91.千人という数
町に戻ったその足で探索者協会を訪れた俺たちは、一階受付でオーバさんに納品を行うと、すぐに二階行きを指示された。
倒した盗賊の数は千人をゆうに超えており、そのうち探索者協会の褒賞の対象になるのは四百人以上にのぼっている。
それを再処理してテキトー一族として送り出し、探索者登録させたのが八百人以上。
もう戦争とか、大災害とか、そのぐらいの規模の話である。
どちらもかなりの人数であり、決して無視できない数だ。
それだけではない。納品した妖獣肉や皮革も、ちょっと恐ろしい量になっている。孤児院に寄付した分や、自分たちの取り分を除いてあるというのに、その状態なのだ。
もともと盗賊団との抗争の話もあったしね。
考えてみるまでもなく、これで呼び出されないはずがなかった。
「お前ら、なんで呼び出されたかはわかっているな?」
「いや? 全然?」
いつものように支部長がいる部屋に入ると、開口一番、そんなことを言われる。
でも、わかるわけないでしょ。てゆか、どれで呼び出されたんだよって話だ。
「……わかった。それじゃ、耳の穴かぽじってよく聞け。盗賊落ちの討伐が四百十七人。これでお前ら全員、中級探索者に昇格だ。」
支部長から昇格という言葉を聞いても、仲間たちには特に反応がない。この数を狩った時からすでに、そうなることは予期していたんだろう。
「そして新規で探索者登録しにきた人数が八百人以上、こいつらの実地研修、手分けしてお前らで処理しろ。」
「え? お断りだけど?」
俺はその依頼を速攻で断った。
まさか断られるとはまった思っていなかったようで、支部長は一瞬あっけにとられた。
「な……、お前らの責任だろうが! お前らで何とかしろ!」
「もう一度言うけど、お断りだよ。勝手に俺たちの責任にされても困るし。」
誰かに探索者になるよう勧めたら、勧めた人の責任で全部処理しないと駄目なのかな?
そんなことは自分たちで勝手にしてくれ。
「お前らが中級を狩りまくったからだろうがっ!」
「その盗賊どもが今まで実地研修してたってことだろ? それ俺たちの責任? 馬鹿言っちゃいけないよ。」
どうしても処理できないなら、探索者としての受け入れをやめればいい。それは俺がどうこういうことじゃないからね。それこそ探索者協会の問題だ。
ただそうすれば、奴らは勝手に狩りに行って、勝手に商人に売る。探索者協会とは関係のない、ただの狩人になる。ただそれだけだ。
それが一時的になるのか、それとも永久になるのか。さらに言えば、ただの狩人が増えて探索者協会に閑古鳥が鳴くことになるのか、それもみんな探索者協会の問題なのだ。
「……それがどういう意味になるか、わかってるんだろうな?」
「それじゃ聞くけど、無理やり押し付けるとどういうことになるのか。わかってるの?」
「なっ……、おいこら、どういう意味だ! 協会を脅すつもりかっ!」
千人規模で討伐したとはいっても、盗賊団やヤクザが撲滅できたわけじゃない。探索者の中にだって、まだまだ盗賊団に所属しているものは残っているのだ。
まずはそれを潰すのが先。その邪魔をしにくるのであれば、それは盗賊の仲間だ。いや、それは言い過ぎだとしても、盗賊が有利になる働きであることは間違いない。
「わからんのか? オッサン。お前が盗賊の仲間だって言ってんだよ!」
ちょい、ハヤト、だからそれ言い過ぎ! ほぼ、その通りなんだけどさ。
ダァンッ!
激高した支部長が目の前の机を殴りつけた。
「なんだと、コラァッ! もう一度言ってみろ!」
「言われたく無けりゃ、今すぐ盗賊の首狩りまくって、ここに持ってこいや! 話はそれからだ、ボケが!」
「オッサン、盗賊を野放しにし過ぎだよ?」
「盗賊に新人教育を任せてたなんて、冗談にもほどがあるわ。」
「今の状況だと、若手の新人探索者なんて、盗賊に狩られるか、それとも脅されて盗賊の一味になるか、どっちかしかないわけだ。わかる? お前が盗賊増やしてるんだよ?」
四百枚強の盗賊たちが持っていた探索者証。その内訳が悪かったんだよね。その中には、ハヤトやダイキたちと一緒に何度も講習を受けていた奴らの名前がいくつもあったのだ。
あれはもう盗賊相手の戦争だ。実際に襲い掛かってきた奴ら、一人一人の事情なんて考慮する暇も無いし、あの時は、そんなことをする気はさらさらなかった。
しかし、事後に確認した内容、それがあまりにも悪すぎた。
なぜそんなに大量の盗賊が生まれているのか。考えてみれば簡単にわかることだったのだけど、俺たちはそれを考えてみる事に思い至らなかったのだ。
ここで盗賊一味をはっきりと潰しておかないと、後から後から盗賊になる奴が出てきてしまう。俺たちにはテキトー一族の実地研修の相手なんかしている暇はないのだ。
そもそも、あいつらに実地研修が必要かどうかって話もある。ムサいやつらだけど、それなりに強いだろうし、命令でしっかり縛ってあるから、少なくとも盗賊はしないからね。
「これは俺の独自調査なんだけど、俺たちを襲った盗賊団に入ってる奴が、探索者の中にまだ二百人ほどいるんだよね。まずはこいつらを殲滅する。探索者の掃除が終わったら次は外部の盗賊たちかな。」
最初は放置で良いかと思っていたんだけどね。今ここで殲滅しておかないと駄目だ。もうこの町はそこまで酷い状態になっているのだ。
「もうどうでもいい、好きにしろ……お前らに代官閣下から呼び出し状が来ている。仕事で忙しいからってことにしてやろうと思ったんだがな……。自分らで何とかしろよ?」
「そんなものは知らん。会いたかったら自分から来いって言っといてよ。」
「ば、馬鹿か! 代官閣下だぞ? この町の支配者だぞ!」
「わかってるって。だから会わないなんて言ってないでしょ。ちゃんと伝えといてね?」
だってそいつ、俺の奴隷だよ? 俺が来いって言ったらすっ飛んでくるし、全面協力してくれるし、何の問題もないんだよね。
そんな話をしながらも、俺は遠隔で盗賊やヤクザたちの奴隷化をすすめていた。すぐ目の前にいたり、町の中にいるならそれほどでもないけれど、狩りのために森にいるようだと奴隷化にもそれなりに負荷がかかる。
仲間たちが中級探索者の銀札を受け取り、探索者協会支部の建物から出てからも、奴隷化作業を続けていた。
「どんな感じだ? 今日一日で終わりそうか?」
「町中はほとんど押さえたよ。でも狩りに出ているヤツらもいるからね。全部終わるにはもう少しかかるかな。」
実際に忙しく作業を続けているのはシルビアとグロリアだし、俺自身は宿屋でのんびりしている。仲間たちも似たようなもので、出かけるのは自粛しているようだが、自室で思い思いのことをして過ごしているようだ。
「それで、賢者、盗賊やヤクザの始末はどうつける?」
「盗賊は今まで通り殲滅して探索者にするのがいいかな。ヤクザたちにはちょっと考えがある。」
若い盗賊のうち、脅されて強制されていただけの奴は、命令で盗賊行為を禁止するぐらいでいいかもしれない。でも結構楽しんでた奴は、確実に処分だ。
盗賊たちを大量に狩ったおかげで、そいつらの消費が綺麗に消えて無くなって、景気はかなり悪化している。そのうえに食料の供給不足だ。
このまま放っておくと、狩った盗賊の残された家族なんか、このまま飢え死にするか、または盗賊になるかぐらいしか道が無いかもしれない。
北の街道の橋は復旧の見込みが立っていないし、食料をどこかから買い入れるというのも難しい。やはりここで打てる手は芋の増産ぐらいだ。
町を二倍に広げる。すぐに石壁は無理だから、まずは木の柵で。堀も後回しにして、芋畑を広げる。資金はヤクザや代官が貯め込んだものでなんとかしようか。
それで足りなければ、ある程度は俺が出してもいいだろうし、壁づくりなどはシルビアとグロリアに頼んでも良い。
そんなことを考えていると、青がえる亭の前に一台の立派な馬車が泊まった。
どうやら代官が飛んで来たらしい。




