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今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#2-5 孤児院を改善しよう

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58.孤児院と現状

 神官のウテナがシロを抱いている姿を見て、ちょっと思い出したことがあったので聞いてみることにした。この町にやって来てから、何度か思っていたことだ。


「神殿って、親のいない小さな子供の面倒を見るような、例えば孤児院みたいなものを運営したりしてるのかな?」

「ええ、孤児院はありますよ。でも全ての子供たちを養うことは出来なくて。もう少し何とかしたいのですけどね。」


 やっぱり孤児院はあるのか。彼女の話によれば、予算と人手の問題があって、どうしても全ての子供たちに手を差し伸べることは、やりたくても出来ないでいるらしい。


 これはちょっと寄付しておいた方がいいな。


 ウテナが美人だから良い格好したいってわけじゃない。いや、ちょっとはそんな気持ちがある気はするけれど、それが目的ってことじゃないのだ。


 町の中で(ひね)くれた目をしながら、スリをしている子供たちを見るのって、やっぱり嫌なんだよね。小さな子供たちには、目をキラキラさせながら、楽しそうに笑って町の中を走り回って欲しいと思うのだ。


 もうほとんどうちの子になっているけど、こうしてシロを預かっているのだって、元々は似たような理由からだった。


 盗賊を狩れば儲かるから積極的に殺して回っているけれど、別に何がなんでも絶対殺すってわけじゃない。


 勝手な言い分かも知れないけど、お腹がすいてどうしようもない子供たち、貧しくて食べる物が無くて、もう飢えて死ぬしかない、もしもそんな状態だったら、盗みをしても仕方ないんじゃないか。もちろんそんな思いだってあるのだ。


「タカシ様、それなら一度、孤児院に顔を出してみませんか?」


 少しまとまったお金を布で包んで渡しながら、ウテナにそんな話をしていると、彼女からそんな提案を受けた。


 確かに、一度見ておくのは悪くない。シロにも友達が出来るかも知れないしね。



 ウテナに案内されていった孤児院は、思っていたのとはかなり違っていた。何がって、もうそれはとんでもなく(ひど)い物だったのだ。


 何よりもまず、何だか獣臭いような異臭が漂っている。建物はあばら家の方が豪華なぐらいの粗末なものだし、聞いてみれば雨漏りも酷いらしい。


 孤児院の中を走り回っている子供たちは上半身裸で、ホムラやマヤが奴隷として馬車に積まれていた時の衣服よりも粗末なものだ。もちろん靴など履いていない。全員が裸足だ。


 食事なども足りていないのだろう。子供たちはとても痩せていて、あばらが浮き出ている。


「ウテナ……これはさすがに酷い……。」

「ええ、タカシ様。分かっております。しかしお金が無くては、何も出来ないのです。」


 孤児院の芋畑などもあるそうだけれど、畑泥棒も多くて半分も採れないらしい。盗んでいくのも多くの場合が子供なので、なかなか強く出ることも出来ないそうだ。


「それって、ヤクザが子供を手下にして、やらせてるんじゃないの?」

「ええ、そうかも知れません。しかしあまり強く守ろうとすると、結局その子たちが飢えで苦しむことになりますし……難しい話です。」


 盗賊ばかりの町では、盗賊を追い払うことも難しいわけか。


「ぬし~、くちゃい~。」


 シロが鼻を摘まんで、泣きそうな顔をしている。このままじゃ、友達なんて出来そうにない。


(ねえねえ、この孤児院一帯を浄化したり、あの壊れかけの建物を修理したりって出来ないかな?)

〈浄化は出来るわよ、ほい!〉

《建物の修理をするには、木材が足りないですね~。子供たちの服や靴を作るにも、残念ながら素材がまったく足りません~。ちょっとお手上げですよ~。》


 子供たちの衣服や建物の修理は無理だったものの、グロリアが一瞬にして浄化してくれたので、漂っていた悪臭はきれいさっぱり無くなった。


「シロ、まだ臭い?」

「ん~、なおった!」


「た、タカシ様! ちょっと! ちょっと待ってください、なんですかそれは!」

「ああ、浄化の魔法で、ここら一帯を綺麗にしてもらったんだ。あんまり汚いと病気になるからね。」

「やはりタカシ様は神使……。」


 あの、ウテナさん、精霊さんたちにお願いしただけだから! 俺がやったわけじゃないから! そんな拝まないで!


 孤児の子供たちは鼻がいかれているのか、自分たちが綺麗になったことにすら気づかないようで、ウテナが俺を拝んでいる姿を不思議そうに見つめている。


「食べ物が足りてない感じだけど、ここには何人ぐらいいるの?」

「百人ほどですが、そうですね、院長先生に詳しいお話をしていただいた方がよろしいかと思います。」


 それもそうか。ここの責任者の人に詳しい話を聞いて、本当に困っていることは何なのかを知った方が良い。



 ウテナから紹介された孤児院の院長は、サチウスという名の白髪の爺さんだった。


「これはウテナ様、それにお客様。よくいらっしゃいました。」

「いろいろ困ってそうに見えるけど、一番困っていることは何?」


 俺は前置きも全てすっ飛ばして、単刀直入に本題を切り出した。


「何よりもまず子供たちの食べ物が足りておりませぬ。服や靴なども揃えてあげたいし、この建物も何とかしてやりたいのですが、とてもそこまでは手が回らず、自分の無力さに嫌気が差しまする……。」


 やっぱり食べ物が足りないのか。


 俺の魔法の袋の中には、ある程度の食料は入っている。そうは言っても、ずっと孤児たち全員を、お腹いっぱい食べさせ続けるだけの余裕はない。


「食糧庫はどこ? いや、もう魔法の袋ごと渡したほうがいいな、これは。」


 おれは適当に予備の魔法の袋を取り出すと、そこに山ほどの芋と、妖獣シバーの肉をガンガン詰めていく。


「この袋ごと孤児院の物にしたから、無くさないように気を付けて。」

「あの、あの……、はい……。」


「次は芋畑だね。案内してもらえるかな?」

「は、はい、こちらでございまする!」


 袋にはかなりの量の芋と肉を詰め込んだけど、それだと一時しのぎにしかならない。芋畑の盗難を止めない限り、ここの子供たちに明るい未来は訪れないのだ。


 俺はサチウス院長の言葉に従って、孤児院の芋畑に部外者が立ち入れないように、精霊さんたちにお願いして結界を張ってもらった。


「これでもう芋畑には他人は入れないから、盗まれる心配もかなり減るはずだよ。」

「あの、神使様、実は向こうの方まで、本当は孤児院の畑なのですが、畑ごと土地を奪われてしまって……。」


 なんだよ、もう! 元の半分どころか、四分の一ぐらいになってるじゃないか。


 この町って実は地獄か何かの間違いじゃないの?



「それって何か証拠がある?」

「証拠、と申されますると?」


「その畑が孤児院の物だって書かれた書物とか、何かそういう物が無いかって話だよ。」

「タカシ様、それなら神殿が所持すると書かれた、土地の権利書がございます。」


 よし、わかった。証拠があるなら何も問題ないな。


 今度はウテナの指示に従って、勝手に他人が自分の物にしている畑にも、関係者以外が入れないように結界を張ってもらう。


〈ちょっと人使いが荒すぎじゃないかしら?〉

《そうですよ~、もっとぐうたらさせて欲しいです~。》


 心配しなくても、これからさらに仕事は増えるからね? 二人には期待してるよ。


「文句を言ってくる奴がいたら、探索者協会に行って、俺を呼び出してもらうようにしてね。ちなみに俺は他人の物を盗む奴は皆殺しにしてきたし、これからもそうするつもりだってことも、伝えてもらえると嬉しいかな。」

「ひいっ! わ、わかりましてございまするぅ……。」


 すでに芋畑だけでなく、孤児院の敷地すべてに結界を張ってもらっている。本当を言えば用心棒のような人が欲しいけど、結界だけでも今までよりはかなり安全になったはずだ。



 さて、建物の修理などは森で木を伐採してからになる。服なども魔法でいろいろ加工すれば何とかなるとして、あと一つ重要なことがある。


(なんとかなるよね?)

〈なんとでもなるわよ。〉


 うん、大丈夫だ。


「ここ以外にも同じような孤児院があると思うんだけど、いくつぐらいあるのかな?」


 この孤児院には百人ほどの子供がいるそうだけど、今の町の状態と、この町の規模や神殿の大きさから考えて、孤児が百人しかいないとは到底考えられない。


 それなら他の孤児たちはどこにいるのか。ヤクザどもの下働きをしている子もいるだろうし、どこかの大人たちに、奴隷のようにこき使われている子もいるだろう。


 だが、それにしても孤児院に百人しかいないというのは少なすぎるのだ。


面目(めんぼく)ございませんが、存じあげませぬ……。」

「タカシ様、神殿が運営している孤児院は、ここだけしかありませんよ。」


 どうやらウテナもサチウス院長も、ここ以外の孤児院のことは知らないらしい。


 予算が足りなくて手が出せないのはわかるけど、それじゃあどれぐらいの予算があれば足りるのか。


 たとえば寄付を(つの)るにしても、それがわからければどれだけ集めればいいのか、誰にもわからないじゃないか。


 えらくのんびりした話だと思ったのだけど、どうやらそれにも事情があるらしい。それには隣国の戦争が影響しているという話だった。




 この町はそれほど治安は良くなかったが、それなりに豊かで、盗賊もそれほど多くなく、この孤児院にも今の半分ほどしか子供はいなかったそうだ。


 それが隣国が侵略され、戦争が起こってからというもの、大量の難民がこの町に流れ込んできた。そして治安が徐々に悪化していった。


 着の身着のままで逃げて来た人たちには、財産なんてもちろんないし、まともな仕事もなくて、他人の畑の芋を盗む人たちが急増したらしい。


 そうして治安が悪化し、食料も不足しがちになったところで、隣国が滅びてしまい、敗残兵や傭兵たちがなだれ込んできた。


 彼らが「奪われたのだから、奪うのは当然」という価値観を、この町に持ち込んできたのだ。


 この滅ぼされた隣国っていうのは、まず間違いなくホムラの国のことだな。なぜ争いになったのか、それはわからないけれど、この町からすれば迷惑極まりない話だ。


 今更、隣国に文句を言っても仕方ないので、今は自分ができることをするしかない。それにしても、この町の領主さんというか、町長さんって、一体何をしてるんだろうね。


 そんな人はいない、なんてことはないよね?



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