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今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#3-2 盗賊との闘いを始めよう

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77.突然の休暇

 俺たちは城門横にある井戸で泥だらけの体を洗うと、まずは宿の部屋を押さえるために『青がえる亭』へと向かった。


 草原の火事の時もそうだったけど、今回の大雨でも町に長期宿泊する人が増える、つまり宿屋の需要が急増する可能性が高い。


 ウテナだっていることだし、いざとなれば、神殿や孤児院で雨宿りぐらいはさせてもらえるだろうけど、あんまり頼り過ぎるっていうのも良くないだろう。


 宿で空き部屋があるかどうかを聞いてみたところ、そもそも俺たちは四人部屋を二つ借りている状態だということがわかった。


「そう言えば、試験があるの知らなくて借りたんだっけ?」

「ああ、確かに。完全に忘れてましたね。」


 もちろん部屋があって困ることは何もない。二部屋とも一ヶ月延長することにして、その場で料金を払っておく。


 あとは探索者協会支部に行って、手続きをするだけだね。


「私たちの部屋を忘れていないわよね?」

「まさかそんなはずは無いと思いますよ~。」


 え? メガーミさんとアーネさんも、ここに泊るの?


 残念ながら部屋は空いていなかったというか、今は空き部屋があるにはあるけれど、これから押し寄せてくるだろう客のために確保しておきたいということだ。


 その理由は納得できるよね。大雨の影響で町に戻ってくるしかないのに、宿が見つからずに野宿になってしまうようだと、治安だって悪くなるに決まっているのだ。


 今はまだ準備できていないけれど、夕方までには女子部屋の方に簡易ベッドを二つ入れてもらい、六人部屋にすることで、なんとか対応してもらえるっていう話に落ち着いた。



 さて、しっかり宿が確保できたところで、問題は探索者協会の方だ。


 今回の護衛依頼では、王都までのおおよそ一ヶ月の道行ということになっていた。それが突然の激しい雷雨に見舞われ、出発点に戻って来てしまったということになる。


 もちろん悪天候は予想できることではないし、それで戻ってきたからと言って、それが問題視されることはない。問題は戻ってきたことではなく、再出発の目途がまったく立たないことだった。


 いや、それさえも問題の本質ではない。そう、問題は俺たちの中級試験のことにあるのだ。



「本当にお前らは……問題を起こすことしか出来ないのか……。」

「大雨が降ったのも雷が鳴ったのも、川が溢れたのも橋が落ちたのも、全部俺たちとなんにも関係ないですよ? 中級試験だって、決めたのは俺たちじゃないし。」


 支部長のオッサンが渋い顔をしているが、今回の問題は俺たちには何も責任がない。


 確かに俺たちは、騒動に巻き込まれることが多いような気がするけど、たいていの場合は俺たちには責任が無くて、ただ巻き込まれているだけなのだ。


 で、今回の場合はというと、天災で目的地にたどりつけなくなったわけで、こういう場合は町に戻って報告をした時点で依頼は終了、ただし料金は日割りになるというのが探索者協会の規定になっている。


 つまり俺たちの護衛依頼は成功で、日数が三泊四日に短縮になってしまったので、報酬は元の予定である三十日の一割に減額される。


 また依頼者からは、旅の途中の食事やテント、さらには宿代までを追加で支払ってもらうことになるのだ。


 別にそれで何にも問題は無さそうな気がするのだけれど、問題は護衛依頼が成功で終わったこと、つまり今回の中級試験がたったの三日で合格になってしまったことにあった。


 無理やり代わりの依頼や追加の依頼を割り振ろうにも、今は北行の街道がいつ復旧するのかわからない。それどころか、被害の規模すら正確に分かっていないのだ。復旧の見積など出来る道理が無かった。


「草原火事の問題もやっと落ち着いてきたというのに、本当にお前らは……」

「ゲンコツ支部長、火事も雷雨も、彼らの責任ではございませんよ。」

「わかっとるわ、そんなことぐらいっ!」



 支部長のゲンコツからしてみれば、正規の手順で依頼が成功したのだから、それがたった三日だったからとか、一瞬だったからとか、そんなことはどうでも良い話だった。


 ただ、これをそのまま合格扱いにすると、試験の難易度設定がおかしいとか、一部の探索者を優遇しているとかしていないとか、本部がやたらとうるさく言ってくるのが分かっている。それが問題なのだ。


 やれ監査だ、調査だ、透明化だと意味もなく騒ぎ立ててくるのだ。なぜ騒ぐかと言えば、話は簡単、中央の連中は平気で賄賂を受け取って、一部の探索者を優遇しているからに決まっている。


 勝手にこの支部までやって来て、監査や調査をして帰るだけならまだ良い。しかし本部の連中はこんな辺境まで足を運ぶことは無い。それならどうするかって、そんなものは決まっている。こちらの担当者を中央に呼び出すのだ。


 本当にばかばかしい話だが、ここが探索者協会の支部である以上、本部に逆らい続けるわけにはいかない。まったく不条理な話だけれど、回避は不可能なのである。


「よし、お前ら、一ヶ月の休暇だ。お前らの依頼終了は休暇の後で受け付けてやる。それまで好きなように遊んどけ。」


 そんなわけで、俺たちは良く理由もわからないままに、一ヶ月の休暇ということになってしまった。


「休暇の間は、狩りに行こうが何しようが勝手にしろ。ただ、協会支部に来るのは禁止だ、絶対に来るんじゃないぞ。」


 おい、ちょっと! それって休暇っていうより、謹慎じゃないのか?



 何も悪いことはしてないというのに一ヶ月の謹慎だなんて、まったく理不尽な話だ。


「メガーミさんとアーネさんは、この後どうする予定ですか?」


 この二人は普通の人間ではなく、その正体は女神様とお姉さまだ。今は俺の魂の修復を兼ねて、下界に遊びに来ているだけなので、何も俺たちの謹慎に付き合う理由はない。


「ん~、やることなくなっちゃったし~、適当に町の中を観光して、飽きたら帰るわよ~。」

「あの、立て替えてある宿代とかは……。」


「付けておきなさい。」

「……はい。」


 予想はしていたけど、やっぱり払ってもらえないか~。


「駄目ですよ~、そういう物は、ちゃんと払わないと~。」


 ほとんど(あきら)めていたら、まさかのメガーミさまからの助けがやって来た。


 これで何とかなるかもっ!


「でも私たち、下界のお金なんて持ってないわよ?」

「そうでした~。払えませんね~。」


 駄目だった!


 お金持ってないのに、護衛の依頼なんてしちゃ駄目でしょうが。


「代わりの物を贈っても良いけど、下界に干渉しすぎるわけにもいかないでしょう?」

「いまさらっていう気もしますけど~。」


 何となくだけど、このまま続けていると、俺たち下界の民が聞いちゃいけない話が始まりそうだ。ここは話題を変えた方が良い気がする。


「そんなことより、観光するのはいいんですけど、お金はあるんですか?」

「無いわよ?」

「貴方の魔法の袋からこっそり使うから、何の問題もないわ~。」


 問題大ありだよ! それ、俺のお金だよ!


 ホムラたちのお金もかなりピンハネしてるけど、でも俺のだよ!



 話題なんか変えずに、そのまま危ない話を聞いとけば良かったよ……。


 俺が黄昏れていたら、メガーミさんが優しくポンポンと頭を叩いてくれる……なんてことはない。下手にポンポンされたりしたら、魂がパァンってなっちゃうからね。


 メガーミさんはポンポンの代わりに、ポヨンポヨンな胸元から三枚の切符のようなものを取り出した。


「何も出さないのも女神として問題だから、貴方には特別に福引券を三枚プレゼント~。」

「あら、三枚もだなんて、大盤振る舞いね。」


 メガーミさんから手渡された切符のような紙には、『ふくびきけん』という手書きの文字、そして女神様らしい自画像が描かれていた。


「おお、これって女神様のお手製ですか!」

「いいえ~、パートのおばちゃんに頼んでるわ~。」


 メガーミさんの説明によれば、福引券の使い方は簡単で、いつでもどこでも、券を手に取って念じるだけで良いらしい。


 それだけで役に立つアイテムやスキルなどが手に入るというのだから、まるで夢のようなチケットだ。女神様じゃなくて、パートのおばちゃんのお手製でも、ちゃんと効果があるなら問題ない。


「ハズレはタワシだから、気を付けてね~。」

「はい、わかりました!」


 何をどう気を付ければ良いのかわからないけれど、俺は元気に返事をして、福引券を一枚手に取った。


 そして力いっぱい念じる。


 そういえば、このチケットってメガーミさんのポヨンポヨンから出て来たんだよね。ポヨンポヨンのどこにこんな物を入れて置く場所があるんだろうか、もしかして……挟んでた?


 福引券を一枚、しっかり手に取りなおした。


 そして力いっぱい念じる。


 ……………………。


 うん、何も起こらない。


 確かに雑念は多かったと思うけど、特に何も起こらない。アイテムもスキルも現れないし、もちろんポヨンポヨンも出てこない。


「あの~、すみません、この福引券って……。」


 どうしたんだろう、使い方は簡単だって言ってたのに、何か間違っていたんだろうか。


「ああ、福引券は十枚集めないと、福引できないわよ?」


 えええ~、そんなぁ。あと七枚も、どうやって手に入れたらいいんだよ!



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