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今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#3-2 盗賊との闘いを始めよう

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81.衝突

 チンピラに従うために、孤児院で働くことを断って去っていった若者たち。その彼らが今、孤児院の入り口で土下座をして、俺たちに助けを()うていた。


「兄貴ってあのチンピラのこと? 何があったの?」

「死にそうなんです、兄貴が死にそうなんです、お願いです、お助け下さい、俺たち何でもします。だからお願いです、お願いです!」


 ほとんど会話になっていない。若者たちはただひたすら頭を地面にこすりつけ、チンピラのことを懇願するばかりだ。


 チンピラたちは俺が奴隷にしているが、だからといって別に助ける義理も無ければ義務も無い。


 正しい事を行うために命を賭けろと命令してはいるが、命を賭したその先に、もしもその命を失うことがあったとしても、それが奴らの運命だ。俺はそれを気にも留めることはない。


 しかしこの若者たちの言葉はなぜか俺の心の奥底まで届いた。


 この俺とほぼ同い年の若者たちは、俺の奴隷でも家来でもなんでもない、ただのチンピラの子分だ。チンピラたちのことですら関係ないと言い切れるのだから、こいつらのことなんかもっと関係ないはずだった。


「緊急みたいだね。道中で話を聞くから案内して。ホムラも一緒に来てくれる?」

「はい、了解です。急ぎましょう。」


 俺とホムラはサチウス院長に後のことを頼むと、若者たちを立たせ、その後ろについて走り出した。



 彼らに連れられてやって来たのは神殿前の広場、その端だった。


 若者たちによれば、チンピラたちは命令に従って、他のヤクザたちに露店を食い物にするのをやめろ、庶民を苦しめるのをやめろと抗議の声を上げ、それを裏切りと考えた他のヤクザたちによって、今まさに袋叩きにされているらしい。


 俺たちがその現場にたどり着いたとき、そこには十人以上のヤクザ風の男たちが集まり、たった三人のチンピラたちを集団でなぶりものにしている姿があった。


「だから庶民から金を奪うのを止め……ぐはっ!」

「いつまで偉そうにしてんだ? おい?」

「そろそろ黙れや。」

「それとも永遠に黙らせてやるか?」


 何か言おうとするチンピラ、そしてチンピラが口を開くたびに殴る蹴るの暴行を加えるヤクザたち。


 まったく抵抗しようとしないチンピラ、チンピラを容赦なく痛めつけるヤクザの集団。


 なんというか、白昼堂々、やることがエゲツなすぎるでしょ。


「お~い、元気が良いね、ヤクザくん。それ以上やると、盗賊として討伐するよ?」

「盗賊は許しません!」


 ちらっと見た限り、三人はまだ死んではいないようだが、怪我はかなり酷い。これはウテナを連れてきた方が良かったか?


 治療のこともあるし、神官であるウテナがいた方が、この神殿前広場では押しが効いたはずだ。ちょっと急ぎ過ぎて失敗だったかな。


 その気持ちが顔に思いっきり出ていたらしい。


「どうせ皆殺しだから関係ないわよ?」


 ホムラの顔が残忍に歪んでいる。


 うん、まさにその通りだ。ちょっと気合を入れ直そうか。



「あらら、たった二人でこの人数に向かってくるの? 勇ましい坊っちゃん嬢ちゃんだねぇ。」

「ここは子供の来るところじゃないぞ~、大人しくおうちに帰りなボクちゃん。」


 うん、知ってた。ヤクザたちは俺の警告なんて聞く気がない。


「今すぐこの場を立ち去れば良し。じゃなければ盗賊として殺処分するよ。あ、これ最終警告ね。」

「聞くわけないじゃないの、バッカじゃね?」


 よし、盗賊確定!


 俺はバカとか言ったヤクザの前にスタスタと歩いて近づくと、そのまま剣を抜いて頭から唐竹割りに斬り下ろした。


 ズガッ!


 大きな音が辺りに響き、同時に血の噴水がヤクザから吹き上がる。


「アチョ~~~~ッ! アチョッ! アチョッ! アチョッ!」


 さらにヤクザたちの集団に走り込み、手当たり次第に薙ぎ払う。盗賊は皆殺しだ!


「な、こいつ、気でも振れて……ぐわっ!」

「や、やめろ、来るな……ぐえっ!」


 ホムラの方を見てみると、しっかりヤクザの集団に躍り込み、血の雨を降らせている。


「ま、待って、待ってくれ……ぐふっ!」


 今更何を言い出してももう遅い。話し合いがしたかったなら、最終警告の前にしておくべきだったね。


 気合がまったく入っていない、鎧すら着ていないヤクザ共など、紙切れをちぎるようなものだ。いくら俺が剣術下手だと言っても、こんな奴ら相手に傷一つ付けられるはずがない。


 あ、痛っ! ちょっと切られちゃった。てへへ。


「おい、こいつらもしかしたら、盗賊狩りの一味……ぐぇっ!」

「に、逃げ、いや、応援だ、応援を呼びに行ってくる!」


 何人か逃げようとするが、すぐにホムラがその後を追う。


 追いかけるのは彼女に任せて、俺は倒れているヤクザたちの息の根をしっかり止め、死体を魔法の袋に回収していった。こんな町中に死体を転がしておくわけにはいかないからね。


 死体を片づけ終わる頃にはホムラが戻ってきた。


「済みません、何人か逃しました。」

「いや、ここは深追いしない方が良かった。怪我人を連れて孤児院に戻ろうか。」


 欲を言わせてもらうなら、確かに全滅させた方が良かった。逃げたヤクザどもに顔はしっかり見られているし、この先は激しい戦いになる可能性も高い。


 それだけでなく、ヤクザの上層部はこの町の上層部ともつながっているだろうから、町全体との戦争に発展する可能性だって無いとは言えない。


 でもそんなことを言いだすと、ここでヤクザ、いやヤクザ改め盗賊を見逃すしかなかったって話になってしまう。


 そもそも論として、チンピラたちは俺の『奴隷』、つまり俺の持ち物なのだ。それに手を出したんだから、相手は盗賊確定。出るところに出ても、何も問題は無いのである。


 全然大切にせずにほったらかしにしてたけどね。理屈としてはそういうことになるのだ。



 返り血をふんだんに浴びて血まみれになった俺たちが、ボロボロにされたチンピラたちを連れて戻ってきたので、孤児院は一時騒然となった。


 子供たちを遠ざけ、チンピラたちの治療をウテナにお願いすると、俺とホムラは血を洗い流すために洗い場へと直行した。


 脱いでみると鎧どころか、中の服から下着まで血で真っ赤に染まっている。これはもう、全部脱いで洗うしかない。


「こっちは見ないで下さいね?」


 俺だけじゃなく、ホムラもかなり血で汚れたみたいだ。返り血もあるけれど、血まみれになったチンピラたちを運んだために汚れた分もあるだろう。


 そんなこと言われなくてもね。言われても、どっちにしてもガン見するけどね!


 そう思って振り向いた時には、ホムラはもうしっかり体を洗って、着替えもしっかり終了していた。いったいどんな早業(はやわざ)だよっ! 魔法少女の早着替えもびっくりだぞ!


「主様も早く服を着て戻ってくださいね。」


 うん、わかった。蔑むような目で見られて気づいたが、確かに俺はまだ布一枚身につけてなかった。


 俺はさっさと体と衣服、そして鎧を洗い、濡れた服を着替えて、ホムラからかなり遅れてチンピラたちが運び込まれた部屋へと向かった。


「で、どんな様子?」

「命には別状ないと思います。ただ怪我がひどいので、しばらくは安静にした方が良いですね。」


 ウテナにチンピラたちの様子を尋ねたところ、そんな答えが返ってきた。


 これはしばらく孤児院で預かってもらうしかないんじゃないかな。そう思ってサチウス院長の方を見ると、彼も同じ考えに至っていたようだ。


「あまり例はございませんが、怪我人を追い出すわけにはいきますまい。」

「厄介ごとを持ち込んでしまって済みません。」


 元は悪人で孤児院に悪さをしていた人たちだけど、さすがに怪我人をあのまま放置しておくわけにはいかなかった。


「あ~、お前らはチンピラの看病だ。ここでしばらく一緒にかくまってもらえ。この孤児院には結界があるけど、もしも中に乱入されるようなことがあったら、子供たちを守ってくれ。頼むぞ。」


 怪我をしたチンピラたちと、その子分の若者たちのことは孤児院にお願いし、そして若者たちには孤児院のことをお願いしておく。


 俺たちがずっとここにいて守るわけにはいかない。おそらくヤクザたちは俺たちを狙ってくるだろうからだ。できればここは早く引き払って、宿に戻ってみんなと合流したほうがいいだろう。



「チヅルはどうしたの?」

「テントの所で子供たちを見てもらっています。」


 もちろんチヅルとも情報を共有しておく必要がある。ウテナとホムラを伴って、少し急いでテントの所に戻ると、そこにはペチャンコにつぶれたテントの残骸があった。


 な、なんで壊れてるの? もしかして結界が破られた? 子供たちは無事か?


 一瞬で顔が青ざめる。


 子供たちは……潰れたテントの横でシュンとしていた。特に泣いている子がいたり、怪我をしたりしている子がいる様子はない。うん、良かった。


「これはいったいどういうことですか? 悪い事をした子は出て来なさい。お尻ぺんぺんですよっ!」


 少しほっとしていると、ウテナが慣れた様子で子供たちを(しか)り始めた。元気いっぱいの子供たちのことだ。このぐらいのことは良くあるんなんだろう。


「ウテナおねえちゃん、ちがうの!」

「何がちがうの? 悪い子は誰?」

「あの、あの!」


 隠し事は良くないぞ。そんなに怒らないからちゃんと出ておいで。テントの下敷きになって怪我してないかを見ないといけないから。


 そう思って子供たちの様子を眺めていると、子供たちの影からかなり大きな子がおずおずと顔を出してきた。


「ごめんなさい、私がやりました。」


 チヅルやん……あんた、何やってんの!



ここまでお読みいただきありがとうございます。

感謝感激です!


雨もやんだことですし、このまま落ち着いてくれればいいんですけどね。


もしよろしければ、感想や評価をいただければありがたいです。

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