表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#3-2 盗賊との闘いを始めよう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/94

78.足りないもの

 その日は徹夜で盗賊狩りをした後だったこともあって、明るいうちから熟睡することになってしまい、目が覚めたのは夕飯の頃だった。


「ぬし~、ごはん~!」


 目が覚めたというよりも、お腹を空かせたシロに目覚めさせられたという方が正解だ。同室のダイキは既に食堂に向かったようで、宿の部屋にはもう俺とシロしかいない。


「食堂いってみるか。」

「うん、いく~! ごはん~!」


 俺の上にまたがっていたシロを一度どけてベッドから起き上がると、シロを小脇に抱えなおして、一階の食堂まで階段を降りていく。


 食堂を覗いてみると、すでにダイキが一人で食事を始めていた。他のグループメンバーはまだ来ていないようだ。


 他の客の様子を見ても、まだ夕食の時間は始まったばかりのようだし、俺とシロが特別遅かったわけでもないみたいだ。


 俺は自分の分とシロの分、二人分の食事が載ったお盆をカウンターで受け取ると、ダイキの前に陣取る。


「まだダイキだけか。女性陣は寝てるのかな?」

「結構きつかったし、もしかしたら朝まで寝てるかもな。」


 雷雨の中の戦いは体力的にも精神的にも厳しかった。それに深夜に、盗賊を狩りながら町に戻る道中もきつかった。


 ほぼ視界がない中での戦いというのもあったけど、雨に濡れて体が冷えたことも厳しく感じた原因だ。


「賢者、俺は今回の戦いで、色々と足りないと感じたよ。」

「足りないものか……そうだな、俺は魔法乾燥機欲しいと思ったな。」


 シロに肉を切ってやりながら、ダイキの話に合わせる。


 今回の旅では雨合羽の外も中も、そして鎧も服も下着まで、全部水浸しのぐっちょんぐっちょんになっている。俺たちの部屋の中には、今もびしょ濡れになった服がロープに吊られて干されているのだ。


 テントも干したいんだけどねえ、困ったことに、そんな広い場所がないんだよね。



「物の話のつもりじゃなかったんだが、まあ、それでもいいか。」

「物じゃないとすると、何が足りなかった?」


 ありゃりゃ、全然違う話だったか。


 逆にもしも物の話だとすれば、いくつかアイデアがあるんだよね。例えば背の高い塔を立ててその上に強力な魔法ランプを並べ、遠くまで照らすようにするとか。


 あの夜は雷が酷かったけど、その塔の先端に避雷針を付けておけば、明るい中で安心して戦えたってわけだ。


 持ち運べる大きさにできるのかとか、魔法の袋に入るのかとか、実際に作ろうと思ったら、問題は山ほどありそうだけどね。


「自分の本当の強さっていうか、本当に戦う力が足りないっていうか、何て言えば良いんだろうな……。」

「ダイキ、もしかして酔ってる?」

「酔ってないっての!」


 いや悪い、酒飲んでクダ巻いてるオッサンたちと、言ってることの感じが似てたんで、つい……。


 どうやらダイキは自分でも何が言いたいのか良く分からないみたいで、聞いている俺も、もちろんさっぱり分からない。


 本人も明確な回答を求めていたというよりは、何となく口から出て来た愚痴のような物だったんじゃないかと思う。


 こうなってしまうと何をどう突っ込んでいいのやら。


「それじゃ、逆にさ、何が有り余ってんの?」

「いや、特に何も余ってはいない……かな。」


「充分足りてるってことは、有り余ってるってことだよね? だから余ってるもの以外は全部、どこか何かが足りないんだよ。

 余ってるものが無いんだったら、それは言い換えたら、何もかも足りないってことだよね。あれが足りない、これが足りないなんて、当たり前だよ? だって全部足りないんだから。」


「そうか、俺は何もかも駄目ってことか……。」

「駄目じゃなくて、『足りない』んだよ。どうせ全部足りないんだから、好きな所とか、やりたい所から増やしたら、それで良いんじゃない?」


 何を難しく考えているんだろうねぇ。


 そもそも何なんだよ、『本当に戦う力』って。戦う力に本当も嘘もあるわけないじゃないか。



「何が足りないって、気合でしょ? 気合が足りないのよ。」


 後ろから声をかけられたので何かと思ったら、チヅルがちょうど部屋から降りて来たらしい。どうやらホムラも一緒のようだ。


 そのまま二人は俺たちのすぐ横に来て席を取った。マヤとウテナは別行動なのかな。


「気合の一言で片づけるなよ。」

「ダイキの事だから、どうせあれでしょ? あの雷雨の時、見張り当番だったのに盗賊の接近を見逃しちゃって、休憩してたはずの賢者が真っ先に動き出して、ビシバシ斬り倒していったの、あれを気にしてるのよね。」


 なんだ、あんなのを気にしてたのか。あんなもの、ただの運だぞ?


「いや、まあ……、その通りだけども……。それだけじゃなくてだな。」

「賢者は一人で盗賊を圧倒した後、ホムラのピンチまで助けてるからね。自分より下だと思ってたのに、圧倒的に強かったからビビったのよね、違う?」


 ホムラのピンチを救ったのは、俺じゃなくてタワシだぞ?


「あの時、私も色々と考えたけど、気合が足りなかっただけなんだよね。」

「気を抜いていたつもりは無かったんだけどなぁ。」


「運が良かっただけなんて言ってるけど、賢者は実際に敵を見つけて叩きのめしてるのよね。どう考えても理屈じゃないよね、それが気合だと思うワケ。」

「さっきからわざとはぐらかされて、教えてくれないんだよな。」


 気合にそんな不思議パワーがあるなんて知らないってば……。あるんだったら、俺だって知りたいよ。


「ねえ、気合はどうだか知らないけど、ダイキやチヅルだけじゃなくて、私たちは圧倒的に経験が足りないと思うの。」


 やはりホムラにも思うところはあったらしい。後から考えれば、あの時確かに、彼女は前に出過ぎだったというか、マヤやウテナが来るのを待つべきだったとは思う。


 でも真っ暗闇の激しい雷雨の中で、影に潜んでいる盗賊に気づくのはかなり難しかっただろうし、安全を確保するために早目に前に出るっていうのも、正しい行動だったと思うんだよね。


 ほんと、結果なんてただの運なのだ。


 探索者になってまだ数ヶ月しかたっていないのだから、経験が足りないのはその通り、はっきりしている。


 でも足りないからって簡単に増やせるものじゃない。それこそ毎日コツコツと、地道に頑張る以外に道はないと思うんだけどな。



「ホムラ、気合はいいんだけど、マヤとウテナはどうしたの? まだ寝てるとか?」

「いえ、魔法道具屋に行くって言ってましたし、もうすぐ戻って来るのでは。」


 確かマヤとウテナの二人は俺と同じで、魔法乾燥機やら魔法洗濯機やらを旅に持って行きたい派だったな。


 手に(はい)れば良いんだけどね、特に魔法乾燥機。魔法コンロで(あぶ)ればイケるんじゃないかと思ったけど、それはみんなから止めろと言われたんだよね。


 魔法コンロで乾かそうとして衣服を燃やしちゃうのは、この世界ではお決まりの失敗例みたいなものらしい。現代日本で言うと、電子レンジで服を乾かすのと似たようなものだ。


 魔法コンロと電子レンジでは、見た目も違うし、良く知らないけど原理とかも全く違うと思うんだけど、どっちも服を乾かすのには使えないってところが、何故か似ていて面白い。



 ダイキが食事を終わって席を立とうという頃、ウテナとマヤの二人が戻って来て、食堂に入ってきた。


「駄目でした、魔法乾燥機は手に入りませんでしたよ。」

「あらら、残念。」


 魔法乾燥機や魔法洗濯機といった魔法の道具は、王都やその近郊など、国の中央付近で作られて、この辺境まで運ばれてくる。


 つまり北の街道が使えなくなった今、新しい魔法の道具を仕入れようと思っても、この町には届かない。今ある在庫を売ってしまえば、しばらくはそれでおしまいってわけだ。


「やっぱり自分の部屋で干すしかないか。」

「干しても乾かないのよね。部屋がジメジメするし。」

「少しぐらい湿ってても、着てれば乾くわよ?」


 団扇(うちわ)(あお)ぐと早く乾くという、嘘かホントか分からない技もあるにはあるけれど、ずっと部屋にこもって扇いでいることなんてできないし、それでどこまで早く乾くのかは俺には分からない。


 乾燥機ではないけれど、手回し式のローラーで挟んで脱水する道具なんかだと、簡単に手に入るそうだ。


 かなり楽にしっかり絞れる良い道具なんだけど、洗濯せずに泥だらけのまま絞ると、泥に混じった小石や砂粒が布に押し付けられてしまい、小さな穴が空くことになるらしい。


 下着や手ぬぐいならそれでも問題ないかもしれないけど、テントや雨具だと小穴が空いたら致命的なので使えないのだ。


 ドラムを回転させて遠心力で水を切る、日本の洗濯機についてるような脱水器だって、ロープや滑車を使えば作れるはずだし、もしもこの世界に存在してないなら作ってみるのも良いかも知れない。


 ただし、シルビアとグロリアが戻ってきてしまえば、まったく使われなくなるのが見えてるんだよね。それがあるから、新しい物を作ろうという気力があまり湧いてこないのだ。


 この世界には特許権みたいなものは存在していないから、新しい物を作ったとしても儲かるのは一瞬で、すぐに真似されて終わりだっていうのもある。


 特許権で守られるどころか、後から真似して始めた奴らが国のエラい人とつるんで専売権みたいなものを設定し、発明した人の方を逆に締め出すようなことまで普通に行われるらしい。


 下手に便利な物、売れる物を発明してしまうと、犯罪者として牢屋に入れられ、殺されることになりかねないのだ。


 世の中全体が盗賊仕様と言えばいいのか、まったくもって恐ろしい世界である。


 愛が足りないよね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ