89.後処理
盗賊の大群自体は始末し終えたけれど、俺たちはまだ町に戻ってはいなかった。
シルビアとグロリアも修行によって魔法の効率が上がっているのだけれど、どうもこれだけの大人数をいっぺんに練り練りすることは出来ないらしい。
さすがに千人が相手ともなると、必要な魔力が多すぎてオーバーヒートの危険があるらしく、少しづつ小分けにする必要があるのだ。
以前なら何も考えずにやっちゃってただろうけどね。それをしっかり判断できるようになってるというのもまた、修行の成果だね。
「どうせなら、狩りにいかね?」
「それは良い考えですね、お肉も集めておきたいですし。」
確かに、それは良さそうだ。
ということで、俺たちは西に向かって街道を進んでいた。
千人からの盗賊、素行の悪かった探索者や武闘派のヤクザ共が一晩で町から消えて、このあとどんどん腕の立つ新規の探索者が町にやってくるようになる。
これが俺たち『地獄の賢者』の仕業じゃないと思う奴がいたら、そいつの頭を疑った方が良い。
ヤクザ共がこの後どうするか、その流れはだいたい読める。あくまで武闘闘争を続けるか、権益をゆずって仲良くしようとするか、それとも地下化するかだ。
でもその中に正解は無い。正解は、足を洗って静かに暮らす、だ。
武闘闘争だとかいって襲ってくれば処理するし、俺は権益なんか欲していない。地下にもぐったところで奴隷化した斥候がいるから逃げきれないだろう。
足を洗うところまで行かなくても、しばらくはおとなしくしているしか、もう生き残る道はないんだよね。
「新しい眷属ですけれど、神殿への寄付はお控えいただけませんか?」
「え? どうして?」
「神殿の人はみんないい人なのですけれど、自分たちで何とかする、という気持ちが足りなくて、このままでは滅びてしまうのではないかと……。」
「それじゃ、神殿からの依頼でお賽銭を集めて依頼料をもらう、て形にしようか。」
まだ始めたばかりだけど、広場の露店ではその形で動き出している。そのあたりを固めつつ、勝手に神殿の土地に居座っている連中から地代を集めたりするのを仕事にしていけば、それなりの形にはなるだろう。
放っておけば、そんなやつらはヤクザ化するか、暴力組織に変質していくだろうけど、それはそれ。世の中ってそんなものだからしかたない。
根本的な話として、土地が足りないと思うんだよね。町の外に住むのは危険……といっても、妖獣はほとんど町に寄りついていないようにも見える。
まずは石じゃなくて木の壁で囲って、町を大きくするのがいいんじゃなかろうか。
適当な案だから見当は必要だし、細かいことは良く分からない。面倒だから代官に丸投げしよう。あいつなら資金もそれなりにあるだろう。足りなきゃそれこそ領主からひっぱってくればいいのだ。
初日の、町の近くでの千人以上というのは置いておくとして、そこから翌日、その翌日と、やはり盗賊はわいて出ては襲ってくる。
「まだ、打ち止めじゃなかったとは。」
「元々どれだけいたんだろね。」
元は別の地域出身の、ダイキとチヅルは逆に感心している。
俺もどちらかというとそっちの仲間だけど、実はそれにはからくりがあった。
「どうも千人組に参加予定で町の外で待ってたのが、連絡漏れで今頃参加してるみたい。」
「ああ、そういうことか。」
盗賊は根絶できていない。それは確かだけれど、確実に減ってはいるのだ。それもかなり。
「それならもうしばらくは稼げそうね。」
「タカシ、それならこの辺りで数日過ごすのも良いんじゃないか?」
「でも妖獣も狩りたいんだよなぁ。」
「食料は補充できたけど、芋ばっかりだしね。」
ハヤトとサキは盗賊狩り、ダイキとチヅルは妖獣狩り希望か。ホムラたちはどっちでも良さそうだ。
大量に盗賊を狩ったのは確かだけど、肉の補充はほとんどできていない。町の外での待機組は狩りになど行ってなかったので、手持ちの食料は芋ばっかりだったのだ。
町からの出撃組は当然それほど食料は持っていなかったので、俺たちの魔法の袋の中は、今は芋だらけになっていた。
こういう盗賊狩りをするのも、もしかしたらこれが最後かもしれないし、あと数日は続けても良いかな。
ゆっくりと移動しながら三日ほど盗賊を狙った結果、獲物は毎日減っていき、三日目には驚くべきことに盗賊ゼロということになった。
「なんというか、本来だとこれが普通なんだろうけど……。」
「いなくなってしまうと、それはそれで寂しいわね。」
ハヤトはともかく、サキはかなり勝手なことを言っている。
「しっかり成果が出ているということですね。町にとっても良い事ですよ。」
まあ、そういうことにしておこう。
俺たちはそこで街道を外れ、草原へと踏み入った。
草原はその後の大雨で、瞬く間に息を吹き返し始めていた。
さすがにまだまだ草の背丈は足りないし、ウサギなどの小動物も戻っては来ていない。水はけが悪く、ぬかるみになっている場所も残っている。
それでも草がどんどん伸びて、かなり草原らしい雰囲気が戻ってきていた。
いや、ウサギがいないということも無いらしい。俺にはまったくわからないけど、時々シロが耳をピクピクさせながら、遠くの方を眺めている。見つかりはするけどまだまだ数が少なく、獲物が遠すぎて狩るのは面倒みたいだ。
町からかなり離れているので、ここまでウサギ狩りに来る人は多分少ないのだろう。この辺りで増えすぎて溢れ始めたら、町の周囲でもまたウサギが狩り放題になるんだろうね。
いつものように森が始まるところで、俺たちは野営することにした。
食事はいつものように芋煮とステーキだ。マヤが新作を披露する予定だったそうだけど、その材料になるはずの油を焼き討ちで使っちゃったので……
代わりにはならないけど、在庫が切れていた骨とスネ肉を煮だしたスープが、シルビアとグロリアの復帰でまた作れるようになったので、味自体は良くなったというか、元に戻ったんだけどね。
「無防備に見せて呼び込む技はもう使えないのよね。」
「使えるだろうけど、獲物はかなり減るだろうね。」
少なくとも、今までみたいに狩場にいるだけで肉がどんどん増えていく、なんてことにはならないだろう。
「いや、それならちゃんと見張りを立てた方が良いのかなと思って。」
「あ、それ、俺も賛成だ! みんな、どう思う?」
「俺は賛成だ。護衛の時はちょっと無様だったからな。」
「そうだよね! 見張りにも慣れておかないと、やっぱりいざという時に困るよね。」
「賛成。主様の精霊魔法は使えない時もあるってわかったし。」
「……眠いから嫌。」
「状況に寄りますね。たくさん魔法を使うと、ちゃんと寝ないと回復しないので……。」
やってもいいんだけど、俺もマヤと同じで眠いから嫌なんだよね……。
それはともかく、賛否両論あるけど、賛成が過半数か。
「二交代はきつかったし、四交代でやってみる?」
あれがきつかったのは、二交代だったからというより、盗賊の襲来が後半にあったから前半組がほとんど眠れなかったことと、雷雨でまったく眠れなかったこと、この二つが原因だと思う。
四交代なら深夜に襲われたとしても、前半組だってすこしは寝られるから、あれよりはマシになるんじゃなかろうか。
「いいぜ、タカシ。俺はサキと二番目な。」
「それじゃ俺は、チヅルと三番目か。」
「私はマヤと最初に。」
ということは俺とウテナ、シロが最後か。シロはたぶん寝ていて起きないだろうけど。
「基本は俺たち三組で回す感じだな。」
「賢者の所はウテナだけじゃなくて、シロもいるからそうなるか。」
たしかに。シロがすぐに寝てくれるかどうかにかかってそうだな。




