61.ゴミ集団
俺たちがゆったりと休憩しながら食事の準備をしていると、シルビアとグロリアから警告があった。
〈五人グループがこちらに近づいてくるわ。〉
《その後ろからも三つ、グループが近づいてきますね~。合わせてちょうど二十人ですよ~。》
今回はまだ明るいうちから来たか。
「街道の方からこちらに向かって、四グループ、合計二十人やってくるよ。おそらく盗賊だね。」
みんなにも精霊さんの警告内容を共有しておく。
ホムラとマヤは慣れたものだ。ホムラは返事をする暇もないくらいに懸命になって芋をむいているし、マヤもちらっと街道側に目を向けただけで、表情を変えずに、そのまま料理の方に専念している。
ハヤトは少し迷惑そうな顔をしているが、皮むき自体の手は止めていない。サキなんかは、「こっちにゴミを飛ばさないでね~」なんて、軽い口調で言っている。こいつ、皮むき作業が無いから暇なんだな?
警告を聞いて心配そうな顔をしたのはウテナだけだ。
「あのあの……盗賊って、大丈夫なんでしょうか?」
「ああ、大丈夫。とっとと討伐しちゃうから、そのまま料理していて。それと、ちょっとの間、シロをよろしくね。」
俺はシロをウテナに預けて、よっこらしょっと面倒くさそうに立ち上がった。
実は俺には少し考えていることがある。
盗賊やら海賊なんてものは、元の世界であっても『人類共通の敵』だ。この世界ではその場で殺処分と決まっている。
盗賊を狩ること自体に罪悪感はないし、どちらかと言えばガンガン行こうぜと思っているんだけど、あんまり狩り過ぎると妖獣を狩る人数が減って、肉の供給が減ってしまうのが問題だ。
スザクのように魔法で縛りつけて、眷属としてこき使ってもいいんだけど、それだと討伐にならないんだよね。
もちろん討伐報酬が欲しいのはあるけど、それだけじゃない。盗賊として討伐されると、探索者協会の掲示板に張り出される。つまり『盗賊すると殺される』って現実が、はっきりと探索者たちに晒されるのだ。
それを見た人たちが盗賊するのを思いとどまってくれればいいと思うんだよね。ちょっと考えが甘すぎるかな。
《誰がどの娘を手籠めにするか、なんてことを話し合ってますよ~。》
〈後ろから来る人たちは、『あいつらだけに良い思いをさせるな』ですって。下郎も良いところね。〉
《今までと同じように男とガキは殺して、女は分配するんですって~。》
〈そんなことが許されると思っているのね。〉
こいつらシロを、こんな小さな子を殺すつもりか……。もう絶対に許さんぞ。どうやら前科もあるみたいだいし、殺処分で確定だ。
そしてそれは俺がやり過ぎることが確定した瞬間でもあった。
(マミコみたいに、混ぜ混ぜして真人間に再生したいところだね。)
《うまくいくかどうか~、どうしようもないクズ人間ばっかりみたいですけど~?》
〈やるなら何か別の物を混ぜた方が良いわね。〉
どうせゴミばかりだ、混ぜるにしても芋の皮とかでいいか。
いつも機械作業のように盗賊を討伐してきたけれど、彼らのシロを殺すという言葉を聞いて、俺はかなり頭に来ていた。
こいつらはここで全滅させる。
やるならしっかり引き付けてからだ。後ろから来る奴らも含めて、一人たりとも逃がしたりしない。
盗賊どもの最初のグループがかなり近づいてきていた。
これだけ盗賊の多い世の中である。普通は盗賊と誤解されないために、他のグループに無闇に近づいたりはしない。
狩場では情報交換のために、他のグループと接触する必要が時もあるので、絶対に近づいてはいけないわけではない。しかしそんなときはグループ全員ではなく、一人だけで先行して、まずは遠くから挨拶するのが通例だ。
あまり推奨されることではないけれど、その時の状況次第では、何も言わずにグループ全員で近づくだけで、盗賊として討伐されることだってあるし、討伐した側は注意をされるだけで、何も罰を受けないことだってあるぐらいなのだ。
まあ俺の場合は、盗賊を討伐する前には警告するけどね。
「おーい、お前ら、止まれ! それ以上近づくなら、盗賊として討伐するよ!」
大声で警告してみたが、もちろん彼らは目をギラギラさせながら近づいてくるだけで、まったく止まることはない。それどころか彼らの後ろにいるグループは、今まで以上の早足でこちらに近寄ってくる。
「おいおい、抜け駆けはズルいぞ、こっちにも寄こしやがれ。」
「後から来て何言ってんだ。お前らは俺たちが楽しんだ後だ。」
「それはいいけど、女は殺してくれるなよ?」
「ああ、わかってるぜ、兄弟。」
「くぅ~っ! 久しぶりの女だぜ!」
「早いことやっちまえよな、後がつかえてるんだ。」
こんな奴らの言葉を聞いているだけで、耳が腐ってもげたっておかしくない。
「今すぐ回れ右して立ち去るなら見逃すよ。立ち去らないなら盗賊として始末するからね。」
もう一度だけ警告をしておく。これで立ち去らないなら問答無用で討伐だ。まあ、今まで警告して立ち去ったのは、『不滅の壁』を名乗っていた、あの四人組だけだ。
そしてその四人組だって、俺たちが森に入る手前で寝入っていたところに襲い掛かってきたのだ。こういう輩が言葉だけで止まると信じるには、俺はもう盗賊という生き物のことを知り過ぎている。
「けっ、偉そうにガキンチョが。」
「ああ、後ろの女どもは心配しなくていいぞ、たっぷり優しく可愛がってやるからな。」
よし、狩ろう。
(こいつら全員、結界で閉じ込めて装備類は全部剥ぎ取って貰える?)
《あれ~、生かしておくんですか~?》
〈混ぜ混ぜすることにしたのね? それじゃあ、ほい!〉
そう、その通りだ。実はまだ少しだけ引っ掛かりがあったんだけど、こいつらの様子を見ていたら、完全に何のこだわりも無くなった。さあ、やろうか。
グロリアの結界魔法が無法者たち全員を捕らえ、一瞬にして裸にむいてひとまとめにしてしまった。何回見ても恐ろしい魔法の威力と速度だ。精霊さんたちに狙われたら、まず逃げられないだろう。
(後ろのみんなから見えないようにしてね。あ、音も聞こえないようにお願い。)
《前回はちょっと失敗しましたからね~、今回はばっちりですよ~。》
〈それじゃあいくわよ、ほい!〉
捕らわれた盗賊たちは何かを叫んでいたようだが、何を言ってもこちらには何も伝わらない。ちゃんと二回も警告したのだ。もしかしたら謝罪したり、許しを請うたりしているのかも知れないが、そんなことは俺の知ったことではないのだ。
グロリアの魔法によって、十三人の裸の男たちが新たにこの世に誕生した。マミコの時と比べれば、効率は約ニ倍になっている。そしてしっかり芋の皮も混ぜ合わせてあった。
《全員残らず、完全に主様の眷属になっているわよ~。》
(おお、ありがとう。もう結界は解いても大丈夫かな?)
〈ええ、問題ないわ。ほい!〉
「よし、お前ら全員に命令だ! 盗賊行為は禁止だ。人を殺すな、人を襲うな、人から盗むな、ただし反撃は認める。」
俺の命令を聞いた男たちは、ただ周囲をきょろきょろ見回すだけで、何の返事もない。
「返事をしろ、ゴミ共!」
「へいっ! おかしらっ!」
「俺のことは、主様と呼べ、ゴミ共!」
「へいっ! ぬしさまっ!」
「よし、自分で自分の名前をつけろ。新しい名前を自分で考えるんだぞ。」
「へいっ! ぬしさまっ!」
「お前らは傭兵だったが、探索者になるためにイナーカの町にやって来たことにしろ。そして探索者協会に行って登録しろ。」
「へいっ! ぬしさまっ!」
「これからは儲けの三割を神殿経由で孤児院に寄付しろ。」
「へいっ! ぬしさまっ!」
「よし、それでは今から装備を授ける。受け取ったら三つのグループに分かれて町に向かえ。」
「へいっ! ぬしさまっ!」
生まれ変わった十三人の裸の男を横一列に並ばせて、剥ぎ取った装備を元にして一気に服や鎧、武器の他、背負い袋などを魔法で用意してもらった。
袋の中には魔法の袋などの道具類の他に、幾らかの支度金も入れてある。それがないと町に入ることすら出来ないし、すぐに飢えて死んでしまうからね。
一応全員に名前を聞いてみたところ、ゴミタロウとか、ゴミゾウとか、ゴミエモンとか、そんな名前ばっかりだった。お前らゴミ一族かよ。
中には同じ名前の者、例えばゴミタロウは三人もいたので、強制的に別の名前に変えさせた。
二十人の盗賊たちは、全員が中級探索者の銀札を持っていた。中級にもなれば、盗賊なんかしなくても食べていける。あいつらはこれまで、ただ自分の楽しみのために、人を殺し、奪い、犯してきたのだ。
彼らの荷物の中には、初級探索者の銅札も十枚以上入っていた。女物の服なんかも入っている。たぶんあいつらに遊び半分に狩られたんだろうな。なんとも惨い話だ。
すべてを終えてみんなの所に戻ると、芋はしっかり煮えており、みんなはステーキを焼いて食べ始めていた。
「タカシ、思ったより時間がかかったな。」
「ごめんね、すぐ終わるかと思って、食べ始めちゃってたよ。」
「いや、問題ないよ。殺処分するだけならすぐだったんだけど、眷属化してたら時間がかかっちゃって。」
「ああ、それで盗賊たちは立ち去って行ったんですね。」
「眷属化は鬼畜の所業。でも相手も鬼畜だから納得。」
ああ、そうか、ホムラとマヤは眷属化でだいたい通じるけど、ハヤトやサキにはあまり通じないのか。ウテナなんかは全く意味がわかっていないようだ。
これはちゃんと説明しておかないと駄目だな。
「あいつらは盗賊でどうしようもなかったから、一度死んでもらって真人間に作り変えて、盗賊しないことと、儲けの三割を神殿に寄付するように命じてから解放したんだ。」
「おい、タカシ、大丈夫か? なんか無茶苦茶なことを言ってるぞ?」
「神殿に三割じゃなくて、私たちに三割にしておけば良かったのに。」
「さすが女神様の神使……。」
そんな変なことを言ったつもりは無いんだけどなぁ。
確かにちょっとやり過ぎた気はするけど、小さい子に危害を加えようとしたんだから、このぐらいは当然なのだ。




