72.魔法なしの野営
女神様の話では、俺の魂は二回連続でパァンってなったため、かなり脆い状態になっていたそうだ。
もしも強力なチートスキルに当選していれば、そのスキルの力で魂が強化されて何とも無かったはずだったんだけど、全部ハズレてタワシになってしまったので、強化されないままになってしまった。
それでも精霊さんと出会わなければ問題は無かった。精霊さんの力で脆い魂のままで強力な魔法を何度も使った結果、魂が崩れてしまったということだ。
{今回地上に来たのは、貴方の魂の修復も目的の一つなのよ~?}
(それじゃ、俺のためにわざわざ来てくれたんですか。ありがとうございます!)
{暇だから遊びに来たついでですけどね~。}
なんだよ、ついでかよ……。
ついでとはいえ、助かったのは事実だ。女神様もお姉さまも、俺の元の魂を破壊した責任があるので、かなり気にかけていてくれたみたいだし、お礼は取り消さないでおこう。
(それはそうと、もうこれからは、強力な魔法は使えないってことですか?)
{いいえ、違うわよ~。魂は時間が経てば固まっていくから、少しづつ強い魔法を使えるようになっていくわね~。}
魂が治ったとして、どのぐらいまで魔法を使って良いのか俺にはわからない。そのため今、お姉さまがシルビアとグロリアを鍛えて、それが判断できるように仕込んでいる最中なんだそうだ。
{それにしても貴方、もしも健康スキルが無かったら、もう何度死んでるかわからないんだからね~。ちょっとは自重してよね~。}
かなり日が暮れて来たので、ちょっと開けた場所を見つけて、メガーミさんとアーネさんの了解を取った上で、俺たちは夕食と最初の野営を行うことになった。
「突然の話だけど、みんな聞いてくれ。精霊さんたちのことなんだけど、急に四週間の修行を始めることになったそうだ。つまりこの護衛任務の間、精霊さんたちの助けは得られないことになっちゃったよ。」
「なんだそれ、事前に分からなかったのか?」
「ああ、申し訳ないが、まったく分からなかった。」
「精霊無しってことは、夜中に見張りを立てないといけないわね。」
「組み合わせと順番はどうしましょう?」
「俺たちは見張りに慣れてないからな、少数で見張るよりは多数で見張った方が良いと思う。」
「それじゃ、前半と後半で分けましょうか。」
前半組は俺とホムラ、マヤ、ウテナの四人、後半組はハヤト、サキ、ダイキ、チヅルの四人、そしてシロはお寝んね組だ。
テントを張りながらメガーミさんとアーネさんの方を見てみると、案の定、ニコニコ笑いながらこちらの様子を見ているだけで、テントの準備をしている様子はない。
うん、テントなんかなくても大丈夫ってことですよね、わかってた。
俺たちのテントは六人用だけど、女子組からも見張りを立てるから余裕はあるはずだ。二人はその隙間にでも押し込めてしまおう。
「あとは周囲にロープを張って罠を仕掛けようぜ。」
「それじゃ、前半組は食事をとったら見張りに入るから、その間に後半組の四人で罠の設置を頼む。」
「わかった、まかせてくれ。」
メガーミさんとアーネさんの二人は、どうせ食料なんて持って来ていないはずだ。食べなくても大丈夫だろうけど、食べられないってことはないだろうし、食事は俺たち前半組と一緒で構わないかな。
いつもの狩りだとやってなかったことなのに、後半組四人の罠設置はなんだか非常に手際が良いように見える。
「罠の設置に慣れているように見えるけど、もしかして練習してたの?」
「いや、練習なんてしてないけど? いつもうちの畑に仕掛けているからな。」
「罠がないと荒らされるのよね。ほんとに治安が悪くなって困るわ。」
ああ、それで慣れているのか。仕掛ける罠には十分な実績もあるって意味だから、精霊さんの魔法の助けが得られない中では、かなり安心できる話だ。
雨も降っているというのに、思った以上に色々な準備がテキパキと片付いていく。
魔法のお陰で今まで良くわからなかったけれど、『地獄の賢者』のみんなは、基本的なサバイバル能力がかなり高いようだ。魔法なしの俺が一番役に立っていない説もある。
「骨とスジ肉の煮だしスープが多分足りなくなる。」
ああ、それもあったか。芋を煮ながらマヤが言うには、精霊さんたちの魔法で用意してもらっていたスープの素が、行きの道中の途中で無くなってしまうらしい。
誰かが見張りでずっと起きているわけだから、自分たちで作ろうと思えば作れないことはないけれど、かなりの匂いがあたりに漂うことになるので、盗賊などを寄せ付けてしまう可能性が高い。
今回は夜中の見張りに慣れていないこともあるし、雨で盗賊が増えていることもある。残念だけどおいしいスープは諦めたほうが良さそうだ。
「朝食には使わないことにする。」
そうか、そういう手もあるかも知れない。それだと消費量が半分になるから、二倍長持ちすることになるね。
メガーミさんとアーネさんは、予想通り、俺たちの芋煮をおいしそうに食べている。自分の芋は自分でむくルールなんだけどなあ……別に良いけど。
でもステーキは自分で焼いてね? こういうのは、自分で焼いて食べるから美味しいんだよ?
「それじゃあ、私たちは先に寝るわよ。時間になったら起こしてね。」
「ああ、わかった。みんな魔法ランプはしっかり首に下げとけよ。あと、皮帽子も忘れずに。」
「わかってますよ~だ。」
雨は今も降り続いている。地面に置かれた魔法ランプの光が、濡れた地面に反射してキラキラ光っている。もしもランプの光が閉ざされれてしまえば、辺り一帯は真の暗闇に包まれることになるだろう。
もしも襲撃を受けた時、寝起きで暗闇の中では、右も左もわからないどころか、上と下さえはっきりとわからない。だから魔法ランプはしっかりと身に着けておく必要があるのだ。
魔法ランプにはスイッチのような機能がついていて、灯りのオン・オフの他、ランタンのように周囲全体を照らすのか、それとも懐中電灯のように遠くを照らすのかを切り替えられるようになっている。
俺は自分の皮帽子を取り出して魔法ランプを縛り付け、雨具のフードの代わりにそれをかぶった。これで即席ヘッドライトつきヘルメットの完成だ。
精霊さんの魔法障壁がない以上、戦いでは頭を守る必要があるので、皮帽子はあったほうが安全だ。そこに魔法ランプを取り付けておけば、闇夜であっても視界を失うことはない。
遠くからでも目立つから、盗賊をおびき寄せちゃう可能性はあるけれど、それでも何も見えないよいは随分マシなはず。
俺の場合は皮帽子なんて無くても大丈夫だとは思うけどね。でもランプは必要なのだ。
もちろん皮帽子は全員分用意してあるんだけど、ホムラたちはそれをそのままかぶるだけで、魔法ランプを縛り付けてはいない。灯りを持っていると弓矢で狙われるからってことみたいだ。
みんな魔法ランプを首から、または腰からぶら下げているけれど、まだ明かりは灯していない。俺もまだヘッドライトは消していた。
今ある光源は地面に置かれた魔法ランプのみ。闇夜の中に浮かぶ小さな光。その周りで雨音だけがかすかに響いている。
夜はどんどんふけていき、後半組の四人も完全に眠りに落ちたようだ。そんな中、俺たち前半組の面々はお互いに背を向け合って、四方に目を配り続けていた。
野営の見張りと言えば、俺の中では焚火を囲んでお互い顔を見ながら、何かを語り合っているイメージがあったが、そんなものは物語の中だけの話だ。現実は逆。
それで敵の接近に気が付くほど、俺たちは気配を察知する術にたけているわけじゃない。
もちろん寝落ちしていないかどうかの確認のため、お互い声は掛け合うし、ちょこちょこと簡単な会話はするけれど、長く話し込むようなことはしない。いや、出来ないと言った方がいいだろう。
テントの向こう側には目が行き届かないので、時々立ち上がっては魔法ランプで照らしながら周囲を巡回する。
巡回はいつも同じ方向、同じ手順にはしない。時々振り返ってみたり、来た道を戻ったり、時には二周してみたり、八の字で回って見たりと、パターンを変えて行うのだ。見回りの間隔だって一定にはしない。
闇の中を近づいてくる者たちからすれば、巡回が通り過ぎてから次の巡回までの間が、格好のチャンスになるのだ。それにこちらが警戒している素振りを見せることで、襲撃を諦めさせる効果だってあるのだ。
俺がもう何度目かわからない巡回から戻った時、マヤがぽつりと小さな声で言った。
「来たかも。」




