87.戻ってきた精霊さん
中級者試験中の特別休暇期間が終わったので、俺たちは久しぶりに探索者協会支部に出掛けていた。
メガーミさんとアーネさんは、すでに町を離れ、どこかに旅立っている。たぶん神さまの世界に戻ったのだろう。
宿屋には延長料金を支払ってあるけど、この状況が落ち着くまで、しばらくは戻れないかな。
ヤマブキは南の森に瞬間移動で戻り、スザクとマミコは森に狩りに出たようだ。ヤクザのデブが持っていた財宝を山分けしたので、三人ともほくほく顔で去っていった。
今の俺たちには彼女たちの魔法の援護はなくなっている。でも問題はない。
そう、シルビアとグロリアが戻って来たのだ。
〈女神様、特にお姉さま、厳しすぎよ……。〉
《ほんとそうですよ~。死ぬかと思いました~。》
はいはい、もうその愚痴、何度も聞いたからね?
お姉さまの修行はかなり厳しかったらしく、今まで魔力でゴリ押ししていた二人の魔法は、かなり洗練されたらしい。
人造人間化や、奴隷化の魔法はもう使えなくなるかと思っていたけれど、魂がしっかりしている間なら、問題なく使える状態になったそうだ。
さすがに森に大穴を空けたような魔法は使えないみたいだけどね。いや、使えなくはないけど、生命に関わるんで。
探索者協会に到着した俺たちは、一階のオーバさんに盗賊狩りの副産物、探索者証を数枚を納品すると、そのまま二階受付へと上がった。
今回は町の中や周辺でずっと大人しくしていたので、納品するものがほとんど無いのだ。
二階の受付前では、アコギ組を殲滅した影響だろう、ちょっと目つきの悪い連中が数人たむろしていた。ここで見張って、俺たちを見つけ出そうという腹だろうね。
あ、一人走った。
〈間違いないわ。盗賊の斥候よ。〉
(頼んだ!)
《は~い、そ~れっ!》
久しぶりの魔法だったけど、結構きれいに決まったみたいだ。
俺はもとから盗賊には一切の容赦をするつもりはない。今回の相手は盗賊団なのだから、そいつ個人が盗賊を働いたかどうかは問題にはならない。その集団に属しているものはすべて、盗賊として処理することになる。
殺すわけじゃないけどね。走った奴も、残って見張っていた奴も、盗賊団と繋がっているヤクザ者は例外なく奴隷化して、奴らの中に潜り込ませる作戦なのだ。
盗賊は殺して練り練りして、再生してから探索者登録だね。そのうちまともな人間が一人もいなくなるかも知れないけど。
斥候にはこのまま、ありのまま報告させよう。その方が根こそぎ処理しやすくなるし。
受付に向かうと、いつもの支部長が渋い顔をしてこちらを睨んでいる。うん、ちょっと怖いし、支部長じゃなくて、ミハルさんにお願いしようかな。
「おい、お前ら、いいからちょっと来いっ!」
もちろん逃げられない。
俺たちは支部長に三階の会議室に引っ張られていった。
「おい、お前ら。どういうつもりだ? 説明しやがれ。」
部屋に入ると開口一番、支部長がこちらをギロリと睨みつけながら、脅すようなことを言ってくる。
「どういうつもり、とは?」
「しらばくれるな。アコギ組のことに決まっているだろうが!」
「アコギ組?」
もちろん名前は聞いているし知っている。その建物がどうなったかも、デブが三階から降って来て、その後どうなったかもだ。だがデブと自己紹介したわけじゃないし、知らないと言えば知らないのだ。
「俺たちは、この休暇の間は日帰りで狩りをしてたんですよね。そしたら泊ってた宿屋を覆面の盗賊団に襲われまして。後をつけてアジトを潰してやりましたよ。アコギ組とかは知りませんね。」
日帰りでやってたのは狩りは狩りでも盗賊狩り、しかも昼夜逆転での狩りだった。その後、盗賊に襲われたのは本当だし、宿屋の主人や宿泊客などもそれを目撃しているはずだ。
俺たちには盗賊に逆襲する権利があったわけで、それがアコギ組とどう関係してるのか、そんなことは知ったことではないのだ。
「あくまで、盗賊を討ちに行った、そう言いたいのか?」
「言いたいも何も、それが事実だし。それ以外のことはやってないし。」
「なあ、おっさん。おっさん、盗賊の味方か?」
「襲って来たやつを殺す、おっさんがそう教えただろ? それとも俺たちの勘違いか?」
俺だけじゃなく、ハヤトやダイキも加勢してくる。
これでまだ文句をつけてくるなら、支部長、あんたも盗賊の仲間だぞ?
「盗賊の味方のはずがないだろうが。ただ抗争となると町が荒れるからな。あまり無茶されると困る。」
「それなら、盗賊団の方を止めてよね。」
「そうです。こちらは降りかかる火の粉を払っているだけだから。」
こっちはもう、覚悟も、戦闘準備も終わってるからね。
「あ、そうだ。さっき二階のロビーに盗賊の斥候らしいのがいて、どっかに走り去ったんだよね。たぶん襲撃してくるから、また荒れるんじゃないかな。」
最新情報も一応入れておくか。支部長は味方とは言い切れないかも知れないが、別に完全に敵対しているわけじゃないしね。
「お前ら、分かっていて……ああ、まったく、タチが悪い……。」
そう言われてもねえ、俺たちにどうしろと? 何度も同じことを言うようだけど、止めるなら盗賊の方を止めてくれ。
「こんなやつらを中級に上げていいのか、分からなくなってきたが……。ほら、お前らの新しい探索者証だ。」
俺、ホムラ、マヤは銀、他のみんなは銅の探索者証だ。みんなのものは初級の銅だが、中級者グループ『地獄の賢者』の名前がしっかりと記されている。
古い探索者証と交換で新しい物を受け取り、それを首からぶら下げる。
「今日はこれで終わり、かな?」
「いや、お前らしばらく、落ち着くまで狩りに出ろ。数ヶ月くらい戻って来るな。」
「それって命令?」
「心配して言ってやってるんだよ! ごちゃごちゃ言わずに狩りに行け!」
いったい何がなんだっていうんだか。首をかしげていると、支部長はさらに声を荒げた。
「代官が動き出しそうなんだよ! お前らのことだ、代官だろうが、領主だろうが、敵対したら盗賊とか言い出しかねん。
だが、これだけは言っておくぞ。代官と敵対したら、その時点で犯罪者だ。だからしばらく身を隠せ。わかったな?」
ああ。そういうことか。
この盗賊都市、代官が後ろで手を引いてるわけね。
「代官、それから領主が相手ってわけだ。」
「相手にとって不足はないわね。」
「やるからには、先手必勝よね!」
「よし、今から行くか?」
あああ、もう。火をつけてくれちゃって、まあ。
俺がジト目で支部長を睨みつける。
「代官が盗賊ってことじゃないからな! ただあれだ、ほら、捜査となったら探索者を犯人に仕立てあげてくる可能性とかだな……。」
慌てた様子で打ち消そうとしているが、ちょっと急場感というか、無理やり感が大きい。
(で、代官ってどんな感じ?)
〈ほぼ黒よ。ヤクザからの上納で私腹を肥やしているわね。〉
ならば簡単。少し様子を見て、確定なら動き出そう。
「本当に駄目だからな! わかってるよな? な?」
そんなに念を押さなくっても。俺たちはただ、やるべきことをやるだけだよ?
支部長もまあ、やるべきことをやってくれ。
「で、代官はいつやる? 今から? それとも今夜か?」
「まあまあ、ちょっと押さえてよね。」
何人か目つきの悪いのが、探索者支部から出てきた俺たちについてきている。もちろんヤクザの仲間、盗賊団の一員だ。
当然、シルビアたちに頼んで、速攻で奴隷化している。
「まだ黒って確定したわけじゃないでしょ。今はまだ、手駒を集めて探りを入れ始めたところだから、もうちょっと時間がかかるんじゃないかな。」
「そんな悠長なことをしてて、向こうに先手を打たれるわよ?」
いや、大丈夫だって。
だってさっき……、奴隷化しちゃった!
これもお姉さまの修行のたまものだね。まだ何も命令してないけど、さて、どうしちゃおうかな。




