79.盗賊を狩る者たち
今回の中級試験はほとんど強制依頼だったし、精霊さんがいなくなった上に激しい雷雨に見舞われるという最悪の状況だった。
それでも曲がりなりにも依頼は成功、全員が大怪我もせずに無事だった上に、盗賊狩りでしっかりとお金も稼ぐことが出来たのは、かなりの上出来だったと思う。
つまり俺たちのグループには、必要最低限の力はあると考えて良いんじゃないだろうか。
「もっと戦闘経験が欲しいのは確かだし、夕方出発して朝方まで、夜中に町の周囲を回って盗賊を狩りまくるっていうのはどうかな?」
今は強制的に休暇中で、どうせ他にやることなんてない。夜に出掛けて朝には戻り昼は寝るという、昼夜逆転生活を送ってみるのも悪くないんじゃないかな。
「お、それは面白そうだな。今夜から行くか?」
「盗賊を狩りまくるのは賛成だけど、ハヤトとサキも呼びたいわね。明日からにしない?」
ダイキやチヅルだけでなく、他のメンバーも賛成のようだったので、明日の夕方から実行してみることになった。
町の周囲を回るだけならすぐに戻れるので、疲れがたまってきたら適当に休みを取れば良い。空振りに終わるかも知れないけど、それならそれで夜間行動の練習にもなる。
一ヶ月の休暇をただダラダラ過ごすのよりは、よっぽど良いだろう。
翌日の夕方、食事をとったあとに俺たちは城門に集合し、そのまま町を離れて北の街道へと出た。
「旅人は減ってるはずだし、盗賊も減ってる可能性が高いね。」
「さあ、どうかな。ウサギ狩りは結構いるみたいだけど。」
例の雷雨のために、町の周りの街道や草原はところどころ泥沼のようになっている。こんな状態では狩りにならないと思うんだけど、それでもウサギ狩りらしい人の姿は少なくは無かった。
「彼らは少しでもウサギを獲らないと、ご飯が食べられないですから。」
町の中の芋畑にも、雷雨のせいで水没してしまった場所がかなりある。水が引いてしまえば問題ないが、このままずっと水没したままだと、芋の収穫はあまり期待できなくなってしまう。
肉の供給が細くなっている今、もしも芋まで不作ということになってしまえば、完全に飢饉コースだ。他の領地に助けを求めるにしても、街道をなんとかしないことには食料の輸送もできない。
まるで誰かが辺境のイナーカを狙って、わざと天災を連発で起こしているような気さえしてくる。
「左前、盗賊っぽい明かり。」
チヅルの声を頼りに、その方向に顔を向けると、確かに怪しい光の動きが目に映った。
「行ってみようぜ。」
「慌てず落ち着いて、確実に仕留めようねっ!」
「周囲の警戒は続けてね。」
「了解! 狙っている時は、こっちも狙われている理論だな。」
盗賊らしい獲物が見えたからと言って、急いで近づく必要はない。前回の狩りの時にも経験したことだけど、盗賊たちは自分が狙っているのであって、自分たちが誰かに狙われているとは思わないものだからだ。
しかし俺は、そして俺たちは違う。この世界に来てすぐに巨大カマキリに襲われた時、その襲って来た巨大カマキリが直後に怪鳥襲われるという強烈な体験をしているのだ。
もちろんその経験は仲間たちにもしっかり共有しているし、こうして盗賊を襲おうとしている時にも周囲の警戒を怠ることはないのだ。
「右横にも怪しい光。」
うん、どうやら盗賊はあまり減っていないようだ。これなら休暇中のお小遣い稼ぎにはちょうど良いかもしれない。
その夜の狩りでは、盗賊をニ十匹ほど狩ることに成功した。銅札ばかりだったが探索者証も四枚、さらに魔法の袋も四つ手に入れている。
初級だと討伐報酬はそれほどでもないだろうけど、それでも何もないよりはるかにマシだ。魔法の袋は彼らの持ち物だったもので、中身はほとんど芋だったが、これだって売ればそこそこの収入になる。
探索者協会への報告と換金は、休暇が明けてからになるけどね。
次の夜は西へ、そしてその次の夜にはまた北へと、向かう方向を交互に変えながら盗賊狩りを続けていく。
最初は出会う盗賊の数も多かったが、そうして日が経つにつれてそれも減り始めて、十日も経つ頃には一晩で一組に出会えるかどうかぐらいまで減ってしまった。
「う~ん、近場の盗賊を狩りすぎたかな?」
「それもあるでしょうけど、警戒され始めたんじゃないかな。」
警戒かぁ、それもそうだ。俺たちが巨大カマキリのお陰で盗賊狩りの最中もずっと警戒しているのと同じように、俺たちに襲われた盗賊たちだってその経験を元に警戒し始めていてもおかしくない。
それに盗賊たちにだってコミュニティはあるだろう。そこで町の近辺に盗賊狩りが出没しているという噂が流れれば、ちょっと休んで様子を見る盗賊だって増えるだろう。
シルビアとグロリアに頼りっきりで盗賊狩りをしていた時は、確実に全滅させていたから噂が流れることは無かっただろうけど、今の俺たちは半分以上を逃がしているのだ。
「少し疲れも溜まってるし、二日ほど休みにしない?」
「そうね、こんな状態だと狩りにならないもんね。」
町の近辺での盗賊狩りは、もしかしたらこれで終わりかもしれない。
俺たちの考えていた通り、盗賊たちはヤクザの組織に組み込まれた者も多く、彼らは裏で繋がっており、そこで俺たちの知らない間に、盗賊狩りの噂が大きく広まっていた。
この数ヶ月間で戻って来なくなった盗賊仲間たちが増え、かなり警戒が広がっていたところにこの噂である。彼らにとって状況は切迫していたと言っても良い。
「盗賊狩り専門の凄腕集団がいる」
「盗賊狩りが盗賊だけを狙って狩りをしている」
「捕まれば問答無用で皆殺しにされる」
中には実際に盗賊狩りに出会って逃げ出した者もいて、盗賊狩りは八人ほどの若者のグループだとか、男女混合の探索者たちだとか、かなり詳しい情報までが共有される状況になっていたのだ。
彼らはその内部で、盗賊狩りの情報や、盗賊狩りの首に懸賞金をかけ、盗賊狩りを仕留める方向に動き出そうとしていた。
簡単言えば、俺たちはイナーカの町に巣食うヤクザ共に、大々的に喧嘩を売ったということだ。
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それよりも少し前のこと。
神殿前の広場は、その日も多くの露店で賑わっていたが、その片隅で十人近くのヤクザ者がゴミのようにうずくまっていた。
それは以前、孤児院に押しかけた末、まとめて奴隷化されたチンピラどもと。その舎弟たちの姿であった。
ただ真っ当に生きる事、今まで巻き上げた金額を神殿に寄付する事、そしてヤクザの悪事を命がけで止める事を命じられたチンピラたちである。
これらの命令のうち、神殿への寄付はすぐには実行できない。奪ったお金なんて全部使ってしまっていたし、まとまったお金なんて持ち合わせていなかったのだ。
だから真っ当に生きる事、そして命がけでヤクザを止める事、この二つが彼らの命題となっていた。
「お前らは組に詫び入れて戻りな。これ以上、俺たちについてきたところで、どうにもならんぞ」
「何言ってるんっすか、兄貴! 俺は最後まで兄についていきますよ!」
「そうですよ、兄貴! 兄貴は何も間違っちゃいないっす!」
草原の火事による肉不足から始まり、つい最近の雷雨で通商も大きくダメージを受けたこの町は、いまでは日々、景気が悪化しつつあった。
今までまともな仕事なんかしたことがないチンピラたちのことである。いくらまともな仕事を探しても、そう簡単に見つかるはずがない。しかも今は不景気の真っただ中。毎日の食事にも事欠く始末であった。
それでもなお、チンピラについていくという舎弟たちが数人残っている。餓死する寸前のところでチンピラに救われたような者たちだ。
奴隷化される以前、チンピラは根っからの悪人だったが、それでも死にかけている子供たちを救い続けていた。それはただ手足になるガキが欲しかっただけのことだったが、それでも何人もの子供を死の縁から救っていたのは確かだ。
そうした子供の成長した姿が今ここにある。チンピラがヤクザの組に反抗して追い出された今でも、チンピラに付き従い、そしてチンピラとともに餓死するも厭わない者たち。
彼らよりも若い、まだ成人に満たない子供たちは、恥を忍んで孤児院に頭を下げ、受け入れてもらっていた。今ここにいるのは、成人した者たちだけ。悪事で食っていくしか生き方を知らない大人たちだけだった。




