90.経験と成長
「賢者、そろそろ交替だ。」
「ふわ、もうそんな時間か……、わかった、起きるわ。」
まだ朝には遠い時間帯、ダイキに起こされた。見張りの交替だ。
森と草原の境目、それもかなり町から遠い場所だということもあって、ここまでは盗賊の来襲もなく無事に終わっている。
シロを起こさないように気を付けながらテントの外に出ると、満天の星が夜空に輝いていた。こういうのも良いかもしれないね。たまになら。
ウテナも同じようにテントから起き出している。
俺はしっかり伸びをして体をほぐすと、そのまま見張りについた。
「それじゃ、ちょっと盗賊の処理するから、周囲の監視よろしくね。」
「はい、わかりました!」
シルビアとグロリアから、特に問題なしとの報告は受けているけれど、これは見張りの練習だから、途切れさせるわけにもいかない。
(それじゃ、ちょっと練り練りしてみようか。)
《ある程度余裕を見て、八十人ぐらいづつにしましょうか~。》
〈そうね。狩りでも強めの魔法を使うかもしれないし。〉
二人によれば、いっぺんに二百人ぐらいは処理できるらしい。
それ以上となると負荷がかかって危ないらしいのだけど、負荷がかかるほどの魔法というは、ほとんどが人造人間の製造、そして奴隷化の魔法の二つだ。
そのうち奴隷化の負荷はかなり低いみたいなので、実際の話、練り練りさえしなければほとんど問題は無いらしい。
妖獣の索敵や誘導も、空を飛ぶのも、みんなに結界を張るのも、実はほとんど負荷がない。奴隷化ではなく、盗賊を殺すだけなら無負荷だし、奴隷たちと連絡を取るのも無負荷だ。
俺は使っていないけど、もしもヤマブキみたいな瞬間移動をグループでまとめてやったりすると、奴隷化並みの負荷はかかるらしい。
負荷を考えると練り練りはやめて、奴隷化でも良いのかも知れないけどね。その方が魔法だけでなくて、町自体への負荷もそれほど大きくないかもしれない。
でも人造人間にすると個人の戦闘力がかなり上がるし、札持ちなら教会から報奨金がもらえる。盗賊団などとの関係を完全に切れるというのも魅力だ。
〈やっぱり奴隷化にする?〉
(いや、人造人間でお願い。)
素材は仮死状態にして、魔法の袋の中に詰めこんである。それを八十体ほど出して、芋の皮や、煮だしたあとの妖獣の骨を加えて、六十体ほどの人造人間を作り出すのだ。
名前を考えるのが面倒になったので、適当に元の名前をアレンジして名乗らせることにした。適当な名前なので、テキトー一族だ。
例えば、元の素体がタロウとゴンベエが主体になっていたら、タロベエとかゴンタロウとか、はたまたタロゴンとか、自分で名乗らせるのだ。
当然、盗賊禁止などを命令したあと、ウテナとの話し合いのこともあり、神殿ではなくて俺に三割を寄付させることにしている。
そうしておけば、もしも必要になったら俺が寄付すればいいし、どうせこいつらと俺は関係あることなんて分かり切っているから、もう隠さない方針なのだ。
最後に装備や荷物などを調整して完成だ。
芋が余りまくってるように思っていたけど、良く考えたらこいつらにある程度渡す必要があったので、ほとんど余っていない。
今回は町から出撃してきた奴らが多かったから。道具類もあんまり余ってないんだよね。まあ、テキトー一族だし、テキトーで良いか。
みんなが起き出す前、まだ暗い内に、彼らは町に向かって旅立って行った。
「言葉にしないほうがいい、と思わなくもないですが……、やはり、なんだか不気味なものですね……。」
彼らが立ち去っていく姿を眺めながら、ぽつりとウテナがそんなことを口にした。
わからなくもない。俺はもう慣れてしまってなんともないけれど、今、八十人ほどの人間を殺して、六十体ほどの人造人間を作り出したのだ。これが不気味じゃないはずがない。
人造人間たちは俺に一切逆らうことなく、命令を受けて一斉に行動する。その姿もかなり不気味だ。
「そうだね、こんなのって、人が人に対してやることじゃないよね。」
「相手は人じゃない、盗賊だ、それはわかっているんですけど……。」
いや、そういう意味じゃない。人じゃないのは俺の方だ。
俺はその魂を神様に作られた人造人間、いや神造人間? もっと正確に言うと、神造タワシ人だから。
何をするにもいい加減で、人任せで、強い奴の影でコソコソする、そんな俺の本質は何も変わってないと思う。
だけど、俺はもっとえっちだったというか、女の子の体をのぞき見したり、あわよくば触ることばかり考えていたはずなのだ。
魂が一度壊れて女神様に直してもらって、それも壊れてタワシ二個で修理されて、それも壊れかけてまた直してもらった。
そうしているうちに、どんどん元の人格が失われてる気がするんだよね。で、それが当然で何も問題ないという感覚。
女神様たちがやって来て、何かして帰ったというのに、それが何だったのかまったく気にならない。それをおかしいとも思わない事がおかしいんだけど、それをおかしいとはどうしても思えない。
多分だけど、とうの昔に俺は俺じゃない。
そしてホムラやマヤ、そしてウテナも、もう壊れ始めているんだ。
「おかしいとか、不気味とか、そういう違和感はそのたびに口に出したほうが良いよ。」
こんなことを言いながらも、俺はなにも違和感を感じていなかった。
朝食を終えて森に入り、シルビアとグロリアがかき集めた妖獣たちを狩りまくり、夕食をとって不寝番をし、朝になったら新しい人造人間を送り出す。そんな毎日が続く。
狩りといっても、森の中を走り回って対処するようなものではない。しっかりと誘導された妖獣を数人がかりで屠殺、屠殺、屠殺。疲れたところで後ろと交替して休憩、この繰り返しだ。
「こうなるとわかってはいたけど、結構きっついぜ。」
「なんていうか、儲かるのはわかるんだけど、ちょっとは冒険してる感が欲しいわよ……。」
まあ言いたいことは分かるよ。狩りっていうよりも、牧畜というか、なんか農業感あるよね。
「我がまま。仕事はこういうもの。」
マヤ、さすが元農民だけのことはある。
まあ、飽きてくるのはわかるけど、前回の狩りの時に比べると格段に腕があがっているのも確かだ。
飽きるって言うのは、それだけ緊張感なく殺せるようになっているからで、いろいろな場合の対処がうまくなっている、その裏返しでもあるからね。
「剣術の型みたいなもので、これをしっかり固めて身に付けていくほうが良いと思うけどね。」
「型……、そうか、修行か!」
「よし、特訓だな!」
若干二名の気合のボルテージが上がった。
みんなあまり気づいていないようだけど、これでも誘導する量を増やしたり、間口を広めにとったりと、少しづつ難易度を上げてあるのだ。
それでもサクサクと処理が進んでいるのだから、みんなの腕だって上がっているはず。
もしも実地研修の時のように妖獣シバーの陽動を受けたとしても、おそらく今ならさっくり狩ってしまえるだろうし、前衛が引っ張り出されて分断なんてことはないんじゃないかな。
不満の声に応えたわけでもないだろうけど、その翌日からは妖獣シバーだけでなく、妖獣ヘビーや妖獣クマーなども混じるようになってきた。
「うわ、こいつ強い!」
「ああ、当たらない、この! この!」
最初はうまく狩れず、後衛から助け船を出したり、怪我を負ってウテナの魔法の出番になったりしていたけれど、そのうちうまく連携したり、相手の隙をついたりと、ある程度対処できるようになってくる。
うん、やはりみんな、一対一での強さが段違いになってるよね。
あれからまだ四ヶ月ほどしか経っていない。それを考えるとみんなの成長速度の速さがわかるというものだ。
この世界、ロールプレイングゲームのような、経験値やレベルみたいなものはない。ただひたすら己を鍛える以外に、強くなる方法はないのだから。
それから数日後。最後のテキトー一族を送り出して、俺たちの狩りは終わった。
そしてその帰り道、盗賊はたった二組しか現れることはなかった。




