65.グループの新生
お昼まで子供たちと遊んだり、一緒に畑仕事をしたりした後、俺たちは孤児院を出て探索者協会へと向かった。
受付嬢のミハルさんは二日か三日待つように言っていたので、昇格試験の話をするのは今日ではなく、明日の夕方かそれ以降になる。今日は直接その話をするのではなく、グループ名をつけるためだ。
俺たちは探索者協会に到着すると二階の待合に陣取り、グループ名を決める話し合いを始めた。
「で、グループ名はどうする?」
俺が切り出すと、サキとハヤトがさっそくアイデアを出してきた。
「タカシがいるんだし、やっぱり賢者って言葉は入れたいわね。」
「盗賊狩りも入れたいな‥…そうだ、二つ合わせて『賢者狩り』っていうのはどうだ?」
「なんだか俺が狩られるみたいな名前なんだけど……。」
「私とマヤが奴隷で、ハヤトとサキは町人、主様が賢者で、ウテナが神官なので、それぞれの一文字目を組み合わせてみるのはどう?」
「組み合わせると、『超ド真剣』?」
「シロ(迷子)はどこ行ったんだよ!」
「タカシ様、それでは『超真剣メイド』ではどうですか?」
「それなら『超メイド神拳』の方が良いんじゃないか?」
「私は『メイド長検診』で。」
駄目だこいつら……名前を付けるセンスが全く無いぞ。よし、ここはシロに聞いてみよう。
「シロは何がいい?」
「おにく!」
「……うん、後でお肉、食べようね。」
シロはご機嫌になったが、俺たちの問題は何も解決していない。
いや、待てよ。
賢者狩り、超真剣メイド、超メイド神拳、メイド長検診、おにく……。
このままだと、『おにく』が一番ましな名前ってことにならないか?
このままでは拙いぞ。何か良い対案を出さなくては。
なんというか、こう、正義の味方みたいな感じで、白はシロとかぶるからなぁ、そうだ、光がいい。例えば希望の光みたいな。
いや、それよりも、子供の味方みたいな、優しい名前が良いかもしれない。たとえば、そうだな……タンポポ組みたいな? 合わせると光のタンポポ? いや、そうじゃない、この方向性はちょっと違う。
光そのものよりも、輝きにしたらどうだろうか。輝きのタンポポ、いや違う、タンポポから離れなくては。
光から離れて、愛とか夢とかも良いかもな……。
……………………。
…………。
「それじゃ、それで決まりだな。」
「タカシもそれで良いわよね?」
ん? 何? ちょっと考え込んでいて、何も聞いていなかったぞ?
「主様、大丈夫? ちゃんと聞いていた?」
「いや、ごめん、ホムラ。完全に聞き逃してた。」
「グループの名前の話よ? 大事な話なんだから、真面目にやってよね、リーダーでしょ?」
「ああ、サキ、ほんとごめん、で、どうなったの?」
「賛成多数で『地獄の賢者』に決まったぞ。俺は『暗黒の一撃』が良いかと思ったんだけどな。」
「え? 『地獄の賢者』だって? もっと他に良いのが……。」
「他にあるならさっさと出せよ。一応、聞いてやるから。」
他? 他と言えば、光の……いや、違った、たしか『愛』だ。
「……愛の……タンポポ?」
「……却下で。」
「無いわね。」
「あり得ない。主様が言うと、なんかえっちな響きに聞こえるわ……。」
ウテナさん、肩をぽんぽんするのやめてください……俺もさすがにこれは無いと思ってるから。
こうして俺たちのグループ名は『地獄の賢者』に決まり、探索者協会に正式に届けられることになったのだ。
この名前には色々と思うことはあるけど、『愛のタンポポ』にならなかっただけ、マシだと思うことにしよう。
受付でグループ名の届け出を行い、シロのおやつのお肉を焼くために訓練場に行ってみると、そこには実地研修で一緒だったダイキがいた。
なんだか一人でポツンと寂しそうにしているが、何かあったのだろうか。
「お、ダイキじゃないか、元気無さそうだけど、どうしたんだ?」
「一緒にグループ組む子たちに振られでもしたの?」
「ああ、賢者たちか。ああ、まあその通りなんだが……。」
ダイキはたしか、先に講習に合格した仲間たちのグループがあって、そこに合流するってことになっていたんだよな。
「俺が合流するはずだったグループな、俺がいない間に可愛い女の子のグループと合流して八人になっててさ、俺が入る余地が無くなってたんだわ。」
ああ、そういえば講習で習ったぞ。探索者のグループは八人が上限で、それを越えたら正式なグループとしては組めないとかなんとか、そんな話だったはずだ。
「……ってことは、グループなしのソロになっちゃったの?」
「まあ、そういうこった。で、話はそれだけじゃなくてだな……」
ダイキが続きを話そうとしたところで、もう一人、乱入者が現れた。
あらら、今度はチヅルじゃないか。彼女もまた、ダイキと同じように暗い顔をして、まったく元気がない。
「チヅルじゃないの、貴女も元気ないわね。もしかしたら、組む予定だったグループからはじき出されでもしたの?」
「なんだ、サキたちか。そうよ、あの娘たち私をほったらかしにして、男の子たちのグループと合流して八人になっててさ、私はお払い箱になったわよ。」
おいおい、どっかで聞いた話どころか、たった今、似たような話を聞いたところだけど……。
「もしかして、お前らが合流しようとしていたグループ同士が合併したとか?」
「ああ、そういうことだ。」
「まあね、それだけだったら良かったんだけどね。いや良くないか、でも結果としては良いのかも知れないけど。」
直接聞いてみると、やっぱり二つの話は同じものだったみたいだ。
それはそれとして、チヅルが何を言っているのか良く分からない。いったい何が起こったんだ?
「俺たちを置いて合併したグループな、さっき掲示板を見たら、盗賊に狩られて全滅したそうだわ。」
「私たちも合流してたら、一緒にやられてたのか、それとも助かったのか。ちょっと何とも言えなくてね。」
うわあ、これはちょっと言葉に出来ないぞ……。
あれか、俺たちが狩った盗賊ども、その犠牲者は新米探索者ってことだったけど、それがこの二人の仲間だったってことか。
「お前らが仇敵を討ってくれたんだってな。礼を言っておく、ありがとう。」
「そうね、私からも。ありがとね。」
かなりボソボソした声で二人はお礼を言ってくれたが、やっぱりどうにも声に力が無い。
「ねえ、二人とも。この後どうするの? どこか入るグループはある? それとも探索者は諦めるの?」
サキが二人に投げかけた言葉は、俺自身が言いたかったことでもあった。
この二人、親しい友達の死ってことだけじゃなくて、自分も死ぬところだったって話でもある。
そしてそこから逃れた罪悪感みたいなもの、助けられなかった後悔、今はいろんな感情がぐちゃぐちゃになっていて、誰かの手助けが必要なんじゃなかろうか。
ただなぁ、うちのグループはウテナが入って、今は七人になっているんだよなぁ。
「ん~それなんだが、もしも良かったら、賢者の所に入れてもらえないか?」
「一度断っといてなんだけど、私も入れてもらいたいかな。」
「実はあれから一人増えて七人になっててさ、八人を超えるから二人とも入るのは無理なんだよね。」
「そうか……、ならチヅルだけでも頼めないか? 賢者のところは女が多いし、問題も起こりにくいだろ?」
「チヅル一人だと、あれだ。料理監督のダイキがいないと、死人が出る。」
「ああ、それがあったか。」
「えええ~! さすがに毒は作らないし、マミコさんだって何ともなかったよ!」
いや、あれは間違いなく毒だったぞ?
「グループを二つに割るか、それとも特例で九人を認めてもらうか、どっちかしかないだろ? ちょっと受付で聞いてみようぜ。」
ハヤトに促されてみんなで二階に上がると、ちょうどミハルさんの受付が空いていた。
「あら、みなさん、さっそくグループ名の変更ですか?」
「いや、そうじゃなくて……。」
さっき『地獄の賢者』っていう名前を登録したとき、あんまり酷い名前だからと変更をお勧めされていたのだが、今回の要件はそっちじゃない。
俺たちはダイキやチヅルの事情を説明して、なんとか特例が認められないかと交渉してみたのだが、受付のミハルさんの返事はかんばしいものではなかった。
「八人が上限というのは本部で決められていることなので、支部で勝手に特例を認めることは出来ないんですよ。」
ミハルさんによれば、その昔、五十人とか、百人とか、大規模なグループを組んで、数人のグループ幹部が働かずに収入を得る、というようなヤクザ組織を作る者たちが多発したそうだ。
それで九人以上の大人数グループは何があっても認めない、という絶対的な規則が生まれたらしい。
「二つのグループで連携する、つまり同盟を組むことは出来るのですが、この支部では認められていません。ですからグループは二つにして、別行動をとるしかないですね。」
「えええ? 連携もダメなの?」
「はい、駄目です。こちらも同盟を利用して、ヤクザ組織を作る者たちが多数いたので、この支部では禁止されています。例外はありません。」
現在、町を牛耳っているヤクザ組の過半数が、元は探索者グループの同盟が起源になっているそうだ。
それでも協会に内緒で連携できなくはないだろうけど、バレたら罰金や降格、除名などの罰則もあるらしい。
俺の眷属集団のゴミ一族だってかなり怪しいわけだし、ここであまり粘るわけにもいかないかな。
残念ながらダイキとチヅルには、スザクたちのグループに入れるように、紹介状を書いてやるぐらいしか、俺にできることはなさそうだ。
俺たちが諦めて受付を離れようとしたとき、ゲンコツ支部長が階段を下りてきた。
「ああ? なんだ、『地獄の賢者』なんてグループ名をつけたバカどもじゃないか、いったいどうした?」
丁度いいので、グループが九人になる問題について、支部長に聞いてみる。
「ああ、良いぞ。」
え? いいの?
「支部長! さすがにそれは通りませんよ!」
本部が決めた絶対規則を支部長が勝手に変更できないと、ミハルさんが抗議の声を上げる。
「こいつらの所には、チビが一人いるだろ? 誰がどう見ても一人前には見えないだろう、良くて半人前だ。つまり八人半にしかならんから、九人以上にはならないぞ。」
「なんて、こじつけを……。」
「こじつけって言うかだな、このチビを一人前の探索者扱いしていることの方が例外だ。他の支部や本部だと、チビは探索者としては認められないんだから、八人を超えることにはならん。」
「私は知りませんからね! 事務手続きは支部長ご自分でお願いしますよ!」
なんだかミハルさんが怒っているが、俺が決めた事じゃないし、俺のせいじゃないので、その怒りは支部長のオッサンだけに向けて欲しい。
そんなわけで良く分からないうちに、俺たち『地獄の賢者』は九人、いや八人半のグループとして、新たに活動を始めることになったのである。




