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今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#3-4 イナーカの町を乗っ取ろう

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88.盗賊さん大集合

 それから少しの間、俺たちは町の中をぶらぶらして過ごしていた。


「泊まってもらってるお客さんなんで、あんまり言いたくは無いんだが、大丈夫なのかい?」


 青がえる亭の主人にはかなり嫌そうな顔をされている。


 長期で料金は払っているけど、一度しっかり中まで侵入されているから、あまり強いことは言えないんだよね。


「すみません、今は一応結界を張ってあるんですけどね。あと数日でしっかり『狩り』に出る予定なので、それまではご迷惑をおかけします。」


 盗賊団の中や繋がりを掌握するのに、どうしてもそれなりの時間がかかるんだよね。



 シルビアとグロリアの結界はしっかり機能している。この数日の間、毎晩大規模な襲撃を受けているけれど、宿の敷地には盗賊を一歩も踏み込ませてはいない。


 もちろん夜だけでなく、昼の明るいうちにも襲撃は受けている。そのたびに何人かを奴隷化し、残りは練り練りして探索者を増やして、確実にこちらの手駒を増やしつつ、さらに敵に浸透していっているのだ。


(かなり繋がりもはっきりしてきたね。)

《大きな組織が五つありますけど~、四つまで掌握しましたから~。》

〈小さいところも連合が進んでいるわ。〉


 大手で残っているのは、以前ヤマブキやシロと訪問した、ハリボテ組長率いるサンシタ組だ。連合に入っていない、独立したヤクザ組はもうあいつらしかいないとってもいい状態だ。


(連合が進むって、どんな感じなんだろうね。)

《もしかしたら滅ぼされるかもって、危機感がハンパじゃないみたいですね~。》

〈焼き討ちが効いているみたいよ。連合して、反撃策を練っているわね。〉


 たしかに、大きな暴力団を一つ、しっかり潰したわけだから、いくら馬鹿でも危機感を持っておかしくないか。


《盗賊団につながっている探索者も多いですよ~。》

〈盗賊から見逃してもらう代わりに、定期的にお金を払っている探索者も多いわね。〉

《脅されてしかたなく盗賊している人も多いかも~。》


 それはあんまり聞きたくなかった情報だなぁ。おそらく家族もいるだろうし、それをネタに脅されているというのもあるんだろう。


 いろいろ事情はあるのかもしれないけど、襲い掛かってくる以上は、殲滅することになる。


 たとえ強制されてしかたがなかったとしても、まだ大人になっていない子供でも同じだ。



 ちょっと驚いたのは、探索者協会の職員は誰も繋がってなかったってこと。付け届けなんかは貰ったりしているみたいだけど、どうやらそれだけで、盗賊団の一味が紛れ込んでいるというわけではなかった。


 探索者に盗賊が多いから、どこかで繋がってると思ったんだけどね。賄賂は駄目って言うのはその通りだけど、そこまで締めると、多分この世界、全く回らなくなってしまうからね。



「おい、タカシ、いつまでこんな中途半端なことを続けるんだ?」

「もうそろそろ良いんじゃないの?」


 ハヤトたちに言われるまでもなく、そろそろ熟してきた感じがする。


 俺たちはこの数日だけで数十人規模の襲撃者を数回、合わせて百人以上を始末している。これ以上このペースで続けると、相手は俺たちに手出しするのをやめて、地下に潜る可能性が高くなる。それは避けたいところだ。


 今なら潜入させた奴隷たちをうまく煽れば数百人、へたすると千人規模で盗賊たちを引っ張り出せるだろうし、一網打尽にできるだろう。


 ちょっとためすぎた感もあるから、このまま空振りってことも考えられるけどね。


「それじゃ、やるか。」

「手筈通り?」

「最初に協会で依頼確認ですね。」


 見張りがいることもわかっているし、町の中だけでなく、外で待ち構えている集団もいる。


 しっかりエサは撒いてある。あとは釣りだすだけだ。



 予定通りに探索者協会に出掛け、二階の掲示板で適当な依頼を確認する。


「これといって、良いのはないわね。」

「普通に狩り、ついでに採集で良いんじゃね?」


 掲示板の内容は、以前にも増して肉押し感が強い。


 魔法の袋で長期貯蔵できる世界だ。これは勘だけど、実際にはそこまで食料は不足しておらず、俺たちのように魔法の袋の中に在庫を持っている人が多数いるような気がする。


 小さな売り押しみや買い占めが大量に集まって、深刻な食料不足に陥っているんじゃないか、そんな気がするんだよね。


「そんじゃ、そんな感じで軽く行こうか。」


 周囲を警戒しているような素振りは見せない。正直、舐めた態度だと思う。そんな俺たちの、のほほんとした姿を目にすれば、盗賊たちは怒りに震えることだろう。


「盗賊がなんだか気の毒になっちゃうかも。」

「そうか? 俺にはよくわからんが。」


「だってもう死んだも同じなのに、何も気づかずに頑張ってるんだよ?」

「私はいい気味だと思うけど?」


 やっぱりサキは結構辛辣だな。ハヤトもそうだが、町に巣くう暴力組織にはいつも嫌な目に会っているんだろう。


「他人から武力で何かを奪おうとするゴミは、殲滅して当然よ。」

「同感。同所の余地なし。」


 ホムラとマヤは盗賊たちが祖国を滅ぼした奴と同じに見えているんだろうか。


 盗賊たちの中身って、攻めてきた国出身の者よりも、二人の国出身の難民の方が多いみたいだけどね。


 それとも、同じ国出身の者として、許すことが出来ないとか、そういうことなのかもしれない。



〈少しゆっくり移動しなさい。〉

《盗賊たちを引き離しすぎですよ~。》


 これはいけない。ついつい何も気にせずサクサクと歩いていたよ。


 少し時間を引き延ばすために、俺はみんなに断りをいれて、城門の脇にある掲示板を確認しに行く。


 あの草原の火事からは一ヶ月近くたっているし、今更、シロの母親が何かを残しているとは思わないけれど、もしかしたら何かあるかもしれない。


 掲示板を確認してみると、俺が残したメモはまだ十分読み取れるけれど、雨に打たれてかなりボロボロになっていた。


「貼り換えとこうか。」


 新しいメモと入れ替える中で、俺は掲示板に一つ、俺宛のメモをみつけた。


 まだ真新しいそのメモは、どうみてもシロの母親からのものじゃない。


『盗賊狩りを殲滅せよ!』


 へえ、いい度胸じゃないの。


 それなら、おっしゃる通り、完全に殲滅しちゃおうか。


《それがいいですね~。容赦なしで行きましょうか~。》



 俺たちがのんびりと城門を出ていくと、いつもの門番さんがそっと声をかけてくれる。


「なんだかぶっそうな予感がある。気をつけろよ。」

「はい、ありがとうございます、気を付けますよ。」


 これは予感というよりは、実感だろう。門番さんたちは盗賊の仲間ではないけれど、賄賂をもらってたりするからね。


 町を離れ、街道を少し進んだところで、俺たちは一度足を止めた。


 なんというか、ある程度開けていて、丁度良さげな場所だ。


「ちょっとテントの掃除をしておきたいんだけど、みんな手伝ってくれるよね?」

「ああ、チヅルが壊した奴な。」


 ちょっとわざとらしい話だけど、ちゃんと実用も兼ねているのだ。


 テントの柱はチヅルに折られたままだし、その時に布にもかなり泥汚れがついているから、掃除が必要だったんだよね。


 基礎の角材は泥だらけでもいいけれど、床板が砂だらけなのは嫌だから、しっかり払って綺麗にしておきたい。


 角材の上に床板を並べ、ほうきを使って丁寧に砂をはいてもらう。


 俺はその間に折れた柱の修理だ。魔法でやれば一発なんだけどね、今は時間かせぎっていう目的もあるので、それっぽく時間をかける必要がある。


 添え木を革で巻き付けて直してるように見せる感じか。


(中身は魔法でしっかり直してね。)

《わかってますよ~、ほ~い!》


 泥で汚れた布も、干して乾かしたあとにほうきではいて、砂を落としていく。床板などもそうだけど、魔法の袋に片づける時に、浄化できれいにしてしまう作戦だ。


 相手だって、俺たちが何も考えずにこんなことをしているとは思わないだろう。盗賊を待ち構えて誘っている、そう素直に受け取ってくれるはずだ。


 きっと集団で襲い掛かって来てくれる。よね?



 まだまだ土はかなり湿っていて、直接座るには勇気がいる。テントの布や柱は片づけ、床だけを残して寛げる場所を確保しながら、俺たちは夕飯の準備を始める。


 時間的にはまだ早いけどね。たぶん襲撃は日が沈んでからになるから、いまのうちに食事を終わらせておくのだ。


《どんどん集まって来てますよ~。》

〈これは記録に残りそうね。〉


「もう盗賊って確定なんだから、今すぐ処分してしまっても良くない?」

「俺もそう思った。賢者、なんでこんな面倒なことするんだ?」


「千を越える盗賊に襲い掛かられたけど撃退した、こんな話が流れたら、もう誰も逆らわないでしょ?」


 すでに何人も奴隷化してはいるけれど、これは情報収集のためだ。


 この先、襲い掛かってくることなく、品行方正に生きていくなら、俺が何かを命令することもないし、ましてや殺すことなんてないだろう。


 町中全員を奴隷にしてしまう手がないわけじゃない。でもそれはなんとなく面白くない気がする。別にこの町を支配したいわけじゃないし、ただ盗賊を減らしたいだけなんだよね。


 盗賊はぶち殺す。いろいろ問題が出るかも知れないけど、基本的に俺は知らん。ある程度はゴミ一族で補完するから、あとは好きにしろ、って感じだ。


「鬼だな。」

「鬼よね。」


「盗賊が哀れって気持ちがわかる気がしてきたぞ。」

「でしょ?」



 その夜、千人を超える盗賊がこの町から消えた。



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