59.ウテナの装備
そろそろ帰ろうと思ったら、周囲にシロが見当たらない。
どこに行ったのかと思って探したら、孤児院の子供たちと一緒になって、そこら中を走り回って遊んでいた。短い時間でかなり仲良くなったみたいだね。
「シロ~、そろそろ帰るよ~。」
「はあい!」
返事だけは良いけど、ぜんぜん遊ぶのを止めようとしない。仕方ないので追いかけまわして、首根っこを摑まえることになった。それだけで結構な時間、走り回らされたよ、ぜいぜい。
シロは充分遊び回ったうえ、最後に俺と鬼ごっこをしたので大満足のようだ。
「ぷら~ん、ぷら~ん。」
首根っこを持ちあげて、そのままプランプランとぶら下げてやると、それも遊びの続きだと思ったのか、ニコニコしながらはしゃいでいる。
「みんな遊んでくれてありがとな! また来るから、その時にも遊んであげてくれよな!」
「ばいばい~。」
「シロ~、ばいば~い!」
シロをそのままプランプランとぶら下げながら、サチウス院長にも帰宅の挨拶しておく。
そして俺たちは、「ウテナおねえちゃん、パイパ~イ!」なんていってた子供が、サチウス院長に拳骨を落とされている姿に苦笑しながら、孤児院を後にした。
俺はシロを肩に担ぎなおし、ウテナを相手に世間話というよりも、この町の話を色々と教えてもらいながら、来た道を引き返していく。
彼女によれば、この町にもちゃんと領主さまはいるそうだ。ただ領主さまの統治する領地はとても広いらしく、ほとんどこの町にいることはない。代わりに代官がこの町の面倒を見ているということだった。
この代官がものぐさな人らしく、あまり住民のことを考えてくれないというか、頼んでも手を打ってくれることは少ないそうだ。
ただものぐさなだけでなく、領主さまに任されている権限が少なくて、やりたくても出来ないこともあるのかも知れない。
この町で領主さまに次いで力があるのは神殿なのだけど、その神殿でも今のありさまというのは頭が痛い。やりたいことがあれば、やはり自力で何とかするしかないのが現状みたいだね。
「建物の修理とかは、森で材木とかいろいろ採ってきて、自分でやってみるしかないかな。」
「そうですね、それなら私もお供しますね。」
「いや、ウテナには神殿の仕事が……」
「私もお供しますね?」
「あの……」
「私もお供しますね?」
なぜだろう、ウテナも狩りに同行することが、いつの間にか決定事項になっていた。
聞いてみると、彼女は初級探索者として探索者協会に登録済みだそうだ。彼女は回復魔法や結界魔法が使えるらしく、時々他の探索者たちと一緒に、子供たちのために肉を求めて森に狩りに行くらしい。
「鎧とか武器とかの装備もあるってこと?」
「いえ、動きやすい服を着るぐらいで、鎧などは特には……」
(あとで彼女の装備を用意してもらえるかな?)
《もう! 働かせすぎですよ、プンスカです~。》
〈まあ、それぐらいなら仕方ないわね。〉
「装備とかは後で用意するとして、ホムラやマヤとも顔合わせしてもらった方が良いかな。」
「そのお二人はタカシ様の従者さんですよね?」
「まあそんな感じ。あと俺のグループには、ハヤトとサキっていう探索者がいるよ。」
「それではそのお二人にも挨拶が必要ですね。」
ウテナが同行するなら、四人にも理由の説明だけじゃなくて、孤児院の状況を実際に見てもらった方が良いだろう。この時間なら、まだ協会の訓練場にいるかも知れないな。
ウテナさんの了解を得たうえで、俺たちは神殿ではなく、探索者協会の方へと足を向けた。
探索者協会の訓練場では、やはり四人が一緒になって鍛錬を行っていた。俺たちが着いた時には、ちょうど終わろうとしていたところだったようだ。
「あら、タカシじゃない? こんな時間に来ても、もう終わるところよ?」
「えらい美人を連れているなぁ、まさか誘拐してきたんじゃないだろうな。」
ハヤト、それはちょっと酷いぞ。お持ち帰りしたくなる気持ちは理解できるけど、俺はやってないからね?
「ちょっと神殿と孤児院に縁があってね、それでみんなに相談があるんだ。」
俺はウテナが狩りに同行すること、そしてその理由について、みんなに説明する。
「それで出来れば明日、みんなにも孤児院の状況を見ておいてもらいたいんだよね。」
「私は問題ありません。」
「私も。」
「私は良いわよ。どうする? 朝から行く?」
「そうだな、朝からの方が畑仕事の手伝いをしなくて済むな!」
話はすぐに決まり、明日の朝は探索者協会に集合してから、孤児院を訪問することになった。
「ホムラとマヤの二人がいるのに、まさか新しくそんな美女を引っかけてくるとはねえ。」
「ほんと、手が早いというか何というか……。」
いや、ちょっと待って! ホムラとマヤは奴隷だから仕方なく俺についてきてるだけだし! ウテナは孤児院を何とかするために一緒に来ただけだし!
「主様、私たちの全てを手に入れておきながら、なんと浅ましい‥…。」
「主様は鬼畜。」
「きちく~きちく~。」
シロが真似するからやめなさいってば。
簡単な打ち合わせを終えて、ホムラやマヤたちと『青がえる亭』に戻ってくると、なぜかウテナまでが一緒についてきていた。
「ああ、そう言えば。ウテナは神殿まで送っていくよ。」
「いえいえ、私もこの宿で問題ないですよ?」
「いや、戻らないとマズいでしょ。それに部屋に空きがあるかどうか……。」
「いえいえ、私はタカシ様と同じ部屋で問題ないですよ?」
それはこっちに問題があるというか、どうせなら同じベッドで……げふんげふん。
宿の受付で聞いてみたのだけれど、ちょうど今は空き部屋は無いようで、四人部屋への交換も難しいみたいだ。
今は二人部屋を二つ取っているのだけど、シロは俺と同じベッドで寝るので、俺の部屋のベッドは一つ余っていることになっている。
だから俺と同じ部屋で良ければ、実は問題なく全員が泊れるのだ。
シロの寝相によるけどね。
シロの寝相がひどいから、ベッドは二つひっつけて、巨大ベッドにしてあるんだよね……。
「それじゃ、誰かが俺の部……」
「タカシ様、もちろん、私‥…」
「いえ、この宿のベッドは大きいので、同じ部屋に三人でも問題ありません!」
「狭いの嫌い。私が主様の所に……」
「駄目よ、マヤ。そんな破廉恥なことは。」
「でもホムラは、前の宿で主様のベッドに潜り込んでた。」
「それはマヤ、貴女もでしょ!」
なんだかよく分からない戦いになり始めたので、俺は聞いてないふりをして、受付でウテナの分の宿賃を支払った。
ホムラもマヤも俺が寝てる時には、精霊さんの気配を求めて寄ってくるみたいなんだよね。もしかしたら俺が寝ている間に、精霊さんたちが何かしているんだろうか。
誰がどの部屋で寝るのか、その決着はまだついていないようだったけど、ひとまず全員で俺とシロの部屋に入ることにした。ウテナの装備の準備と、ちょっとした話し合いをするためだ。
この部屋は二人部屋ということになっているが、それなりに大きな部屋だ。それでも大人四人とシロが入ると、やはりちょっと手狭な感じがする。
(それじゃ、装備とか背負い袋とかの作成をよろしく!)
《サイズを測りながら作るので、服は脱いで貰ってくださいね~。》
え? 何それ?
〈ホムラやマヤの時も脱がせてから作ったでしょ?〉
(あれ? そうだっけ? ちゃんと覚えてないぞ?)
そんな素敵な事があったのなら、しっかり目に焼き付けているはずなんだけど、残念なことに何も覚えていない。
もう過ぎてしまったことをくよくよ考えるのはよそう。俺は未来に生きるのだ。
「それじゃ、ウテナ。装備を整えるから服を脱いでね。」
「は~い、タカシ様、わかりました。」
よし、こんどこそしっかり全てを網膜に焼き付けるぞ!
へえ、ヒダヒダ服って、あんなところがブローチで留まっているのか。おお、これは!
服を脱いでいくウテナを俺がガン見していると、まるで観光地のお金を払って遠くを眺める双眼鏡のように、突然視界が暗転した。
え? 時間切れ? お金ならあるから! 今すぐ入れるから!
「主様、女性の着替えを覗いては駄目よ。ただでさえモテないのに、完全に嫌われるわよ?」
なぜか耳元でホムラの声が聞こえてくる。さては、俺の目隠しをしているのはホムラだな!
どうせ後ろから抱きついて目隠しをしてくるなら、鎧を脱いだ状態でやって欲しいとか言ったら、やってくれるだろうか。
よし、頼んでみよう!
《は~い、終わりましたよ~。》
え? もう終わったの? 早すぎない?
目隠しから解放された俺の視界に、鎧姿になったウテナが飛び込んできた。なんて早業だ、一瞬で完璧に終わっているではないか。
それだけじゃない。もともと立派だったウテナの胸元が、一回り以上大きくなっている感じがするのだ。
《主様の記憶を元に研究して、寄せて上げて、しましたからね~。》
〈マヤと同じGカップだけど、見た目ではワンサイズ上がってるわね。〉
まったく素晴らしい。これは人間国宝クラスの技だ。精霊は人間じゃないけど!
「タカシ様、ありがとうございます。なんだかとっても動きやすい鎧ですね。」
屈伸したり、飛び跳ねてみたりと、動いてみて違和感がないかをウテナに確認してもらったところ、とても良いという評価が貰えた。さすがはシルビアだね。
動きが加わると、やはり胸のあたりの素晴らしさが良くわかるね。
その素晴らしさは俺だけじゃなく、ホムラとマヤの二人にもしっかりと伝わったようだ。
「良い出来だけど、なんだか一人だけズルいと思う!」
「私たちの鎧も作り直しが必要!」
「えええ~、まだ作ったばっかりだし、傷んでもいないのに?」
その威力を目の当たりにしたホムラとマヤが、自分たちの服と鎧の作り直しを要求、さらになぜかシロの分も作り直すことになってしまった。
二人がより魅力的になるのなら、俺は歓迎なんだけどね。
でもシルビアとグロリアの機嫌を取るのが大変だから、ちょっとは手加減して欲しい。
結局、寝る時は、俺とシロの二人、ホムラとマヤとウテナの三人で別れることになった。
当然と言えば当然だけど、なんだか仲間外れにされたみたいで、ちょっと寂しい。




