69.それって盗賊行為だからね
最初は俺が以前に対応した奴のように、抗議に押しかけてくる人たちがちらほらといたという。
そうした奴らには、あの畑は孤児院の持ち物であること、それを奴らが不法に利用していたことなどを説明して、帰ってもらっていたそうだ。
しかし時がたつにつれて、押しかけてくる人たちの様相が変化してきた。なぜかお金をだまし取ったはずのヤクザと結託して、一緒になって脅しにくるようになったんだとか。
彼らは何度も無理やり孤児院に押し入ろうとしてきたが、この孤児院にはシルビアとグロリアによる強力な結界が張られている。ヤクザ者たちが大挙して押しかけて来たとしても、入り込むことなどできない。
それで今では、「泥棒孤児院」とか「金返せ」とか、表で騒ぐだけ騒いで帰るという、まったく愚にもつかないようなことを行っているそうだ。
まあただの嫌がらせだが、サチウス院長などは人が良いので、その言葉が孤児たちに悪い影響を与えるのではないかと、心を痛めていたということだった。
土地を不法占拠してた奴らも、ヤクザに騙されていただけで悪い奴じゃないかもしれない、もしも助けを求めてきたら何とかしてやろうかな、なんて思っていたんだけど、同じ穴のムジナだったみたいだね。
さて、どんな話になるんだろうか。
孤児院の入り口の方に向かってみると、そこには六人ほどの男たちがたむろしている姿があった。
中には、俺が以前に対応した、土地を占拠していた奴の姿も見える。どこかで見たようなチンピラの姿もある。
よく見ると、全員が全員、しっかり武装しているようだ。普段対応しているのは、好々爺然としたサチウス院長ただ一人。彼と話をすることだけが目的ならば、こんな武装をして、集団で押しかける必要はどこにもない。
つまりこいつらは暴力で脅すつもり満々ってことだね。ここは孤児院だぞ? 身寄りのない子供たちが、最後のより縋りにする場所なんだ。
それを何故、わざわざ集団で武装してまで脅す必要があるのだろう。どいつもこいつも、とてもまともな人間とは思えない。
「お~い、こら、盗賊ども! すぐにやめるならよし、もしもこれ以上続けるなら、盗賊として全員しっかり首をちょん切らせてもらうぞ!」
「なんだこのガキ?」
「関係ないガキは引っ込んでろ!」
いや、それがね、俺には関係ないのに難癖つけられることは多いんだけどね、今回は関係ないわけじゃないんだよ。むしろ当事者なんだ。
「俺がこの件の代理人だよ。それに畑に結界を張ったのは俺だからね。」
「お前が犯人か!」
「勝手に他人の土地を盗んだ盗賊に、犯人扱いはされたくないなぁ。」
「他人の土地を盗んだのはお前だろうが! とっとと返しやがれ!」
警告してみたが相手は全く聞く耳を持っておらず、引き下がるどころか、より一層大声をあげて、俺を脅しにかかってくる。
六対一と人数で勝っているうえに、相手をしている俺は剣と鎧で武装しているとはいえ、まだ大人になったばかりのヒョロヒョロの若者。戦えば楽勝で勝てるとでも思っているのだろう。
でもそうはいかないよ? お前らはここできっちり始末する。
騒ぎを聞きつけたのか、仲間たちがどんどん孤児院の入り口に集まってきた。そしてその後ろには子供たちが、怯えた表情でこちらの様子をうかがっている姿が見える。
若者ばかり、それも半分以上が女だが、それでも六対七と人数的には拮抗したのを受けて、押しかけている奴らの中には少し腰が引けている奴も出てきている。そいつらが不法占拠していた奴らだね。
チンピラたち職業ヤクザどもは、たとえ同数になったからといって負けるなんてまったく思っていない。残忍な表情を浮かべながら、ヘラヘラ笑っているだけだ。
睨み合いを続けている俺に向かって、後からやって来たハヤトたちが声をかけてくる。
「おい、タカシ、どうした? 揉め事か?」
「ああ、孤児院の畑を奪っていた奴らが押しかけて来たみたいだ。」
「それなら盗賊だな。殺すか。」
「ああ、盗賊は殺す。けど、ちょっと待ってくれ。」
「盗賊なんでしょ? いますぐ殺せばいいじゃないの。」
俺が勝手に盗賊扱いしているわけじゃなく、この世界に生きて来た仲間たちも、これは立派な盗賊行為で、やられた以上は殺してもかなわないと判断している。
そりゃそうだよね。もしも誰かに畑ごと奪われたら、それは死ねといわれているようなものなのだから。
でも、ちょっとだけ待って欲しい。子供たちがこっちを見ているし、あんまり酷いものを見せるのは教育的に良くないでしょ。
「ウテナ、だけじゃ手が足りないか。マヤもお願い。子供たちを連れて、離れたところで遊んでてくれるかな?」
「ああ、そういうことね。それじゃあ私も子供と遊ぶ方を担当するわね。」
「ああ、サキも頼んだ。助かるよ。」
子供たちが孤児院の奥に引っ込んだところで、俺たちはもう一度、ヤクザ者たちの方に振り返った。
「これが最終警告だよ? 今までの事を反省して立ち去るならよし。このまま続けるなら、盗賊として、その報いを受けてもらうよ?」
「こっちはちゃんと金を払って買ったんだ! 無理やり奪ったのはそっちだろうが!」
「結界だか何だか知らんが、男なら表に出てこいや!」
こっちが人数を減らしたことで元気を取り戻したのか、俺の最終警告に対して、腰が引けていた不法占拠者どもが喚き返してくる。
なんでヤクザに金を払ったら自分の物になるっていうんだろう。俺だって以前に一度対応しているし、サチウス院長だって何度も説明しているはずだから、こいつらだって理屈は分かっているに違いないのだ。
ただ、孤児院の方が弱そうだから、人数的に勝っているから、暴力でごり押しをしようとしているに過ぎない。そうして、脅し、たかり、時には泣き落としまで駆使して、何度もサチウス院長から食料やお金をゆすり取っていたのだ。
暴力で脅してお金を奪ったことがある。成功体験がある、それも何度もだ。むしろ成功体験しかない。だから引かない、引くはずがない。そして警告なんて簡単に無視できるようになったのだ。
その汚い盗賊根性が、こうして対面しているだけで良く分かる。そんなことは誰にだって見て取れる。精霊さんたちに聞いてみるまでもない話だ。
「どうする? 俺の中では、こいつらを処理するのは確定したけど、誰か斬りたい?」
「処理って……つまり、あれのこと? それなら賢者に任せちゃおっかな。」
「殺したって金にならないし、俺はタカシの処理に任せるぜ。」
「私も処理に賛成するわ。」
うん、ここは殺すより処理の方が良いと思うんだ。ホムラなんかは気分が悪いだろうけど、それでも賛成してくれてるわけだし。
「何が処理だ! ごちゃごちゃうるさいんだよ、このガキ‥…さま。今まで申し訳ございませんでした!」
〈ほい、出来たわよ。これでいいわね?〉
(ありがとう、助かったよ。)
グロリアの魔法一発で、一瞬にしてヤクザの集団は俺の奴隷に変わった。それに合わせて彼らの態度が一変する。
言葉遣いだけではなく、もちろん話す内容も一変している。さらには全員がその場に座って土下座まで始めた。雨は止んでいるとはいえ、ひどいぬかるみになっているというのに、良く土下座なんてする気になったものだ。
「命令だ。これからは、人から盗むな、人を脅すな、人を騙すな、人を殺すな。反撃は許すが、ただ真っ当に生きろ。」
「はい、心に誓います!」
みんな、命令しておきたいことがあれば、今のうちにやっちゃってね。
「今まで孤児院の土地を不法占拠していた期間、一ヶ月について金貨一枚、神殿に寄付させましょうか。」
「こいつ、露店から金を巻き上げてた奴だ。今まで巻き上げた分全額、神殿に寄付させようぜ。」
ほんとに好き放題に命令するなぁ。それってある意味、死ねと言ってるようなものじゃないのかな。まあ、盗賊たちのことだ。どうなろうが知ったことじゃない。
でもサキが奥に引っ込んでて良かったね? もしもここにいたら、その倍額を神殿じゃなくて、今すぐ俺たちに寄付しろとか言い出すところだったぞ?
俺は別にそっちでも構わなかったけどね。相手は盗賊だし、充分に悪党だ。滅ぼされて当然の人間のクズどもなのだ。
みんなが好き放題言ってる中で、ダイキは一人だけムスッとしたまま、何も言おうとせずに、ただ突っ立っていた。
「ダイキは何か無い?」
「俺はこいつらは、ここで殺しておくべきだと思う。」
「いいよ? 殺しても。そういう奴らだ、殺しても別に問題ないよ。」
「いいのか、賢者?」
「いいよ、別に。」
だってこいつら盗賊だし。俺は殺すまではいかないと思ったけど、そう思わない奴がいたって不思議じゃないでしょ。
人によって判断が違うなんて、普通のことだ。これがサチウス院長なら、何度でも丁寧に話して聞かせ、更生させる道を選ぶかも知れない。俺のように魔法で無理やり従わせる奴もいる。そして当然、殺す奴だっているわけだ。
「本当にいいのか?」
「いいよ。」
ダイキは少し考えるそぶりを見せた後、土下座しているヤクザ者たちのところにゆっくり歩み寄った。そして黙って彼らに一発づつ、かなり強い蹴りを入れていく。
彼らの口から、グッとか、グハッとか、声が漏れ、同時にバキッという何かが折れる音がして、鮮血が周囲に飛び散る。
「今後、お前らはヤクザどもの悪事を止めることに命をかけろ。もしもヤクザどもが理不尽なことをしていたら、それはすべて、止めなかったお前らの責任だ。俺がそのたびに蹴りを食らわせてやるからな。覚悟して働け!」
それだけ言い残すと、ダイキはムスッとした表情のままで、孤児院の中に戻っていった。
殺すのはやめることにしたか。俺はまあ、ダイキがこれで良いというならそれで良いし、ダイキがこれじゃ足りないというならそれでも良い。
みんなの命令をすべて守ったら、一ヶ月後にはもう生きてはいないだろうから、どっちを選んでも結果はそう変わらない。
すっかり心を入れ替えたヤクザたちを立ち去らせて孤児院の中に戻ると、サチウス院長が心配そうな顔をして出迎えてくれた。
「それで、どういうことになりましたか?」
「ちゃんとしっかり対応したよ。確かに暴力は振るったけど、殺したりはしてない。心を入れ替えたから、もうここに押しかけては来ないはずだ。」
サチウス院長は半信半疑な様子だったが、俺の言葉を信じることにしたようだ。信じてもらうのは難しいかもしれないけど、ちゃんと文字通り心を入れ替えたのは間違いないし、何も嘘は言ってないのだ。
いや、入れ替えたというよりは、書き換えた? どっちでも似たようなものだし、嘘にはなってない……よね?
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