60.素材と食料を求めて
翌日、朝からグループ全員で孤児院を訪れた結果、グループの売り上げから寄付することに決定した。
食べ物を中心に寄付することになるので、どのくらいの割合になるかはその時になってみないとわからないけど、だいたい二割ぐらいを考えている。
「うわあ……、タカシの言う通り、これは確かに無いよなあ。」
「本当に酷い状態ね。私たちで出来る事なら、少しは助けてあげたいわね。」
「うん、賛成。」
「主様はいつもろくでもない事ばっかりしているけれど、今回だけは良い事を始めたと思うわ。」
ホムラの俺への評価が悲しいことになっているけど、みんなが俺と同じように思ってくれるのは嬉しい限りだ。
訪問して見学するだけ、寄付をするだけ、ということではなく、各々が自分の出来ることをすぐさま始めたようだ。
ハヤトやホムラなどは大きい子たちに剣の振り方などを教えているし、サキやマヤは女の子たちとままごとなどをしている。シロは相変わらず、孤児たちと一緒になって走り回っている。
俺? 俺はサチウス院長と一緒に建物の中に入って、どこを直すとか、必要な家具だとかを検討していた。
中を見てまわると、外から見ている以上に酷い状況だった。雨漏りが酷いという話だったが、それだけではなく、天井や床はところどころ抜けて穴が空いている。壁だって穴が空いていて、隙間風どころの話じゃない。
(これって修理どころか、建て直しが必要なんじゃないかな?)
〈その通りね、ちょっと面倒だわ。〉
(建て直しとなると、家具とかは一度外に出さないと駄目かな。)
《家具類はそのままでも問題ないですよ~。でも危険なので、人は外に出ていた方が無難ですね~。》
家具が入った状態で建て直しできるのか。確かにそれは面倒かも知れないけど、一度出して入れなおすよりは、楽が出来るんじゃないかな。
まあ家具にだって、作り直しが必要な物が山ほどある。ベッドや毛布なんかも全く足りていないし、食卓や椅子だって壊れた物を素人大工で修理して使っているのだ。
その辺りのことをどうするのかは、シルビアとグロリアにも相談しながら決めることにしようか。
翌朝、素振りや走り込みなどで軽く汗をかいた後に朝食を摂り、ハヤトやサキと合流してから、全員そろって森へと向かう街道に出た。
前回の実地研修の時と違って、今回は最初から人の少ない領域に向かうことになっている。町からはかなり離れた場所になるので、今日は街道を歩き、森に入るのは明日の昼過ぎから夕方ぐらいになる見込みだ。
前回はすぐに森に入ったけど、人が多すぎて何も狩れなかった。それならすぐに森に入らずに、歩きやすい街道や、まだあまり草が生えていない草原を歩いた方が良いに決まっている。
俺たちと同じような考えを持った探索者も多いみたいで、同じ方向に向かう人たちはそれなりに多い。
同じ方向に進む人たちはそれなりに多いが、逆方向に進む人たちに比べれば圧倒的に少ない。その理由は簡単で、こちら側の森は向こう側と比べて、妖獣の数も強さもかなり強くなるのだ。
「主様、こっちは、私たちが盗賊に襲われた方向よね?」
「うん、そうだね。」
そう、ホムラが言う通り、今回、俺たちが向かっているのは南の森の手前だ。
ヤマブキが向かった湖方面とは比べ物にならないが、それでもかなり危険が伴う狩りになることが予想される。
そのためか、俺たちと同じ方向に向かう人たちは、逆の方向に進む人たちと比べて、かなり少ない印象だ。
人数の問題だけではなくて、同じ方向に向かう人たちは、俺たちのような若手よりも、腕に自慢の豪の者を思わせるような、そんな風貌の人が多かった。
(今回はある程度の売り上げが必要だから、きっちりサポートを頼むね。)
〈わかっているわ、任せて。〉
前回までの狩りでは、俺たちの訓練のためもあって、精霊二人のサポートは最低限にしてもらっていた。
しかし今回は違う。街道に入る前から森の中を索敵して、妖獣が多い場所を目指して移動しているのだ。
さらに言えば、もしも他の探索者たちに獲物を取られそうな状況なら、超長距離から魔法で獲物を狩りとってしまうような、そんなズルいことまで視野に入れているのだ。
もちろんこの方針は俺が勝手に決めたことではなく、みんなにも了承してもらっている。
今回の目的は子供たちのための肉の確保、そして材木となる木の伐採、この二つがメイン。俺たちの訓練は二の次なのだ。
今はまだ道中なので、適当に並んで歩いているけれど、森の中に入ったらもちろん、しっかり隊列を組むことになる。
前衛がハヤトとホムラの二名、後衛がサキとマヤの二名、そして俺とシロ、そしてウテナが中衛だ。もちろん俺はシロの発射台というか遊撃を兼ねる。事前の話し合いでそう決めてある。
前回の隊列はかなり良く機能していたので、そのまま採用したいところだったけど、ダイキとチヅルが抜けてウテナが入ったことで少しだけ変更が必要だったのだ。
特にウテナは、一応剣を持っているけれど、それは本当にただの護身用で、魔法での支援を担当してもらうことになっていた。
ウテナとは今回初めて組むことになるので、どうなるか少し心配していたけれど、みんなで一緒に孤児院に行ったことや、一緒の宿に泊まったことが良かったらしい。今のところは他のみんなとも仲良くやれているみたいだ。
《嫌な感じの視線を向けてくる人たちが多いですね~。いつ襲ってくるかわからないので、気は抜かないでくださいね~。》
(それなりに人通りがあるけど、それでも襲ってくるのかなあ。)
〈会話を盗み聞きしているけど襲う気は満々みたいよ? どのグループが先に襲うのか、その様子見をしている感じね。〉
ああもう酷い話だなぁ。もう俺たちは彼らに獲物として狙われていて、あとは誰が先に襲うか、それだけのことってわけか。
みんなにも、気をつけるようにと声を掛けておいたけれど、結局その日は誰にもチョッカイをかけられることなく夕方になっていた。全く拍子抜けだよね。
「今日はこの辺りで野営にしようか。」
「ええっと、タカシ様、身を隠すものが何もないですけれど、大丈夫なんですか?」
たしかに周囲には何もない。元々は道の両脇には草原が広がっていたのだけれど、火事でしっかり燃え尽きて、今では草の芽が少し伸びているだけの原っぱだ。
「ウテナ、こっちには主様がいるから、何も無くても特に問題は無いわよ?」
「むしろ盗賊が狩りやすい罠?」
ホムラとマヤの二人は、俺と一緒に街道を歩いた経験が豊富なので、何も心配していない。むしろ盗賊に襲われやすくて都合が良いなんて考えている。
「大丈夫とわかってはいるけど、これだけ何も無いと少し不安になるな。」
「不安な感じがするけど、燃えちゃって何もないし、どうしようもないわよ。」
ハヤトとサキの二人は夜間の襲撃を一度経験しているけれど、まだ二人ほど信頼していないようで、ウテナと同じような不安があるみたいだ。
猫が小さな段ボール箱に入ると落ち着く、それと似た感じかな。
街道のすぐ脇で野営というのは、あまりにもあからさま過ぎるという意見があったので、俺たちは二百メートルほど草原に入ったところで腰を落ち着けることになった。
夕食は前回から引き続き、ハヤトたちが持ってきた芋と、俺の袋からとりだした妖獣の肉のステーキだ。
今回は露店で大きめの鍋を購入してあるので、人数分の芋煮を作るにも鍋一つで済むからちょっと楽が出来る。
「それじゃ、自分の芋は自分で皮をむいて。」
料理隊長のマヤがみんなに声を掛けると、各々が自分の分の芋を手に取って、小刀でいっせいに皮むきを始めた。
もちろんサキの分はハヤトが、そしてシロの分は俺が担当だ。サキは、まあ、ともかく、シロは軽業のような身のこなしは得意なんだけど、皮むきとか着替えとか、そういうことはまだまだ苦手なんだよね。
着替えぐらいなら自分で出来るかと思って任せてみたら、服がこんがらがってしまって、なんだかミノムシみたいになっていた。
サキやチヅルの例があるので、ウテナの様子をチラ見していたんだけど、俺よりもはるかに素早く綺麗に皮むきをしている。これなら謎の物体が生まれてくることはないだろう。
ちょっと目を離した隙に、シロがお腹が空いて我慢できなくなったのか、俺がむいた芋の皮をかじっていた。
「シロ~、皮は食べちゃだめだよ。」
「ぬし~、まずい~。」
「ペッしなさい、ペッ!」
この芋の皮にはエグ味があって、美味しくないのだ。シロがちょっと涙目になりながら芋の皮を吐き出しているので、うがいさせるために樽から水を汲んでやると、極々飲み始めた。いや、別に飲んでもいいんだけど。
「タカシ様、ちょっとお手伝いしましょうか?」
「ああ、頼む。」
俺の皮むきが進んでいないのを見て、ウテナが手助けを申し出てくれた。シロの面倒を見ながら、シロの分の皮むきをするのはかなり大変なので、俺はありがたく申し出を受けた。
ハヤトはサキの分まで皮をむかないといけないし、マヤは鍋の面倒を見ないといけない。ホムラは自分の分だけで手一杯だ。
前回はダイキとスザクがいたけれど、それぞれチヅルやマミコの面倒を見る必要があったので、俺の手助けをする余裕がなかったから、こうして手伝って貰えるのは新鮮な感覚だ。
あ、そういえば、折り畳みの机と椅子を買ったんだった。すっかり忘れてたよ。
今から出したら土埃が立つし、使うのは明日からでいいかな。




