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今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#3-1 昇格試験を受けてみよう

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74.激しい雨

 相変わらず、ずっと雨が降り続いている。なんとなくだけど、昨日よりも雨脚が強い気がする。


 しばらくの間、シロを抱っこして歩いていたのだけど、気のせいなのか、どうもちょっといつもと様子が違っていた。


 小さい子は体温が高いし、雨でぬれていたので気づきにくかったんだけど、いつもよりなんだか体温が高い気がするのだ。夜中に何度か雨に濡れたから、もしかしたら熱でも出したか?


「ウテナ、ちょっと来て。」

「タカシ様、どうかされましたか?」


 みんなの足を止めて休憩を入れ、ウテナを呼んでシロの容態を見てもらう。


 ウテナはいつも孤児院の子供たちの面倒を見ていたし、それに回復魔法の使い手でもある。多分だけど、子供の病気などの経験だって豊富だろう。


「どうかな、風邪でも引いたかな?」

「そうですね、確かにちょっとお熱があるみたいです。暖かくして寝かせてあげるのが一番ですから、そのまま抱っこを続けてあげた方が良いですね。」


 ウテナには軽く回復魔法をかけてもらって、俺は言われた通りにそのまま抱っこを続けることにする。申し訳ないけれど休憩の準備などは全部、他人任せだ。


 仲間に用意してもらった椅子に座っていると、みんなから声を掛けられた。


「賢者、どんな様子だ?」

「どう? 酷そう?」

「ん~、今はおとなしく寝てるよ。ウテナに回復魔法をかけてもらったから、大丈夫だと思う。」


「そうか。小さい子だからな。ずっと濡れねずみだし、体が冷えたのかもな。」

「ああ、俺もちょっと迂闊(うかつ)だったよ。」


 今夜はどうしようか。といっても、ウテナについていてもらうしか手は無いよなぁ。


 盗賊の夜襲の本番は、おそらく今夜だ。シロとウテナ、戦力が二人も落ちるのは厳しいけれど、それでも乗り越えるしかない。



 その日は一日中、シロはずっと抱っこ紐の中で眠っていたのだけれど、夕方ぐらいになると元気に起きだしてくれた。


 これでもう大丈夫かな? そう思って下に降ろそうとしても、なぜか甘えて抱きついてきて、ちっとも降りようとしない。


「お~い、テントの準備するから、降りてくれないかな~?」

「ぃや~っ!」


 声をかけても余計に力いっぱいしがみついてくる。駄々っ子モードになっちゃったかな。


 今はテントを張らないと駄目なんだけどなぁ。おんぶならともかく、抱っこだと作業ができないんだよね。


 テントは雨に濡れたままなので、いつもよりもずっしりと重たくて、準備するのは一苦労なのだ。特に基礎になる太い角材は、水を吸ってかなりの重量になっているし。


「ああ、別にいいって。タカシはちょっと休んでろ。」

「そうよ、こっちは私たちでやっちゃうから。」


 なんだか申し訳ないが、ここは素直に甘えることにしよう。


 しかしシロはどうしちゃったんだ? 赤ちゃんに戻っちゃったか?



 テントを張る作業も、食事の準備も、全部他の仲間に頼ることになってしまった。このままだと、見張りにも支障が出てしまいそうだ。


 いや見張りの前に、抱っこ紐だとシロと密着しすぎているから、ご飯を食べるのも、食べさせるのも難しい。


「抱っこ紐外すから、ちょっとの間だけ、抱っこするのやめてもいいかな?」

「だめ~!」

「それじゃ、しっかり掴まってろよ、いいな?」


 シロにギュギュギュっとしがみつかせて、抱っこ紐を外す。


「おしっこ行っとこうか?」

「うんちゃんも~。」

「そっか、そっか。うんちゃんもか。」


 お手洗いを済ませると、シロの状態がかなり元に戻ってきた。相変わらず俺とくっついて離れようとしないけど、ギュッとしがみつくのだけは止めてくれたみたいだ。



 時間的にはまだ夕方だが、分厚い雨雲が空いっぱいに広がっているので、辺りはかなり薄暗い。強かった雨はさらに強くなり、バチバチとテントを叩く音が響いて、かなりうるさい。


「これちょっと雨が激しすぎない?」

「嵐でもないのに、ここまでのザーザー降りは珍しいよな。」


 食事が終わって片づけ始めるころには、雨はさらに一段と強く降るようになった。もう完全に土砂降りだ。地面に当たって跳ね返った水滴が霧のようになって、暗くて悪かった視界が、さらに悪化していく。


 雨音がうるさすぎて、仲間の声も良く聞こえない。とてもじゃないけど、敵の気配を感じるなんて無理だ。


 これはかなり拙いぞ。盗賊からすれば、襲い放題じゃないか。



 一応、昨夜と同じように見張り組と就寝組に別れたが、見張りと言われても周囲はほとんど見えないし、就寝と言われてもあまりに大きい雨音で眠れるはずがない。


 雨合羽を着ていても、あまり関係がないくらいの酷い雨だ。テントは道から少し離れた小高い場所に立てたので、今のところは難を逃れている。


 もしもこれが少し低くなった場所だったとすれば、おそらく川のようになっているか、下手すると沼のようになっているだろう。


 シロは何としてもテントに入ってくれず、俺の膝の上に座っている。


 遠くからゴロゴロいう音が聞こえてくる。どうやら大雨は雷雨になったようだ。雷の音はゴロゴロからガラガラに、そしてバシュバシュ!という爆発音に変わった。


 まずいな、どんどん近づいてくるぞ。


「みんな、立ち上がるなよ、頭を下げてろ!」

「え? なんて?」


 くそ、あまりの豪雨で、何を言っているのかわらないぞ。


「立つな! 頭を下げろ!」

「なんて言ったの! 聞こえない!」


 さらに大声で警告をするが、やはり良く聞こえない。


「立つな!」


 俺は自分の頭を両手で抑えて、頭を下げるようなジェスチャーをしながら、{立つな!}という警告を何度も繰り返す。


 これでやっと伝わったのか、みんなが頭を下げ始めた。



 その時だった。


 ガガガガシューンッ!


 周囲が青く眩い光に包まれたかと思うと同時に、大きな爆裂音が鳴り響き、地面が揺れた。


 すぐ近くに落ちた!


 ガシュガガシューンッ!


 そしてもう一発。


 再び地面が激しく揺れる。


 バシュバシューンッ!


 さらにもう一発、これは少し離れたところだ。


 俺たちのすぐそばに二発落ちた雷は、それから徐々に離れ、遠のいていった。


 雷は遠のき、雨も少し勢いを落とした。まだ激しく降っているが、なんとか会話が出来るくらいには落ち着いている。


 俺たちだけでなく、盗賊たちだって会話で意思疎通はできないし、獲物の気配なんて感じられないはずだ。しかし奴らは俺たちとは違い、夜闇に紛れて行動するのに慣れている。雷だって恐れるとは限らない。


 今この瞬間、まさにすぐ後ろまで忍んできているかも知れないのだ。


 遠のいたと思っていた雷が、またどんどん近くなってきた。そしてまた、雨も激しくなってくる。


「おい! 雷が戻って来るなんて、どんな天気だよ!」


 空に向かって文句を言ったところで、雨が止むわけでも何でもない。それでも俺には悪態をつくのが止められない。


 無風ではないけれど、風が強いわけでもない。それなのに激しい雨と雷がまき散らされ続けるこの変な天気を、一体何と呼べば良いんだろう。


 雷は去ったと思ったらまた戻り、戻ったと思ったらまた去って、何度も周囲の地面を揺らし、轟音を響かせてくる。



「ああもう! こんなの、まったく寝られなかったわ!」

「賢者、そろそろ交替の時間だぞ。」


 テントから仲間たちがぞろぞろ出てくるのを見て、俺は初めて交替の時間を過ぎていることに気が付いた。


「ああ、もうそんな時間なのか。」

「ああ、どうせ眠れないだろうけど、ちょっとでも体を休めろよ。」


 了解してテントに入ったけれど、どうにも寝る気にはなれないし、寝ようとしても眠れないだろう。


 雨合羽を着ていたというのに、鎧や服どころか、下着までびしょ濡れだ。靴を脱いでひっくり返してみたら、水が出てくるぐらい酷い有様だった。


 シロの雨合羽を引っぺがしてテントの中に吊るし、衣服も靴も全部脱がせて、乾いた物に着替えさせた。襲われたらまた外に出るしかないし、そうすればまた濡れることになるけれど、今はこうするより他に手が無いのだ。


 濡れた服は思いっきり絞って、雨合羽と同じように吊るしておく。靴は……予備は無いんだよなぁ。いつ外に飛び出さないといけないかわからないし、また濡れた靴を履いてもらうしかない。


 シロの着替えが終わったところで、自分の雨合羽も脱いで吊るしておく。衣服は着替えずに、一度脱いで絞るだけに留めた。今の状況だと、乾いた布は貴重過ぎる。


 テントの中にいても、雷と雨の状況が変わるわけじゃない。少しは休めるかと思ったけれど、外で何かあっても何もわからないように思えて、余計に神経が磨り減って疲れてしまう。


 外の事がどうにも気になって、テントの隙間から覗いたその時、ちょうど強い稲光が広がって、辺り一帯を青く照らした。


 そしてその光の中には、剣を手にした数人の人影が、はっきりと映し出されていたのだ。



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