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今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#3-3 盗賊との戦いを進めよう

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86.夜襲のお返し

 西の空に血のような真っ赤な月が浮かんでいた。


 盗賊たちがやって来た道、そして逃げ帰った道。


 その道を今、俺たちは進んでいる。


 真夜中を回っているが、まだ朝には遠い。少し風が強くなってきたのか、真っ黒な木々がザワザワと不気味に揺れる。


「どんな感じ?」

「逃げ込んだ先は、ヤクザの本拠っぽいわね。」


 ヤクザの本拠、と聞いて、以前ヤマブキとお邪魔した場所を思い浮かべる。


「ああ、あれとは違うわ。周囲が開けていて、隠れて近寄るのは難しい、というのは似ているわね。」

「こっちだと、アコギ組ですね。」


 ヤマブキがもたらした方角や、地域の情報から、スザクが敵の正体を指摘した。この町の裏を牛耳っている、いくつかあるヤクザのうちの一つらしい。


「タカシ、今夜、完全に潰そうぜ。」

「賛成。アコギ組なんて、生かしておいても芋の肥料にもならないわ。」


 完全に、か。シルビアとグロリアがいれば、何の苦労もなく完全に殲滅できるだろう。


 だけど今ならどうだろうか? いや、完全とはいわなくても、手はあるかも?


 あれだけの雷雨の後だ。町はやっと乾き始めたところだけれど、まだ空気は湿り気を帯びている。これはもしかしたら女神の恩寵なのかも知れないぞ。


「みんな聞いて。ちょっと話があるんだ。」



 覆面たちが逃げ込んだ大きな建物を前に、大きな広場を見渡しながら、俺たちは作戦の最後の確認を行う。


 すぐ近くには応援に呼んだゴミ一族の姿もある。全力出撃だ。


 マヤがちょっと涙目になっているけど、こうなったからにはもう諦めて欲しい。シルビアたちが戻ってくれば、そっちは何とかなると思うし。


「それじゃ、やるか。」

「こっちはいいわよ。」

「任せて。」


 ヤマブキが魔法の詠唱を始めた。これは相手に見つかりにくくなるという魔法だ。


 効果はそれほどでもないし、あまり長くも続かない。しかしあるのと無いのとではやっぱり違う。ここは万全を期したほうが良い。


 チヅルを先頭にして、サキ、そしてホムラが大きな(たる)を持って、広場の先にある建物に近づいていく。


 木造だけど三階建てのかなり大きな建物だ。三人が樽の中身を建物にかけて回る。この中身は、そう、もちろん油だ。


 灯油で充分なんだけど、充分な在庫が無かったので、マヤが用意していた食用油を拝借した。


「あああ、カラアゲがぁ~。」


 ほら、もう諦めなって。


 油を撒き終わったら、後は全員で建物を囲んで一斉に!



 俺たちが点けた火は、最初はパチパチと、そしてメラメラと広がっていく。


 スザクは風魔法を使って炎をあおっているけど、ヤマブキはそれ以上にえげつない。風もそうだが、窓から逃げられないように、建物の近くの地面を魔法でトゲトゲに変えていく。


 表玄関には俺たちが、裏口にはゴミ一族が陣取って、飛び出してくる奴らをぶちのめそうと、しっかり身構えている。


 やっと火事に気付いたのか、建物の部屋に明かりがともり始めた。


「か、火事だ!」

「逃げろ、早く!」

「いや、消せ!」


 もうかなり火の手が上がっている。いまから消すのは簡単じゃないだろう。魔法なら消すこともできるだろうけど、こっちにだって魔法使いが二人もいるのだ。


 消火のためか、それとも逃げるためか、建物から飛び出してくるヤクザ連中を、俺たちはサクサクと斬り倒していく。


 さらにヤマブキが、そしてスザクが炎の魔法を建物に直接ぶち込みはじめた。一階はすでに火の海。炎は二階、そして三階に回り始めている。


 真っ黒な煙が立ち上がっているのだろうが、暗闇のせいで良く見えない。ただ建物にへばりついたような真っ赤な炎、バチバチと弾ける音、そして何かが激しく焦げた匂いがあたりに充満していく。


 窓から飛び降りる人影も増えてきた。ゴミ一族が建物の横にも回り込んで、彼らの息の根を止め始めたようだ。まったく容赦ないな、人のことは言えないけど。



 ここまでまったく反撃らしい反撃は無い。いや、あるにはあったけど、散発で数人規模。全く相手にはならなかった。


「タカシ、結構逃げられちまったな。」

「まだ人手が足りないし、そこはまあ諦めよう。」


 特に火事がまだ小さかった時、窓から逃げ出した奴がそこそこいる。こちらは全力出撃しているとはいえ、ゴミ一族はまだ揃っていないので、全員を仕留めるのは無理だったのだ。


 それでも今は飛び降りたところで確実に息の根を止められているし、その中には魔法の袋をたくさん抱えたデブもいた。充分な戦果だと思うよ。


 ゴウゴウと燃え盛る建物の中には、まだ人が残っているのだろう。おそらく悲鳴を上げているだろうが、炎の音にかき消されていて、あまり気にならない。


 飛び降りてもその場で斬り殺される、そんな姿が赤い炎に照らされていては、もう逃げる気力も失われているだろう。



 ピーッという笛の音が、遠くから聞こえてくる。やっと町の衛兵たちが動き出したかな。


「どうする? そろそろ撤退する?」

「そうだね。その方が面倒がなさそうだ。」


 こちらは襲われたから反撃しているに過ぎない。そして相手は盗賊団と結託するヤクザ組織。とはいえ屋敷ごと焼き討ちにするのは、かなりやり過ぎな感じはある。


 尋問などを受けるのは別にいいけど、衛兵がヤクザと繋がっていないとは限らない。いや、証拠は何もないけど、俺の想像では確実につながっているね。


 俺は撤退の合図を出し、火の粉をまき散らして燃える建物からバラバラと立ち去り、野次馬たちの中へと散っていった。



 暴力組織、アコギ組への焼き討ち。そしてその組長の惨殺。


 これは裏社会だけでなく、当然、表社会でも大きなニュースになった。現場には二十人ほどの武装した集団がいたと思われ、暴力組織同士の抗争が疑われた。


 それから一週間、町の人々は深刻な食糧不足と景気の悪化、さらには暴力団の抗争激化と、不安の真っただ中にいることだろう。


 俺たちはというと、昼は町の外でのんびりとしていた。盗賊が来れば殺し、そうでなければ昼寝するという怠惰な生活だ。


 夜になれば町に戻り、ヤマブキが魔法で調べた、火事から逃げた奴らが逃げ込んだ場所をつぶして回っている。


 もぬけの殻になってるところも増えてきたけどね。そろそろ残党狩りも終わりだろう。



 おそらくまだまだ残党は残っているし、関連団体や下部組織などもあるだろう。上位組織がある可能性だって高い。他の敵対暴力団が乗り込んでくることだってあるはずだ。


 まだまだ予断は許さない、というよりも、これからが戦いの本番、そう考えても考えすぎではないだろう。


「それにしても、本当に良かったの?」


 ハヤトとサキはこの町の出身、というかこの町に実家がある。うやむやの内に深夜の盗賊狩りに連れ出して、そのままの状況だ。


「ああ、丁度良かったしな。」

「渡りに船というか、あのまま実家にいたら、骨の髄までしゃぶられてたよ。」


 狩りから戻った翌日には、休暇も無しで朝から畑仕事に駆り出されてたみたいだったし、けっこうひどいとは思っていたけど、それほどまでにひどかったのか。


「売り上げは全部よこせ、って言ってくるしな。利益じゃなくて売り上げだぞ?」

「そうそう。次の狩りの食料までよこせ、だもんね。」


「うちは魔法の袋ごとよこせ、だ。どうやって暮らせって言うんだか。」

「こっちは武器と防具を売り飛ばされそうになったわ。」


 ああ、金の卵を産むガチョウを締めちゃったパターンか……。


 二人は現金はほぼ全部協会に預け、魔法の袋は死守していたらしい。休み無しもひどいが、商売道具まで持って行こうとするとは、かなりエグい話だ。


 ダイキやチヅルも、ありそうな話だと笑っている。俺からしたら、毒親も良いところだけど、この世界では当たり前のような話なのかも知れない。



 神殿や孤児院の警備、そして神殿前広場の巡回は、ゴミ一族に交代でやらせることにした。


 特に神殿前広場では、今までヤクザがやっていた露店からの徴収もゴミ一族に任せている。もちろん神殿に話を通して、全額を神殿に納める形式だ。


 神殿からは無理な徴収をしないこと、特に売り上げが足りない露店からの徴収は行わないことなど、いくつか条件をつけられている。


 今はまだ動けないので無理だが、そのうちチンピラが復帰してきたら、任せようかと思っている。その時は神殿に彼らの生活費を出してもらう予定だ。



 この先はどういう展開になるのか。だが俺は、そして仲間たちも、盗賊相手に一歩だって引くつもりはなかった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

感謝感激です!


本格的な抗争にもつれ込みそうですが、いったいどうなってしまうんでしょうか。

ちょっと執筆が追いついてないので、毎日更新は止まるかも。


もしよろしければ、感想や評価をいただければありがたいです。

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