68.子供は泥んこ遊びが大好き
街道までの道のりでは、それからシロが五回転んだだけで、大人たちは転ばずに乗り越えることができた。
つまり、大人の中で転んだのはダイキだけってことだ。
ここで下手に茶化すと、もしも自分が転んだ時に格好がつかないので、茶化したい気持ちはグッと押さえておこう。
草原にはウサギの穴があちこちに空いてるから、実はかなり転びやすいんだよね。
シロは泣き止んだと思ったら走り出して、また転んでって繰り返していたけど、あれだけ穴だらけなんだから、それも仕方ないことだと思う。
草原の中で少し小山になっている場所があったので、そこを選んでテントを張ることになった。
雨はまだ降り続いている。森の中なら木と木の間に布を張って屋根が作れたけれど、草原の真ん中だとそうはいかない。
食事の準備はテントの中でやるしかないかな。魔法コンロだから酸欠ってことにはならないけど、それでも煙や換気の事もあるから、風下側を開けておいた方がいいだろう。
実際にやってみると、五人いる女性陣のテントは少し手狭なようだった。男性陣の方は三人とシロなので余裕はあるし、一人こっちに移動してもらってもいいんだけど、シロがいてガチャガチャするから狭くなると危険だし、このままでいこう。
まあ、サキとチヅルが余計なことをしなければ、向こうは向こうで何とかなると思う。皮むきの手伝いは移動しなくても出来るしね。
森から出る前の二日間でかなり疲れていたこともあって、食事の後は特に話をすることもなく、すぐに就寝することになった。
驚いたのは翌朝の事だ。なんと一晩で五十人ほどの盗賊が現れ、ゴミ一族改めクズ一族も三十人以上増えていたのだ。クズ一族の人数がゴミ一族の人数にほとんど追いついちゃったよ……。
「ねえ、タカシ、これってどういうことなの?」
「いや、俺に聞かれてもさっぱり……。」
なんでこんなに盗賊がわいて出て来たんだ? 前の世界では、雨が降ったらミミズとかが道に出てくるなんてことがあったけど、この世界の盗賊ってミミズみたいなものなの?
考えられるのは、テントの中にいる相手は倒しやすい、殺しやすいって思ってるってことだな。
テントの中にいる時に襲われると、すぐには外に出られないし、テントが倒されたりしたら、布が邪魔して戦えなくなる。もしも火をつけられたらパニックになることだってあるだろう。
そうした成功体験か何かがあって、雨が降る季節にテントを狙う盗賊が相当数いるってことじゃないかと思う。
「理由ははっきりしないけど、もしも雨が原因だとすれば、明日や明後日もかなりの数の盗賊が狩れるんじゃないかと思う。」
「いっそのこと、帰り道は少しゆっくり目に進んでみるか?」
「良いわね、それ。行きは三日だったし、帰りは四日かけてみない?」
「賛成! 盗賊なんて皆殺しにしないとね。」
「そうだな、盗賊を殺せば殺すほど、あいつらだって浮かばれるだろうぜ。」
「うんうん。盗賊なんて、討伐するぐらいしか使い道はありませんからね。」
「そうね、それが良いと思う。」
こいつら……みんな盗賊絶対殺すマンになっちゃってるよ……。もちろん俺も反対じゃないけどね!
実際にやってみたところ、六十人以上の盗賊を狩って、三十九人の人造人間を得ることに成功した。五十人の三倍で、百五十人を超えるかと思っていたのに、さすがにそこまでではなかったようだ。
折角だから無理やり名前をひねりだして、ゴミ一族とクズ一族をキリが良いように七十人にして、残りは新しくカス一族として二十五人を割り振ることにした。
しかしこれでも充分な戦果だし、俺たちにはまったく文句はない。協会の支部長あたりは文句をつけてくるかもしれないが、俺たちの責任じゃなくて、襲ってきた盗賊たちの責任なのだ。
まあ実際のところは、盗賊の中の探索者の割合がかなり落ちて半数以下になっているから、減った探索者よりも一族として増える探索者の方が多い計算だ。
このまま続けていけば、探索者もまともな人が増えるだろうし、盗賊も減って少しは治安も良くなるだろう。いや、そうなって欲しい。
俺たちは夕方になる前に町にたどり着いたので、そのまま探索者協会に行って納品と報告を済ませてしまうことになった。
一階では毎度のごとく、受付のオーバさんから盗賊の狩り過ぎで不平を言われるかと思ったけれど、そっちよりも大量の肉を納品したことの方が目立ったらしく、珍しいことに盗賊については何も言われることは無かった。
もう諦められているのか、二階でも盗賊狩りのことは話題に出なかった。
「今回も盗賊は多かったけど、どうも雨が降ると増えるみたいだね。」
「そりゃテントで寝てる奴らは殺しやすいからな。この時期に増えるのは仕方ないことだろう。」
なんだか気になったので、こっちから話題にしてみると、やはりテントだと襲いやすいので盗賊が増えるというのが、この世界での常識だったみたいだ。
「その話よりも、お前らの中級試験が決まったぞ。護衛依頼だ。護衛対象との顔合わせを行うから、明後日の朝、もう一度ここに来てくれ。」
そうか、試験が決まったのか。護衛対象って言うのが、変な奴らじゃなきゃいいけどね。
翌日は朝からみんなで孤児院に行って、お肉の納品だ。
運が良い事に今日は雨が降っておらず、雲の間に少しだけ晴れ間が見えている。
ダイキとチヅルは今回が初参加ということになる。もう子供たちが服も着ずに裸足で走り回っていることはないし、建物だってしっかりした物に建て替わっている。
そんな今の孤児院を見ても、積極的に助けようとは思わないかも知れないけど、納品するお肉はグループ全員の資産だし、一度は訪問しておく必要があるだろう。
俺たちが孤児院の敷地に入っていくと、子供たちが目ざとく俺たちの姿を見つけて、口々に騒ぎ立て始めた。
「あ、シロとおじちゃんたちが来たよ!」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんもいるよ!」
あの、もしかして……俺だけおじちゃん扱いなの? なんで?
「おじちゃんだって? プッ!」
「おじちゃん…… ププッ!」
……みんな、何を笑っているのかね?
「子供の言う事なんだから、そんなに怒らないでよね、おじちゃん! プププッ!」
自分たちがお兄ちゃん、お姉ちゃんって呼ばれてるからって、みんなして笑うことは無いじゃないか。
「うがーっ! 怒ったぞ~!」
もう許さん!
「うわ~、おじちゃんが怒ったぁ~!」
「みんな、逃げろ~!」
「きゃ~、たすけて~!」
両手を振り上げて怒る俺を置いて、仲間たちはみんな、子供たちと一緒になってキャイキャイ言いながら逃げ始めた。
「うお~、逃がさんぞ~!」
俺もそんな仲間や子供たちを追いかけ始める。悪い子は捕まえて、コチョコチョの刑だ~!
子供たちを追いかけては逃げられ、追いかけては逃げられ、やっと捕まえたと思ったら、大きい子が助けに来たりと、大鬼ごっこ大会に興じていると、サチウス院長から声をかけられた。
「ああ、すみません、挨拶もせずに。今回もお肉がありますから、まずは納品を済ませちゃいましょうか。」
「いえいえ、いつも本当に助かっています。」
いつものように妖獣の肉を孤児院の魔法の袋に移していく。今回は大猟に次ぐ大猟だったので、前回までとは比べ物にならないぐらい量が多い。
サチウス院長はしきりに恐縮しているが、これでもウテナに言われてかなり絞ってるんだよね。
最初は売り上げの二割ぐらいを寄付することに決めたけど、実際に始めてみたら獲ったお肉の二割になり、今回は一割にも満たない量になっている。割合は減っているけど、元がかなり多かったので、量としてはかなり増えているわけだ。
「最近ボツボツと、わざわざ孤児院向けにと断られて、神殿にご喜捨いただくことが増え始めておりまする。尋ねてみたところ賢者様がお声がけ下さっているとか。誠にありがたいことでございまする。」
お肉を納品したあと、今回の売り上げから寄付金を渡していると、そんな話が出て来た。どうやらゴミ一族の寄付もボチボチ始まっているようだ。
「そういえば、何人か裸で走り回ってる子がいたけど、どうしたの?」
「子供たちは泥んこ遊びが好きなもので、恥ずかしいことに洗濯が追いつかないのです。」
ああ、そういうことか。前回ちゃんと着替えも含めて三着づつ用意したはずなのに、おかしいと思ったんだよね。
「それだと、着替えをいくら用意しても無駄になるね。」
「はい、泥遊びの時は服を脱いでから、と教えることに致しました。」
寄付金で魔法洗濯機を導入したりしているそうだけど、とてもじゃないが追いつかないみたいだ。
俺たちの在庫は盗賊から奪ったものだから、魔法コンロや魔法ランプはたくさんあるんだけど、魔法洗濯機は無いんだよね。そういったものも必要になるだろうから、寄付金でどんどん揃えていって欲しい。
泥遊びの他にも、食べこぼしなどで服が汚れることが多いそうだ。それならエプロンみたいなものがあった方がいいかな。予備を含めて人数分、作っておくことにしようか。
(素材は足りるかな?)
《充分用意していますからね~、問題ないですよ~。》
それなら良かった。面倒だと思うけどお願いするね。
他にも水を入れるタライとか、足りない物や必要な物をどんどん作って貰う。最初は本当に何もなかったし、食べていくだけで精一杯だったけど、こうして少しづつ必要な物が増えて、豊かになっていくんだろう。
「他に何か問題はない? 特に畑のこととか。」
「はい、このところ勝手に持ち主を名乗っておった者たちが、徒党を組んで押しかけてくることが増えておりまして、対応に苦慮しておりまする。」
やはりこっちに来ていたか。探索者協会支部に訴えるようにと伝えていたけれど、そちらには特に何もなかったので、孤児院に来ているんじゃないかと思っていたんだよね。
以前ここに押しかけて来た奴は、ヤクザに騙されてお金を払ったと言っていた。もしもそれが本当だったら、孤児院に押しかけたところでどうにもならないわけで、押しかけるとしたらヤクザの所ってことになる。
それが上手くいかなくて、またこっちに来た? それもあり得るけれど、徒党を組んで押しかけて来るってことは、またヤクザにうまくそそのかされて、こっちを標的にした可能性の方が高い。
「ちょっととっちめやらないと駄目だね。他人の土地を勝手に奪うなんて、盗賊のやることだからね。盗賊にはそれ相応の報いってものがあるのを、しっかりと教えてあげないとね。」
サチウス院長は、あまり酷いことはしてほしくないようだったが、それもすべて相手次第だ。
サチウス院長とそんな話をしていると、孤児院の表が騒がしくなっていた。
「どうやら彼ら、今日も来たようでございまする。本当にどうしたものか。」
「俺が対応するから任せて。」
そう、相手次第、状況次第だ。その状況によっては、ヤクザたちは完全に叩き潰すことになる。覚悟しておいてもらいたい。




