56.大道芸と場所代
色々な場所を見てまわっていると、クワやスキなどの農具の露店が集まっている一区画があった。そういえば、人数分のカマが無かったことを思い出して、足りない分だけ長柄のカマを追加で購入しておく。
また刃の分厚いナタがあったので、これも何本か購入することにした。今までは木に絡まったツルやツタは短剣で払っていたのだけれど、腕力だけで切ることになるので結構きびしかったのだ。
ナタなら重量で押し切れるので、短剣よりも便利な気がする。妖獣を解体する時に、骨を断つのにもナタの方が良さそうに思う。
大型の妖獣だとナタではどうにもならない気がするので、ついでに斧も大中小と揃えておくことにした。使わないかもしれないけどね。
そのまま持って行けばかさばるけれど、魔法の袋に入れておけば、重さも大きさも、何も気にすることはないのだ。
木工品の所で売っていた、折り畳みの椅子や机なんかも買っておく。地べたでも問題ないといえばないんだけど、やっぱり作業しにくい部分はあったし、机があれば少しは便利だろう。
色々買っていると、露店の人たちからあれもこれもと勧められたけど、シロが飽きてしまって、少しグズりだしたので、長居するのは諦めた。
魔法の道具類が売っている場所もあったんだけどね。また今度、暇になったら覗いてみよう。
軽く休憩するために、広場の中央にある噴水の所に行ってみると、お手玉や玉乗り、手品など、大道芸をしている人たちがいて、観客もそこそこ集まっていた。
「おお~! おおおおっ!」
シロが玉乗りを気に入ったようで、目を大きく見開いて、何やら言葉にならない声を上げている。
「玉乗りだね~、すごいね~。」
「たままりっ!」
置かれた箱にお金を入れて眺めていると、興奮したシロが俺の頭の上に立ちあがって、足踏みしたり、跳び上がったり、逆立ちしたりし始めた。
もしかして、玉乗りの真似をしているんだろうか。俺の頭は転がらないから、玉乗りは出来ないぞ。
あと、他の観客の人たち。これは大道芸じゃないから、お金は投げないでね。
「いいぞ、ガキンチョ、もっとやれ~!」
ああ、ほんとにやめてってば。
(飛んできたお金、魔法でまとめて、あの箱の中に入れられないかな? 見えるようにゆっくりやって貰えるとありがたい。)
《良いですよ~、それじゃあ、え~い!》
いや、本当に大道芸じゃないのに、お金を投げてくれる人がいるもんだから、怖い人がこっちを睨んでいるのだ。
多分あの人は、この露店群を仕切っているんだろう。許可も取らずにここで商売をしたら、叩きだされるっていうシステムだと思うんだよね。
シルビアの魔法で散らばっていたお金が一ヶ所に集まり、その後くるくると回転しながら、玉乗りをしている人の前の箱に向かってゆっくりと飛んでいった。
「うわあ、今のは魔法? 手品? すごい!」
「やるなあ、若いの!」
「チビちゃんもいいぞ!」
パチパチパチ!
観客の一部はそれも芸の内だと思ったのか、さらに拍手をしては、お金を投げてくる。
それをシロが喜んでしまったのか、俺の頭の上でジャンプして空中で一回転したりと、新しい技を披露し始める。
もう一度ちらっと見ると、こっちを睨んでいた怖い人が、さらに青筋を立てていた。見た感じだと、頭の中が沸騰して湯気が立ちそうだ。
これ以上やると、本気で怒られるかもしれないなぁ。
「シロ、そろそろ終わりにしようか。」
「はーい。」
俺が声を掛けると、シロは可愛く返事をして、大きく跳んだ。
ぐるんぐるんぐるぐるっ!
伸身の後方二回宙返り二回ひねり降り!
そして着地と共に、両手を上に上げてフィニッシュのポーズ。
よし、着地も決まった!
……点数は?
睨んでたオッサンが沸騰した頭をジュウジュウ言わせながらこっちに向かってきた。
やっぱりちょっとやり過ぎだった?
「おい、誰の許可を得て、ここで大道芸やってるんだ!」
ああ、やっぱりミカジメ料的な何かの人だったか。
「いや、大道芸なんてやってないよ? 素晴らしい大道芸を見て、はしゃいでただけだって。」
「何をほざいてやがる。それなら、そこら中に転がってるお金は何だ?」
それは見物してた人たちが投げた物だ。俺たちがバラまいたわけじゃないし、他人がやったことまで責任は取れないよ。
とはいえ、お金が散らばったままでは困るので、今度はグロリアに頼んで、さっきと同じように魔法でまとめて、大道芸人さんの箱に入れてもらう。
よし、これで問題は解決だな。
「そこの大道芸人さんへの投げ銭だろうから、ちゃんと箱に入れといたよ。」
「ふざけるな、ガキども。チビだからって手加減はしないぞ?」
「手加減してもらわなくても良いんだけど……、でもオッサン、そもそも何で怒ってんの?」
「この広場はうちの組の縄張りだ。好き勝手して貰うわけにはいかないんだよ。」
「縄張りって、つまり、ここはオッサンの土地ってこと? それとも地主さんから管理の仕事を請け負ってるの?」
「阿呆か! 縄張りは縄張りだ。ここで商売するなら、ちゃんと金を払えって言ってるんだ、ガキンチョには難しすぎたか? ああ?」
「管理者でもないってことは、勝手にお金取ってるわけね。どっちにしても、俺たちは商売してないから、関係ないよね。」
「さっき、大道芸して金をとってたろうが!」
「大道芸見て、その真似して遊んでたけど、特に大道芸はしてないし、お金も取ってない。だから関係ないよね?」
「このガキ、舐めてんのかっ!」
ちゃんと説明してるのに、困ったことにこのチンピラ、まったく理解しようとしない。いや、理解はしているけど、腕を振り上げた手前、簡単には下ろせないといった感じかな。
縄張りだから金払えなんて、そんな馬鹿な話に従うつもりは全くないんだけど、そもそも商売してないんだから、従う、従わない以前の話だ。
「商売してないんだから、お金を払う必要はないよね? それでも暴力でお金を奪おうっていうなら、盗賊として討伐するよ。」
「このクソガキが! いいから金をよこしやがれ!」
ついにチンピラは、怒って短剣を抜いてしまった。
周囲の見物人たちもそれを見て、俺たちから距離を取り始めた。それでもどこかに逃げていくのではなく、どっちが勝つかの賭けなんかを始めているようで、なんとも和やかというか、微笑ましい限りだ。
盗賊と言っても色々ある。最初に裸で出会った盗賊のように、街道や森で剣を抜いて襲い掛かる集団もいれば、寝静まっている所に忍んでいって、殺して盗みを働く集団もいる。
そんな強盗団はすぐさま討伐すればいいけれど、こいつのやっていることは、問答無用で首を切り飛ばすには、ちょっと小さいというか、殺すのはやり過ぎというか、そんな感じが漂っていた。
それでも、もしも襲い掛かってきたら、討伐せざるを得ないんだよね。
「やめときなって。そんなことで命を捨てることもないでしょ?」
「うるさいっ! 黙れガキンチョ!」
一応、やめるように諭してみたけど、やはりこちらの言うことを聞こうとはせず、余計にやる気になってしまったようだ。
ちょっと困ったな。こうなったらもう殺るしかない。
「こんなところで何をしているのですか。おやめなさい!」
仕方なくチンピラの相手をしようと思った矢先、少しは慣れたところから叱咤するような女性の声が聞こえた。
声のした方に振り返ると、一人の女性がこちらに向かって歩いてくるのが見える。どうやら若い女性のようだ。神殿の巫女さんか何かだろうか、ギリシャ彫刻のような白いヒダヒダ服を着ている。
「刃物を仕舞いなさい。言うことを聞かないなら、この広場への立ち入りを禁止しますよ?」
これはもしかしたら、この巫女さんが本物の管理者なのかな?
「ちっ! 運のいいガキどもだ、覚えてやがれよ。」
巫女さんの登場を受けて、チンピラは舌打ちをして短剣をしまうと、俺の方をひと睨みしてから、足早に立ち去っていった。
「あらあら、行ってしまいましたわね。」
チンピラが去ってしまって、巫女さんは本気で残念そうにしている。
髪の毛ピンクでゆるふわ系な雰囲気を醸し出しているけど、どこか「仕留めそこなって残念」という感じの、まるで狩人のような感じも同時に持ち合わせている、ちょっと変わった感じの印象がある。
「何だか盗賊みたいでしたけど、あのチンピラ、この広場の関係者か何かですか?」
「いいえ、どうもここの露店の管理を勝手に請け負っておられるらしくて、みなさんに金品をたかっているヤクザ者のようです。本当、困ってしまいますわね。」
ああ、あのチンピラは、やっぱりそういう感じの人だったのね。
そう納得した俺の目の前に、ピンク髪の巫女さんは手を開いてこちらに伸ばしてきた。手相でも見てもらいたいのかな?
「あの、何か?」
「いえ、ここでご商売をされるのですから、ちゃんと神殿へのお賽銭をいただかないと。」
えええ~~、この巫女さんも勘違いしてる?
「いや、さっきのチンピラはイチャモンつけてきましたけど、俺たちは別に商売なんかしてませんよ?」
「あらあら? そうなのかしら?」
巫女さんは人差し指を立ててあごに当て、ちょっとだけ首をかしげて見せる。
なんか、あざとい!
「ええ。俺たちは探索者で、盗賊狩りで儲けているんですよ。さっきのチンピラも一応は盗賊だったんで、あのまま巫女さんが追い払わなければ、しっかり狩って、その儲けを寄進できたんですよね。」
「まあまあ、それは残念なことをしてしまいましたね……。」
この巫女さん、思ったよりも優しくないというか、博愛主義ではないみたいだけど、そんなことよりも一つ、とても気になることがある。
そのピンクの髪の頭頂部に、何か見た事があるような物体が刺さっているのだ。最初は髪飾りかと思ったけど、どうやらそうじゃない。
彼女の頭に刺さっているその物体は、女神様のルーレットで使ったあの、ダーツの矢だった。
ギリシャ彫刻のヒダヒダ服、調べてみると正式な名前はキトンっていうみたいです。
縫い合わせてあるわけじゃなくて、一枚の大きな布を折り曲げて、肩の所をピンでとめているだけなんだとか。
つまり、ちょこっとピンを抜くだけで、ただの布になってしまうという、なんとも素敵な仕様なんですね。




