゃだなぁ。
領主とやらをシメてもいいけど、この世界ではそうしなければいけない理由がある、とかだとややこしいことになりそうだ。
「よし、ここはヤクザを使おうか。ヤクザに街道から少し離れたところに桟橋つくらせて、そこで渡し舟の商売をさせよう。そのアガリを貯めて橋を再建だね。」
「渡し舟もしっかり用意せよ、というご命令なのですが……。」
「適当な小舟をいくつか浮かべとけば? それぐらいしか用意できないんだから、仕方ないじゃないの。」
それこそ、出来る範囲でやるしかない。
「あんたの貯めた金も、ヤクザの金も、領主の金じゃない。そうだろ?」
「はぁ、それはそうですな。」
「領主の命令は、領主が決めた税金の範囲でやる。あんたらの金はあんたらが必要だと思うところに使う。ほら、普通の話じゃないの。」
「……は、はい……。」
「あ、それと。もう分ってると思うけど、盗賊はぶち殺すからね? あんまり非道なことはしないようにね?」
「は、はいぃっ!」
他にもいろいろ話を聞いたけど、税収のほとんどは領主の懐に入るみたいだ。町の補修やら何やら、それ以外でやれ、ということらしい。どうすんのよ、これ。
こんな話なら、そりゃあみんな、裏家業に走るよなぁ。
しっかり使っていくとなると、ヤクザの組のままでは都合が悪い。一度解体して、別組織として組み直す。うん、それがいい。
「そうだなぁ。狩人ギルドとか作っちゃおうか。認可お願いね。」
「そ、それは……、探索者協会とぶつかりますぞ!」
「この食料不足、探索者協会の怠慢じゃないかな? 盗賊も山ほど抱えてたし。探索者の半分以上が盗賊だったなんて、もう盗賊団も変わらないでしょ。まあ、ほとんど始末したけどね。」
始末した盗賊、テキトー一族として協会に登録させようとしてるんだけど、ほとんどが見習い扱いのままで止められている。そのおかげで、まともに狩りに行けなくて足止めされているのだ。
もういっそのこと、こいつら全員、新設する狩人ギルドに入ってもらおうか。探索者は大きなグループを作るのは禁止だから、探索者協会は嫌でもやめるしかないね。
「確かにそれは怠慢、活動停止処分もあり得ますな。」
「でしょ? あ、ギルド長は、代官くん、キミがやってね?」
「うえ? 私ですか!」
「できるでしょ、そのぐらい。」
まだ探索者協会には、狩り残した盗賊団の残党が二百人ほどいる。こいつらも処分してギルドに入れてしまおう。
この町では協会支部よりもギルドの方が大きくなっちゃうな。
俺に責任とれとか、かなりふざけたこと言ってたし、これで解決だね!
「なかなか強烈な話だったわね。」
「誰がやっても無理だ。そりゃ無能って言われるはずだぜ。」
代官が帰った後、みんなが口々にそんな話をしだす。
代官が無能。
話は聞いていたけど、まったくその通りだった。
あの代官はたしかに無能だと思う。
でも話を聞いていると、誰がやったとしても、この町の代官という仕事自体が無能になるようにできている、そうとしか思えない。
筋の通る話だったら手伝ってもいい。帰る時にそう言っておいたんだけど、どうなるかは代官次第だ。
狩人ギルドは即日認可され、活動を開始した。
今のところはほぼヤクザ組織のまま、建物なんかもそのままで、名前が変わっただけだ。中身と活動内容は大きく変わっているけどね。
テキトー一族には全員に探索者協会の登録を取りやめさせて、ハンターギルドに鞍替えさせた。
探索者の中に残った盗賊団の残党の二百人、これもちまちまと狩っては、処理を施してハンターギルドに登録させている。
百六十人ほどいるゴミ一族たちは、すぐには鞍替えさせないが、納品はハンターギルドに行うように指示を出した。協会の口座にある貯金も、全額引き出しである。
もちろん俺たちも、口座からお金を全額引き出そうとしたんだけどね。
お金の代わりに支部長が出てきたよ……。
新たな盗賊たち二百人分の討伐報酬は問題なかった。
ハヤトやダイキたちの分は問題なく引き出せたし、シロの分も問題なかった。
ホムラとマヤの分も何とか。
俺の分、これがきつかったみたいだ。
「さすがにこの金額は、すぐに用意できん。何日か待ってくれ。」
「ん~、すぐに要るんだけど。ほら、探索者になれなかった人たちがいるでしょ? あんたが責任取れとか言ってたよね? その絡みっていうか、そんな感じなのよね。死人が出ちゃいそうだし、待てないよ?」
「すぐに用意できるのは半分ほどだ。」
「じゃ、まずはその半分を出そうか。残りはそれから考えようよ? あ、金庫の中は見せてね?」
「全部持って行かれると、あとの決済ができなくなってだな……」
「こっちが先口だよ? まずは金庫を開けようか。それとも、俺の金、返してくれないの? 盗賊なの?」
俺の手には代官の手紙があった。
この男に現金をちゃんと渡せとか、しっかり便宜を払えとか、そんなことが書かれてある。
「なんだよ、ちゃんとあるじゃない。」
協会の大金庫の中には、俺の貯金を全額払い戻しても充分なだけの金貨が蓄えられていた。
「まるで強盗だな……。」
「強盗はひどいな、預けてただけで俺の金だよ? もしかして自分たちの金だと勘違いしてたの?」
協会長は下手に抵抗せずに、黙って払いだしておけば良かった。
そうしておけば、厳しいとはいえ、何とか乗り切ることができただろう。
しかし小さな騒ぎを起こしてしまったことで、自分たちの貯金が返ってこないのでは? と疑心暗鬼になった探索者たちが、現金引き出しに殺到しはじめたのだ。
一時支払い停止して、北から現金をもってくれば何とでもなるはず。しかし橋が流された今、まともな輸送が出来ない。いつ復旧するかの目途も立たない状態なのだ。
このまま払ってもらえない違いない! それはただの勘違いにすぎないけれど、不安は簡単には消えない。
もう完全に、取り付け騒ぎである。
この一件で信用を大きく落とした探索者協会は、いくつかの利権を失うことになった。
それだけではない。このことによって、協会は今まで以上に強く、代官の支配を受けることに繋がっていく。




