83.作戦実行の前夜
話を聞いてみると、ヤマブキもこの町のヤクザたちや盗賊の多さには辟易としていたらしく、さらに闇妖精のせいで盗賊行為までさせられたことで、機会があれば盗賊を殺しまくってその失敗を挽回したかったそうだ。
スザクには無理でもヤマブキなら、たとえ相手が魔法使いでなくても強制的に通信で呼び出すことができる。
ヤマブキが参加したことで、まずは町に戻っているゴミ一族を次の狩りに出発させず、町に待機させることが決まった。
現在ゴミ一族は合わせて百六十五名、全員が初級探索者だが、実力的には中級探索者と言って良い者ばかりだ。もしも全員を集結させればかなりの戦力になることは間違いない。
もちろん食料供給の仕事もあるので、全員を呼び戻すことは得策ではない。そこで今この町に戻っている者、またこれから町に戻って来る者だけを招集することになったのだ。
町にいるのは十五名に過ぎなかったが、明日には十名、明後日には五名というように、毎日陸続と戻って来て戦力がどんどん厚くなっていく。
彼らは元々が本職の盗賊だった者たちだ。盗賊の出方も良く知っているし、中には相手の顔を知っている者だっている。彼らの参加は、充分に作戦の決め手の一つになり得るものだった。
こうして俺たち『地獄の賢者』の九人、新生『不滅の壁』の二人、上級探索者ヤマブキ、そしてゴミ一族たち十五人、合わせて二十七人の戦力が揃うことになった。
「それだけの人数なら、何人かを孤児院の警護に回せそうですね。」
それならゴミ一族から五人ぐらいを派遣するか。これから毎日人数が増えるし、必要なら増員や交替もできるはずだ。
「なあ、それだけ数が揃うなら、まずはヤクザをシメるってのはどうだ?」
「ん? ハヤト、それどういうこと? 盗賊を殺すんじゃなかったの?」
「いや、ヤクザと盗賊はつるんでるって話だろ? まずはヤクザをぶちのめしてやれば、盗賊たちが出てくるんじゃないか?」
「ああ、そういうことですか。つまりヤクザを痛めつけて、盗賊を誘い出すってことですね。」
ずっとこの町で暮らしてきたハヤトとサキ、それにウテナは、神殿前の広場に我が物顔でのさばっているヤクザたちに鬱憤がたまっている。
「まずはヤクザを見つけては、手足の二本か三本を折っていく。こっちに反撃してきたところで、盗賊としてぶち殺す、こんな感じか?」
「なかなか良いわね、単純で。」
「なんでもぶちのめすよ!」
ヤマブキとマミコも賛成か。俺にもそれに異存はない。
何より単純なのが良い。
ヤマブキが魔法通信でつないでくれているけど、俺たちはただの烏合の衆だ。難しい策戦や連携などができるとは思えない。
こっちにはウテナがいるから、神殿前のヤクザをぶちのめす大義名分がある。それだけだと殺すのはやり過ぎになるけれど、もしもそれで相手が剣を抜いてくれば、次は盗賊として討伐する理由が生まれるわけだ。
「それじゃ、今日は全員この宿に泊まって、明日の朝食後に広場に押しかけることにしようか。」
「そうだな、家に帰ると面倒なことになるかも知れないしな。」
今は宿の部屋に空きが足りない状況だけど、スザクとマミコは四人部屋をずっと押さえているので、ヤマブキとサキはそこに泊ってもらえる。ハヤトは俺たちの四人部屋だ。
その後は作戦の細かいところを詰めて、食事までの時間は自由に過ごすということにして、解散することになった。
「いや、ちょっと待って。」
「え? 何か悪いところでもあった?」
解散しようとしたとき、ヤマブキからストップがかかった。
「そっちの子、ウテナだっけ? 神官でしょ? こっちの子と部屋を入れ替えて、こっちに来なさい。魔法使い同士の話があるから。」
「あ、はい、その、よろしいのですか?」
「いいから来るの!」
「は、はいっ!」
スザクがヤマブキの言葉を聞いて、うんうん頷いている。そういえばスザクはヤマブキに教えを請いたいみたいなことを言ってたな。
ヤマブキの魔法の力は本物だし、ウテナにも良い影響があるだろう。でもそうなると、四人部屋のメンバーはヤマブキにスザク、ウテナ、それに……マミコ?
マミコ?
え? それでいいの? マミコってサキやチヅルのパワーアップ版では?
「主様、お忘れかもしれませんが、これでもマミコは回復魔法の達人ですよ?」
えええ? あああ? そうだっけ?
「マミコは結界と浄化の魔法も得意ですよ?」
「ええええええ~~~! マミコさんって私たちの仲間だと思ってたのに!」
「嘘よ! ええ? ええ? もしかして、本当なの? えええ~?」
サキとチヅルも本気で驚いている。
そういえば! たしか『不滅の壁』の回復師だったナントカいう女の人も混ぜ込んだんだったか。完全に忘れてたよ……。
マミコが毒のようなものを食べても大丈夫だったのは、脳筋パワーのせいじゃなくて、回復魔法のおかげだったのかも知れないな。
夕食で集まった時には、魔法組の四人はかなり親密な状態になっていた。
「ウテナ、魔法談義はどうだった?」
「いえ、みなさんもう、本当にすごくて。私では話にほとんどついていけませんでした。」
特に同じ回復魔法を使うマミコが凄かったらしい。
俺なんかだと未だに信じられないけど、ウテナはマミコと初対面だったこともあり、まったく先入観がなかったことも良い方向につながったみたいだ。
「これからも色々と教えていただけることになりました。」
そんなことを言って喜んでいるのを見ると、間を取り持ったかいがあったというものだ。
夕食の席にはメガーミさんとアーネさんも同席していた。このところ難しい顔をしていることが多かったけど、今夜はなんだかさっぱりしたような表情で、ときおり笑顔まで見せている。
「メガーミさんたちは、何か問題が解決したんですか?」
「解決まではいかないけれど、おおよその対処は終わったわ。」
「やられっぱなしだったからね~。しっかり守りを固めたってところよ~。」
良く分からないけど、うまくいったならそれで何よりだ。
「貴方も何か面白いことを始めるようね。しっかりやりなさいよ?」
「ちょっとだけ祝福してあげますね~。」
メガーミさんの声に合わせるようにして、俺の体に何か暖かいものが流れて来る。あ、これ、本物の女神様の祝福だ! 収納の中のタワシもなんだか喜んでいるような気がするぞ。
神官のウテナも何かを感じ取ったようで、両手を胸の前で組み合わせて何かのお祈りをしている。俺もそれにならって、両手を合わせて拝んでおいた。
他のみんなは……うん、何も気づいてないみたいだね。
「そういえば、スザクさんたちも、ヤマブキさんも、なんでそんなに賢者と親しいの? 同じ地方出身とか?」
「ああ、私もそれ、疑問だった! タカシってこっちに来たばかりなのに、いつそんなに親しくなったのよ?」
いつ、どうして、と言われても、ちょっと困ってしまう。さすがに無理やり眷属にした、なんて言うのは、ちょっとはばかられるし。
「私の場合は簡単ね。みんな良く知ってるでしょうけど、私は闇精霊に取りつかれて操られていたでしょ?
あれを払ってくれたのがタカシだったし、そのせいで死にかけていたのを救ってくれたのもタカシだった。魂が壊れかけていたのを、自分の血を分けて修復してくれたしね。」
俺は答えにくいと思っていたけど、ヤマブキはあっさりとその質問に答える。
「私も同じようなものです。死ぬ運命だったのを救っていただきましたので、主様としてお仕えすると決めたんです。」
「私もね! なんでもするよ!」
そしてスザクとマミコもだ。
ヤマブキはともかく、スザクとマミコの場合はそんなにきれいな話じゃなかったと思うけどね。実際に何が起こったかを見ていたホムラとマヤは、俺の方を白い目で見ている。
「それってやっぱり精霊魔法?」
「ですね。」




