82.戦闘準備
チヅルが子供たちと遊んでいてテントの上に飛び乗り、ぴょんぴょんと二つのテントの上を連続で飛びはねた結果、柱が折れてテントがつぶれてしまったらしい。
「何してんの! 中で寝てた子は! 怪我は!」
思わず叫んでしまったけれど、中で寝ていた子はおらず、怪我人もいないそうだ。ふう、まったくヤレヤレだよ……。
「ここまでの阿呆だとは思わなかった……。」
テントの柱はシルビアたちの魔法で圧縮強化した木材で作ってある。そんじゃそこらの力では折れたりしないだけの強度はあるけれど、だからといって大人が上で飛び跳ねても大丈夫というわけではない。
テントの布も地面に落ちて完全に泥だらけだ。まったく何を考えているのか、勘弁してほしい。
「ちゃんと自分で謝ったんだから、そんなに怒らないでよ……。」
俺の気持ちの上では、チヅルには罰として、ここでこのままテントの洗濯をさせてやりたいところだったんだけど、状況が状況だし、いつまでもここにいるわけにはいかない。
俺たちは潰れて泥だらけになったテントを片付け、泥だらけのシロを連れて急いで宿に戻ることになった。
チヅルもトボトボ歩きながらちゃんとついてきている。しばらくそうして反省していなさい。
宿に戻るとすぐに裏に回り、シロを脱がせて泥を洗い流して着替えさせる。シロと一緒になって泥だらけになって遊んでいたチヅルも同じだ。
「こっち見ないで下さいよね?」
「そんなのどうでもいいから、早く洗って着替えなよ。」
「ええ~~、なんだか冷たい? 見ないの? 見たくないの?」
ああ、もう、なんでこうウザがらみしてくるんだか。
「チヅル、そんなところで何してるのよ。」
「うわ、サキ、これにはわけが!」
「なんだ痴女か?」
「ち、痴女ちゃうわ!」
畑仕事が終わったのか、ハヤトとサキが宿屋にやって来ていた。畑の泥を落とすために裏に回って来たらしい。
盗賊狩りの続きをどうするかを決めるために、今日の午後には全員で宿屋に集まる手はずになっていたのだ。
「タカシにはホムラとマヤ、それにウテナまでいるんだから、その貧弱な体ではとても無理でしょ。」
「なによ、サキだって同じようなものじゃないの。」
「でもあなたの数倍はあるわよ? 比べてみる?」
「ぐぬぬぬぬ……。」
裸になって遊ぶのはやめて欲しいな、シロが真似するから。
「ハヤト、俺たちは先に行ってるから、洗い終わったら来てくれ。」
「ほい、了解。サキ、チヅルも、いつまでも遊んでないでとっとと洗っていくぞ。」
俺はハヤトに告げると、シロをつれてそのまま宿の食堂へと向かう。会合に使わせてもらえるように予め宿には話を通してあった。部屋でも良かったんだけど、洗濯物が大量に干してあって邪魔だからね。
食堂には俺と一緒に戻ってきたホムラとウテナ、それに宿の台所で料理の研究をしていたマヤが揃っていた。
「ダイキはまだ戻って来てないか。」
「いえ、今はお部屋に戻ってますよ。すぐに降りてくるはずです。」
ダイキは手ぬぐいなど、洗濯したものを部屋干しするために一度部屋に戻ったらしい。それじゃあすぐに全員揃いそうだな。
しばらく待って全員が揃ったところで、俺は話を切り出した。
「まず情報共有から。孤児院の件で揉めていたヤクザの組と戦闘になった。この先、激しい戦争になる可能性が高い。」
「えええ! 何それ、何があったの!」
サキの言葉を受けて、俺は何があったのか、その詳細を順番に説明していく。
「ヤクザたちだど、数人取り逃がしちゃったの。で、彼らが『盗賊狩りの一味』って言ってたのよね。私たちの盗賊狩りがヤクザの中で共有されてる可能性が高いわ。」
「ホムラ、それはつまり、そのヤクザ共も盗賊の一味というか、盗賊団の一部ってことか?」
そうだ。その可能性が高い。そしてそのヤクザと戦いになる。
「ということは、盗賊団との戦いになるってことか! よしいいぞ、タカシ良くやってくれた!」
「望むところだな。根こそぎ全滅させてやるぜ。」
ハヤトもダイキも殺意が高い。相手が盗賊というだけでなく、孤児院を恐喝していたヤクザの件もあるからね。
他のみんなの顔を伺ってみたが、誰一人として引き下がろうという顔をしている者はいない。戦いが嫌いなマヤまでやる気の表情だ。
「ヤクザの拠点をこちらから襲っても良いけど、こちらが襲われることも考えておかないと。」
「この宿が危ない?」
「確かにこの宿を巻き込みたくはないわね。町から出てしばらく野宿で良いんじゃないの?」
野宿自体には賛成してもいいんだけど、それには一つだけ問題があるのだ。
「それなんだけど、雨は止んだけど、これっても降らないのかな? それとも時々降るのかな?」
「降らないとは言えないな。降り戻しって言ってな、しばらくはまた降ることがあるぞ。」
やっぱり降ることもあるのか……。
「そうか。実はしばらくテントが二つとも使えないんだ。」
「え? なんで?」
「チヅルが遊びで飛び乗って壊した。」
「何よ、私のせい?」
お前のせい以外に何があるんだよ?
予備の柱があるにはある。全部合わせればテント一つはなんとでもなりそうだけど、テント二つとも、それもしばらく使うとなると少し厳しい。
とはいえ、いざとなればそれに頼ることになりそうだ。
「タカシ、精霊はいつ戻る? そろそろじゃないのか?」
「正確にはわからないけど、あと一週間ぐらいかな。」
ちょっとした戦いならいざ知らず、全面戦争ともなれば、やはりシルビアとグロリアの二人が鍵というか、主力になる。
(シルビア、グロリア、まだ封印されてる?)
〈さっき封印は解いてもらったわ。でも魔法はまだ駄目よ?〉
《お姉さまの教育が厳しすぎですよ~。主様~なんとかしてください~。》
やはり二人はまだ教育期間中か。
さて、どうしたものか。
その時、食堂の扉が開いて、顔見知りの二人が入ってきた。これは天の配剤か、それとも女神様の助力か。
「あら皆さんお揃いで、どうなさいました?」
「あ、スザクとマミコか。ちょっと暇ある? 手伝って欲しい事があるんだけど。」
「はい、了解いたしました。なんなりと。」
まだ何も言ってないんだけど大丈夫?
「忙しかったら断ってくれて構わないんだけど……。」
「いえ、たった今、暇になりました。いつでも行けますよ?」
「どこでも行くよ!」
詳しく状況を聞いてみたところ、協会から肉の確保を頑張って欲しいと言わているけれど、特に依頼を受けてはいないということだった。それなら手伝ってもらっても良さそうだ。
俺は二人に事情を説明し、協力して戦ってもらう了解を取り付ける。
「中級の二人の協力が貰えるのは心強いぜ。」
「もう勝ったも同然よね!」
「なんでも食べるよ!」
スザクとマミコを迎え入れた俺たちは、この後の具体的な作戦について協議を始めた。
「その前に、ヤマブキさまをお呼びしてはいかがですか?」
確かにヤマブキに手伝ってもらえるなら非常にありがたい。しかし彼女は南の森にいるはず。とてもじゃないが呼び出すことは不可能だ。
「私はお会いしたことがございませんが、タカシ様を媒介にすれば魔法通信が可能かも知れません。」
「そんなことができるの?」
スザクの力では、普通の相手に魔法で言葉を届けるのは難しいが、魔法の大家であるヤマブキであれば可能性があるのだとか。
「あ、繋がりました。どうされますか?」
なんだ、あっさり繋がるんだ……。
「あ、今すぐ呼び戻すんじゃなくて、事情を説明するだけにして。」
「はい、了解しました。」
ヤマブキにはヤマブキの事情というものがある。俺が何かを言い出すとそれが命令になってしまう恐れもあるし、できればそれは避けたいところだ。
スザクやマミコなら良いのかって話だけど、この二人は元々、俺たちに襲い掛かってきたという背景がある。
ヤマブキもそうだと言えばそうなるけれど、あのときは闇妖精に操られていて仕方なかったのだ。その事情は汲んでおかなければいけない。
スザクが目を瞑ってしばらくすると、彼女の背後が光りだし、そこに一人の女性が現れた。
「来たわよ。盗賊殲滅ですって? 当然参加するわ! 除け者にしようったって、そうはいかないからね!」
それは非常に頼もしい助っ人の登場だった。
「うんこマン来た!」
「違うわよ!」
……シロ、もうそろそろ許してあげたら?




